本対談は、デンマーク文化研究家の針貝有佳氏と当社メンバーが、デンマーク企業は短時間労働でありながら、イノベーション創出や高い業績を生み続ける背景には何があるのか、その秘密を探った。
はじめに:デンマーク企業の「生産性の高さ」はどこから生まれるのか
世界の競争環境が激しくなる中、日本企業が長年の課題として抱えるテーマ――それが「生産性の向上」だ。
一方で、IMD「ビジネス効率性」ランキングで5年連続1位を獲得する国がある。それがデンマークである。短時間労働でありながら、イノベーション創出や高い業績を生み続ける背景には何があるのか。
今回は、デンマークの組織文化を長年研究し、
を執筆された針貝有佳氏をお招きし、当社メンバーと対談、その秘密を探った。

1.デンマークの生産性を支える「自律性」
まずは、生産性の高さについて伺いたいと思います。デンマークはIMDの「ビジネス効率性」で5年連続1位。この数字は、偶然ではないはずですよね。成功要因はいろいろあると思いますが、いくつか挙げるとしたら何でしょうか。
たくさんあるのですが、一つの鍵はやはり「一人ひとりを活かしている」という点だと思います。ジョブ型で適材適所が徹底されていいますが、普段から雑談を通してその人の得意や関心をチームで共有し、それを活かし合っています。
今回、私たちの側でも「組織マネジメント」「組織文化・風土」「人事制度」「組織構造」「人財」といった観点でデンマーク企業を整理してみました。それぞれ個別に見ると特徴が違うようにも思えるのですが、実は横串でつながる「共通の柱」が存在していると感じています。
その共通点が、「一人ひとりを活かす」ことだとお話を伺って感じましたが、「仲が良い」というよりも「自律しているから成り立つ関係」に見えます。自分で決め、自分で進める。その前提がすごく強い印象があるのですが、いかがでしょうか。
まさにそうですね。デンマークの組織は「マクロマネジメント」で回っています。社員が自律して動けるから、細かい承認が不要なんです。目的とビジョンが共有されているので、上司も「最適解を探すために意見を聞く」という関わり方になる。そこが日本とは大きく違うところです。
2.「会議の目的」が生産性を左右する
日本では、会議が「承認の場」になっていて、判断が遅くなることも多いですよね。デンマークの会議運営は日本のものとは何が違うんでしょうか?
まず「目的に沿っているか」が徹底されています。それ以外の議題は「パーキングスペースに置く」ということ。これは面白い仕組みでして、「今回は扱わないが、価値あるポイントである」と示すことで、参加者の心理が落ち着き、本筋に集中できるんです。
確かに、日本だと脱線した議論を戻すのに労力を使う。目的を明確化して、外れた話題は切り分けるという姿勢は非常に参考になります。
あとは「根回し文化」がないので、コミュニケーションはすべて勤務時間内で完結します。だからこそ、4時に帰れるんです。会議に無駄がなく、不要な調整がない。構造として生産性が高いんですね。
3.雑談から対話へ~創造性の生まれる瞬間
針貝さんの著書の中でも「雑談がイノベーションを生む」とありましたが、日本では「雑談しよう」が苦手な企業も多いですよね。デンマークでは雑談はどのように機能しているのでしょうか?
「雑談しよう」と構えるわけではなく、「心地よい時間を共有する」感覚に近いんです。コーヒーマシンの周りが自然と人の集まる場所になり、そこが対話の入口になる。雑談は対話への「きっかけ」なんです。
日本だと「コミュニケーションを大事にする=飲み会」となりがちですが(笑)、デンマークの雑談はもっと短く、軽やかで、目的と結びついている感じがします。
そうなんです。書籍のタイトルの「3分の雑談」も、「短くていい」というメッセージです。長く話すことが目的ではなく、対話に向かうためのコンタクト。その短さが、むしろ創造性を引き出します。

4.目的意識とビジョン共有が組織を動かす
イノベーションについての話が印象的でした。デンマークでは目的意識の高さがあると伺いましたが、その背景には何があるのでしょう?
デンマークの人は「何のためにやるのか」が非常に明確です。イノベーション自体を目的にするのではなく、「社会や組織を良くするための手段」と捉えている。だから迷わないし、変化に強いんです。
仕事の意味を理解し、時間の使い方にも納得感がある。そうした文化が、無駄を生まず、本質的な業務に集中できる基盤になっているということですね。
5.失敗を恐れない文化が挑戦を支える
著書の中で印象的だったのが、失敗への向き合い方です。デンマークの人は失敗をどう捉えているのでしょう?
「失敗は成長のために必要なもの」ということで、失敗を失敗と捉えていないんです。「違うと気づいたら軌道修正すればいい」という考え方が当たり前。小さく試し、小さく改善する文化が根付いています。
その考え方は本当に強いですよね。挑戦し続けられるマインドを支えている。日本の組織が学ぶべき大きなポイントだと思います。
6.日本企業への示唆~部分ではなく全体を捉える~
今日の対談で改めて感じたのは、「要素同士が有機的につながっている」という点です。雑談、会議術、目的意識、失敗観…単独で真似しても意味がなく、全体像として理解する必要があるな、と。
おっしゃる通りです。行動や制度だけを模倣しても機能しません。「なぜそうなっているのか」という根っこを理解することで、初めて自社の文脈に応用できるようになる。今回の本では、その「根っこ」を書いたつもりです。
本日はありがとうございました。デンマークの高い生産性は、仕組みだけでなく、文化や価値観が支えている――その全体像を理解することが日本企業の変革の第一歩だと、改めて感じました。
おわりに
今回の針貝氏との対談から見えてきたのは、デンマークの生産性は「自律」「対話」「目的意識」「失敗許容」という思想が組織を貫いているからこそ成立しているという点だ。
- 自律した個が判断する
- 会議は目的を軸に短時間で進む
- 雑談が対話を生み、創造性を引き出す
- 目的意識が無駄を削ぎ落とす
- 失敗が挑戦を支える
これらの要素は単独で存在するのではなく、互いに連鎖し、生産性というアウトカムにつながっている。
そして日本企業にとって必要なのは、仕組みの模倣ではなく、文化と価値観を含めた「全体の構造」を理解すること。そのうえで、自社の文脈に合わせた変革を進めることが求められるのである。



