シリーズ連載 エネルギー業界変革時代の到来 ~脱炭素社会とデジタル化から考える新しい姿~
第2回 エネルギー業界を取り巻くマクロトレンド分析

社会基盤事業本部 社会・環境戦略コンサルティングユニット
マネージャー 竹内 崇
マネージャー 渡邊 太郎
コンサルタント 片上 衛

PEST+Cの視点

第2回では、エネルギー業界を取り巻くマクロトレンド分析を行うが、マクロ環境分析を行うフレームワークであるPEST分析に「Climate(気候的要因)」を加えたPEST+Cの視点で網羅的に分析を行った。近年、国内においては大雨や台風、国外においては高潮やサイクロン、ハリケーン等に代表されるような自然災害が頻発し、人々の生活や経済活動に大きな影響を与えている。こうした「Climate(気候的要因)」を起点として、例えばエネルギー政策など他のマクロトレンドが変化している部分もあるため、今回分析対象として加えた。今回分析を行う各要因の内容は表 1のとおりである。

表 1 本書で分析を行うマクロトレンドの内容
表 1 本書で分析を行うマクロトレンドの内容

本レポートでは、上記マクロトレンドのうち「Politics(政治的要因)」について整理を行った。

Politics(政治的要因)

日本で長らく続いてきた10電力体制は、「電力の鬼」と称された松永安左エ門によって1951年に生み出された。同電力体制の特徴は、①民営、②発送配電一貫経営、③地域別9分割、④独占であり、1990年代まで続いた。敗戦による国の荒廃、そして資源貧国という厳しい条件下、奇跡の復興を成し遂げられたのは、安定した電力供給確保であり、そうした点で10電力体制が果たした役割が大きい。しかし、1970年代の二度のオイルショックや1980年代の需要増加に対応するための大規模な設備投資が行われ、気づくと1990年代には日本の電気料金は世界一高くなっていた。そのような中、欧州をはじめとする諸外国では、電力自由化等の規制緩和が行われるようになり、日本においても電力自由化による電気料金の低減を行うという気運が高まっていった。

そのような中、2011年3月11日に発生した東日本大震災は、日本の電力業界を取り巻く環境を一変させた。また、SDGsやパリ協定といった国際的枠組みなどの登場も日本のエネルギー政策に大きな影響を与えている。2012~2020年に発表された主な電力業界に関連する政策や国際的な枠組みを整理すると以下のとおりである。

表 2 2012~2020年に発表された主な電力業界に関連する政策や国際的枠組み

主な政策 カテゴリー 概要
2012年 固定価格買取制度(FIT)の開始 再エネ普及促進 太陽光、風力等の再エネで発電した電気を、国が定める価格で一定期間電気事業者が買い取ることを義務付ける制度
2014年 第4次エネルギー基本計画の閣議決定 中長期のエネルギー政策の方針 中長期のエネルギー需給構造を視野に入れ、今後取り組むべき政策課題と、長期的、総合的かつ計画的なエネルギー政策の方針を規定した基本計画の策定
2015年 電力広域的運営推進機関の設立 電力システム改革 広域的な運営による電力の安定供給の確保、すなわち①送配電網(連係線)の整備、②全国レベルにおける需給調整機能の強化を目的とした機関の設置
2015年 長期エネルギー需給見通しの閣議決定 中長期のエネルギー政策の方針 日本全体の2030年のエネルギーミックスを、再エネ22~24%などとすることを目指す
2015年 SDGsの採択 国際的枠組み 「誰一人取り残さない」社会の実現を目指し、経済・社会・環境をめぐる広範な課題に、統合的に取り組むことを約束した国連の目標
2016年 電力小売全面自由化の開始 電力システム改革 2000年以降段階的に進められてきた電力自由化の最終章として、50kW未満の低圧部門の自由化が実施された
2016年 エネルギー供給構造高度化法の改正 中長期のエネルギー政策の方針 長期エネルギー需給見通しの閣議決定を受け、高度化法が目指す非化石電源比率の目標が「2030年に原則44%以上」に改訂された
2016年 パリ協定の発効 国際的枠組み 京都議定書に代わる、2020年以降の温室効果ガス排出削減等のための新たな国際枠組みであり、歴史上はじめて,全ての国が参加する公平な合意
2017年 改正FITの施行(固定価格買取制度の見直し) 再エネ普及促進 太陽光発電に偏った導入量の拡大や国民負担の増大などの課題が顕在化したFITの見直しを実施
2018年 第5次エネルギー基本計画の閣議決定 中長期のエネルギー政策の方針 2030年の長期エネルギー需給見通しの実現と2050年を見据えたシナリオの設計で第4次エネルギー基本計画を更新した計画
2020年 発送電分離 電力システム改革 送配電部門の中立性の一層の確保を達成するため、2020年4月に法的分離を実施

