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空き家問題について考える(その 1 )

2024.03.22
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はじめに

わが国では、管理が不十分な空き家問題が深刻化している。昨年12月、空き家対策の推進に関する特別措置法の一部を改正する法律(以下、空き家対策法)が施行された。これによって、倒壊リスクの大きい「特定空き家」に加え、その前段階にある「管理不全空き家」も自治体からの指導・勧告の対象となった。

空き家の放置は、倒壊、雑草・害虫の繁殖、景観悪化、不法侵入、ごみの不法投棄など、様々な問題を引き起こしかねない。

私の場合、15年前に実母が他界した際、相続した千葉県柏市の家が空き家となったが、築年数が20年ほどであったため、建物付きで売却できた。そして、本年初に富山県高岡市在住の義父が他界。一人暮らしの義母も長期入院となったため、今は「遠隔地の空き家管理」が自分事となっている。これを機に、空き家問題についてデータに基づいて考察したい。

1.空き家はどれほど多いのか

日本の住宅7戸に1戸は空き家!

空き家の数は、総務省が5年に一度実施する「住宅・土地調査」で把握できる。直近データは2018年とやや古いが、空き家の数は増加を続けており、日本全体では849万戸の空き家が存在する。住宅総数に占める空き家の比率(空き家率)も年々上昇し、2018年では13.6%である。実に、7戸に1戸は空き家という状況にある(図1)。

<図1>空き家数と空き家率の推移

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(出所)総務省、「住宅・土地統計調査」より当社作成。

空き家増加のマクロ的な背景

人口減少が続く中、空き家の増加は当然と思えるかもしれないが、空き家数に影響するのは、需要側では、人口よりも「住まう単位」となる世帯数である。また、供給側では建築済の住宅総数(ストック)が影響する。以下、世帯数と住宅総数の動向をみよう。

世帯数の推移

わが国の人口は減少しているが、世帯の細分化などにより世帯数は増えている。世帯数の増加は空き家数を減少させる要因となる。しかし、世帯の細分化と大都市圏への人口流出が進む中で、貸家やマンションなどの集合住宅の需要が増大する一方、地方における既存の戸建て住宅の需要が減少している。こうした住宅需給の質的・地理的ミスマッチは空き家増加要因となる。

<図2>人口と世帯数の推移

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(出所)総務省「住民基本台帳に基づく人口、人口動態及び世帯数」より当社作成。外国人住民を含む。

住宅ストックの動向

一方、住宅総数は増加を続けている。ストックとしての住宅総数が増え続けているのは、解体・除去される住宅数よりも新設住宅数の方が多いからである。図3の折れ線は、新設住宅着工戸数から住宅滅失戸数を引いたもので、年間の住宅ストック増加数を示している。滅失とは、解体や災害により登記が抹消された建物を指す。

下図でわかるように、近年でも住宅総数は年間約80万戸ペースで増加を続けている。これは、2018年時点の空き家数(849万戸)のほぼ1割に相当する。老朽家屋の解体を加速させない限り、今後も住宅ストックは増加を続けるだろう。

<図3>新設住宅着工戸数と滅失住宅戸数の推移

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(出所)国土交通省「住宅建築統計」、「建物滅失統計」から当社作成。新設住宅着工戸数は暦年ベース、住宅滅失戸数は年度ベース。滅失には、除去(解体)のほか、災害によるものも含む。

住宅総数と世帯数の関係

住宅総数と世帯数の推移をみると、既に半世紀にわたり住宅総数が世帯数を上回る状況が続いており、必然的に空き家が生じる構造となっている。住宅・土地調査の最新データは2018年であるが、図3の住宅ストック増減と人口統計を用いて、2022年のデータを推計した(図4)。2022年の住宅総数と世帯数のギャップは2018年の841万戸から974万戸に拡大している。

<図4>住宅総数と世帯数

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(出所)総務省「住宅・土地統計調査」、「住民基本台帳に基づく人口、人口動態及び世帯数」から当社作成。2022年は当社推計。2022年の住宅総数は2018年の住宅・土地統計調査のデータに、図4の住宅ストック増減(2019~2022年)を加算。2022年の世帯数は、土地統計調査の2018年のデータに、人口統計における総世帯数の増加率(2018年→2022年:1.031倍)を乗じて算出。

2023年の空き家数は?

