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コラム・オピニオン 2015年11月02日

本当は誰が最大の消費主体なのか

取締役会長
山本 謙三



表面上、一人当たりの最大消費世帯は60歳代世帯だが…

 総務省統計局の「家計調査」(総世帯)を基に年齢層別の一世帯当たりの消費動向をみると、世帯主が50歳代の世帯が最も消費支出が多い。ただし、これは世帯の人員数に影響されている。

 そこで、これを世帯平均人員で割り、一人当たりの消費支出額を計算してみた。結果は次のとおりである(注)(後掲参考1参照)。

(1)一人当たりの消費支出額は、世帯主が30歳代の世帯から60歳代の世帯にかけて増加を続ける。若いうちは子どもの教育費負担が大きい一方、50歳代、60歳代世帯では、世帯人員の減少に伴い、一人当たりの住居費や光熱費の負担が高まる。

(2)一方、世帯主が70歳以上の世帯は、一人当たり消費支出額が減少に転じる。交通費や食料費の減少が寄与している。

この試算では、世帯主の年齢別にみた各世帯の消費支出額を人員数で割っている。そのため、それぞれの分類には、養育中の子どもなど、異なる年齢層の者の消費支出が含まれる。したがって、ここでの年齢別消費支出は大ざっぱな傾向を把握するためのものとして理解する必要がある。

医療・介護の公的負担分を勘案すれば、最大の消費主体は70歳以上世帯に

 しかし、上記はあくまで個々の世帯が自己負担した支出金額だけを計上したものだ。消費には、このほかに医療、介護、保育など、公的負担によって供給されるサービスがある。これらは、最終的には個々人が受けるサービスであり、各年齢層の消費支出額を比較する場合には、これらの金額を繰戻して比べる必要がある。

 参考1は、「家計調査」の消費支出に、医療・介護関連の公的支出分を繰戻して試算した結果である。

(参考1)世帯主の年齢層別にみた 各世帯の1か月間の消費支出

(円)

(参考1)世帯主の年齢層別にみた	各世帯の一ヶ月の消費支出

(注1)世帯主の年齢層別統計を世帯平均人員で割っているため、各層の消費支出には、養育中の子どもなど異なる年齢の者の消費支出も含まれることに留意を要する。 (注2)公的支出調整後の消費支出の試算方法、出典は末尾に記載。 (出典)総務省統計局「家計調査結果」(平成26年)を基にNTTデータ経営研究所が作成

 表から明らかなように、わが国の消費支出(公的支出調整後)は、高齢になればなるほど増加していく。データの制約上70歳以上が一括りとされているが、実際には70歳代、80歳代、90歳代の順に増えていよう。

 また、世帯主が70歳以上の世帯の消費支出額は全年齢層中最大であるだけでなく、その水準は30歳代、40歳代の世帯のほぼ2倍に相当する。

 実際、70歳以上世帯の消費支出に占める「保健医療費」と「介護費」の割合は、公的負担調整前では1割弱に過ぎないものが、同調整後では5割を占める(参考2)。医療・介護サービスに対する高齢者のニーズがそれだけ大きいと同時に、費用の過半が公的負担によって賄われていることを反映している。

(参考2)世帯主が70歳以上の世帯の1か月間一人当たり消費支出

(参考2)世帯主が70歳以上の世帯の1か月間一人当たり消費支出

(注1)消費支出実績のうち介護費は、厚生労働省「介護給付費実態調査」(平成26年度)から得られる70歳以上一人当たり平均値の1割を自己負担分とみなして、試算。 (注2)試算方法、出典は、参考1に同じ(末尾に記載)。

子育て支援のための資金をどこから捻出するか

 試算の厳密を期すならば、上記に加えて、保育にかかる公的支出などを対象年齢層(30歳代)の消費支出に加えるべきだろう。ただ、医療、介護にかかる公的支出に比べれば、保育関連の支出金額は小さく、上記の全体像はあまり変わらない。

 日本人が、充実した医療・介護サービスを受け、長寿が実現したことは素晴らしい。しかし、その背後では誰かがサービスにかかる費用を負担している。現状でいえば、その負担は、中堅・若年世代や孫・ひ孫の将来世代にかなりの割合が転嫁されている。

 人口問題に対する関心の高まりから、最近は子育て支援を充実する議論が盛んである。日本の将来にとってきわめて重要な議論であるが、これを実現するには、医療・介護等にかかる公的支出をどれだけ子育て支援に回すかの議論――すなわち、支出の抑制策や高齢者の自己負担率にかかる議論――がセットで行われなければならない。

 団塊世代がいよいよ70歳代に達しようとする今、議論は待ったなしだ。

 以 上

[参考1の注2]

  1. 「家計調査結果」(平成26年、総務省統計局)の世帯主の年齢による年齢層別消費支出金額を世帯人員で割って、一人当たり支出金額を計算。
  2. 医療費は、厚生労働省「平成25年度国民医療費」の年齢層別医療費支出額をそれぞれの人口で割って、一人当たり医療費を計算。
  3. 介護費は、厚生労働省「平成26年度介護給付費実態調査の概況」を基に、受給総額を受給者数(65歳以上)の年齢構成に従い割り振ったうえで、各年齢層の人口で割って、一人当たり介護費を計算。介護区分は勘案せず、一人あたりの介護費は同一と仮定。
  4. 消費支出額(公的支出調整後)の試算は、家計調査の「保健医療」(一人当たり)項目を上記「一人当たり医療費」に置き換えて試算。29歳以下世帯は、20~29歳の医療費を適用。介護費は、家計調査に含まれる自己負担分が不明のため、上記3から計算される介護費の1割を自己負担分と仮定し、試算。
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