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Insight
経営研レポート

近年の人口動態を踏まえたこれからの地方創生のあり方
~限界まで元気な地域・集落づくりに必要な2つのポイント~

第2回 パイを奪い合う「移住」から、様々な関わり方を許容する「関係人口」へ
2021.09.02
社会基盤事業本部 ライフ・バリュー・クリエイションユニット
スマートシティ&ビレッジSXグループ
マネージャー 古謝 玄太
シニアコンサルタント 安生 直史
コンサルタント 山崎 咲歩
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1.「関係人口」への注目の高まり

 2014年に政府が初めて定めた「まち・ひと・しごと創生総合戦略」(2014年12月27日閣議決定、以下「第1期総合戦略」)では、東京圏から地方への人口移動を目標として掲げており、基本目標において「東京圏から地方への転出 4万人増加」「地方から東京圏からの転入 6万人減少」(いずれも2020年時点、2013年比)を示していた。これはあくまで「移住・定住」を目指したものであり、第1期総合戦略の中には「関係人口」の単語は登場していなかった。

 しかしながら、第1期総合戦略が目指した「東京圏から地方への人口移動」は前回のレポート(第1回「統計データが示す変わらない人口減少の流れ」)にて報告したとおり思うようには進まず、むしろコロナ禍までの間は東京圏一極集中が加速化している状況であった。この事実を踏まえて、2019年に改訂された「第2期『まち・ひと・しごと創生総合戦略』」(2019年12月20日閣議決定、以下「第2期総合戦略」)では、第1期総合戦略で掲げてきた「地方への定住・移住の促進」に加えて「地方とのつながりを築き、地方への新しいひとの流れをつくる」を基本目標に掲げており、地方との関わりの多様性を重視することとなった。第1期総合戦略では登場しなかった「関係人口」のワードは、実に57カ所に渡り記載されており、その注目の高さが伺える。

図1 第2期総合戦略の政策体系

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出所)まち・ひと・しごと創生長期ビジョン(令和元年改訂版)および第2期「まち・ひと・しごと創生総合戦略」(概要)資料をNTTデータ経営研究所一部改変

 なお、本年6月9日に閣議決定された「経済財政運営と改革の基本方針2021」いわゆる骨太の方針では、関係人口の拡大に向けて以下の方針を記載している。

 “多様な二地域居住・多拠点居住を促進するため、保育・教育等の住民票・居住地と紐づいたサービスの提供や個人の負担の在り方を整理・検討し、地方自治体向けのガイドラインを本年度中に策定するとともに、空き家・空き地バンクの拡大・活用等を推進する。“

 これは、制度面においても関係人口を後押しする方針を示したものであり、今後の政府の動向を注視したい。

2.そもそも「関係人口」とは

 第2期総合戦略では、関係人口を以下のとおり説明している。

 “地域に住む人々だけでなく、地域に必ずしも居住していない地域外の人々に対しても、地域の担い手としての活躍を促すこと、すなわち地方創生の当事者の最大化を図ることは、地域の活力を維持・発展させるために必要不可欠である。このため、地域外から地域の祭りに毎年参加し運営にも携わる、副業・兼業で週末に地域の企業・NPOで働くなど、その地域や地域の人々に多様な形で関わる人々、すなわち「関係人口」を地域の力にしていくことを目指す。

 関係人口は、その地域の担い手として活躍することに留まらず、地域住民との交流がイノベーションや新たな価値を生み、内発的発展につながるほか、将来的な移住者の増加にもつながることが期待される。また、関係人口の創出・拡大は、受入側のみならず、地域に関わる人々にとっても、日々の生活における更なる成長や自己実現の機会をもたらすものであり、双方にとって重要な意義がある。このため、第2期においては、地方とのつながりの強化に向けて、地域に目を向け、地域とつながる人や企業を増大させることを目指す。”(第2期総合戦略p25より)

 また、総務省が開設している「関係人口ポータルサイト」では、以下の図を用いて交流人口と定住人口の間にある関係人口の多様性を説明している。

図2 関係人口の概念

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出所)総務省 関係人口ポータルサイト

 すなわち「関係人口」とは、出身者や転勤で住んだことがある人など単純に何らかのつながりがある人から、何度もその地域を訪れ関係性を深めている人まで、多様な形で地域と関わる人を総称していることが分かる。

 多様な関係性を許容しているが故に「定住人口」や「交流人口」と異なり、関係人口の算出方法は定まっておらず、定めるべきでもないと考えられるが、一定の定義に基づいた調査はなされている。国土交通省が昨年度実施した「地域との関わりについてのアンケート」によると、全国の18歳以上の居住者のうち、三大都市圏では約18%(約861万人)、その他地域では約16%(約966万人)、合計約1827万人が特定の地域を訪問している「関係人口」であるとされている。

図3 三大都市圏およびその他地域居住者の日常生活圏、通勤圏以外の地域との関わりの状況

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出所)国土交通省 地域との関わりについてのアンケート(令和2年9月実施)

