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コラム・オピニオン

空き家問題について考える(その 2 )

2024.06.20
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はじめに

前稿でも書いたとおり、本年1月、富山県在住の義父が他界した。一人暮らしとなった義母は2月に病気で入院した後、介護ホームに入居した。そして3月には、1年間闘病してきた私の妻が他界してしまった。ちなみに、妻に兄弟はいない。

これらの事情で、富山県にある妻の実家は空き家となり、私が管理している。

私のようなケース ―― ① 親世代は存命だが介護施設などに入居し、空き家の管理ができない、② 親世代に空き家を売却する意思はない、③ 子世代とその家族は遠隔地に住んでいる ―― は、都市部への人口集中が進む中、増加しているだろう。こうしたケースの増加は、空き家問題を一層深刻化させている。

本稿では、まず、4月に公表された空き家数に関する最新統計をレビューする。その後、妻の実家を実例に空き家管理のコストと負担を極力具体的に把握し、課題を浮き彫りにしたい。

1.最新の空き家統計

本年4月30日、総務省から「令和5年住宅・土地統計調査 住宅数概数集計(速報集計)結果」が公表された。2023年の空き家数は900万戸と5年前から約50万戸増加し、空き家率は13.8%に上昇した(図1)。引き続き、「7戸に1戸は空き家」の状態にある。

<図1>空き家数と空き家率の推移

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(出所)総務省 「令和5年住宅・土地調査住宅数概数集計(速報集計)結果」

私は前稿で、2022年の空き家数を971万戸と推計したが、住宅・土地調査の2023年の空き家数は900万戸と、私の推計より少なかった。その理由として、住宅・土地調査はサンプル調査であるのに対し、私の推計は住宅戸数と世帯数のマクロ統計に基づくものという違いがある。

いずれにせよ、空き家数、空き家率とも5年前に比べ増加している。特に、「賃貸・売却用および二次的住宅を除く空き家」(=その他空き家)は385万戸と、5年前から1割以上増加した。その他空き家は管理不全になるリスクが高いため、空き家問題は一層深刻化している

2.空き家所有・管理のコスト

(1)相続登記の費用

昨年12月、空き家対策の推進に関する特別措置法の一部を改正する法律が施行され、本年4月より、相続で不動産を取得した者は相続登記を行うことが義務付けられた。3年間の猶予期間があるが、正当な理由なく相続登記を行わない場合には10万円以下の過料が課され得る。

私は、空き家問題に関係者と行政が正しく対処するためには、「空き家の所有・利用権者の確定と行政への登録」が不可欠だと考えるので、早速相続登記を行った。最終的には、妻の実家は、義母と私が1/2ずつの持ち分で登記した *。かくして、私も妻の実家に所有権を持ち、「名実ともに」管理責任を負うこととなった。

*まず、義父からの相続は法定相続(遺言状、遺産分割協議書なし)となり、義母と妻の1/2ずつの持ち分で登記された。次に、妻の持ち分は、私と子供二人に相続資格があるが、遺産分割協議書の作成により全て私が相続登記した。

義父の死亡と妻の死亡の二回分の登記が必要で、司法書士費用を含む全体費用は約22万円(1回平均11万円)であった。

  • 司法書士への支払:2度の相続登記で約16万円
  • 登録免許税:5万円(相続一回につき、相続物件の固定資産税評価額×0.4%が基本)
  • 消費税:約1万円

なお、今回の制度改正で導入された10万円以下という過料は、さほど有効とは思えない。上述のとおり、正しく相続登記をしても相応のコストがかかるからだ。相続登記を促すには、制度の趣旨(なぜ登記が必要なのか)を人々に広く理解してもらうことが重要だと思う。司法書士事務所の話では、今次法改正で相続登記を「義務化」したことは空き家管理改善への第一歩だが、新制度の周知がまだまだ不十分とのことだった。

では、なぜ速やかな相続登記が必要なのだろうか?

必要性 1:子や孫に余計な負担を遺さない

今回の相続登記に必要とされた書類は以下の通りである。家族の協力で円滑に準備できたが、一般には、書類を揃える時点で挫折する場合もあるのではないか

  • 被相続人(義父と妻)の死亡を証する書類(戸籍<除籍>謄本等)
  • 被相続人(同上)の出生から死亡までの戸籍書類 相続人の確定に必要
  • 妻の持ち分相続については、遺産分割協議書および相続人全員の住民票と印鑑証明書。
  • 長女は海外居住者であるため、住民票と印鑑証明書に替えて、大使館発行の在留証明とサイン証明書

私の場合、親世代からの相続登記であったため、必要書類は4人分(義母、私、子供二人)で済んだ。しかし、2世代以上前からの相続登記になると、関係者は累増し、相続に関する合意形成や必要書類の確保がより難しくなる(図2)。子供や孫に余計な負担を遺さないためにも、相続発生時に速やかに相続登記を行うべきである

<図2>相続登記を1世代怠るとどうなるか

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(出所)当社作成。子供二人の世帯を想定。濃灰色は既に他界していた人。

必要性 2:災害からの早期復旧

年初の能登半島地震により多くの建物が倒壊したが、行政が倒壊家屋を公費で撤去するためには、原則として権利者全員からの同意を得る必要がある。NHK報道によれば、倒壊家屋の中には、登記名義が4世代前のものもあり、権利者全員の同意獲得が困難な物件や、権利者が不明な物件が少なくないそうだ。倒壊建物の撤去の遅れは、災害からの地域復旧の障害となる。

