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Insight
経営研レポート

日本での介護就労を見据えた福祉系高校の立ち上げ視察レポート ― インドネシア・バンドン県

日本の地方介護を支える外国人介護人材の新たな育成・送り出しルート
2026.06.19
ライフ・バリュー・クリエイションユニット
マネージャー 奈良 夕貴
シニアコンサルタント 保坂 真名
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はじめに

日本では介護人材不足が深刻化しており、外国人介護人材への期待が高まっている。しかし、現在の多くの送り出しスキームでは、来日前の比較的短期間で日本語や介護知識を学ぶことが一般的であり、より早い段階から長期間の専門教育を受ける仕組みは限定的である。

一方、外国人介護人材の送り出し主要国の一つであるインドネシアでは、若年層の雇用機会が不足しており、就職難が社会課題となっている。

こうした双方の課題を背景に、インドネシアの若者に対して高校段階から介護教育と日本語教育を行い、日本での介護就労を見据えた人材育成・送り出しスキームを構築するプロジェクトが進められている。

参考となっているのは、日本の「福祉系高校」の仕組みである。福祉系高校とは、高校段階で介護や福祉を学べる学科を持つ高校であり、3年間で介護の基礎や人を支える仕事の考え方などを学ぶ。

本レポートで扱う「インサイト職業訓練高校」は、このプロジェクトの中核を担う教育機関である。同校は、日本の福祉系高校が持つ機能、すなわち10代の若いうちから時間をかけて日本の介護について学ぶ仕組みをインドネシアに構築しようとする取り組みとして設立された学校であり、日本の地方への継続的な受け入れルートの構築が念頭に置かれている。

さらに本構想は、日本の人材確保だけを目的とした一方的な仕組みではなく、インドネシアの若者にとっても母国で専門教育と日本語を学び、自ら進路を切り拓ける新たな職業教育の場となる、双方に利点をもたらす取り組みとして設計されている点も特徴といえる。


以下では、視察の概要(第1章)、プロジェクトの背景と関係者の全体像(第2章)、学校と教育設計の具体像(第3章)を述べたうえで、本スキームが持つ意義(第4章)を、日本とインドネシアそれぞれの観点から考察する。最後に、海外人材の獲得競争が国際的に進むなかでの本構想の位置づけにも触れ、まとめたい。

1. 視察の概要

日本では、2040年度に約272万人の介護職員が必要とされると推計されており、2022年度比で約57万人の追加確保が求められている1。国内人材のみでは十分な確保が難しい規模の人材不足が見込まれるなか、外国人介護人材への期待は一層高まっている。

なかでもインドネシアは主要な送り出し国の一つである。厚生労働省によると、2024年12月末時点で、介護分野の特定技能外国人44,367人のうちインドネシア国籍者は12,242人2と国籍別で最も多く、全体の約27.6%を占める。また、人口の年齢中央値も2023年時点で29.8歳3と若く、今後も重要な国と位置づけられると考えられる。

2026年時点で、外国人が日本の介護現場で働くルートには、主に「EPA(経済連携協定)」「在留資格(介護)」「技能実習」「特定技能」の4つがある。いずれも来日後や送り出し直前に介護や日本語を学ぶケースが多く、母国で、高校生のうちから数年かけて準備する仕組みはほとんど存在しない。

現在、インドネシアで日本への就労を目指す若者の多くが経由するのは、LPK(Lembaga Pelatihan Kerja/職業訓練機関)である。LPKは数カ月から1年程度の短期コースで日本語と就労基礎スキルを集中して教える機関であり、同国第3の都市であるバンドンをはじめインドネシア各地に多数設立されている。現在、日本向け送り出しスキームの大部分を担っているのも、こうしたLPKである。

一方、SMK(Sekolah Menengah Kejuruan/職業訓練高校)は3年制の正規学校教育だが、海外就労を見据えた教育課程を持つ学校はほとんど存在しない。本プロジェクトの最大の特徴は、送り出し前の短期研修機関ではなく「高校」という正規の教育段階から、介護と日本語を体系的に学べる環境を整える点にある。

