logo
Insight
経営研レポート

多様な主体と協力・連携して地域の健康づくりを推進するためのポイント

~日常生活の中で自然と健康になれる環境づくりに向けて 広島市プロジェクトTWFCの取り組みから~
2024.05.24
ライフ・バリュー・クリエイションユニット
マネージャー     加藤 篤博
シニアマネージャー  小林 洋子
heading-banner2-image

1. はじめに

我が国では急速な少子高齢化や生活習慣の変化に伴い、がん、虚血性心疾患、脳血管疾患、糖尿病などの生活習慣病が増加している。これにより、生活習慣病に関する医療費は国民医療費の約3割を占めるまでに至っている。住民の誰もが、より長く元気に暮らしていくための基盤として「健康」の重要性がより高まってきており、平時から個人の心身の健康を保つため、健康づくりの取り組みをさらに強化していくことが求められている。

現在、健康づくりに関するさまざまな政策が進められている。2024年度からは「21世紀における第三次国民健康づくり運動(健康日本21[第三次])」1 に基づき、都道府県・市町村で新たに健康増進計画が策定され、地方自治体が主体となって各種取り組みを推進している。また、同じく2024年度から「国民健康保険保健事業の実施計画(データヘルス計画)策定の手引き(令和5年5月18日改正)」2 に基づき、市町村で新たにデータヘルス計画が策定され、各種取り組みが始まっている。

本稿では、現在の健康づくり政策の課題を振り返り、その解決に向けたヒントとして広島市で始まっている取り組みを紹介・考察したい。

2. 健康づくり政策における課題

現在の健康づくり政策について、特に地方自治体が主体となって推進している健康増進計画に焦点を当て、その概観を確認する。

健康増進計画は、国の「健康日本21(第三次)」に準じて地方自治体が策定している。本計画は「全ての国民が健やかで心豊かに生活できる持続可能な社会の実現」をビジョンとして掲げ、さまざまな目標が設定されている。基本的な方針として「① 健康寿命の延伸・健康格差の縮小」、「② 個人の行動と健康状態の改善」、「③ 社会環境の質の向上」、「④ ライフコースアプローチを踏まえた健康づくり」の4点が掲げられ、それぞれの方針に紐づく形で目標が設定されている(図表1)。

【図表1】健康日本21(第三次)の概念図

content-image

※参考を基にNTTデータ経営研究所が作成

【参考】

 ・厚生労働省「健康日本21(第三次)推進のための説明資料」の第3章 図表2

健康増進計画は幅広く健康に関する目標が設定されているが、地方自治体での推進にはいくつかの課題がある。前身の「健康日本21(第二次)」の最終評価 3 では以下の点が挙げられている。

  • 自治体において、住民に対して、効果的に介入する体制。自治体内の各部門の連携を進める方策
  • 自治体と大学や企業、保険者、民間団体などとが協力・連携を深めるための方策

これらの課題は「健康日本21(第三次)」においても「多様な主体による連携及び協力」として重点的に記載されている。具体的には「保健、医療、福祉の関係機関及び関係団体並びに大学等の研究機関、企業、教育機関、NPO、NGO、住民組織等の関係者が連携し、効果的な取組を行うこと」が求められている。

これらの内容は「行政からの発信に注意深く耳を傾け、反応してくれる住民は限られている」ということを認識し、多様な主体と協働して新しい取り組みを創出していくことを意味している。例えば、2008年度の制度開始から全国の市町村がさまざまな工夫を凝らして取り組みを重ねながらも、市町村国保の特定健診の受診率は40%を下回り、約3人に2人が未受診 4 の現状である。さらにがん検診、特定保健指導、医療機関受診を含めた対象者の行動変容も限定的であると言わざるを得ない。行政からの直接の働きかけは引き続き重要な取り組みであるが、それだけでは限界がある。そのため、行政以外の多様な主体と協働し、住民の日常生活の中で自然と働きかけが行われる環境づくり(日常の生活動線の中で適切な働きかけが行われるよう、住民接点を有する多様な主体と協働していくこと)にも創意工夫の目を向けていくことが、これからの健康づくり政策においては重要であると考えられる(図表2)。

【図表2】健康づくり政策における課題

content-image

出典 ※1:厚生労働省「2021年度 特定健康診査・特定保健指導の実施状況」

   ※2:国立がん研究センター「がん統計」がん検診受診率(国民生活基礎調査による推計値)

