デジタルガバナンス・コードに基づく事業者認定と優良企業選定
~企業が認定制度を取得するにあたって~

情報戦略事業本部
デジタルイノベーションコンサルティングユニット
コンサルタント 渡辺 郁弥

はじめに

デジタル技術の急速な発展が、グローバルな規模で経済・社会構造に影響を及ぼすようになってきている中、企業においてデータやデジタル技術を活用し、新たなビジネス・サービスを創出する基盤となるITシステム・デジタルのガバナンスが重要となっている。

2020年5月15日に経済産業省より、「情報処理の促進に関する法律の一部を改正する法律」の施行が発表※1された。当社は、これまでデジタルガバナンスに関する調査・研究やデジタルガバナンス・コードと認定制度策定に向けた支援等を実施してきた。

これらの背景や取組等を踏まえ、本稿では、デジタルガバナンス・コードにも触れつつ、国内企業がデジタルガバナンス・コードに沿った行動に踏み出し、投資家等のステークホルダーとの対話を通じて、デジタル技術による社会変化へ対応していく準備度合いを認定する制度に焦点を当て、各企業が認定制度を取得する上でのポイントや意義について概説する。

1 デジタルガバナンス・コードについて

今般、第200回臨時国会において、情報処理促進法一部改正法案※2が成立したことを踏まえ、経済産業省では2020年1月より「Society5.0時代のデジタル・ガバナンス検討会」※ を立ち上げた。その取組の一つとして、企業が経営を行う上でデジタル技術による社会変化への対応を捉え、投資家等のステークホルダーとの対話を通じて行動していくにあたっての指針(デジタルガバナンス・コード)の策定を行っている。(図1)

図 1 デジタルガバナンス・コードの全体構造
図 1 デジタルガバナンス・コードの全体構造

出所:経済産業省, Society5.0時代におけるデジタル・ガバナンス検討会 中間とりまとめ

デジタルガバナンス・コードは以下の4つの「項目」からなり、各項目は「基本的事項」「望ましい方向性」「取組例」が設けられている。

  1. 経営ビジョン・ビジネスモデル
  2. 戦略
    1. 組織づくり・人材に関する方策
    2. ITシステム・デジタル技術活用環境の整備に関する方策
  3. 成果と重要な成果指標
  4. ガバナンスシステム

「基本的事項」の中には、各項目を説明する「柱となる考え方」とそれらの内容に沿った企業取組を評価するための「認定基準」があり、基本的事項の内容が事業者認定を取得する上でのポイントとなる。

「望ましい方向性」は、企業と投資家等のステークホルダー間の対話をさらに促進する観点から、事業者認定を取得した企業の中から指針に沿ってより実効的な対話を行っている企業を選定する制度(優良企業選定)に向けた評価観点を示すことが想定され、「取組例」とともに、さらなる検討が行われている。

2 事業者認定について

(1)概要

事業者認定とは、企業経営を行うに際して、デジタルガバナンス・コードに沿った行動に踏み出し、投資家等のステークホルダーとの対話を通じて、デジタル技術による社会変化へ対応していく準備が整った企業を経済産業大臣が認定して奨励する制度である。この制度により、経営者・ステークホルダー間の対話を促進するための組織・体制づくり、発信媒体・ツール等の整備や、デジタル技術の発展を踏まえた企業ガバナンスの創出等、企業におけるデジタル変革推進の一助となることを目的としている。

経済産業省が「認定制度」と呼称しているものは、必要な要件を満たしていることを審査し、国が認定する「事業者認定」を指しており、「優良企業選定」とは異なる体系となっている。(図2)

