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経営研レポート

企業間決済DX時代における地方銀行の協調戦略

~接続・埋込・価値統合という3つの戦略類型~
エンベデッドファイナンス(組込型金融)
キャッシュレス(決済インフラ高度化)
2026.03.16
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はじめに

企業間決済を取り巻く環境は、ここ数年で大きく変化している。請求・支払・経理といった業務プロセス全体がデジタル化・自動化され、「決済そのもの」よりも、「決済を含む業務全体の効率性」や「データ活用」を重視するようになってきた企業も増加している。

これまでの連載では、こうした企業間決済DXの進展が、決済手段の多様化や支払構造の複雑化、さらにはステーブルコイン等の新たな決済インフラの登場につながっていることを整理してきた。本稿ではそれらを前提としたうえで、地方銀行が取り得る協調戦略を類型化し、それぞれの選択が意味する戦略上の位置付けと許容すべきリスクについて解説する。

1.外部サービスとの「協調戦略」が地方銀行の経営課題に

企業間決済DXの進展は、単に決済手段がデジタル化されたという変化にとどまらない。請求書の電子化、支払指図の自動化、会計・ERPとの連携といった取り組みを通じて、決済は企業の業務プロセスに深く埋め込まれる存在となりつつある。企業にとっては、「どの銀行で振込を行うか」よりも、「どの支払手段・サービスを使えば一連の処理が最もスムーズかつ、合理的なコストで実行できるか」という観点が重要視されるようになるだろう。

この構造変化は、地方銀行に次のような問題をもたらすと考えられる。特に、資金決済事業者や各種外部サービスとの競争が激化することで、決済手段間の価格競争が進み、決済関連収益が圧迫される可能性がある点には留意が必要である。

  • 企業の決済行動が銀行の外側で完結
  • 銀行が「選ばれる主体」ではなく「裏側の存在」に
  • 自前システムの高度化だけでは、企業のニーズを満たしきれない

企業が求めているのは、「銀行を意識せずに業務を完結できる体験」であり、そのために銀行機能は業務に自然に組み込まれている必要がある。この状況下において、地方銀行が単独で顧客接点を囲い込もうとするのは、さまざま登場する利便性の高い外部の支払手段・サービスと直接的に競合し優位性を保ち続ける必要があることから、あまり現実的とは言えないだろう。その意味では、外部サービスとの協調を前提とした銀行としてのポジショニングの再設計が不可欠となる。

2.企業間決済DXを担う外部プレイヤーの全体像

従来、企業は銀行チャネル上で振込を行ってきたが、現在では、請求・支払・会計といった業務プロセス全体がデジタル化され、企業が日常的に触れる主画面は、銀行から業務SaaSや決済クラウドへと移行しつつある。企業にとって重要なのは「どの銀行で支払うか」ではなく、「請求から支払、会計までが滞りなく効率的に回るか」であると言える。

これは、銀行の価値が低下したということではなく、銀行の価値が、企業の目に直接触れる場所から、業務フローの裏側へ移動したと捉えるべきだろう。こうした変化を背景に、企業間決済DXの主戦場には、以下のような銀行以外のプレイヤーが存在感を高めている。

  • 決済特化型FinTech:振込代行、法人カード、請求書カード払い等
  • 業務SaaS(請求・会計・ERP):企業の業務フロー全体を支える主画面
  • BaaS事業者:銀行機能をAPIとして提供し、外部サービスの裏側を支える
  • 業界特化型プラットフォーム:特定商流に決済を組み込むプレイヤー

地方銀行に問われるのは、これら外部プレイヤーとどう競うかではなく、どの位置で協調するかである。

3.地方銀行が直面するリスクと戦略策定上の前提

企業間決済DXの進展により、地方銀行は、「顧客接点の喪失」「決済関連収益や預金の希薄化」「決済・取引データの主導権喪失」といったリスクを意識しがちである。

これらは確かに無視できないリスクである一方で、外部サービスの多くは、最終的に銀行口座や決済機能を必要としている点、また、銀行機能の信頼性・法的安定性は代替が難しい点などは十分に意識されていない重要な点である。したがって、地方銀行が検討すべきは、自身が企業間決済のどの位置で不可欠な存在となるかを定義することであり、その前提の下で外部サービスとの協調戦略をとることだろう。

企業間決済DXを巡る外部サービスとの協調は、我が国の地方銀行においても、すでに具体的な取り組みとして進み始めている。もっとも、その形は一様ではなく、各行の戦略やリソースに応じて、いくつかの類型に分けることができる。特に近年目立つのは、請求・支払・会計といった業務プロセス全体を視野に入れた協調であるが、これは、企業が求めている価値が「振込の利便性」そのものから、「支払業務全体の効率化」へと移行していることの表れといえる。

4.協調戦略の基本パターン

企業間決済DXが進展する中で、地方銀行に求められるのは「外部サービスと連携するか否か」ではなく、どういったポジションで協調するのかを、経営戦略の観点から選択することである。ここでは、選択すべき協調戦略の選択肢を次の3類型に整理した。

 

① 接続型(つながる銀行)

接続型は、既存の銀行チャネルや口座基盤を前提に、業務SaaSや決済サービスとAPI連携するモデルである。企業は「〇〇銀行の口座を使っている」ことを認識したまま、SaaS上で残高照会や入出金管理を行う。

このモデルは、比較的投資負担が小さく、既存法人顧客の関係維持に有効である一方、UXやデータ主導権はSaaS側にあるという制約を受けやすい。言ってみれば、選ばれ続ける銀行であり続けることで、既存顧客基盤を守っていくための「防衛的戦略」と位置付けることができよう。

 