上記のとおり、毎年のように新たな政策の閣議決定や既存政策の改正が行われ、まさに日本の電力業界は変革の10年を過ごしてきたといえるのではないだろうか。以降では、「再エネ普及促進」「中長期のエネルギー政策の方針」「電力システム改革」「国際的枠組み」のカテゴリー別にその内容を解説する。

① 再エネ普及促進

再生可能エネルギー(以下、再エネ)の固定価格買取制度(Feed in Tariff、以下FIT)は、2012年7月に開始された、再エネで発電した電気を電力会社が一定価格で一定期間買い取ることを国が約束する制度である。FITは、地球温暖化対策やエネルギー源の確保などの一環として、再エネの普及および再エネ発電コストの低価格化を目的として開始された。なお、FIT開始以前にも太陽光発電の余剰電力の買取を電力会社に義務付ける制度等が存在していたが、FITでは太陽光発電に限定せず風力、水力、地熱、バイオマス電源も制度の対象としている。

2012年の制度開始時点の太陽光発電(10kW以上)の買取価格が40円(税抜)、買取期間は20年間などといった破格の優遇条件も後押しし、制度開始以前には2,060万kWだった再エネ導入量が2018年度には6,840万kWに達し、2012~2018年の7年間で約3.3倍に急増した。(図 1参照)

図 1 FIT開始後の再エネ発電設備の累積導入量1
図 1 FIT開始後の再エネ発電設備の累積導入量

再エネの導入拡大という点では、FITは大きな成果を挙げた一方で、再エネ導入費用負担のために国民が支払う再エネ発電促進賦課金は、制度開始当初の0.22円/kWhから2017年度には2.64円/kWhまで増加し、国民負担が増加した。(図 2参照)

1出典:資源エネルギー庁(2019)_国内外の再生可能エネルギーの現状と今年度の調達価格等算定委員会の論点案をもとにNTTデータ経営研究所にて作成

図 2 固定価格買取制度導入後の賦課金等の推移2
図 2 固定価格買取制度導入後の賦課金等の推移

こうした国民負担の抑制や、FITの認定を取得しても発電を開始しない未稼働案件の増加や地域トラブルなどが顕在化したため、2017年4月にはFIT法が改正された。さらに、現在は一部電源に対する入札制度の導入や市場連動型のFIP(Feed in Premium)制度の導入検討など、再エネの導入量拡大と国民負担の軽減を両立する制度設計が進められている。

2出典:資源エネルギー庁(2017)_改正FIT法による制度改正について

② 電力システム改革

低廉で安定的な電力供給は、国民生活を支える基盤であるが、東日本大震災とこれに伴う原子力事故を契機に、電気料金の値上げや、需給ひっ迫下での需給調整、多様な電源の活用の必要性が増すとともに、従来の電力システムの抱える様々な限界が明らかになった。そこで、2013年4月に閣議決定された電力システムに関する改革方針では、「安定供給の確保」「電気料金の最大限抑制」「需要家の選択肢や事業者の事業機会拡大」を目的として、図 3のように電力ステム改革が三段階に分けて実施された。

図 3 電力システム改革の全体像3
図 3 電力システム改革の全体像

第一弾:電力広域的運営推進機関の設立

2015年4月、これまで原則として地域ごとに行われてきた電力需給の管理を、地域を超えてより効率的にやり取りすることで、安定的な電力需給体制を強化することを目的として、電力広域的運営推進機関が設立された。