図 2 事業者認定と優良企業選定の体系イメージ
図 2 事業者認定と優良企業選定の体系イメージ

出所:経済産業省, 第1回Society5.0時代のデジタル・ガバナンス検討会事務局説明補足資料を基にNTTデータ経営研究所で作成

事業者認定は、国がデジタル技術に対する企業取組の優劣を評価するものではなく、投資家等のステークホルダーとの対話に積極的な企業を見える化することを通じ、企業間競争やステークホルダーからのエンゲージメントを促進するとともに、事業者認定を各企業に広く訴求することを目指している。そのため、まずは努力する企業は認定を受けることができる程度の認定水準とし、企業のデジタルへの対応の実態も踏まえながら、水準の見直し・向上を断続的に図ることを視野に入れている。

(2)企業が認定制度を取得する上でのポイント

各企業が事業者認定を取得するには、デジタルガバナンス・コードに沿って、投資家等のステークホルダーとの対話やデジタル変革の準備が整っていることが求められている。

デジタルガバナンス・コードの項目ごとに必要とされている認定ポイントについて、以下にまとめてみる。

1.経営ビジョン・ビジネスモデル

  • デジタル技術を含めた社会的課題、ビジネス環境の変化に対する危機感・意識を経営者自身が持っているか。
  • 経営者がデジタル変革をリスク・機会の両面で捉え、経営トップの意思として組織内に伝達し、リーダーシップを発揮しているか。
  • デジタル変革の影響を把握するためのリスク・機会の分析・評価を行い、それらを基に経営ビジョン・ビジネスモデルを描いているか。

2.戦略

  • 経営ビジョン・ビジネスモデルを戦略に落とし込むために、経営者と従業員等の関係者が連携を図りながら一丸となって取り組む体制・仕組みが整備されているか。
  • IT・デジタル技術の活用や施策ありきではなく、顧客視点で企業価値向上を図るための戦略を策定しているか。

2.1.組織づくり・人材に関する方策

  • 上記の戦略を推進する上で必要となるデジタル人材について、組織内での育成、あるいは必要な場合には外部組織との協業により、人材の調達・確保に力を入れているか。
  • デジタルの取組を行う際、各部門と連携した組織横断的に取り組んでいるか。必要な場合には外部を含めた関係者がコミュニケーションを図りながら推進しているか。

2.2.ITシステム・デジタル技術活用環境の整備に関する方策

  • 経営者がITシステム・デジタルに関する危機意識を持ち、それら技術の活用環境構築に対して積極的に取り組んでいるか。
  • オープンイノベーションの取組等、必要に応じて外部組織と協業を図りながらITシステム・デジタル技術活用環境の構築に取り組んでいるか。

3.成果と重要な成果指標

  • 投資家等のステークホルダーから企業活動や企業価値を評価してもらうにあたり、デジタル戦略の達成度を測る指標があるか。

4.ガバナンスシステム

  • 統合報告書等の公開文書や企業・団体等のセミナー等の場において、経営者が自らの言葉で経営ビジョンやデジタル戦略を語っているか。
  • デジタル技術に係る動向や自社のITシステムの現状を踏まえた課題の把握について、経営者の指揮の下、経済産業省が公表している「DX推進指標とそのガイダンス」や外部団体が策定する指標等を用いて自己診断しているか。
  • デジタル変革を含めたリスクと機会を捉えた上で、攻めの経営のみならず、守りの経営としてCISO(Chief Information Security Officer)やCSIRT(Computer Security Incident Response Team)等の専門組織の設立や外部組織と連携してサイバーセキュリティ対策を推進しているか。

事業者認定の取得に重要となるポイントは、企業取組における中身の良し悪しではなく、投資家等のステークホルダーとの対話やデジタル変革を行う「準備ができているか」「取り組む努力をしているか」ということである。加えて、それらの事実を「客観的に判断できる形で示せるか」がポイントとなる。具体的には、統合報告書等の公開文書に企業の取組内容を盛り込んでいくこと、または、企業・団体等のセミナーや決算説明会等の様々な場を通じて、投資家等のステークホルダーに対して取組内容を情報発信していくことが事業者認定の要件となろう。

