はじめに
良くも悪しくも話題に事欠かないふるさと納税であるが、今秋より総務省による適正化策が打たれることとなった。その目的の一つは自治体による過度な外部委託料およびポータルサイト手数料の見直しを促すことにある。
本レポートでは、自治体の現場において確認される問題点を紐解きながら、自治体がとるべき具体的な改善ポイントについて解説する。なお、筆者らが所属する地域公共政策チームでは、複数の自治体のふるさと納税の適正化支援を実施しており、本稿ではこうした支援活動から得られた問題意識を念頭に、今後のふるさと納税の規制や手続き自体のあるべき姿も提言することとしたい。
1万円の寄附に対し
自治体の手元に残るのは4000円程度
本来は自治体への善意の寄贈のはずが、様々な事務コストが自治体の手元に残る寄附金を圧縮している。そもそも、総務省の規制により返礼品の割合は寄附額の3割までとされてきた。
自治体では、これにポータルサイトの利用にかかる手数料、寄付者対応等の中間管理業務にかかる外部委託会社への委託料、さらには返礼品の送料が加算され、その結果、少ない自治体で5割、多くの自治体で5割程度がキャッシュアウトしているのが実態だ。
そこで総務省は「寄附額に占める経費の割合を5割以内に収めること」を新たに自治体に要請し、急遽本年10月からの施行を決定するに至った。
ただし、この5割ルールを厳格に運用すると、結果的に地域間格差を生みだしてしまうことが懸念される。その理由は、地域によって返礼品の送料負担が異なり、需要の高い都市部への送料負担は北海道や九州など、都市部との距離が遠くなる地域ほど負担が増大することが考慮されていないためだ。
これが、昨年までの寄附受入額で上位を占めた北海道の自治体が総務省の5割ルールを超過していたと指摘された理由の一つとなっている。手数料率5割の中に組み込まれている送料について、この一律の基準はあまりにもいびつである。
地方の自治体ほど負荷が伴うことを勘案し、本来は経費率5割に含まれる経費対象から送料は除いたうえで自治体間の公平を期すべきだろう。
ポータルサイトの手数料だけで10%の税金寄附金が
キャッシュアウト
ふるさとチョイス、さとふる、楽天ふるさと納税、ANAふるさと納税…と巷間様々なポータルサイトが自治体と寄附者との間を繋ぐチャネルとなっている。
そもそもふるさとチョイスのみから開始された本制度に、これほどまでに多くのポータルサイト事業者が参入してきた理由は明確だ。自治体が自社のポータルサイトに登録するだけで寄附金の10%程度の手数料収益が容易に確保可能であるからだ。
本来、寄附金は直接、対象自治体へ現金を持参するか納付書を用いて支払う、もしくは指定口座への振り込みなどで対象自治体の元に届けることが望ましい。
対象自治体に直接寄附金が渡れば、この間の手数料は振込手数料などの一部にとどめ置かれる。ところが、利便性が重視された結果、寄附者の多くがポータルサイトをチャネルとして活用し、決済手段としてクレジットカードを使用するケースが大部分を占めているのが実態だ。
結果として自治体は、ポータルサイト利用にかかる手数料のほか、クレジットカード利用による決済手数料も間接的に負担することとなった。
自治体によって異なるポータルサイトの手数料率
筆者らのチームは、複数の自治体のふるさと納税の適正化支援を実施している。そこで得られた情報から判断すると、少なくとも寄附受入額が多額にのぼる一部の自治体では、ポータルサイトの手数料は3%から5%程度が相場となっている。
ところが、他の多くの自治体には10%程度の手数料がポータルサイト側からデフォルトとして提示されているのが実態だ。また、ポータルサイトでは取引額の多い一部自治体に対して手数料の引き上げ交渉を実施しているが、自治体からは「ならば、他のポータルサイトに乗り換える」として拒絶され、仕方なく3%の手数料を受け入れる、という例も確認されている。
このように、寄附受入額の多寡により自治体とポータルサイト側との力関係が決まるため、結果としてポータルサイトの手数料が設定されているのが実態であり、決して公平な仕組みが提供されているとは言い難い。もちろん、民間事業者における競争環境の中の商行為ではあるものの、取り扱い対象はあくまでも地域の振興や発展を支援する善意の寄附であり、税金であることを忘れてはならない。つまり、こうした手数料水準は同一水準、しかも低位に収斂して然るべきとは考える。
「期待通りに対応してくれない」中間管理委託事業者
自治体が新たな返礼品を開拓し、返礼品としてポータルサイトへ掲載するためには、種々の作業が伴う。ポータルサイトへ掲載する商品名やキャッチコピー、返礼品提供者の思いやこだわりを綴った商品紹介文、そして何より視覚に訴求できる写真の撮影・加工、ポータルサイトへのアップロードなど、多くの工程を職員自らが実施する必要がある。