同機関は、東日本大震災の影響による計画停電などを踏まえ、電源の広域的な活用に必要な送配電網の整備を進めるとともに、全国で平常時や緊急時の電力需給の調整機能の強化を図る。

第二弾:電力小売全面自由化

2016年4月、契約容量が50kW以上の高圧需要家に限定されていた電力小売が、低圧需要家も含めて全面的に自由化され、戦後長らく続いた10電力体制が終止符を迎えることになった。

市場規模が20兆円ともいわれる電力市場に新規参入した登録電気小売電気事業者は、2020年5月1日時点で652社となり、2016年4月時点の266社から約2.5倍となった。

全販売電力量に占める新電力のシェアは、直近の2019年12月時点で約16.2%、高圧契約では約24.2%に達しており、電力小売全面自由化は競争環境の構築に一定の成果をもたらしたといえるだろう。(図 4参照)

3各種資料をもとにNTTデータ経営研究所にて作成

図 4 新電力のシェア推移(2019年12月時点)4
図 4 新電力のシェア推移(2019年12月時点)

また、図 5は、旧一般電気事業者10社における電気料金平均単価の推移を表している。第一次電気事業制度改革前(1994年度)に比べ、2017年で14%料金が低下している。(再エネ賦課金の影響を除く)特に、燃料費部分以外の部分についてみると、31%低下している。東日本大震災以降は原子力発電所の停止などにより全体としては上昇傾向にあるものの、当初の目標である電力自由化による電気代の低下は達成されたと考えてよいだろう。

図 5 旧一般電気事業者10社における電気料金平均単価の推移5
図 5 旧一般電気事業者10社における電気料金平均単価の推移

4出典:資源エネルギー庁(2020)_電力・ガス小売全面自由化の進捗状況について
5出典:資源エネルギー庁(2018)_第3弾改正法施行前検証~電気料金の検証~

第三弾:発送電分離

電力システム改革の総仕上げとしては、法的分離の方式による送配電部門の中立性の一層の確保を達成するため、2020年4月に「法的分離」が実施された。法的分離とは、旧一般電気事業者会社が垂直一貫で管理している発電、送配電、小売部門のうち、送配電部門全体を別会社化する方式である。(図 6参照)

図 6 送配電の中立化イメージ6
図 6 送配電の中立化イメージ

電気を各会社や家庭に届ける送配電部門が、既存の電気事業者と新規参入者を平等に扱わないと健全な競争が行われず、改革が進まない一方で、送配電網全体で電気の需要と供給のバランスをとる需給管理や電柱や電線など、送配電網の建設・保守業務については、スケールメリットの観点から一社が一元的に行うほうが効率的である。こうした背景を踏まえ、送配電部門に関しては、発電部門や小売部門のように自由化で新規参入を促す方法ではなく、これまでのように一つの事業者が地域独占的にサービスを提供する形態は残しつつも、様々な事業者が送配電網を公平に利用できるよう、中立性を高める改革が進められている。

6出典:資源エネルギー庁(2013)_電力システム改革専門委員会報告書

③ 中長期のエネルギー政策

日本は、エネルギー源の中心となっている化石燃料に乏しく、その大半を海外からの輸入に依存しているという脆弱性を持つ一方、エネルギーは国民生活や産業活動の血脈であるため、エネルギーの安定的な確保は常に大きな課題である。そうした長期的、総合的かつ計画的な視点でエネルギー政策を着実に遂行していくことを目的として、2002年6月にエネルギー政策基本法が制定され、3~4年に1回基本計画が策定されてきた。

2014年に制定された第4次エネルー基本計画は、東日本大震災及び東京電力の福島原発事故後初の計画であり、これまでの「3E(Energy Security:資源自給率、Environment:環境適合、Economic Efficiency:国民負担抑制」という基本的視点に、安全性の確保「S(Safety:安全最優先)」の重要性を加味した「3E+S」が提唱された。

2015年7月には、第4次エネルギー基本計画を踏まえた長期エネルギー需給見通し(以下、エネルギーミックス)が決定された。このエネルギーミックスの中で、電源構成に占める再エネ比率を2030年時点で22~24%にするという数値目標を設定し、現在様々な場面で指標の一つとして使用されている。