3 優良企業選定について

(1)概要

経済産業省等において、現在検討中の制度である「優良企業選定」についても触れておく。

優良企業選定とは、事業者認定を取得した企業の中から、デジタルガバナンス・コードに沿ってより優れた実効的な対話を行っている企業を選定する制度であり、企業と投資家等のステークホルダー間の対話をさらに促進することを狙いとしている。事業者認定は、国が企業を認定して奨励する制度であるが、優良企業選定は、有識者審査委員会を開催し、中立的な第三者が選定を行う想定となっている。なお、優良企業選定を取得する際は、まず事業者認定を取得することが求められているため、留意が必要である。(事業者認定制度と優良企業選定は並行して申請が可能)

(2)今後の想定事項

現在、運営されている類似の制度として、経済産業省と東京証券取引所が共同で戦略的なIT活用に取り組む企業を選定し、公表している「攻めのIT経営銘柄」(現:DX銘柄)※4がある。今後は、上記制度の評価項目や運用方法と連携または統合し、企業を審査することも想定される。(図3)

図 3 認定制度及び優良企業選定とDX銘柄選定の関係イメージ
図 3 認定制度及び優良企業選定とDX銘柄選定の関係イメージ

出所:経済産業省, DXを巡る状況とデジタルトランスフォーメーション銘柄(DX銘柄)の狙い

優良企業選定の評価基準は検討中であるものの、事業者認定より優れた実効的な対話を行っている企業が求められている。事業者認定は、企業取組の優劣を評価する制度ではないが、優良企業選定は、「攻めのIT経営銘柄」(現:DX銘柄)と同様に企業取組の優劣(中身)を評価する制度である。

また、「攻めのIT経営銘柄」(現:DX銘柄)では、「DXグランプリ」を1社、「IT経営/DX注目企業」を複数社選定・公表しているが、優良企業選定においても、「DX-Excellent企業」「DX注目企業」として同様の階層となることが想定されるため、取得を目指す場合は「攻めのIT経営銘柄」(現:DX銘柄)にノミネートされている企業の取組内容や公表資料等を参考にしつつ、早い段階から準備しておくことが望ましい。

4 企業にとっての意義

最後に、企業にとってのデジタルガバナンス・コード及び認定制度の有用性や意義について述べる。

企業にとってのデジタルガバナンス・コードの有用性とは、コーポレートガバナンス・コードと同様に、データやデジタル技術等の活用において、企業統治を行う上でのガイドラインとして参照すべき指針を経営者が理解することで、DXを体系立て、経営の仕組みの一部として推進することができる。また、社内で中々進まないデジタル変革の動きを後押しし、個別部門の話ではなく全社的な取組として加速化することも可能となる。これらの行動に移すことによって、持続的な企業価値の向上を図ることが期待される。

企業が認定制度を取得する意義については、上記指針(デジタルガバナンス・コード)に沿った行動により国から認定を受けることで、投資家等のステークホルダーに対してアピールするとともに、オープンイノベーションの推進や有望なデジタル人材の採用・獲得に繋がることが考えられる。

おわりに

政府がサイバー空間とフィジカル空間を高度に融合し、リアルタイムに情報やデータが活用・共有されるデジタル社会(Society5.0)の実現を目指している今般、デジタルガバナンス・コードと認定制度の認知度や重要性は高まってきていると言える。

これら世の中の潮流を捉え、デジタルガバナンス・コードを経営者が理解するとともに、認定制度取得に向けて是非とも検討していただきたいと考える。

当社並びに筆者は、デジタルガバナンス・コードや認定制度策定に向けて、継続して政府の支援等を実施してきた。これまでに培った知見等を活かし、今後はデジタルガバナンス・コードを分かりやすく世の中に伝え、企業が認定制度を取得するための支援等に従事したいと考えている。

Appendix

本稿を補完する参考文献として、筆者がこれまでに執筆した記事もご覧いただきたい。

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