今回の視察では、2026年7月開校予定のインサイト職業訓練高校(インドネシア・バンドン県)を訪問した。視察時点で同校は建設途中であったため、完成した施設を確認するのではなく、本プロジェクトや構想が現地でどのように進められているのか、また完成後の施設を見るだけでは把握しにくい、学校づくりの過程そのものを確認することを主眼とした。また、視察後には、日本側で関与する有識者・関係者へのヒアリングを実施し、本プロジェクトの意義を多角的な視点から把握した。

1 厚生労働省「介護人材確保に向けた取組について(第9期介護保険事業計画に基づく介護職員の必要数について)

2 厚生労働省 社会・援護局 社会基盤課福祉人材確保対策室「外国人介護人材の受入れの現状と今後の方向性について」(2025年3月28日 ,P11,P15)

3 Hannah Ritchie, “Population and Demography” Our World in Data.

2. プロジェクトの背景

インドネシア側には、若者が海外でキャリアを築くことを後押しする事情がある。若年人口が多い一方で、地方部には十分な雇用機会が確保されておらず、海外就労は本人のキャリア形成だけでなく地域経済を支える選択肢としても重視されている。本プロジェクトが進められているバンドン県も海外への人材送り出しを後押しする仕組みを設けているとされ、こうした事情が本プロジェクトの土台となっている。

本プロジェクトは、学校の設立・運営をインドネシア側が主導し、そのカリキュラム(介護・日本語) の設計を日本側が協働して支援する構造をとっている。インドネシア側の中心は、学校設立の母体となる財団(学校法人)とその設立者である。加えて、現地の大学であるUniversitas Pendidikan Indonesia (UPI)で日本語教育に携わる教員が日本側との重要な接点となっている。さらに、学校建設には県の助成も活用されており、行政の後押しも得ている。

一方、日本側の中心は3名の専門家と1つの登録支援機関である。全体統括や渉外、および受け入れスキーム設計を担うのは、日本で外国人支援に携わってきたJコンサルティング株式会社の高橋 恵介氏。介護教育のカリキュラム設計を担うのは、東京福祉専門学校の元副学長であり、長年にわたり介護福祉士養成に携わってきた白井 孝子氏。そして、日本語教育の設計や現地教員研修を担うのが日本国内で在留外国人への日本語や母語継承教育などに関わってきた大和 崇子氏である。

上記3名に加え、現地での人材確保やプロジェクト費用を担う登録支援機関である株式会社GoBit(ゴービット)が、現地側との橋渡し役を担っている(図表1)。

【図表1】インサイト職業訓練高校と関係者

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【写真1】バンドン県・インサイト職業訓練高校の視察時の様子

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(後列左端が高橋氏、前列中央が白井氏、前列右端が大和氏)

3. 学校と教育設計の具体像

3.1 バンドン県の特徴

インサイト職業訓練高校が設立されるインドネシア・バンドン県は、西ジャワ州に位置する地域である。周辺には高等教育機関が集積しており、日本語や日本文化を学ぶ教育機関も複数存在する。そのため同地域は、単に生徒を募集する地域というだけでなく、日本語教育や日本への関心を持つ若者が多く、現地教育機関との連携可能性を有する地域と捉えることができる。

3.2 学校の規模・整備計画

同校は3学年制で、1学年150名(5クラス)、計450名規模を想定している。このうち約3分の2が、日本での就労を将来の進路の選択肢として検討することが見込まれている 。

施設の整備は段階的に進められる予定であり、視察時点ではモスクが完成済であったほか、教室と3床規模のクリニックが建設中であった。さらに来年以降には寄宿舎と介護施設、将来的にスポーツセンターの建設も計画されている。

【写真2】インサイト職業訓練高校の外観

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※筆者が撮影(以下同様)

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【写真3】寄宿舎および介護施設の建設予定地

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(学校が位置する丘の上から撮影。写真中央にある建物付近に建設予定)

3.3 介護教育

同校では、高校段階で初任者研修修了レベルの知識・技術を身につけることを基盤とし、可能であれば実務者研修レベルまで視野に入れる方針が検討されていた。介護教育のカリキュラム策定を担う白井氏は、教育の骨子を「自立支援」と「尊厳」という日本の介護観に置き、技術を習得するだけでなく「なぜそのケアを行うのかを自分の言葉で説明できる人材を育てたい」と語る。来日時点で「ゼロからではない」基礎力を身につけた状態を目指す考え方である。

