1. 賃貸か売却か?
前稿( 6月20日:「 空き家問題について考える・その 2 」 )で述べたとおり、富山県にある妻の実家(以下、実家)は、義母の介護ホーム入所により空き家となり、私が月一度東京から赴いて管理している。前稿では、空き家管理のランニングコストについて述べたが、7月以降、以下のような修繕費用が発生し、または将来発生する可能性が判明した。
空き家の修繕費用
① まず、将来の賃貸・売却に備えて物件を査定してもらった際、業者から「賃貸する場合や、古家付きで売却する場合に備え、白アリ点検をしておいた方が良い」と提案された。点検の結果、軒下の白アリ食害が相当確認されたので、業者に駆除してもらった。
⇒ 駆除費用 30万円(実費)
② 能登半島地震で一部崩れた風呂場のタイルを補修した。資産価値保全のほか、時々宿泊する際に、入浴できるようにする目的もあった。
⇒ 補修費用 15万円(実費)
③ その後、温水器(ボイラー)に故障が見つかり、裏庭で水漏れが生じていたが、古い機種で修理困難とのこと。買い替えには踏み切れなかったため、応急処置として水道の元栓を止め、温水器の電源を切った。この状態では②が無駄になるが、仕方がない。
⇒ 温水器を買い替える場合の費用は 約50万円(概算)
④ 廊下を歩くとたわみが激しいため、いずれ修理が必要である。
⇒ 廊下の修理費用 約10万円(概算)
⑤ 業者から屋根の点検も勧められたが、現在は、能登半島地震と水害で屋根点検の人手が足りないとのことなので、見送った。なお、実家の屋根は総瓦で、全く雨漏りはしてない。
空き家保有のトータルコスト
このように、空き家を保有すると、税金や光熱費等のランニングコストに加え、家や設備の修繕コストもかかる。当初は、実家をリフォームして賃貸することも考えたが、家や設備の修理責任は大家が負わねばならない。実家は築後50年と古いので、今後どれだけ修理費用がかさむのか、不確実性が大きい。
下図は、実家のランニングコスト(税金、庭師費用と光熱費で年間30万円)と修理費用(将来分含む)を勘案し、空き家保有期間と累積費用の関係を示したものである。屋根や外壁の修理費用は勘案していない。実家は、解体費控除後のネット売却額が600万円と査定されたが、保有期間が長期に及び、屋根や外壁の修理費用などが加われば、いずれは累積費用がネット売却価額を上回ることになるだろう。
現時点では、条件が整い次第早期に売却し、新たな持ち主に家や土地を有効活用してもらうことが望ましいと考えている。
2. 空き家売却の難しさ
( 売却の阻害要因 )
持ち主(や相続人)が空き家を住居として使わないにもかかわらず、早期に売却できない主な理由は次のようなものである。
<売却意思にかかる問題>
① 親世代が存命であり、売却の意思がない(または意思表示できない)
- 私の事例のように、親世代が介護ホームや病院に移転したことによって、空き家となるケースが典型例である。義母に売却の意思はないので、当面空き家管理を続けることになる。
② 子世代の相続人の間で、相続や売却に関する意見がまとまらない
<売却に要するコスト・労力>
③ 物が多過ぎて、売却までの作業負担が重い=当面は倉庫として必要
<需要不足と解体費用>
④ 人口減少が激しい地方で、しかも不便な場所にある物件は買い手が乏しく、価格を下げても売れる見込みがない。
⑤ 売却はできるとしても、売却代金が家の解体費用等の売却コストを下回る。
私の場合は、上記の①「親世代に売却の意思なし」と③「物が多過ぎる」が該当する。④⑤に関しては、業者査定の建物価格はゼロだが、土地査定額が1000万円、解体費用は概算400万円なので、多少価格を下げても解体費用を上回る価額で売却が可能だと思っている。
では、空き家の売却代金で解体費用を賄えないケースは、全国でどの程度あるのだろう。
解体費用と地価の関係
古家の解体費用は、木造家屋で坪当たり3~5万円とされている。本稿では4万円とする。古家の売却価値はゼロなので、単純に言えば、「地価が坪当たり4万円以上でないと、土地の売却代金で解体費用を賄えない」ことになる。以下では、そうした場所の多さや地域差を調べてみる。
<分析 1 >
