withコロナ・afterコロナ社会におけるスポーツテックへの期待、他産業への応用可能性

情報戦略事業本部
ビジネストランスフォーメーションユニット
シニアコンサルタント 竹中 大也
コンサルタント 梶原 侑馬
(監修 同アソシエイトパートナー 河本 敏夫)

ピンチをチャンスへ。スポーツの価値は進化するのか?

 世界的に大流行が続く新型コロナウイルス。このウイルスは、全世界の社会活動はもとより、スポーツ界にも大きな打撃を与えている。スポーツデータ分析を行うツー・サークルズ社によると、プロスポーツ興行や5,000人以上が参加する大規模スポーツイベントは、2020年は49,803回の開催が予定されていたが、約53%の26,424回に減少すると予想されており、業界全体の予想収益は感染前の14兆6,000億円から7兆9,600億円にほぼ半減すると推測されている。

 国内に目を向けても、2020年東京オリンピック・パラリンピック、プロ野球、Jリーグ、Bリーグなどの数多くのスポーツイベントが延期・中止を余儀なくされており、今後の開催・再開についても目途が立てられていない状況にある。これに伴い各スポーツチームは、収入の柱である入場料を失っていることに加え、景気低迷によるスポンサー収入の減少なども予想されていることから、厳しい収支状況となっており、存続の危機などと報道されるクラブも数多く出てきている。

 また、我々の健康に関わる「する」スポーツについては、スポーツジムなどの運動ができる施設が閉鎖され、公園でのランニングさえもソーシャルディスタンスやマスクの着用などに気を配りながら実施しなければならず、これまでのような気軽に運動ができる環境ではなくなってしまっている。当然ながら「する」スポーツの場を提供してきた施設運営会社などの経営も厳しさを増してきている。

 しかし、このような時期だからこそ、夢・感動・喜びなどを与え、心身の健康に不可欠なコンテンツである「スポーツ」の価値が再認識されるものと考えられる。そこで本稿では、コロナウイルスの環境下にあるスポーツ業界の現状などを踏まえながら、今後「する」「観る」「支える」スポーツがテクノロジーを活用しながら、どのように変化していくかを考察した上で、教育や観光などの他産業への応用の可能性についても触れていきたい。

プロスポーツリーグやフィットネスクラブのコロナウイルスへの対応

スポーツ界もまずはwithコロナの局面に

 新型コロナウイルスは、中国や欧米などで新規感染者の一旦のピークは越したものの、ワクチンや治療薬開発などによる完全な収束の見通しが立てられていない状況にあることや第2・3波で再び蔓延する可能性もあることなどから、各国はafterコロナ(ウイルス収束後)ではなく、当面はwithコロナ(ウイルスが収束していない期間)の社会生活や経済をどのように回していくかを検討しながら、段階的に正常化への道筋を描く戦略を描いている。スポーツ界も同様で、まずはwithコロナの局面をどのように乗り切るかを試行錯誤しながら検討している。

日本のプロリーグの検討状況(※2020年5月15日現在)はどのようになっているか?

 日本では試合の開催方式などを国内の感染状況の推移などをみながら検討している状況である。具体的には、日本を代表する2大メジャープロスポーツであるプロ野球とJリーグは、3月に共同で「新型コロナウイルス対策連絡会議」を設立し、専門家の意見などを踏まえながら、開催時期や開催方法などの検討を進めている。両リーグとも当面は無観客試合での開催が有力となっており、開催する際には選手・スタッフ・マスコミ関係者などの体調管理や入念な感染予防策を講じることが必須になるものと考えられる。

 仮に観客を動員するには、Jリーグが検討していた密閉、密集、密接などを回避するための各種施策(図表1)は、導入に様々なハードルはあるものの、有効な施策であると考えられる。

(図表1) Jリーグで検討中の観客動員時における主な新型コロナウイルス対策
(図表1) Jリーグで検討中の観客動員時における主な新型コロナウイルス対策

(出所)JリーグHPなどの公表資料を基にNTTデータ経営研究所にて作成

withコロナに取り組み始めたリーグも

 世界では既に無観客などで開催されているリーグも出てきている。最も早く開幕し、注目を集めたのが、4月中旬から無観客での試合を開催した台湾プロ野球である。スタンドにはロボット応援団を配置したり、観客席シートを格安で販売し、自らの写真や応援メッセージを掲示できるようなサービスを提供したりと、コロナと向き合いながらの運営・収益確保に尽力している。無観客の試合が相当期間続くと考えた場合、各チームは入場料収入以外でのマネタイズポイントを模索していく必要があるだろう。5月からは、順次韓国Kリーグやドイツブンデスリーガなどで無観客の試合が始まる。各リーグやチームのコロナ対策とその結果には注目していきたい。

afterコロナの社会はどのように変化しているか

外出を自粛する生活スタイルがもたらすものとは?