図5に示すように、「住宅総数―世帯数」の数値は、1998年以降は住宅・土地調査の空き家数と概ね一致する。従って、2022年の空き家数は同年の「住宅総数―世帯数」の971万戸程度と推測できる。現在行われている2023年の住宅・土地調査における空き家数は、1000万戸台まで増加する可能性が高いと考えられる。

<図5>直近空き家数の推計

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(出所)図4と同じ。

2.管理不全の空き家が増える背景

以上のように、空き家が発生・増加することは不可避の状況にある。問題は、管理不全の空き家が増えていることだ。管理不全空き家はなぜ増えるのだろうか。

空き家の利用状況

空き家のうち、管理上の問題が最も大きいのは、用途が「二次的利用」(物置、セカンドハウスなど)、「賃貸・売却用」のいずれでもない「その他の住宅」である。これらは、放置されるか物置として利用される程度であるため、管理が疎かになりやすい。住宅・土地統計調査によれば、2018年時点で、「その他の住宅」が空き家全体の過半を占めている(図6)。以下本稿では、「その他の住宅」である空き家を「その他空き家」という。

<図6>空き家の利用状況

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(出所)総務省「平成30年住宅・土地統計調査」から当社作成。

空き家問題は戸建て問題

国土交通省の「空き家所有者実態調査」によれば、2018年時点の「その他空き家」のうち、91%が戸建てである。また、その他空き家のうち78%が昭和55年以前に建てられたものであり、老朽・破損状況のあるその他空き家は64%にのぼる。

空き家の取得経緯と管理方針

所有者が「その他空き家」を取得した経緯は、58%が相続である。相続は受動的な取得といえるだろう。空き家の管理頻度は「月1回~数回」が36%と最多だが、「年に1回~数回」も25%にのぼる。

今後の空き家の利用計画については、その他空き家では、「空き家にしておく(物置を含む)」が44%と最多。次いで「取り壊す」が22%となっている。

空き家の管理をするうえでの課題

「空き家を管理するうえでの課題」についての回答をみると、「課題なし」が30.2%、「管理作業が大変」が29.8%、「利用予定がないので管理しても無駄」が26.0%、「管理費用負担が重い」が21.6%、「遠方に住んでいるので管理が困難」が21.0%となっている。

私の整理では、自ら管理する場合には「管理作業が大変」、業者に依頼する場合には「管理費用負担が重い」に該当するので、いずれもコスト負担の問題である。「遠方…」も、管理に赴く交通費と体力的・時間的な負担と考えれば、コスト負担の問題である。このように、経済的なコストと負担が、空き家管理面の大きな課題となっている。

3.おわりに

以上、データに基づき直近の空き家数を推計し、管理不全の空き家が増える背景について考察してきた。本来は対応策も論じるべきだが、今の私には知見が不足している。

義母の家は築50年と古いが、庭が広く、日当の良い広縁が魅力の日本家屋である。家内や娘達と過ごした思い出も深く宿っている。

ただ、その家の登記はまだ(他界した)義父名義のままであるため、これを義母名義に変更する相続登記を行わなければならない。また、家の通風管理や郵便物・庭の管理も、月1回は行う方針である。さらに、先の能登半島地震で内部が破損し、修理が必要と思われる部分もある。もちろん、大きな物の処分や家の修繕は、入院中の義母の了解を得て行うが、今後私は、空き家管理の労力と費用について多くの体験と知見を得るだろう。

そうした体験・知見が十分得られた際は、空き家管理のコストと便益、空き家放置による外部性(迷惑度)の可視化、といった観点に注目して、適切な空き家管理を促すための対応策について本欄で論じたい。また、空き家問題を改善させるための金融および金融機関の役割についても考えてみたい。

以上

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Miyanoya Atsushi
宮野谷 篤
取締役会長
株式会社NTTデータ経営研究所
岩手県出身。1982年東北大学法学部卒業。同年日本銀行入行。金融市場局金融調節課長、金融機構局金融高度化センター長、金融機構局長、名古屋支店長などを経て2014年5月理事(大阪支店長)。2017年3月理事(金融機構局、発券局、情報サービス局担当)。2018年6月から現職。
専門分野は、金融機関・金融システム、決済・キャッシュレス化、金融政策・金融市場調節。
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