こうした作業は自治体職員にとって大きな負担となっている事実は否めない。また、実際に寄附を受入れた後には、返礼品の発送や寄附金受領証明書の送付事務が生じるのだが、これらは当然に自治体自らが行うべき基本的な業務でもある。
ところが、こういった業務の多くが自治体から外部事業者に委託され実施されているのが実態である。地元事業者であるならばともかく、こうした業務の多くが都市部の大手事業者によって請け負われる例が多く、結果としてさらに多額の委託料がチャージされているのだ。また、こうした業務委託相場はおおよそ寄附金の8%~10%とされている。
これら一連の対応を民間事業者が自治体から業務を請け負うビジネスが「ふるさと納税にかかる中間管理委託業務」である。煩雑かつ高頻度となりがちな関連業務を外部事業者が対応することで自治体職員の負荷軽減と業務の効率化・円滑化を期待した枠組みでもある。
しかしながら筆者らが目にした現場の実態は大きく異なる。自治体側が新たな返礼品のポータルサイトへの登録を中間管理委託業務事業者に依頼すると、「2週間後の掲載となる」といった反応が返ってくる。
フルーツを始めとした季節商材的な返礼品など、陳腐化が甚だしい返礼品を取り扱う場合、2週間のリードタイムは致命的な問題ともなりかねない。筆者らが支援した某自治体では、職員自らが中間管理委託業務事業者などを介さずにこうした業務を担っていたのだが、
「自治体職員が返礼品の写真を撮影し、掲載文も自治体自らが作成」した場合であっても、5営業日以内でポータルサイトへの掲載対応が完了していた。
当該業務を多くの自治体から受託している中間管理委託業務事業者は、スキルもリソースも十分に有しているものと想像するも、何故かように長期の対応期間を要求するのであろうか。これは推測だが、こうした中間管理委託業務事業者自身が自治体からの当該委託業務を外部の第三者に再委託している可能性が否定出来ない。
ブランド和牛の写真に
別のブランド和牛の写真が使われる
さらに根深い問題がある。返礼品のうち、外見的にオリジナル性が訴求できない生鮮品を中心とした返礼品については、当該中間管理委託業務事業者が保有している宣材写真が転用されていることだ。
牛肉や豚肉などの場合、産地によって実際の肉質などの差を見出すのが難しい点を突き、そもそも「ウチの町の牛肉ではない他のブランド和牛の写真」が知らず知らずのうちに転載されてしまっていることを確認している。
つまり、少なくとも一部の取り扱い返礼品について、中間管理委託業務事業者は「本物の返礼品の写真撮影すら実施していない」ことになるわけだ。筆者らが支援する自治体の多くでは、実際に店舗や提供元事業者の協力を得て返礼品として提供する予定の牛肉などを皿に並べ、スタジオセットで実際に調理しながら撮影するのだが、こうした対応には相応のコストと時間を要することは言うまでもない。
事業者はこうした対応を回避したいのだろう。野菜など地域ならではの土壌や気候で、かつ生産者がこだわりをもって栽培したものを返礼品として扱おうとしても「同じ野菜なら外観に大差はない」との判断から、実際にポータルサイトへ掲載されている写真は「全く縁もゆかりもない他の町で生産されたトマトの写真」であったりするのだ。
PR・宣伝業務として委託しても、
月に1回のメルマガ発行にとどまる
自治体は中間管理委託業務事業者に「PR・広告」業務として寄附金の0.2%程度の費用を支出している。ところが、これは月に一度メルマガを寄付者向けに発行するのみで対応が完了してしまうケースがある。しかも、そのコンテンツは見ると、返礼品を列挙し、ポータルサイトへのURLを添付するだけの対応にとどまる例も少なくない。
同様に、多くの自治体が、こうした事業者に「寄付金の管理システム提供」として寄附金の1.0%程度の手数料を支払っている。ところが、寄付者の属性に応じたクロス集計・分析に対応出来ていないなど、エクセル程度の管理機能しか有していないものも存在する。
筆者らが支援した某自治体では、独自に地元業者に簡便的な管理システムの開発を委託することで、初年度のみ150万円の開発費を支出したものの、翌年度以降は年間保守費10万円で利用することに成功している。
このシステムからCSVでデータを吐き出し、アプリを用いて複合機が読み取れるフォーマットに変換し、複合機にデータを送り込めば、寄付者へお礼状や寄附金受領証明書などの印刷・封入・封緘作業が一気に完了する。
したがって、独自の管理システムの開発を地元業者に委託し、これに乗り換えることで大胆な経費削減効果の発現が期待出来る。
コールセンター業務を実施するはずが
「クレーム管理すらしない」事業者