あわせて、介護技術は反復で身につくため、実習環境の整備も重視されており、同校でも段階的に整える計画である。

カリキュラム面に加えて、現地ならではの論点が「誰が教えるのか」である。日本式の介護を現地で教えられる指導者はまだ少ない。そのため、本プロジェクトではその担い手として、EPA(経済連携協定)で来日し日本の介護現場で経験を積んだ帰国者に着目している。バンドン県を含む西ジャワ州はEPA帰国者が比較的多く、彼らが母国の教壇に立つことは日本式介護を現地に根づかせるだけでなく、帰国者本人にとっても経験を活かせる新たな就労の場となることが期待される。

一方で、実務経験と人に教える技術は必ずしも一致しない。そのため、教え方を支援する研修やメンタリングも検討されており、「現地で教える人を現地で育てる」仕組みづくりが本構想の重要な要素となっている。

3.4 日本語教育

日本語教育は、現地の教員が授業を担当し、その教員の育成を日本の日本語教師がサポートする体制を構想している。日本語そのものだけでなく、ルールやマナー、掃除、日直制度といった日本式の教育も取り入れる予定である。

カリキュラムは段階的に編成される方針であり、視察時点では、1年次は日本語の習得を中心としながら介護に関する単語やイメージを少しずつ取り入れ、2年次以降に介護の専門性を高めていく流れが検討されている。

日本語教育の設計を担う大和氏が強調していたのは、日本語を「在学中、日本での就労中、そしてその後の人生をより豊かにするためのツール」と位置づける考え方である。つまり、日本語能力試験の合格を目的とするのではなく、将来のキャリア形成を見据えた日本語教育である。

その背景には、同校の生徒層の特性がある。同校には日本に強い関心を持って入学する生徒だけでなく、必ずしも日本での就労を明確に志向していない生徒も含まれる。また、高校生という進路選択の途上にある若い年代が主な対象となることも特徴である。

こうした前提を踏まえ、大和氏は「日本語能力試験のN3やN4といった試験の級を取ることをゴールにするのではなく、就職段階で困らないコミュニケーションと、自分で学び続けられる力を身につけてほしい」と語る。

同校では、介護の授業前に「介護で使う言葉」を先取り学習するなど、介護教育と日本語教育を統合する方向で検討が進んでいる。教材は現地教員が運用しやすいものを選び、あわせて現地教員の育成も進める方針である。

3.5 モスク・クリニック

同校では教育施設だけでなく、モスクやクリニックも併せて整備される。象徴的だったのは、校舎より先にモスクの建設が進められていたことである。イスラム教の理念に基づく学校経営を続けてきた設立者は、初期説明の段階から「モスクの建設から始める」と明言していたという。なお、モスクは地域住民も利用できる。

また、クリニックは3床規模で学校正面入口付近に配置される予定である。総合診療医が常駐する計画であり、最寄りの医療機関まで車で約1時間を要する地域事情への配慮でもある。こちらも生徒だけでなく地域住民も利用できる設計となっている。

モスクとクリニックの双方を地域に開かれていることは、学校が単独で完結する施設ではなく、地域と一体で機能することを意図した本構想の姿勢を表している。

【写真4】敷地内にある新設のモスク

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4. このスキームが持つ意義

このように本プロジェクトは、教育設計と送り出しスキームが一体的に構築されている。この構造が持つ意義は、見る立場によって異なる。日本にとっては地方の介護人材確保のあり方を広げうるルートとして、インドネシアにとっては地域に根ざし、若者が自ら進路を選択できる新たな職業教育の形として意義を持つ。以下では、2つの側面から整理する。

4.1 日本にとっての意義―継続して地方に人材を届ける仕組み

日本の介護人材不足は、特に地方においてより深刻である。本ルートを通じて日本での就労を選択した人材が来日する構想は、単なる一校の設立ではなく、地方が介護人材を継続的に迎え入れるための新たなルートを構築する試みともいえる。

