グリーンとデジタルが変える企業と投資家の注目点
~TCFD・DX時代に求められる企業の役割~

情報戦略事業本部
デジタルイノベーションコンサルティングユニット
シニアコンサルタント 渡辺 郁弥

はじめに

 今般、新聞や雑誌などのマスメディアが「TCFD」や「DX」といった話題を頻繁に取り上げるようになり、今や「グリーン」と「デジタル」のテーマは、企業や投資家などの市場関係者が注目するトレンドとなっている。
 経団連、東京大学、年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)が発表した共同研究報告書※1 によると、昨今の時代の潮流として4つのメガトレンドがあるといわれており、そのうちの2つに「グリーン」と「デジタル」が挙げられている。
 また、政府の動向においても、2020年12月に政府与党が令和3年度税制改正大綱をとりまとめた。主に7つの柱を掲げており「デジタル化」「グリーン化」といった攻めの視点からの新たな税制も創設することがうかがえ、今後ますます「グリーン」と「デジタル」に注目が集まることが予想される。(図1)

図 1 税制改正に向けた政府の動き:令和3年度税制改正大綱
図 1 税制改正に向けた政府の動き:令和3年度税制改正大綱

出所:自民党,令和3年度税制改正大綱を基にNTTデータ経営研究所で作成

 上記のとおり「グリーン」と「デジタル」が世間から注目を集め、積極的に取り組む企業が増える一方で、どのように取り組むべきか模索している企業との二極化がみられる※2
 また、新型コロナウイルス(COVID-19)の感染拡大を受け、投資家が企業に求めることも変わりつつあり※3 、企業における「グリーン」と「デジタル」の取り組みは、投資家の最も関心の高いテーマの一つであるといえる。

 本稿では「グリーン」と「デジタル」に取り組む企業の動向などを取り上げる一方、投資家の注目点の変化にも焦点を当て、TCFD・DX時代に求められる企業の役割について概説する。

1 「グリーン」への対応(気候変動問題への対応、TCFD提言への賛同)

(1)気候変動問題・TCFD提言とは

 気候変動問題とは、気象庁の見解によると、地球の温暖化などの影響によって、地球環境が変化してしまい人々の暮らしに深刻な影響を及してしまう現象を指す※4 。それらは個人の問題や企業だけの問題ではなく地球規模の課題である。気候変動によってもたらされる影響(リスクと機会)とは、中長期的にみると企業の財務に大きな影響を与える存在でもあるため、国内外で気候変動への危機感が高まっている。

 国際的に気候変動に関する意識・関心が高まる中、2015年12月にG20の要請を受けて、金融安定理事会(Financial Stability Board:FSB)によって気候関連財務情報開示タスクフォース(Task Force on Climate-related Financial Disclosures:TCFD)が設置された。
 TCFDは2017年6月に気候変動問題に関するとりまとめの最終報告書を公表した。その中で、企業に対して気候変動関連のリスク・機会に対する4つの項目として「ガバナンス」「戦略」「リスクマネジメント」「測定基準(指標)とターゲット」について情報開示を求めた。これが、気候変動問題及びTCFD提言の概要である。詳細については、筆者が執筆した下記記事を参照いただきたい。

経営研レポート:デジタル変革におけるシナリオ分析手法の活用

(2)TCFDに賛同を表明している企業の取り組み状況

 TCFDの提言を受けて、気候変動に関する情報開示が企業に求められている今般、TCFDに賛同を表明している企業が年々増加しているという傾向がみられる。日本経済新聞によると、地球温暖化がビジネスに及ぼす様々な影響に対応しようと、TCFDに賛同して「適応シナリオ」をつくる動きが日本企業の間で広がりつつあり、TCFDに賛同を表明した日本企業は300社を超えていると発表※5 している。
 事例をみると、株式会社商船三井※6 では、気候変動が自社事業に及ぼす影響について「低炭素社会では石炭や石油の需要が減少し、輸送量が減る。電気自動車の普及で完成車の供給網も変わり、海運業の収益は低下する。一方で、水素燃料や風力発電設備の輸送・据え付け需要が増え、収益増の要因になる」と分析している。

 上記のとおり、先進的な企業はTCFDに賛同を表明し、気候変動がもたらす影響(リスクと機会)の「外部環境」をしっかりと捉えて分析・評価し、ビジネスの持続可能性を可視化する動きが活発化しているといえる。

2 「デジタル」への対応(Digital Transformation:DX)

(1)DXの取り組み状況

 経済産業省が2018年9月に公表した「DXレポート ~ITシステム『2025年の崖』克服とDXの本格的な展開~」を機に、これまで企業のDX推進に資する施策が展開されてきた。DXレポートおよび各施策の詳細については、筆者が執筆した下記記事を参照いただきたい。

情報未来:ポストデジタルトランスフォーメーション(DXレポートから見た国内企業におけるDX推進の道筋)

経営研レポート:DX-Readyな企業への変革のポイント ~デジタルガバナンスの重要性と企業が取り組むべきこと~

 DXレポートの発行から2年が経過した現在、デジタル変革に対する現状への危機感を持つ国内企業は増加しているものの「DXの取り組みを始めている企業」と「まだ何も取り組めていない企業」に二極化しつつある状況であることが分かった。(図2)

図 2 DX推進指標自己診断結果
図 2 DX推進指標自己診断結果

出所:経済産業省,DXレポート2(中間取りまとめ)

