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「環境新聞」2016年3月9日より

本格化する廃棄物処理・リサイクルビジネスの海外展開(9)
タイ 冷媒フロン回収と破壊(2)/最新情報を日タイで共有/行政機関に変化の兆しも

NTTデータ経営研究所
社会・環境戦略コンサルティングユニット
アソシエイトパートナー 鈴木 敦士

 2016年2月初旬、バンコク中心部にあるホテルの会議室にて開催された「省エネ機器導入および使用済みフロン管理の促進に関するワークショップ」。タイの工場局(DIW)や公害管理局(PCD)、タイ発電公社(EGAT)、そして設備機器メーカーや設備メンテナンス事業者など、フロン含有機器の関係者が一堂に会した。冷蔵庫やエアコンの普及が近年大いに進んだタイでは、それら機器の廃棄にまつわる問題が顕在化しつつある。中でも使用済みフロンの回収・破壊を適正に行う枠組み構築が急がれる状況を、先月の本欄にて紹介した。日本技術の貢献が期待される中、タイの関連行政機関への働き掛けも重要性を増してくる。今回のワークショップには、日本から日本冷凍空調工業会、前川製作所、アサダ、DOWAグループ等の専門家が参加し、日本の現況や技術を紹介する講演が行われた。

 日本側からの講演に対して、特に大きな関心を寄せたのはタイの設備機器メーカーや系列の施工メンテナンス事業者だ。冷媒使用機器の回収業務に携わる立場として、「フロンの処理と破壊は適正に実施すべきだ」といった意見が相次いだ。しかしながら、「破壊コストが高い」、「手続き面での障害が多い」、「規制が曖昧だ」などの理由から、「結局は設備機器撤去時に大気放出している」ことにも言及している。実際、ある施工メンテナンス事業者は使用済みフロン回収に用いる機器をすでに保有していながら、その機器はいまだに新品同様。つまり使用実績はほとんどないと見られる。その事業者からは、政府・行政のサポートを強く求める声が挙がった。

 他方の行政サイドは及び腰の発言が目立った。例えば、日本の可搬式フロン回収技術に関心を示しつつも、エアコンや冷蔵庫の使用年数や冷媒補充状況が先進国と違うなど、技術面での懸案が投げかけられた。政策面でも、フロン回収・破壊コストを日本のように最終消費者の負担とすることは、一部を除くタイ国民の所得水準から考えて現実的ではなく、対応の難しさを再認識することとなった。また、タイは中国に次いでエアコンと冷蔵庫の大きな生産拠点であり、輸出規模は国内販売台数の数倍に及ぶ。そのため、冷媒フロンの生産輸入については十分な管理体制を整えてきたことが強調された。これは裏を返せば、生産段階と比較すると量的に小さい国内廃棄分の優先度は必ずしも高くないとする背景とも言えよう。

 ところが、行政サイドのこうした姿勢は議論の後半で微妙な変化を見せる。日本側参加者との質疑応答を通じて、タイ行政関係者からも前向きな発言が出始めた。「本件に関連のある法律や日本の事例があるならもっと勉強すべきだ」とは工業団地公社(IEAT)からの参加者によるコメントである。PCDの担当者は「ワークショップの内容は上司に報告する意味がある」と本件の意義を認めた。そして、DIW有害物質管理部長が「難しいと思っていたが技術的に方法があることが分かり、光が見えた」との感想で締めくくった。

 タイは環境に対する市民意識の高い国だ。EGATによるエアコンや冷蔵庫の省エネラベルプロジェクトは90年代から始まり、その取り組みは広く浸透している。自動車用燃料としてのバイオエタノールには補助金をつけ、その普及はASEANで最も進んでいる。発電部門での再生可能エネルギー導入も高い目標を掲げる。使用済みフロン回収・破壊についても、取り組みの重要性と技術的な実現性を政府が認識すれば、枠組み構築へ舵を切る土壌は十分にあるだろう。技術情報と関係者意識の共有が原動力となり、行政機関にも変化の兆しが見え始めている。

「省エネ機器導入および使用済みフロン管理の促進に関するワークショップ」の様子。2016年2月2日、バンコクにて。

「省エネ機器導入および使用済みフロン管理の促進に関するワークショップ」の様子。2016年2月2日、バンコクにて。



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