Withコロナ時代のオンライン教育の格差対策
~オンライン医療と比較して~

情報戦略事業本部
ビジネストランスフォーメーションユニット
コンサルタント 梶原 侑馬
コンサルタント 幸坂 央
(監修 同アソシエイトパートナー 河本 敏夫)

Withコロナ時代のオンライン教育の現状と定着させるヒントとは?

 学校教育において、一方向性の知識・技能を習得させるだけではなく、集団の中で、多様な考えに触れ、認め合い、協調し合い、競争することを通じて、思考力・表現力・判断力を育み、人間性などを養っていくことは重要である。また2020年度から順次全面実施となる新学習指導要領を踏まえ、連携・協働を図り、課題を追究し解決する活動を充実することが重要視されている。その中で、距離や場所に関係なく、双方向にやりとりができるICTの活用が重要となっている※1

 しかし、OECDの調査では、日本の子どもたちの学校でのデジタル機器の利用頻度は加盟国中、最下位となっている。さらに、「利用しない」と答えた生徒の割合は約80%に及び、OECD加盟国中で最も多い※2

 新型コロナウイルス流行による未曾有の教育危機の今、我が国がオンライン教育後進国から抜け出し、よりよいオンライン教育を定着させ、オンライン教育で生徒をそして日本を救うことができるかどうかは興味深い。オンライン教育を既に取り入れているケースでも、自立して学習できない生徒・自立して学習できる生徒の格差の広がりなど、課題が顕在化している状況である。

 このように、我が国の教育分野ではオンライン活用が十分とはいえない一方で、医療分野では新型コロナウイルスの影響もあり、オンライン医療が必要不可欠となり、利用が広がってきている。オンライン医療サービスの、2月の相談件数は前月比40倍にもなっている。医療ではオンライン活用が先行しており、行動科学などの知見を活かし、オフライン(対面)とオンライン(非対面)を組み合わせて患者の行動変容を促し改善した例など、成功事例も多くある。

 オンライン医療から得た知見を、オンライン教育の課題解決やあるべき姿の検討において参考にすべきと考えられる。

 そこで、本稿では、オンライン医療とオンライン教育を比較しながら、オンライン教育の円滑な利用における工夫すべきポイントを考察していく。

本稿でのオンライン教育とオンライン医療の定義

オンライン教育について

 平成30年度遠隔教育システム導入実証研究事業の「遠隔教育システム活用ガイドブック」を参考にした。

 本稿でのオンライン教育は、赤枠部分の同時双方向型について主に扱うものとする。

(図)オンライン教育、同時双方向型、オンデマンド型の関係
(図)オンライン教育、同時双方向型、オンデマンド型の関係

出所:NTTデータ経営研究所にて作成

オンライン医療について

 令和元年7月に改定された「オンライン診療の適切な実施に関する指針」における、遠隔医療の定義(「情報通信機器を活用した健康増進、医療に関する行為」)を参考にした。

 本稿でのオンライン医療は、回復期・維持期における健康管理アプリ(ヘルスケアアプリ)・赤枠部分について主に扱うものとする。

(図)オンライン医療、オンライン診療、オンライン受診勧奨、遠隔健康医療相談の関係
(図)オンライン医療、オンライン診療、オンライン受診勧奨、遠隔健康医療相談の関係

出所:NTTデータ経営研究所にて作成

オンライン医療とオンライン教育の共通点

 全体として、リアル(オフライン)が中心のモデルからオンラインへ発展している点でオンライン医療とオンライン教育は類似しており、両者とも的確に理解し、工夫しないと継続することが難しい。

 また、自立して取り組む者と、自立せず取り組めない者との格差が生じ、他者(親など)のフォローがかなり必要な者がいる現状がある。「やり抜く力」を持つ人は約半数であり、継続することは難しい。いつまでという具体的なゴールの数値目標が明確ではない分、通常より難しい「やり抜く力」を求められていると考えられる。そして、指導者と対象者との関係において、基本的には一方向性となっている現状がある。その中で重要なのが、現在の状態を知る・自分の努力を正しく評価できるかという「メタ認知」である。通常のリアルでの教育と比較し、モチベーションの維持が難しく、継続するには現状を把握し、ステップアップしていくことも重要である。

(図)医療と教育の共通点・相違点
(図)医療と教育の共通点・相違点

出所:NTTデータ経営研究所にて作成

オンライン医療の成功事例とは?