政府は、こうした事実を含め、新たな相続登記制度とその趣旨をわかりやすく周知すべきだと思う

(2)固定資産税

不動産を所有する者(登記名義人)は、空き家であっても固定資産税を支払う義務がある。妻の実家は土地90坪、建物55坪で、固定資産税額は年間6万8千円である。この税額は、小規模住宅用地の優遇制度で1/6に減額されている。しかし、先述の法改正により、行政から管理不全の「特定空き家」に認定されると、この減額措置が適用されないこととなった。妻の実家の場合、一気に税額が6倍=年間40万円に跳ね上がる。この制度改正は、空き家を適正に管理するインセンティブになり得る。経済的には、この措置は「管理不全空き家の外部性を可視化」したものと評価できる。

なお、妻の実家の固定資産評価額は約1千万円(土地798万円、建物265万円)であるが、建物は築後50年を経過しており、不動産業者による建物評価額はゼロである。売却価値ゼロの建物に固定資産税が課されることには疑問も感じるが、古い家屋(特に空き家)は倒壊等の社会的迷惑を及ぼすリスクがある。私は、「古家への固定資産税は空き家の社会的リスク(外部性)に対するコスト」と考えることにした。

(3)その他の諸費用

① 電気代=年8万円

妻の実家はオール電化で、空き家でも基本料金(月約4千円)と、冷蔵庫や滞在時の冷暖房費用などがかかる(特に冬)。契約アンペアの引き下げや冷蔵庫対策で節約の余地はある。

② 水道料=年3万円

③ NHK受信料=年1.2万円

空き家だが、滞在時にはTVを見る。

④ 庭の管理費=年10万円

約40坪の庭で植栽も多いため、従来からの造園業者に管理を依頼。近隣への迷惑を防止し、管理費を抑制するため、杉の大木は伐採し、全体に植栽も小ぶりに仕立ててもらった。

以上のランニング・コストを合計すると、最低でも年間約22万円となる。固定資産税を加えると、年間約30万円のコストがかかる。家や設備の修繕が発生すれば、さらに費用がかさむ。

このほか、交通費として、新幹線(往復:2万8千円)とタクシー代がかかるが、交通費は義母の面会に行く費用でもあるので、今は空き家管理費用とは考えない。しかし、状況が変われば交通費もカウントするだろう。

(4)空き家管理の労務負担

空き家を放置すると、湿気やカビなどにより痛みが早くなる。また、郵便受けに郵便物やチラシがたまると防犯上問題がある。従って、月に1回実家に赴き、通風、通水、掃除、郵便物等の整理、庭の草取りを自分(および親戚)で行うこととした。

3.おわりに

このように、空き家を適切に管理するためには、コストと労力がかかる。

私は、妻の実家管理を巡る体験を踏まえ、空き家問題に対処するうえでは、「空き家の所有・利用権者の確定」「空き家管理期間」「空き家管理者と居住地との距離」が重要な要素だと感じた。

① 空き家管理者の世代・血縁が、元の保有者(親世代)から遠くなるほど、物件への思いが薄れ、管理責任があいまいとなり、空き家の管理が疎かになる。

→ 従って、相続後速やかに、新たな所有権者を登記することが極めて重要である。

迅速な登記を促すためには、既に述べたとおり、政府は新たな相続登記制度の内容と必要性をわかりやすく周知し続けるべきである。

② 空き家の管理期間が長期化するほどコスト・労力は大きくなる。空き家管理者の高齢化に伴い経済力と体力が減退する一方、空き家の損傷度合いは大きくなるからである。

→ 従って、早い段階から売却や賃貸などの「出口」を模索し、空き家管理期間を極力短くすることが望ましい。ただし、地方の空き家がプラスの価値(売却代金-解体費等)で売却できるのかは大きな課題となろう。

③ 空き家と管理者居住地との距離が遠くなるほど、管理に赴くコストは増加する一方、空き家が周辺に及ぼす迷惑にも鈍感になる。

→ 地元にいる親戚の協力を得ること、民間による「空き家管理サービス」を普及させることが重要である。また、相続登記や固定資産税管理を通じて、行政が空き家管理者の連絡先を把握し、「特定空き家」指定の警告等により、空き家の外部性を管理者に認識させることも必要である。

既に長くなったため、本稿はここまでとする。私は、将来に備え、地元の不動産業者に、妻の実家の売却価格や修繕費用の見積もりを依頼した。次稿(その3)では、その実例も踏まえ、空き家問題の出口である「早期売却(賃貸)に向けた課題」について論じたい。

以上

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Miyanoya Atsushi
宮野谷 篤
取締役会長
株式会社NTTデータ経営研究所
岩手県出身。1982年東北大学法学部卒業。同年日本銀行入行。金融市場局金融調節課長、金融機構局金融高度化センター長、金融機構局長、名古屋支店長などを経て2014年5月理事(大阪支店長)。2017年3月理事(金融機構局、発券局、情報サービス局担当)。2018年6月から現職。
専門分野は、金融機関・金融システム、決済・キャッシュレス化、金融政策・金融市場調節。
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