 政府より新しい生活様式なども提唱されているが、基本的にはコロナ前より外出を自粛する生活になることが容易に想定される。では、外出を自粛した際の社会はどのようになるか考えてみると、①教育・医療・仕事・コミュニケーションなどの生活全般のオンライン化が加速する、②運動不足などにより健康への意識が高まる、③リアルでの人との接点が減少し孤独感を感じる人が増える、などが主に挙げられる。

スポーツも社会の変化に対応し、これまで以上に不可欠な存在へ

 スポーツが不要不急ではなく、社会に必要なコンテンツであるという存在価値を示す上でも、上記のような社会の変化や課題に対してスピーディーに対応していくことが求められる。この対応策の1つとして、テクノロジーの活用が挙げられる。例えば、健康意識の高まりに対しては、オンラインを活用した在宅でのフィットネスサービスや、孤独感を感じる人には、スポーツ観戦をパブリックビューイングのような形で、オンライン上で複数人が一体感を持ちながら観戦できるサービス、などが想定される。このように社会の変化・課題に応じたイノベーションを加速させることが、スポーツの価値を高め、更なる発展につながるものと考えられる。

「する」「観る」「支える」の変化と実現に向けた課題は

「する」スポーツは自宅でテクノロジーを活用する機会が増加

 「する」スポーツといえば、スポーツジムなど施設での運動が主流であったが、今後は外出自粛もあり、自宅での運動の機会やサービスが増えると考えられる。これまでも自宅で行えるフィットネスアプリなどが世の中に多数出てきているが、「画一的で面白みが無い」「他の誘惑に負け運動を継続できない」などの業界課題から、テクノロジーを活用した自宅での運動が浸透してこなかった。

 しかし新型コロナウイルスを契機に、これまでの状況に風穴を空けそうなのが米国のPeloton社である。自社製のエアロバイクやトレッドミルの画面上にインストラクターによる動画を毎日20本以上ライブ配信(蓄積した数千以上の動画も再生可能)していることに加え、アプリや画面上で参加者同士やインストラクターとのコミュニケーションが図られる点が会員より高い評価を受けており、2020年3月時点の会員数は260万人(2019年12月200万人)と増え続けている。

 このような事例からも、「する」スポーツにおいては、ライブ映像配信・スマートミラーなどのテクノロジーを活用し、自宅にいながらもコミュニティが形成でき、飽きのこないサービスが急速に増えていくものと考えられる。

スタジアム外で「観る」機会が増え、新しい観戦体験を求められる

 プロスポーツなどの興行は、当面は無観客や観客数の制限などが予想されることから、自宅などにてテレビやOTTサービスで観戦するシーンが大幅に増加すると考えられる。しかし、このようなシーンではスタジアム観戦のように「一体感を感じることができない」「自分目線での観戦ができない」などの不満を感じる観戦者も多く出てくるのではないかと想定される。

 まず一体感を出すためには、オンライン飲み会のようなオンラインスポーツ観戦サービスの普及が見込まれる。また併せて、自宅での応援動画や応援メッセージがスタジアム内に配信されるバーチャル応援のようなサービスも一体感醸成のために普及するだろう。このようなバーチャル応援の参加費は、無観客試合の場合、数少ないプロスポーツチームの収益源の1つとなり得る。観客側もチームの厳しい経営を支援するために、このようなサービスで支援することが予想されることから、急速に浸透する可能性が高い。

 また個人の趣向に合わせた視点という点では、競技にもよるが、多視点カメラや選手・審判目線カメラなどを活用することが考えられる。パーソナライズされた映像の自動配信をしたり、映像視点を観戦者自ら選択したりすることができれば、スタジアム以上の観戦体験を味わえる可能性があるのではないか。

ファンがチームや選手をギフティングで「支える」

 繰り返しとなるが、新型コロナウイルスの影響により、当面チームは無観客試合やスポンサー数・単価の減少が予想され、厳しい経営環境となるだろう。最悪の場合、好きなチームが消滅し、ファンは日々の楽しみであったチーム・選手の応援の機会が失われる可能性も否定できない。