 これらの結果を踏まえると、国内企業におけるDXの取り組みは道半ばであり、さらなるDXの推進・加速が必要であるといえる。

 他方で、新型コロナウイルス(COVID-19)の世界的な流行が、日本のDXを加速させることとなった。次節では事例を踏まえながら言及したい。

(2)新型コロナウイルス(COVID-19)が日本のDXを加速

 新型コロナウイルス(COVID-19)の影響により、企業は「感染拡大を防ぎつつ、顧客や従業員の生命を守りながら、いかに事業を継続させるか」という変化に否応なしに巻き込まれた。テレワークの導入や脱はんこ、ネット注文増加・EC販売の拡大など、企業はデジタル化への対応を余儀なくされた。

 事例をみると、株式会社三越伊勢丹ホールディングスでは、2021年度にも伊勢丹新宿店の全商品約100万品目を、専用アプリを使ってネット上で接客・販売する動き※7 がある。コロナ禍で低迷する店舗販売を下支えしつつ、アマゾンなどネット通販大手との違いを打ち出すことを目指している。
 また、政府の動向として、経済産業省はコロナ禍も踏まえ、企業のDXを加速していくための課題および対策のあり方について議論を行い、2020年12月に「DXレポート2(中間取りまとめ)」を公表※8 した。企業のDXの加速に向けて引き続き検討を行っている。
 上記のとおり、新型コロナウイルス(COVID-19)の影響により、奇しくも企業・政府双方のDXの取り組みは加速していくこととなった。

3 投資家など市場関係者の変化

 新型コロナウイルス(COVID-19)の影響は、企業のみならず投資家など市場関係者をも変えることとなった。

 事例をみると、キリンホールディングス株式会社では、コロナショック以降、投資家が投げかける質問に明らかな変化が生じている※9 と述べている。これまで株主総会や投資家向け説明会で挙がる質問といえば、「四半期業績」や「限界利益の推移」など、足元の業績やコスト低減策に関する質問が多かったが、新型コロナウイルス(COVID-19)の影響以降は、多くの投資家から「企業のサステナビリティ」と「社会における企業の意義」などの質問が投げかけられているといわれている。
 また、投資家の意識の変化はコロナショック前にも既に起きており、特に海外では従来の「株主第一主義」を見直し、環境や従業員の利益にも配慮した「ESG(Environment/Social/Government)」投資や「気候変動」の流れが大きくなっていた。また、経営上の新興リスクとして「テクノロジー」に対する関心度が高く、デジタル化に対する企業と投資家の対話が求められていることがうかがえる。(図3)

図 3 国内外における投資家の意識の変化
図 3 国内外における投資家の意識の変化

出所:経済産業省, DXを促進するためのデジタルガバナンスに関する調査研究とりまとめ報告書

 企業に対する投資家の注目点が変わることにより、企業の各事業が生み出す社会的な価値をストーリーとして投資家に説明する必要が出てきたといえる。

おわりに TCFD・DX時代に求められること

 これまで述べてきたとおり、新型コロナウイルス(COVID-19)の影響を目の当たりにしデジタル化の対応が急務となっていること、グリーンを筆頭に企業の持続可能性や社会における企業の意義に企業・投資家双方の注目点が変わってきていることが分かった。
 「グリーン」と「デジタル」の取り組みを企業価値と結びつけて、どのように開示・説明すべきか、「価値創造ストーリー」としてどのように投資家などの市場関係者に説明していくのかが、TCFD・DX時代に求められる企業の役割であると筆者は考える。
 筆者は、株式会社名古屋証券取引所(名証IR懇談会事務局)が主催するIRセミナーにおいて「デジタル化が変える企業と投資家間の対話 ~TCFD・DX時代に求められるIR部門の役割とは~」と題して講演※10 を行った。参加者からは「経営層にも提言していく内容として、とても参考になった」との反響をいただいた。本稿に記載している内容の詳細やTCFD・DX時代に求められるIR部門の役割などについても解説することが可能である。興味・関心があれば是非ともご連絡いただければ幸甚である。(図4)

図 4 デジタル化が変える企業と投資家間の対話
~TCFD・DX時代に求められるIR部門の役割とは~
図 4 デジタル化が変える企業と投資家間の対話~TCFD・DX時代に求められるIR部門の役割とは~

出所:株式会社名古屋証券取引所(名証IR懇談会事務局), IRセミナー資料より

※1 経団連、東京大学、GPIF,ESG投資の進化、Society5.0の実現、そしてSDGsの達成へ
https://www.keidanren.or.jp/policy/2020/026_report.pdf
※2 経済産業省,デジタルトランスフォーメーションの加速に向けた研究会WG1 全体報告書
https://www.meti.go.jp/press/2020/12/20201228004/20201228004-4.pdf
※3 日本経済新聞,企業と投資家 変わる対話 コロナ下、長期的視点に関心
https://www.nikkei.com/article/DGXKZO62987310U0A820C2X12000
※4 気象庁,気候変動
https://www.jma.go.jp/jma/kishou/know/whitep/3-1.html
※5 日本経済新聞,気候変動に「適応シナリオ」広がる 商船三井や東急不
https://www.nikkei.com/article/DGXKZO65622580Z21C20A0X12000
※6 株式会社商船三井,MOLレポート2020
https://www.mol.co.jp/ir/data/annual/pdf/ar-j2020.pdf
※7 日本経済新聞,伊勢丹新宿店、全商品をネットで接客・販売 21年度にも
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO66573740U0A121C2TJ2000
※8 経済産業省,DXレポート2(中間取りまとめ)
https://www.meti.go.jp/press/2020/12/20201228004/20201228004-2.pdf
※9 日本経済新聞,企業と投資家 変わる対話 コロナ下、長期的視点に関心
https://www.nikkei.com/article/DGXKZO62987310U0A820C2X12000
※10 株式会社名古屋証券取引所(名証IR懇談会事務局), IRセミナー
http://www.nse.or.jp/support/listing/meeting/report/j-ir-201214_8333.html

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