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コラム・オピニオン 2016年5月9日

財政赤字9年分に迫る日銀の国債購入~~リーマンショック後の財政赤字相当額をすべて日銀が吸収する

取締役会長
山本 謙三
QQE導入後の日銀のネット国債購入額は300兆円を超えてくる

 マイナス金利の陰に隠れたかたちだが、日銀による巨額の国債購入が続いている。2013年4月の量的・質的金融緩和(QQE)以降、本年3月までに日銀の国債保有額は220兆円も増加した。これは、この間の新規の国債発行額の約2倍に当たる。

 巨額の国債購入は今後も続く。日銀は、「2%の「物価安定の目標」の実現を目指し、これを安定的に持続するために必要な時点まで、「マイナス金利付き量的・質的金融緩和」を継続する」(「経済・物価の展望」(2016年4月)、棒線は筆者)としているからだ。

 現時点で日銀が「物価が2%程度に達する」と見通すのは、「2017年度中」だ(前掲「経済・物価の展望」)。ただし、同年度平均の政策委員見通しの中央値は1.7 %にとどまる。すなわち、年度平均が2.0%台に達するとみる政策委員は少ない。そうであれば、「物価目標の実現が安定的に持続する」と判断できるようになるのは、早くても17年度終盤、あるいはそれ以降とみるのが自然だろう。

 仮に17年度一杯、現在の国債購入ペースが維持されるとすれば、日銀の保有国債増加額は300兆円を超え、年度末にはQQE導入後の5年間累計で380兆円程度に達する計算となる。これは、09年度から17年度までの9年間の新規国債発行額(累計)に匹敵する規模だ。

 09年度以降といえば、リーマンショックや東日本大震災の発生を受けて、財政赤字がとくに膨らんだ時期である。日銀は、この期間中の財政赤字相当額をすべて吸収するほどの大規模で国債を購入していることになる(参考)。

(参考)新規国債発行額と日銀保有国債増減額の推移

(兆円)

(参考)新規国債発行額と日銀保有国債増減額の推移

(量的・質的緩和導入後の累計)

(量的・質的緩和導入後の累計)

2017年度の新規国債発行額は、内閣府「中長期の経済情勢に関する試算」(平成 28年1月21日経済財政諮問会議提出資料)のベースラインシナリオのうち、「国の一般会計の姿――歳出と税収等との差額」に準拠。

財務省「国債発行額の推移(実績ベース)」、「平成28年度国債管理政策の概要」、日本銀行「日本銀行勘定」を基にNTTデータ経営研究所が作成

30数回にわたり追加緩和が実施された(?)

 上記の日銀の国債購入額は、過去の量的緩和時に比べても桁違いに大きい。過去2回の量的緩和期における保有国債の増加額は、それぞれ40兆円(01~04年度)、60兆円(09~12年度)だった。これは、同期間中の新規国債発行額の3分の1弱にあたる。

 従来の量的緩和は、当座預金残高に目標を設定し、これを実現する方式だった。一方、QQEは、残高目標を設定することなく、毎月当座預金残高を積み増す方式にある。この緩和手法の違いが、国債保有増加額に決定的な差をもたらしている。

 すなわち、従来の観点からいえば、QQEは毎月追加の金融緩和を実施してきたようなものだ。これまで3年間で、いわば計30数回の追加緩和を実施したことになる。

 にもかかわらず、物価目標はいまだ達成されていない。そのために、巨額の国債購入が長期にわたり続けられている。日銀は当初QQEを「次元の違う」政策と呼んだが、目標達成時期の連続的な後ずれで「異次元の次元数」が上がり続けているといえる。

「満期付き政府紙幣」に近づく日本国債

 これほどの大規模で日銀が国債購入を続けている結果、もはや、国債の発行に市場の篩(ふるい)はかからない。

 本来の市場メカニズムであれば、財政に対する市場参加者の厳しい評価を通じて、国債の金利が変動し、その結果財政支出や税収に改善圧力がかかることが期待される。

 しかし、国債の発行直後から、日銀が市場でただちに買い向かってくる。そのことが分かっている以上、金融機関は、財政や経済の将来をほとんど考慮することなく、ごく短期の「さや抜き」を意識して入札に参加する。これでは、市場メカニズムは働かない。

 さらに本年初にマイナス金利政策が導入されたことで、多くの国債がゼロ近傍ないしマイナス金利で発行されるようになった。日本国債は、あたかも満期付きの「政府紙幣」(無利子の政府債務証書)のような状態にある。

 中央銀行による国債の引き受けであれ、政府による政府紙幣の発行であれ、法律上禁止されている(ないし法律上予定されていない(注))のは、財政に対する市場の監視機能が損なわれ、財政規律を失わせるおそれがきわめて強いからだ。

 財政規律の行方からますます目が離せない。

現行法制上、「銀行券」は日本銀行によって発行される一方、政府は「貨幣」を発行する主体となっている。貨幣のうち、額面千円以上のもの(千円・五千円・一万円)の発行は、記念貨幣のみとされている。

 以 上

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