具体的には、人材を必要とする自治体とバンドン県が直接協定を締結し、その自治体へ毎年一定数の若い人材が継続的に届く流れをつくることが想定されている。

プロジェクト全体を統括する高橋氏は、日本国内の地方自治体を回りながら本スキームの渉外活動を進めている。「地方の人材確保が鍵。都市部は国内の移動である程度補えるが、地方ではそうした国内からの転入はなかなか望めない」と語り、本プロジェクトを地方における継続的な人材確保ルートとして位置づけていた。

また本スキームのもう一つの意義は、来日前から介護や日本語を学んだ若者が現場に入ることで、受け入れる介護事業者の負担軽減につながる点である。「ゼロから教える」のではなく「一定の基礎を身に着けた人を迎える」形に近づくことで、早期に現場で力を発揮できることも期待できる。

4.2 インドネシアにとっての意義―地域に根ざし、進路まで見据えた教育機関

本スキームの核心は、単なる研修機関ではなく「職業訓練高校」という地域に根ざした教育機関である点にある。さらに、卒業後の進路まで含めて設計されていることも大きな点である。

インドネシアの職業訓練高校(SMK)は、急速に増加している一方で、教育内容が地域や受け入れ先の実需と噛み合わず、卒業生が行き場を失うという課題が指摘されている4。本プロジェクトでは、卒業後の進路を具体的な選択肢として用意し、教育と進路を切り離さずに一体で設計している。そのため、職業訓練高校(SMK)が構造的に抱えてきた「学んだことが進路につながらない」という課題の解消が期待される。

母国にいながら日本での就労につながる専門教育と日本語を学べる場ができることは、若者自身が進路の幅を広げ、自らの可能性を切り拓けるという点でも大きな意義がある。

さらに、地域にとってのインフラ整備につながる点も重要である。学校建設に伴う校舎までのアクセス道路の整備や、地域住民にも開かれたクリニックの設置は、学校という一つの拠点が地域全体の生活基盤の向上にも寄与する構造となっている。その意味で、本プロジェクトは若者だけでなく地域住民にとっても大きな意義を持つと考えられる。

4 Yoana et al. “The role of vocational education on unemployment in Indonesia” Cogent Education, 11(1), 2024. インドネシア政府は2006年以降、SMK(職業高校)を量的に拡大する政策を進めてきたが、卒業生数の急増に対し、教育内容と産業界の求めるスキルとの「link and match」問題(ミスマッチ)が指摘されている。https://www.tandfonline.com/doi/full/10.1080/2331186X.2024.2340858

おわりに

今回の視察とヒアリングを通じて明らかとなった、本プロジェクトの特徴は以下の3点に集約できる。

第一に、学校づくりが単なる教育施設の整備にとどまらず、モスクやクリニックを含む、健康・福祉・信仰に関わる地域拠点として進んでいること。

第二に、介護と日本語を一体で組み立てる教育設計が志向されていること。

第三に、その持続性が関係者の思いに加え、自治体との協定を軸とした公的な送り出しルートの構築によって担保されようとしていることである。

国際的な視点で見れば、現在、介護人材を求めているのは日本だけではない。ドイツや韓国も外国人介護人材の確保に乗り出すなど、人材獲得はすでに国際的な競争になっている。そのなかで日本が「選ばれ続ける受け入れ国」であり続けるためには、単発的なマッチングに依存するのではなく、現地の若者や地域と早期から信頼関係を築き、教育と送り出しを一体的に設計した、持続可能なルートを共に構築する必要がある5

本プロジェクトは、その先行的な取り組みの一つとして位置づけることができる。2026年7月の開校に向けて整備が進む同校の今後の動向は、日本における外国人介護人材確保戦略のあり方を考えるうえでも注目だ。

5 NTTデータ経営研究所「厚生労働省 令和7年度 老人保健事業推進費等補助金 老人保健健康増進等事業 海外現地と自治体などの連携による外国人介護人材確保に係る調査研究事業 報告書」(2026年3月) 本報告書では、海外人材の獲得競争が進むなか、日本が選ばれ続ける受け入れ国であるためには、単発的な受け入れにとどまらず、海外現地との関係構築を含む戦略的かつ持続可能な人材確保の枠組みを整えることが不可欠であり、積極的に動く自治体の事例などをまとめている。

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マネージャー      奈良 夕貴

シニアコンサルタント  保坂 真名

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