 このような危機を乗り越えるためにも、ファンがチームや選手へギフティング(投げ銭)するプラットフォームなどが更に脚光を浴びるのではないか。今回のウイルスの影響で、以前よりチームや選手もファン向けに練習・プライベートなどの動画を数多く配信しており、オンライン上でファンとの距離感が急速に縮まっているように感じる。今後はギフティングの対象となるチーム・選手側のコンテンツも充実していくものと想定されることに加え、ファンも自宅にいながら応援コミュニティなどを形成できるメリットもあることから、ギフティング意欲が旺盛になっていくものと考えられる。

 将来的には、DAZNのようなOTTサービスとギフティングサービスが連動し、ライブで良いプレーなどにギフティングできるような仕組みができれば、スポーツ全体の新しい収益源につながるものと考えられることから、今後のサービスの発展に期待したい。

「遠隔」「パーソナライズ」「双方向」がキーテクノロジーに

 「する」「観る」「支える」の観点で、今後予想されるサービスの変化などをみてきたが、ポイントとしてはリアルではない環境下で、情報やサービスを画一的・一方的に提供するのではなく、受け手の趣向に合わせながら受け手自らも発信できるサービスが求められていると考えられる。そのためにも「遠隔」「パーソナライズ」「双方向」を実現できるテクノロジーがスポーツ界にも求められている(図表2)。

(図表2)目指すべきスポーツの形
(図表2)目指すべきスポーツの形

(出所)NTTデータ経営研究所にて作成

教育・観光・エンターテインメント業界への応用の可能性

教育では、「する」スポーツのテクノロジーを活用

 教育の現場においても、オンライン教育の導入などが進められている。特に、欧米では先進的に導入が進められており、体育の授業までがオンラインで行われている。ただし、現在はYouTubeで運動動画を配信するなどの授業が大半を占めているようで、これでは面白みに欠け、授業への取組み意欲なども減退し、教育の質が低下してしまうのではないか。そこで、今後更なる普及が見込まれる双方向性のあるオンラインフィットネスなどのテクノロジーを教育分野へ展開すれば、オンラインでの体育授業の質の向上にもつながると考えられる。

観光・エンターテインメントでは「観る」「支える」スポーツのテクノロジーを応用

 観光・エンターテインメント業界も、移動自粛や混雑回避で集客ができないなど、スポーツ業界と共通課題は多く、スポーツ同様にオンラインでの観光・コンサートなどサービスの普及が進むものと考えられる。無観客試合などのスポーツ興行が先行して行われる見通しであるため、オンライン観戦で抽出された技術課題なども活かしながら、オンライン観光・コンサートなどのサービスを展開し、スポーツ・観光・エンターテインメントが一体となり市場を形成していくことで、各産業が新たな収益基盤を確立できると考えられる。特に観光・エンターテイメント業界においては、オンラインの特性を活かし、リアルでは立ち入りが禁止されている観光スポットや楽屋映像などをギフティングの対象コンテンツやマネタイズポイントとすることができるのではないか。

おわりに

 経済的にはグローバリズムが縮小することが予想される中で、世界共通に楽しめるスポーツコンテンツの価値はより一層重要になると考えられる。当面は新型コロナウイルスの影響で、リアルでの観戦体験などの機会は減少することが予想されるが、自粛期間におけるスポーツの無い日常の喪失感の反動から、多くの人々がスポーツに触れたいという機運が高まるだろう。そのことからも実際にテクノロジーによるリアルの観戦体験の代替がある程度進むと考えられるが、「リアルの観戦体験の臨場感を完全に代替する技術は今のところないこと」、また「逆にバーチャルならではの仕掛けやチャレンジが可能であり、それをリアルの体験に生かすことが考え得られること」から、リアルからバーチャルの代替だけでなく、リアルとバーチャルの融合をいかに図っていくかが重要と考えられる。

 弊社では、異分野・異業種の連携、産学官の知見・技術の融合などによる事業創発プラットフォーム「Sports-Tech & Business Lab※1」を運営し、テクノロジーを活用したスポーツビジネスの新たな価値創造につながる活動に実際に取り組んでいる。例えば、「浦和南高校プロジェクト」は学校に行けない子供たちへの部活動環境のヒントを、「楽しさ・ファンエンゲージメントの見える化」ではリアルとバーチャルの観戦体験の融合へのヒントを、それぞれ提供している。また、スポーツテック企業やスポーツチームなどとの幅広いネットワークを有しており、アライアンス戦略の策定や新規事業の企画・立案なども得意としている※2。ご興味があればぜひご連絡いただきたい。

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