   ※3:厚生労働省「第4回 健康増進に係る科学的な知見を踏まえた技術的事項に関するワーキング・グループ」資料3

   ※4:国立がん研究センター「がん統計」がん検診の都道府県別プロセス指標

3. 広島市における多様な主体との協働事例

多様な主体との協働で進められている健康づくりの事例として、広島市の「Together We Fight CANCER & CVD プロジェクト(以下、「TWFC」)5」の取り組みを紹介する。

広島市では、広島市健康づくり計画「元気じゃけんひろしま21(第3次)」や「広島市国民健康保険データヘルス計画」などに基づき、がんや循環器疾患などの発症予防および重症化予防の取り組みを行っている。また健康づくりの取り組みを進めるにあたり、多様な主体と包括連携に関する協定を締結しており、TWFCはその一つである。

TWFCは、“Together We Fight Cancer & CVD(Cardiovascular Disease)”「ともに、がんと循環器疾患に立ち向かおう!」の略である。このプロジェクトでは自治体・学校・企業など(広島県、広島市、広島国際大学、株式会社もみじ銀行、マイライフ株式会社、ノバルティス ファーマ株式会社、DeSCヘルスケア株式会社、当社)が協働し、地域共創で予防啓発の取り組みを進めている。中でも特徴的な取り組み事例として、以下の2点がある。

(1)TWFC血圧測定チャレンジの実施(生活動線の中での要フォロー者の発見・伴走支援)

マイライフ株式会社が運営しているオールカフェ×タニタカフェ(たっぷりの野菜メニューを中心に味にもこだわり、美味しさと健康をほどよくミックスしたメニューを提供している)では、食事をすると同じフロア内のオールラボで血管機能検査や骨健康度などの好きな2機種を使って無料健康測定ができる仕組みがある。マイライフ株式会社所属の管理栄養士が常駐しており、健康的な食事をした後に気軽に健康チェックと食事相談などを受けられるようになっている。

2023年度には、循環器疾患の予防啓発として「TWFC血圧測定チャレンジ」と称した血圧測定キャンペーンを11月下旬から12月下旬にかけて、YMFGオールヘルスケアタウン(広島市南区青崎、以下「YMFG」)にて実施した。スタンプカードを配布し条件を満たした方にはプチギフトを提供するなどの工夫を凝らし、来客者には血圧測定の声掛けを積極的に行った。その結果、キャンペーン期間中の来客者の38.4%(167人)が血圧を測定し、測定者の39.5%(66人)がスクリーニング基準値 6 を、21.9%(30人)が特定健診の保健指導判定値(130/85㎜Hg)を超える結果であったことが明らかになった。

キャンペーンを通じて多くの潜在的ハイリスク者を発見できたほか、以下のような受診のきっかけや生活習慣の改善を意識するきっかけとなったことが伺える。

  • 「以前から健診の時は血圧が高く、そのままにしていたけどやっぱり病院行ってみようと思う」(50代女性)
  • 「このポイントカードがあるから血圧を測ろうと思う」(50代夫婦、3回来店)
  • 「父親の血圧が高く、服薬中で測定時にも高めの結果。娘の反応を見て『夜のラーメンは止めます』と発言」(20代女性、50代女性、50代男性の家族)
  • 「病院に行きたくない、知りたくないと測定を忌避されていたが、お話をしながら減塩レシピを渡したところ『チャレンジしてみる』と発言」(60歳女性)

血圧測定に応じた対応フローについては、広島市南保健センター(以下、「南保健センター」)と連携して作成しており、今後もポピュレーションアプローチの観点から市の事業との連動制を持たせていく予定である。また現在広島市内では南区の1店舗でのみ測定を行っているが、日常生活の中で習慣的に血圧測定を行ってもらえるよう、測定を行える拠点を地域内に広げていくことも検討していく想定である。2024年度はマツダスタジアムなどで複数回キャンペーンを実施する予定である。株式会社もみじ銀行などの共創パートナーと協力して、住民(各社従業員を含む)に対する周知活動を行うことで、地域共創で自然と健康になれる環境づくりが広がっていくことが期待される。

なお、オールカフェ×タニタカフェには、がんについて気軽に学べるタッチパネル式の電子端末である「みんなのがん学校」も設置されている。来客者は循環器疾患だけでなく、がんについてもクイズを通して学ぶことができる環境となっている。7