まず、2024年の地価(基準地価)から、都道府県別の住宅地平均価格をみよう。最高は東京都(142万円 / 坪)、最低が秋田県(4.4万円 / 坪)である。秋田県でも平均価格は解体費用(4万円 / 坪)をギリギリ上回っている。
<分析 2 >
しかし、調査地点別にみると、地価が坪4万円以下の所はかなり多い。例えば秋田県では、217地点中149地点(69%)で地価が坪4万円(12,121円 / ㎡)を下回っている。図2は、住宅地を対象に、「坪4万円以下の地点数が総地点数に占める比率」を都道府県別に示したものである。比率が高い順に、秋田、鹿児島、北海道、青森となり、いずれも5割を超えている。この比率が30%超と高い地域は、東北、九州と四国、山陰地方に多い。
一方、東京は1.4%に過ぎず、4万円以下の11地点は小笠原などの島しょ部のみである。また、神奈川、大阪には、4万円以下の調査地点は皆無である。
これは、地方では空き家売却代金で解体費用を賄えない場所がかなり多い一方、大都市圏では、売却価格の低さは深刻な問題ではないことを示唆している。
3. 対応策について
今後の地価と解体費用
このように、空き家の売却代金が解体費用を下回る事例は、地方を中心に非常に多いものと推測できる。今後、地方の住宅地価格は、人口減少に伴い下落を続ける可能性が高い。一方、現在3~5万円とされる空き家の解体費用は、人手不足に伴い上昇していくものと考えられる。
対応策としての補助金
そこで、解体費用がネックとなって空き家が売却されない事態への対応策を考えてみよう。第一に、行政が老朽空き家の解体に対し、補助金を出すこと。第二に、解体費用に対する好条件のファイナンスを提供すること。第三に、逆説的だが、解体費用より安価なリフォームを行い、家付きで売却するか賃貸すること。第四に、家のリフォーム費用を利用者(賃借人)が負担する形で物件を賃貸すること、などが考えられる。
補助金の経済的効果
上記のうち、解体補助金の効果を考えてみよう。国または地方自治体が、空き家解体費用を半額(ここでは一律2万円)補助するとした場合、地価が坪2万円以上であれば、土地売却代金と補助金で解体費用を賄える計算となる。図3のオレンジ棒グラフは、地価が坪2万円以下となる地点の比率である。坪4万円以下の地点比率に比べ、大きく減少することがわかる。
補助金の事例
老朽空き家の解体費用に対する補助金は、既に多くの自治体で実施されている。例えば、富山県高岡市では、まちなか地域の空き家を対象に、解体費の3分の1を補助するが、上限は30万円である。
秋田県秋田市では、市が認定する老朽危険空き家を対象に、費用の2分の1を補助するが、上限は50万円だ。
東京都杉並区は、管理不全空き家――①空き家対策特別措置法に定める特定空き家等、および②区から①に準ずるものとして通知を受けた空き家――を対象に、解体費用の80%を補助し、その上限は150万円である。
北風と太陽
上限が30~50万円では、地方に多い大きな空き家を解体・売却するインセンティブとしては弱い。この点、杉並区は補助率も上限も手厚いが、対象を法定の「特定空き家等」とそれに準ずる管理不全空き家に絞っている。他の自治体でも、厳しい財政状況の中で補助金による解体インセンティブを高めようとするならば、社会的迷惑度の大きい管理不全空き家に限って、補助率や上限を引き上げることが有効ではないだろうか。
なお、空き家対策特別措置法上の「特定空き家等」に指定されると、空き家管理者に、固定資産税が約6倍になるといったペナルティが課される。こうした管理不全空き家と予備軍を対象に、厚めの解体補助金を支給することは、コストとメリットの両面から空き家の解体を促すことに資すると考えられる。
4. おわりに
以上、空き家の早期売却を妨げる要因と、解体補助金に関し考察してきた。ただ、補助金には限界があるので、それも活用したうえで、民間ビジネスや金融サービスによって、空き家問題の改善が図られることが望ましい。
私の場合、将来的には実家を解体・売却する方向で考えているが、少なくともあと数年は、不要物を整理しつつ、最小限の修理を施しながら管理を続けることになるだろう。その間に、売却以外の活用方法も探り、民間ビジネスや金融サービスで実家に適用できるものが見つかれば、それらについても考察してみたい。