第4次エネルギー基本手計画の策定から約4年後の2018年7月には、第5次エネルギー基本計画が閣議決定された。同計画は、パリ協定の発効を受け2050年を見据えたシナリオ設計で構成され、「3E+S」の原則をさらに発展させた「より高度な3E+S」が提示された。(図 7参照)

図 7 第5次エネルギー基本計画の基本原則7
図 7 第5次エネルギー基本計画の基本原則

同計画の中では、2050年の温室効果ガス80%削減という長期的な目標達成のためにはエネルギー転換や脱炭素化への挑戦が不可欠であるとしており、水素の活用や分散型エネルギーシステム(次世代再エネ・蓄電、EV、マイクログリッド等の組合せ)の開発等を主な方向性として掲げている。

7出典:資源エネルギー庁(2018)_第5次エネルギー基本計画の概要

④ 国際的枠組み

SDGsの採択

SDGs(Sustainable Development Goals)とは、2015年に国連にて採択された「持続可能な開発目標」であり、2000年に国連のサミットで採択されたMDGs(Millennium Development Goals、ミレニアム開発目標)を前身とする。SDGsでは、先進国を含む国際社会全体の目標として、2030年を期限とする包括的な17の国際目標を設定し、経済・社会・環境をめぐる広範な課題に、統合的に取り組むことを約束し、「誰一人取り残さない」社会の実現を目指す。

日本においても、2016年5月に総理を本部長とするSDGs推進本部を設置し、12月にはSDGs推進のための中長期戦略である「SDGs実施方針」を策定した。(2019年12月に改定)同方針をもとにSDGsアクションプランを毎年策定し、国内における実施と国際協力の両面でSDGsを推進している。

パリ協定の発効

パリ協定は、2020年以降の気候変動問題に関する国際的枠組みであり、1997年に定められた京都議定書の後継となるものである。同協定は、2015年にパリで開かれた「国連気候変動枠組条約締約国会議(通称COP)」で合意し、その後一定の条件を満たして2016年11月に発効された。

パリ協定がここまで注目を集める理由としては、「途上国を含むすべての主要排出国を対象としている」「温室効果ガスの排出削減目標を課すのではなく、各国が自主的に取り組みボトムアップのアプローチを採用した」という2つのポイントが画期的であったといわれている。また、協定の合意から発効までは約1年と短期間であり、それだけ世界各国の地球温暖化に対する関心が高まっているといえる。

パリ協定で掲げられている世界共通目標は、以下のとおりである。

  • 世界の平均気温上昇を産業革命以前に比べて2℃より十分低く保ち、1.5℃に抑える努力をする
  • そのため、できるかぎり早く世界の温室効果ガス排出量をピークアウトし、21世紀後半には、温室効果ガス排出量と(森林などによる)吸収量のバランスをとる

日本では、中期目標として2030年度の温室効果ガスの排出を2013年度の水準から26%削減することが定められた。民間企業においても、こうした機会をビジネスチャンスと捉え、自社の排出量をさらに削減するだけでなく、高機能素材や低炭素・省エネ製品の開発・国内外への普及を進めることが求められるようになるだろう。

Politics(政治的要因)の分析結果整理

国内外において、気候変動対策としての再エネ普及促進施策が打ち出され、エネルギー業界としても、再エネ中心の事業構造への転換が求められつつある。また、脱炭素化への挑戦に向け、水素の活用や分散型エネルギーシステム(次世代再エネ・蓄電、EV、マイクログリッド等の組合せ)等といった新技術の台頭及び行政支援が期待できる一方、石炭や石油などといった化石燃料由来のエネルギーについては、さらに逆風が強まる恐れがある。

エネルギー業界は、これまで政治と一体で事業活動を実施してきたこともあるため、「Politics(政治的要因」が与える影響は大きく、将来のトレンドを左右する要因であるといえる。

次回に向けて

第3回の連載では、「エネルギーに対する需要家ニーズの変化」に焦点を当てる。SDGsの普及やパリ協定の発効、ESG投資の浸透などを機に需要家のエネルギーに対するニーズは変化しており、その変化を見極め、今後のサービス提供に繋げていくことが重要であると思料される。

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