依存症対策の事例

 禁煙アプリが、行動変容・個人間格差の拡大の是正を改善したという事例がある。禁煙アプリでリアル(対面)の禁煙外来が難しかった人でも、適度な通知など、接点を多く作ることで、治療を継続させることに成功した。従来、医師やセラピストが行っていた「行動変容」を促すための行動療法を、アプリ内のシステムで行ったのだ。アプリを通じて、患者(ユーザー)との信頼関係を作り、「なぜ悪い習慣を持っているか」の行動とその背景にある考え方を知り、それに応じたアドバイス実施し、正しい行動を段階的に定着させる仕組みである。現在は、医療機器承認・保険適用ではないが、「医薬品」「医療機器」に次ぐ第三の治療法として着目されている。

 また、アルコール依存症と戦う患者をオンライン医療で支える「Monument」は、コミュニティーを用いてアルコール依存者を減少させている事例がある。依存症克服の方法に関する情報を求めるユーザーのコミュニティー構築と、患者予備軍などの個々の症状に合わせた対処方法を提供している。

 ちなみに、これらの手法は行動科学の研究でも立証されており、特定人物の存在と競争が重要だというエビデンスが確立されている。また、同じ研究のなかで、集団の活動は観察者や明確なリーダーの有無により異なり、行動変容促進の目標達成が重要であること、「競争」の要素を取り入れたモデルは行動変容効果が高いことが指摘されている※3

 以上のような「依存症対策の事例」と「行動科学のエビデンス」を踏まえると、「行動変容」に対する科学的アプローチが必要であり、その要素として「特定人物(観察者やリーダー)の存在」「競争」「協調」あるいは「コミュニティー」「スモールステップ」が重要であるといえる(教育についても同様)。

図 オンライン医療の解決策とオンライン教育への示唆
図 オンライン医療の解決策とオンライン教育への示唆

出所:NTTデータ経営研究所にて作成

オンライン教育では、オンライン医療のどのような点を参考にすべきか?

 前述のとおり「オンライン医療」と「オンライン教育」には共通点があり、オフライン(対面)のやり方をそのままオンライン(非対面)で実施してしまうことによって、行動変容を阻害し、モチベーションを低下させるおそれがある。そのため、禁煙アプリの事例など医療での成功事例から、オンライン教育において参考にすべき点を考えることができる。

 具体的には、「スキマ時間の有効活用」「タッチポイントの拡充」「状態の見える化」の3点を参考にすべきだろう。スキマ時間の有効活用については、教員の教育コンテンツを自動録画し繰り返し利用できるようにし、空き時間を生徒などとコミュニケーションをとる時間に当てることなどが考えられる。次に、タッチポイントの拡充については、現状ではOECDの国と比較し教員一人当たりの生徒数が多い(すなわち生徒数あたりの教員の人数が少ない)状況を鑑みると、禁煙アプリの事例のようにタッチポイントを多くすることで、個人間の格差を解消できる可能性がある。最後に、状態の見える化については、ICTを活用して生徒の学びの意欲や習熟度を見える化することで、問題点を早期発見でき、効果的に生徒へ介入し、継続率を向上させることができると考える。

対処が難しいオンライン教育固有の事情・テクノロジーによる解決策とは?