3.地域と人のつながりの創出

 第2期総合戦略で「関係人口」が大きくとりあげられたのはなぜか。

 それは、第1期総合戦略で掲げた東京圏から地方への人口移動が実現できず、むしろ東京圏一極集中が加速化する中で「移住・定住」という大きなテーマから、もっとライトな地方とのつながりに着目したためということができるだろう。東京圏一極集中の是正を諦めたわけではないが、極端な改善は期待できないため、住居は東京圏に置きながら、地方と関わる人を増やすことにより地方の活性化を図っていく方向性である。

 筆者としても、日本全体が人口減少社会を迎えている中で「移住・定住」は減っていくパイの奪い合いでしかなく「日本の人口」という数的制限に縛られることなく(パイを奪い合うことなく)地域と関わる人を増やしていく「関係人口」の活用は、地方にとっても求められている施策だと考えている。

 当社では昨年度、農林水産省の農山漁村振興交付金(地域活性化対策(人材発掘事業))を活用し、都市部の住民に農山漁村研修を提供する「ちょこっと先の暮らし方研究所」を実施した。石川県能登半島地域、茨城県つくば地域、千葉県南房総地域の3地域を舞台に、茅葺屋根の葺き替えに用いる萱刈りなどの地域活動への参加や農作業体験をとおして農山漁村での暮らしを体験するプログラムを、主に東京圏に住む64名の参加者に提供した。

 研修実施後、就農や移住などについての関心の高まりについてアンケートをとったところ「就農・就漁」へ関心を持った人は全体の24%に留まった一方、「半農半X」(仕事をしながら農業も実施)は61%、「二拠点居住」は78%と、都市に住みながら地域と関わることに対して大きな関心を持たせることができた。

図4 当社実施事業「ちょこっと先の暮らし方研究所」参加者へのアンケート結果

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 また、参加者からの自由意見においても、「自然と一緒に感じながら生きる二拠点生活へのあこがれが強くなった」「地方に骨を埋めることはないけれど、関係人口にはなれることが分かったので、積極的に地域と関係していきたい」といった声があり、都市部で仕事をしている人にとっては、移住や就農はハードルが高い一方で、二拠点生活や農泊などのライトな関わり方へのニーズが高いことが分かった。

 こうした「関係人口」を増やしていくために、地方はどのような施策を打てばよいだろうか。関係人口の概念が幅広い関係性を許容しているが故に、何から手を付ければよいのか分からない場合も多いだろう。当社では昨年度、内閣官房まち・ひと・しごと創生本部事務局の調査事業において、地域と個人をつなぐ26の多様なサービス(調査事業においては「個人型プラットフォーム」と呼称)を調査し、具体的な手法を14のアプローチと44のヒントに整理した「個人型プラットフォームHOWto事例集」を策定した。

図5 個人型プラットフォーム 14のアプローチと44のヒント

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 この中では、地域に対する個人の関係を「未認知」「関心」「訪問・体験」「滞在」の4つの段階に整理し、個人型プラットフォームはこの段階を次に進めるための機能を持つものと位置付けた。すなわち、プラットフォームの役割として「①関心が湧く」「②訪問・体験したくなる」「③滞在したくなる」の3つの分類を設けている。

図6 個人と地域のつながりの整理と個人型プラットフォームの分類

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 このHOWto事例集は、地方公共団体など関係人口創出を目指す主体が取組を考える際のひとつの羅針盤になると考えている。まずは、当該地域にとってどのような人材が必要なのか、何のために関係人口創出を目指すのかについて整理・検討したうえで、そのために「関心が湧く」「訪問・体験したくなる」「滞在したくなる」のうち、どの段階に対策を打つべきなのかを検討いただきたい。そのうえで、HOWto事例集には44のアプローチや具体的な事例を掲載しているため、そうした手法を活用しながら自らの取組を実施していただければと考えている。

 HOWto事例集は内閣官房のホームページに掲載されているので、ぜひご覧いただきたい。

 (https://www.chisou.go.jp/sousei/about/ccrc/etc/chousakenkyu_r01/pdf/0521syougaikatsuyaku-kojin_pfhowto-ntt.pdf)

4.終わりに ~地域も個人も嬉しい関係人口づくり~

 人口減少社会において「限界まで元気な地域・集落づくり」を目指すためには、都市部に住みながらも地域と関わる「関係人口」を創出し、移住に頼らずに地域活動の担い手不足などを解決することが重要になってくる。

 しかし、地域側が一方的に求めても、個人の需要がマッチしなければ他の多くの施策と同様に画に描いた餅に終わってしまう。「ちょこっと先の暮らし方研究所」でのアンケート結果が示すように、コロナ禍において、自然豊かな地方部とのライトなつながりの関心は高まっている。こうした機運を捉え、個人の幸福度をあげながら地域の活力にもつながるwin-winな「関係」を目指していくことが大切である。

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