自治体では中間管理委託業務事業者に寄付者からの問い合わせ対応をコールセンター業務として委託する例がほとんどだ。
ただし、最近になって筆者らが支援を開始した自治体では、寄付者からの問い合わせ件数や実際の問い合わせ内容、クレーム件数などの報告を求めても、「お答えできない」と回答自体を留保されてしまう。つまり、最低限必要な自治体への有意情報の還元、報告すら実施出来ていないのだ。
今夏、こうした中間管理委託業務事業者は、自治体に対し、委託された個々の業務を細分化したうえで、「PR・宣伝費用は募集外経費」「企画・提案業務は募集内経費」といった独自の判断を示すことで、自らの委託業務が原因となって総務省の経費率5割ルールを逸脱せぬよう、自治体に働きかけてきた。
筆者らが確認した自治体のケースでは、「募集外」となる経費は寄附金の1.5%にとどめる一方、「募集外」となる総務省の規制外となる費用に同6.5%と表示するなど、自らに都合の良い数値を並べ立てていた。
このように、中間管理委託業務事業者が自治体との間で実施している業務は、単に「自治体に営業をかけ」「自治体と契約を締結」し、「自治体に定期的に手数料を請求する」行為にとどまるように見えてならない。
自治体は中間管理委託業務事業者に任せていた業務を
地域でカバーすべし
前述のとおり、ふるさと納税に係る自治体業務の外部委託先事業者(もちろん全てではないが)は、自治体の本来の期待効用に沿った動きが出来ていないことが明白だ。何より問題視すべきは、本来地域支援のための仕組みでありながら、実際は域内での寄附金の滞留やその先に期待されるはずの資金循環を生み出せていない点だ。
こうした現状に一石を投じるうえで必要な所作の一つとして、自治体側で一部業務を内製化することだ。自治体側で内製化する業務の例としては、ワンストップ特例申請書や寄附証明、お礼状などの発送業務が手っ取り早い。そもそも、当該業務は自治体職員で対応すべき業務の最たるものである。
ふるさと納税黎明期にあっては、多くの自治体で寄付件数が少なかったこともあり、各帳票をプリンターで印刷し、丁合、折り、封入、封緘の一連の工程を手作業で対応していた。
ところが、新たな返礼品の開拓やPR戦略により寄附件数が大きな伸びを見せはじめると、担当課職員による手作業では当該対応が困難な状況に陥ってしまう。こうした場面で有効な打ち手となるのが「自動封函機(メーリングフィニッシャー)」である。
自動封函機は、職員が手作業で行っていた一連の作業をすべて自動で行うことが可能だ。とあるメーカーの機器を例示すると、2000通の文書の印刷~封緘までを手作業で行った場合には一般的に19.4時間を要するところ、当該機器ではわずか53分で作業完了が可能である。
人件費換算では手作業に伴う2000通の対応人件費約44,000円に対し、機器オペレーションに費やす人件費は約2000円まで低下するとの試算も示されている(当該機器メーカーによる公表数値)。
もちろん、当該機器の導入にはリース料などの経費負担は伴うものの、職員の本来業務に稼働を振り向けることが可能となることに加え、ふるさと納税以外の住民向け書類(例えば臨時福祉給付金などの案内文書発送)における封入・封緘作業にも転用が可能であるなど、事務効率改善に資する効果が期待出来る。
次に、内製化から漏れだす「残渣となる業務」については、限定的に切り出し、「地元の事業者」に委託することが有効な選択肢になろう。委託先となる地元の事業者は、観光協会でも良いだろうし、地域で立ち上げたNPO法人も十分に受け皿となり得る。
都市部に所在する大手の中間管理委託業務事業者に発注しても資金は域外にキャッシュアウトするのみだが、こうした業務の自治体での内製化と地域に用意した受け皿への委託への切り替えで、資金は域内にとどまり、新たな再投資の原資ともなるのだ。
政府、自治体は共同で
「クラウドベースの共通ポータルサイト」の実現を
寄附金が過度に域外の外部事業者に流出する現状を打破するためには、民間ポータルサイトに依存していた「チャネル」自体を抜本的に見直すことも欠かせない。そのためには、政府や自治体が共通基盤を構築することが有効な一手となろう。
現下、2025年度を目途に国と自治体を繋ぐネットワークの整備と、自治体の情報システムの共通化・標準化作業が進展している。こうした基盤整備の一環として、政府がふるさと納税のポータルサイトと寄附金管理の共通システムを構築して共通基盤上で稼働させれば、各自治体が低廉且つ公平に利用可能な環境が整備されるだけでなく、寄附金にかかる手数料や自治体の管理コストの大胆な縮減が視野に入る。
自治体の現下の実情が精査され、早急に共通基盤を構築することで、種々の問題を孕むふるさと納税制度の一層の適正化が推し進められることを切に期待したい。