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コラム・オピニオン 2015年08月03日

銀行はなぜビジネスモデルの見直しを迫られるのか~~変貌する小口決済市場

取締役会長
山本 謙三



小口決済分野への銀行の関与が縮小している

 家計の利用する小口決済手段が、ここ10年ほどで大きく変化している。

 クレジットカード、電子マネー、コンビニ収納代行、代金引換(代引き)の利用が増え、プリペイドカードが復活しつつある。一方、内国為替(銀行振込)やデビットカードの利用は、漸増ないし漸減の状態にある。現金の利用も、シェアは緩やかに低下している。

 以下、具体的なデータで確認しておこう(参考)。

  •  クレジットカードの利用金額は、年率数%のペースで増加しており、年間決済金額も42兆円に達する。1件当たり平均利用金額は、10年前の1万円程度から6千円程度に低下したとみられており、より小口の決済を取り込みつつ、シェアを拡大させている。
  •  電子マネーの利用も、件数・金額とも年率3割前後の高い伸びを続けている。ただし、1件あたりの決済金額はようやく1千円程度に高まった段階にあり、年間決済金額はクレジットカードの10分の1にとどまる。
  •  コンビニ収納代行も、年率数%のペースで利用拡大が続いている(件数・金額とも)。1件当たりの金額は1万円程度であり、年間決済金額は9兆円弱と電子マネーの2倍強に当たる。
  •  デビットカードは、利用件数・金額とも足許減少気味であり、他手段に比べ低調な利用にとどまる。
  •  内国為替の他行為替取引取扱高(振込)は、件数、金額とも年率1~2%程度のペースで増加している。ただし、統計の制約上、このデータには企業間決済が含まれる。仮に家計の利用分だけを取り出せば、やはり緩やかな増加が続いていると推測される。

(参考)小口決済手段の利用推移

(注1)2000年代後半は、クレジットカード、デビットカードが2005年、電子マネーが2007年4~12月を年率換算、コンビニ収納代行が2009年度。 (注2)直近は、クレジットカードが2013年、電子マネー、デビットカードが2014年、コンビニ収納代行が2014年度。 (注3)コンビニ収納代行は、セブン-イレブンジャパン、ファミリーマート、ローソンの3社計。 (出典)は末尾に記載

他業態の小口決済市場への参入が続く

 上記決済手段のうち、取引1件ごとに銀行口座で決済を行う手段は、デビットカードと内国為替である。しかし、上述のとおり、両者とも利用の伸びは低い。この結果、小口決済市場における銀行のプレゼンス(存在感)は、次第に低下してきたとみられる。

 こうした変化は、決済手段にかかる技術の進歩に加えて、他業態の小口決済サービス参入によってもたらされた面が大きい。

 大手総合スーパーは、長年にわたり積極的にクレジットカード事業を営んできた。さらに近年は、電子モールの関連企業による事業参入が目立つ。EC(電子商取引)サイトや電子モールを通じた販路の拡大競争が、クレジットカードの普及を加速させてきた感が強い。

 収納代行や代引きの普及は、自宅や自宅近くで決済を済ませたいとする人々のニーズに、コンビニ運送業者が対応した結果である。チケット購入といえば、以前は銀行振込が一般的だったが、今ではコンビニ利用(収納代行、カード決済)が当たり前のようになった。

 電子マネーの普及を主導したのも、コンビニ鉄道会社である。

 今後は、海外からの参入増加も予想される。海外では、コンピュータ関連企業をはじめ、銀行以外の業態がオンライン決済サービスを拡大させている。

 これら他業態の狙いは、商品販売から決済までの一連の流れを自社内に取り込むことで、顧客の利便性を高めつつ、顧客数を増やすことにある。そのために、決済サービスを廉価(ないし無料)で提供するのはもちろんのこと、ポイントの賦与まで行うのが特徴である。また、マーケティングへの活用を想定して、販売から決済までのデータを広範に収集することも狙いの一つとなっている。

銀行はかつての「銀行」の位置にはいられない

 かつて金融論の教科書では、「決済」は銀行の固有業務とされ、銀行の本源的な収益源と位置付けられていた。たしかに今でも、預金口座が最終的な決済の場であることに変わりはないが、例えばクレジットカード決済の場合では、実際に預金口座が動くのは月1回だけだ。

 しかも、決済サービス提供の対価として手数料を得ることが難しくなった。銀行自身も、他業態との競合上、預金者にポイントサービスを提供し、振込手数料の割引などを行わざるをえなくなっている。決済サービスは、儲かる業務でなくなってきたというのが実感だろう。

 さらに、決済に関連して入手できるデータが減ってくるのも懸念材料の一つだ。「ビッグデータ」の時代にあって、銀行口座を直接的に利用しない小口決済手段の利用が増えれば、入手できるデータ量が減り、銀行業の競争力は低下しかねない。

銀行はどう対応していくのか

 では、銀行が小口決済への関与を再び高めるには、何が課題となるか。

 第1は、いうまでもなく、魅力的な決済サービスの開発、提供である。内国為替の24時間365日稼働やインターネットバンキングの機能向上はこれに当たる。

 また、他業との連携強化によるサービスの充実も一層重要になる。他業態の競争力が他業(小売り等)との融合によるポイント賦与を足掛かりにしていることを踏まえれば、銀行も広範な業種と連携して、ポイントの充実などにより対抗していかざるをえない。

 デビットカードへの再注力も選択肢の一つだろう。今回のプレミアム商品券の配布にあたっては、地方自治体等と連携して、一部をデビットカード方式で発行する地方銀行がみられた。また、規制改革会議は2015年度中に、デビットカードによるキャッシュアウトサービスのあり方を検討するとしている。デビットカードをめぐり新たな動きが起きている。

 第2の課題は、小口決済サービスの提供に要する費用をどこから捻出するかである。他業態が顧客確保のための「アメ」として小口決済サービスを提供する以上、決済ビジネスから収益をあげることはますます難しくなる。

 他業態の場合、決済サービスを提供することで顧客を呼び込み、小売りなどの本業で収益を確保するビジネスモデルを想定している。銀行の場合、手数料の減少を補うべく、決済サービスの提供による預金者の繫留を、どの分野の収益拡大に結び付けていくか。

 とりあえずは投信や保険窓販のビジネス拡大を指向することになろうが、はたしてそれで足りるか。あるいは、小口決済にかかるデータの収集・蓄積を、住宅ローンの審査や融資の実行に役立てていけるかどうか。答えは容易ではない。

 問われているのは、実は、銀行のビジネスモデルそのものである。

【参考の出典】

日本クレジット協会「日本の消費者信用統計」、「年次統計:クレジットカードショッピング」、日本銀行「決済システムレポート2007-2008」、「電子マネーに関するデータ」、「決済動向」、日本電子決済推進機構・日本デビットカード推進協議会「J-Debitサ-ビスの最近の状況について」(日本銀行第14回決済システムフォーラム説明資料)、「J-Debit取引実績報告」、株式会社セブン&アイ・ホールディングス「事業概要(投資家向けデータブック)」、株式会社ファミリーマート「決算資料(ファクトブック)」、株式会社ローソン「決算補足資料」、を基にNTTデータ経営研究所が作成。

 以 上

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