 オフライン教育の一方向性の授業文化がまだ残っており、双方向にモチベーションを保ちながら授業を行うノウハウがない点、生徒の行動変容・継続するモチベーションを保つノウハウがない点、教育コミュニティーが不足している点から、オンライン教育には行動変容を仕組み化することの難しさがある。

 そこで、テクノロジーを活用することで、リアルの人の目だけでは見えなかったところを見える化したり、オンライン教育コミュニティーを用いた競争・協調(異なった環境や立場に存する複数の者が励まし合い助け合い)できる環境づくりを行ったり、複数拠点を同時に繋ぎ、遠隔地の生徒と双方向にやりとりする授業を行うことが考えられる。具体的なテクノロジーの活用方法として、次の4点がある。

 第1に、不必要な業務をAIで代替し、重要業務に充てる時間を創出すること、あるいは、遠隔の生徒と、楽しみながら競争・協調しあう仕組みを作ることである。近年では、オンライン授業を受けている仲間同士で話し合いをしたり、競争したりする(ゲーム性を持たせる)システムもあり、これらは受講に対するモチベーションを上げ、自立していない生徒の親の負担解消にもつながるのではないかと考えている。また小ゴールを設定し、スモールステップでゴール達成ごとに達成感を与えるような仕組みにしただけで、そのグループでは大半の人が最後までやり抜くことも明らかになっている。

 第2に、マッチングシステムを作り、リアルで出会えない多くの優秀な人と繋がり、スキマ時間の有効活用を行うことである。全国オンラインコミュニティーを作り、ニーズとシーズのマッチングを実施し、時間があり知見がある人と生徒を繋ぎマッチさせることで、知見を増やすとともに、全国の格差解消も行えると考えられる。

 第3に、顔画像解析や脳波や脈拍を活用した思考や行動のモニタリングを行い状態の見える化を行うことである。多くの集団の中で授業を行うと、全体の雰囲気が詳細に分かりづらく、個別の表情が分かりづらい。日々の状態を評価・数値化することで、早期の問題発見と対処が可能になる。

 医療も教育も打ち手の方向性は類似しているが、医療と違い教育において気を付けるべき点として、集団での対人関係が苦手な生徒に対しては、他者に対する精神的な障壁を取り払うことが重要と考えられる。不登校や病弱の生徒などは学校に行くことができないものの、学びたいというニーズはあり、教員の呼びかけに対し、素直にチャレンジし学習しているため、段階的にオンラインで集団に慣らしていく必要性が医療サービスよりも重要だ。

図 教育における打ち手とテクノロジーの活用
図 教育における打ち手とテクノロジーの活用

出所:NTTデータ経営研究所にて作成

おわりに

 オンライン教育の課題の解決や活用を更に推進していくためには、学校現場における更なる創意工夫が期待され、文部科学省においては、今後も「遠隔教育システム導入実証研究事業」や「学習ニーズを踏まえた指導の充実事業」など※1を通じ、オンライン教育に係る様々な実践を積み重ねることは重要である。

 また、教育現場においてテクノロジーを効果的に活用することにより、全ての子どもたちへ「公正に最適化された学び」を実現させること、そのために文部科学省や各都道府県、学校が連携し、テクノロジーの導入に向けた実証研究を進め、オンライン教育のさらなる充実につなげることが重要である。

 そして、テクノロジーの活用が解決へ大きく導くという論調で考察を述べたが、本来大事なのはテクノロジーだけではない。国民満足度が高く教育ICTが進んでいるデンマーク教育においては、テクノロジー活用ありきでなく、教育はどうあるべきかが重要である。教育先進国のデンマークでは、オンライン教育、遠隔でのコミュニケーションがリアルタイムにとりあえるメッセージツールなどを導入しており、教育のICT化を進めているが、テクノロジー起点ではなく「あるべき教育の姿」を実現するためのツールとしてICTが活用されている。また、同国では国が整備を整え、オンライン教育が最適にかつ簡便にできる環境作りをしていることも興味深い。我が国においても、学校、文部科学省、自治体が連携し、オンライン教育の普及・質の向上に取り組むことが重要と考える。

 

 弊社では、地域課題解決のコンサルティングや産学官連携の組織プロジェクトの立ち上げや運営支援などを手掛けている。また、スポーツ教育分野においてもビジネスコンサルティング※4や、弊社が事務局となり異分野・異業種の連携、産学官の知見・技術の融合などによる事業創発プラットフォーム「Sports-Tech & Business Lab※5」の運営も行っている。ご興味があれば是非ご連絡いただきたい。

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