【図表3】オールカフェ×タニタカフェの様子

content-image

写真提供:マイライフ株式会社

(2)共催イベントや学生向けワークショップの開催(各主体の力を借りて接点を有していない住民へのアプローチ)

2024年2月、YMFGにあるオールカフェ×タニタカフェにて広島市南保健センター、株式会社もみじ銀行、マイライフ株式会社が共催で住民向けに健康イベントを開催した。それぞれの共催者の専門性をコラボレーションする形で乳幼児の健康相談と足型アートを実施したところ、親子連れが多く集まり、普段は中高年層が主な来客層であるカフェで新たな住民との接点が生まれる機会になった。今後、通常は保健センターや公民館などで行っている健康相談会をこのような日常の生活動線にある場で実施することで、住民が気軽に健康相談できる環境づくりの一助とすることも検討している。

また広島国際大学の学生を対象に、ノバルティス ファーマ株式会社および当社が行動デザインワークショップを開催している。行動デザインの考え方をもとに、TWFCが目指す健康行動を促すナッジなどの介入アイデアを参加学生と一緒に検討することを通して、自分自身や身近な家族などの健康について考え、関心をもってもらう機会となっている。

【図表4】共催セミナーの開催案内

content-image

【図表5】学生向けワークショップの開催案内

content-image

これらの取り組みは「生活動線の中での要フォロー者の発見・伴走支援」、「各主体の力を借りて接点を有していない住民へのアプローチ」の機会として行政単独では十分に働きかけが届いていない住民をフォローするために、健康づくり政策の中で活用できる可能性があると考えている(図表6)。今後、さらなる展開を進め、改めて成果を報告したい。

【図表6】健康づくり政策での活用(イメージ)

content-image

※NTTデータ経営研究所が作成

なお広島市において協働が順調に動き始めている要因としては、以下の3点が大きいと考えている。

① プロジェクトのコンセプト(目指すゴール)が明確であること

② 協働の基盤となるツール類が整備されていること

③ 各主体が無理のない範囲で協力・連携できていること

TWFCには「ともに、がんと循環器疾患に立ち向かおう!」という明確なコンセプトがある。そのコンセプトを周知するためのツールとして、専用WEBサイトやPR動画 8 を作成・公開している。PR動画は1分ほどの長さであり、店頭ディスプレイで放映するなど、共創パートナーそれぞれが無理のない範囲でプロジェクトの周知に協力できる基盤が整備されている。これらのポイントはコレクティブインパクト 9 の考え方と共通するものであり、他の地域で協働の取り組みを立ち上げる際にも参考にできるものだと考えられる。

8  プロジェクトTWFC PR動画(15秒)

9 「異なるセクターにおける様々な主体(行政、企業、非営利団体、財団等)が、共通のゴールを掲げ、互いの強みを出し合いながら社会課題の解決を目指すアプローチ」により社会課題の解決を試みる考え方

4. 最後に

健康増進という考え方は、1946年に世界保健機関(以下、「WHO」)によって健康の定義が提唱されたことから出発しているとされている 10。WHOは「健康とは単に病気でない、虚弱でないというのみならず、身体的、精神的そして社会的に完全に良好な状態を指す」と定義している。「病気ではないなら大丈夫(健康である)」という考えから「病気ではないけれど不健康な状態にあるかもしれない」へと健康の捉え方が変わったことは、その後の健康増進や疾病予防の取り組みの普及において重要な一歩であったと考えられる。

健康づくりの分野では、取り組みの推進に向けて学校・企業などと連携する際に「協力してもらう」、「手伝ってもらう」といった意識が、どうしても行政側に残っていることが多いように感じる。今後、健康づくりの取り組みで多様な主体との協働が当たり前になるためには、健康の捉え方が変わったように「協力・連携」の捉え方を変えていくことが重要になるのではないだろうか。各主体が共通のゴールに向かって無理のない形で主体的に協働し取り組みを増やしていくことが、これからの健康づくり政策において重要なマイルストーンになると考えられる。

お問い合わせ先

ライフ・バリュー・クリエイションユニット

マネージャー     加藤 篤博

シニアマネージャー  小林 洋子

内容に関するお問い合わせは こちら

TOPInsight経営研レポート多様な主体と協力・連携して地域の健康づくりを推進するためのポイント