②「埋込型(組み込まれる銀行)」

埋込型は、口座・振込・認証といった銀行機能をAPIとして外部に提供し、銀行を外部サービスの裏側に組み込むモデルである。この場合、利用者は銀行の存在をほとんど意識しない。

企業が運営するサービスに対しAPIを介して銀行機能を提供するという北國銀行によるBaaS事業※1は、地方銀行における同分野の先進例と言えよう。同事例が示す重要な点は、システムの内製力と意思決定スピードが競争力の源泉になっている点である。

埋込型は、ブランド露出の低下、投資負担の増大、法務・リスク管理の高度化といった相応のリスク・覚悟を伴うが、非対面チャネルでの新規顧客獲得やスケールを狙える「攻めの戦略」といえる。

 

③「価値統合型(まとめる銀行)」

価値統合型は、決済機能に加え、請求・支払業務の効率化、資金繰り可視化、融資・経営支援までを一体で提供するモデルである。例えば、広島銀行は、ITベンダーと連携し、請求書の受領・管理から支払指図、銀行振込までを一気通貫でデジタル化するプラットフォームを提供している※2

広島銀行の事例は、企業の支払業務フロー全体に銀行が入り込む形であり、このモデルでは、銀行として顧客の業務フローを理解し、継続的に支援できる組織・体制・ノウハウといった人的リソースの維持・確保が成否を分けると考えられる。なぜならば、業務全体を一気通貫でデジタル化するには従来の「紙とハンコ」の文化を「デジタル完結」に変える必要があり、単にツールを提供するだけでは顧客企業の社内規定や承認ルート、会計ソフトとの連携といった「実務の壁」を突破できないからだ。実際、広島銀行でもDXコンサルティングの体制強化として企業のDX支援を行うコンサルティング組織を2025年4月に新設している※3

表1:協調戦略の3類型

類型

コンセプト

主な狙い・収益源

必要な組織能力・リソース

① 接続型

(つながる銀行)

既存顧客の維持

(防衛・利便性向上)

  • 決済・振込手数料

  • 預金残高の維持

  • 既存融資取引の継続

  • API連携の柔軟性: 外部SaaSとのスムーズな接続基盤

  • 外部パートナー連携: 会計SaaSベンダー等との関係構築

② 埋込型

(組み込まれる銀行)

BaaSによる新規開拓

(インフラ提供)

  • BaaS利用料(API利用料)

  • 決済処理ボリュームに応じた手数料

  • 非対面チャネルでの預金獲得

  • 高度なシステム基盤: 大量・高速なAPI処理に耐えうる安定性

  • プロダクト開発力: 外部事業者が使いやすい機能のパッケージ化

③ 価値統合型

(まとめる銀行)

コンサル・経営支援

(付加価値提供)

  • プラットフォーム利用料

  • データ活用による高度与信・融資

  • 経営・DX支援コンサル料

  • 顧客業務の深い理解: 決済の裏側にある商流への知見

  • 伴走支援・営業力: システム導入にとどまらない運用定着支援

おわりに:自らの価値を再定義する必要性

企業間決済DXの進展は、外部サービスとの協調を「選択肢」ではなく、前提条件へと変えつつある。接続型、埋込型、価値統合型のいずれを採るにせよ、重要なのは、自らの立ち位置を明確に定義しないまま、個別連携を積み重ねないように留意することだろう。自らの立ち位置を明確に定義しないまま個別連携を積み重ねた場合、以下の問題が生じる懸念がある。

  • 顧客からは「便利だが、何を任せられる銀行か分からない」
  • 連携先からは「どこまで任せてよいか分からない」
  • 行内では「連携疲れ」「DX疲れ」

 

外部サービスとの協調は、従来の振込手数料収入を一定程度カニバライズする行為(収益浸食する行為)でもある。これを上回る価値を生むためには、与信判断の高度化やLTV(顧客生涯価値)向上といった中長期視点での収益モデルの転換が不可欠となる。

一方で、外部サービス経由で得られる請求・支払データの活用を前提とした収益モデルを描こうとしても、規約上の制約により銀行側で自由に活用できないケースも考えられるだろう。その意味でも、外部サービスとの協調に際し、データ取得・利用条件を事前に精査し、「データを活用する協調」と「割り切る協調」を戦略的に切り分けることが重要となる。例えば、外部SaaSから提供されるデータが「統計化されたもの」か「個別の明細単位」かによっても、与信モデルへの活用可否が分かれるだろう。もしくは、顧客同意の取得や業務フローへの関与を通じて、銀行側にデータが自然に集まる構造を設計する必要があろう。

協調戦略において重要なのは、全ての連携でデータ主導権を握ることではなく、どの連携で、どの価値を獲得するのかを明確にしたうえで、協調関係を設計することだ。いってみれば、企業間決済のDX化は、地方銀行に対して、どの価値を担いどこで存在感を発揮するのか、自らの価値を改めて問う変化ともいえる。

また、本稿で挙げた3つの類型は排他的なものではなく、顧客属性(大企業向けは接続型、特定業種向けは価値統合型など)に応じて使い分ける「ポートフォリオ戦略」の視点も重要である。協調戦略に正解はないが、限られた金銭的・人的リソースを投下するに際して、獲得したい価値を曖昧にしたままでは、「何者でもない存在」になるリスク、つまりは、利便性の高い外部サービスへの「取次店」に留まり、銀行が顧客の経営状態を把握できないまま融資機会を失ってしまうような状態になるリスクが高まる。だからこそ地方銀行には今、自らの協調戦略を、覚悟をもって選択することが求められている。

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株式会社NTTデータ経営研究所

金融政策コンサルティングユニット

シニアマネージャー  菊重 琢

マネージャー     戸田 幸宏

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