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コラム・オピニオン 2016年7月1日

海の日も、山の日も~~祝日は増えるばかりでよいのか?

取締役会長
山本 謙三
「国民の祝日」数は世界のトップクラス

 今月の「海の日」(7月第3月曜日)に続いて、本年からは8月11日(「山の日」)が国民の祝日となる。国民の祝日はこれで年間16日だ。

 日本は国民の祝日が多い。米国の年間10日、カナダ11日、英国8日、ドイツ9日、フランス11日をはるかに凌ぐ(日本貿易振興機構HPより、振替休日はカウントせず)。インドやコロンビア(各18日)のような国もあるが、世界のトップクラスにあることは間違いない。

休日の増加とともに労働時間は大幅減

 では、日本人の休みの日数はどう変化してきたか。参考1は、民間企業の従業員を想定して、平均的な休みの日数(推計)を50年前と比べたものだ(注)。

 50年前、日本人の休日数は約72日だった。これが約130日に増えた。土曜が半ドンだったことを割り引いても、大幅増といってよい。増加の主因は週休二日制の定着であるが、祝日の増加も相応に寄与している。

(注)民間企業従業員の休みの日数は、業種によりばらつきがある。ここでは完全週休2日制の企業を想定したが、たとえば飲食サービス業などでは休みの日数は少ない。

(参考1)民間企業・従業員の休みの日数比較(推計)

(日)

(参考1)民間企業・従業員の休みの日数比較(推計)

(注1)1966年の法改正で国民の祝日は3日増えたが(9日→12日)、施行日の関係で同年の祝日数は11日。

(注2)一般的慣行としての休業日は、銀行業にならい、1月2日、3日および(2016年のみ)12月31日とした。

(注3)有給休暇取得日数は、厚生労働省「就労条件総合調査(平成27年)」、「賃金労働時間制度総合調査」による。ただし、データは1979年(8.2日)までしか遡れないため、1966年の有給休暇取得日数はここでは8日と仮定した。

 日本人の労働時間も、休日の増加とともに大幅に減少してきた。1970年頃には2,200時間を超えていた一人当たり年間平均労働時間も、現在では1,730時間前後となっている。1980年代には、貿易黒字の拡大にからめて「日本人働きすぎ」論が盛んに喧伝されたが、今や労働時間は米国よりも少ない(参考2)。

(参考2)主要国の一人当たり年間平均労働時間推移

(参考2)主要国の一人当たり年間平均労働時間推移

(出典)OECD.Stat “ annual hours actually worked per worker”を基にNTTデータ経営研究所が作成

有給休暇取得率はむしろ低下

 もっとも、欧州諸国の多く(ドイツ、フランス、英国など)に比べてみれば、年間の労働時間は依然多い。祝日数が多い一方で、有給休暇の取得日数が少ないのが日本の特徴だ。欧州主要国の有給休暇の年間平均取得日数20~30日(付与日数に対する取得率70~100%)に対し、わが国は8.8日(同48%)にとどまる。

 さらに注意を要するのは、わが国の有給休暇取得日数、同取得率がこの20年間、横ばいないし減少(低下)で推移してきたことだ(参考3)。

 これには景気回復の寄与が大きいが、週休2日制の定着や祝日の増加も影響しているとみられる。職場の休業日が増えたことで、有給休暇の取得を減らしたり、営業日における勤務時間を延ばすなどして、仕事をこなしている姿が目に浮かぶ。

(参考3)有給休暇付与日数、取得日数、取得率

(参考3)有給休暇付与日数、取得日数、取得率

 (注)統計の変更により2000年はデータなし。

(出典)厚生労働省「賃金労働時間制度総合調査」、「就労条件総合調査」を基にNTTデータ経営研究所が作成。
なお、1998年以前のデータは、独立政策研究・研修機構「労働統計データ検索システム」より入手。

大切なのは、個人や企業が柔軟に休暇を取得・設定できる社会づくり

 海外主要国は、祝日の設定に、より慎重な姿勢で臨んでいるようにみえる。祝日の数だけでなく、たとえば連続する祝休日の設定は米欧諸国と日本で大違いだ。

 連続祝休日の長さは、毎年の曜日構成により変わりうる。米国は、ハッピーマンデーを使って積極的に3連休をつくった一方で、連休は最長でも3日にとどまる(土・日を含む)。英国、ドイツは最長4日だ。フランスは、ほとんどの年が最長3日で、きわめて稀に最長4日となる。一方、日本は、年によりGW期間中に最長5日、年末年始には最長6日(12月31日を含む)に及ぶ。

 米欧諸国が連続祝休日を限定しているのは、おそらく経済活動への影響にも配慮してのことだろう。

 たとえば、職場全体の休業日を増やしてしまうと、経済全体の生産力が低下するおそれはないか。容易に断定はできないが、たとえば「うるう年」の1~3月GDPが例年よりも高くなる傾向があることを踏まえれば、営業日数(休業日数)と実体経済には一定の関係があることを否定できない。

 重要なのは、個々の従業員が柔軟に休みをとりうる職場づくりであり、個々の企業がみずからの裁量で柔軟に休業日を設定できる社会づくりである。

 「有給休暇がとりにくい」日本的慣行を前提とすれば、祝日の増加はたしかに日本人の休みの増加に貢献したが、その一方で日本的慣行を一層固定化してしまうおそれ(有給休暇を一層とりにくくしてしまうおそれ)がある。

 前回の東京五輪・パラリンピックではその後記念して「体育の日」が制定されたが、2020年はどうなるか。

 求められるのは、祝日を増やすことでなく、日本的慣行を変えていこうとする覚悟と努力だろう。

 以 上

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