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Insight
経営研レポート

デジタルガバナンス・コードと外部の客観的な評価制度

~企業の格付において国内企業に求められること~
2019.11.15
情報戦略事業本部
デジタルイノベーションコンサルティングユニット
コンサルタント 渡辺 郁弥
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はじめに

2019年9月17日に経済産業省より、デジタルガバナンスに関する有識者検討会とりまとめ資料として『デジタルガバナンス・コードの策定に向けた検討』が公表※1された。当社は、経済産業省とともに「デジタルガバナンスに関する有識者検討会」の事務局を受託し、その中で支援・とりまとめ等を実施してきた。

本稿では、デジタルガバナンス・コード及び外部の客観的な評価制度に関するポイントを押さえるとともに、情報処理の促進に関する法律の一部改正に向けた政府の動きを捉えつつ、国内企業に求められることについて概説する。

なお、本稿を補完する記事として筆者が執筆した『情報未来』:No.60(2019年1月号)「DXレポートから見た国内企業におけるDX推進の道筋」及び『経営研レポート』:「DXレポートのその後 ~DX推進指標活用による自己診断と今後求められる観点~」も合わせてご一読いただきたい。

1.デジタルガバナンス・コードと外部の客観的な評価制度について

(1)デジタルガバナンス・コード

我が国産業界におけるレガシーシステムや技術的負債に起因する「2025 年の崖」の克服に向けて、経済産業省は『DXレポート ~ITシステム「2025年の崖」克服とDXの本格的な展開~※2』(2018年9月公表)や『「DX 推進指標」とそのガイダンス※3』(2019年7月公表)等を策定し、DXの推進を図ってきた。その下で、特に顧客や投資家等による外部の客観的な評価の実現に向けて「デジタルガバナンスに関する有識者検討会」を2019年5月から立ち上げた※4

国内企業が目指すべきデジタルガバナンスのあるべき姿を示しつつ、それに向けた達成状況を可視化して各企業のDXの推進状況を客観的に評価できるよう、議論を進めてきた。

今般、これまでの検討における議論の結果を踏まえ、国内企業のDXの取組における行動原則となるデジタルガバナンス・コードの考え方等を整理した。(図1)

図 1 デジタルガバナンス・コードの構造

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出所:経済産業省,デジタルガバナンス・コードの策定に向けた検討

デジタルガバナンス・コードは5つの行動原則からなる。

  • 原則1:成長に向けたビジョンの構築と共有
  • 原則2:ビジョンの実現に向けたデジタル戦略の策定
  • 原則3:体制構築と関係者との協業
  • 原則4:デジタル経営資源の適正な配分
  • 原則5:デジタル戦略の実行と評価

これらに基づいて、経営者自身が明確な経営理念・ビジョンや基本方針を示し、その下で組織・仕組み・プロセス等を確立・実行・評価・改善することで、「2025 年の崖」の克服やビジネスの高度化・創出・変革の推進を目指している。

(2)外部の客観的な評価制度

我が国産業界のさらなるDXの推進を後押しするためには、デジタルガバナンス・コードを基に、企業ないしは経営者がDXの推進状況を投資家等の市場関係者に対して説明責任を果たし、適正に評価してもらうための客観的な評価基準や制度が必要となる。

DXの取組はすぐに企業利益に反映されるものばかりではなく、投資家等の市場関係者には理解されにくい性質を持つ。そのため、客観的な評価基準や制度を用いて、DXの取組に関して政府からの”お墨付き”を貰うことで、投資家等の市場関係者を含む外部のステークホルダーに対して企業価値をアピールすることができると考える。

現在、想定している客観的な評価基準として、①レガシーシステムや技術的負債から脱却し、「2025 年の崖」を克服する観点、②各企業のイノベーションの創出やデータの利活用等の取組を進める「ビジネスの高度化・創出・変革」の観点、③デジタル化する上で事業上対処すべきセキュリティやプライバシー等の「リスクのコントロール」の観点の3つの評価観点に着目している。(図2)

図 2  DXの進展の流れと評価観点

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出所:経済産業省,デジタルガバナンス・コードの策定に向けた検討

客観的な評価基準に照らし合わせて各企業を評価するには、我が国としての制度化が必要である。そこで政府は、企業経営における戦略的なシステムの利用の在り方を提示した指針を策定し、それらを踏まえ、各企業の申請に基づいて優良な取組を行う事業者を認定する制度を創設するため、法律の改定に向けて動き出しつつある。

2.情報処理の促進に関する法律の一部改正に向けた政府の動き

経済産業省が2019年10月15日に発表したニュースリリース※5によると、「情報処理の促進に関する法律の一部を改正する法律案」が閣議決定され、2019年秋の臨時国会に提出される予定である。このことから、2020年度上期中には国内企業におけるDXの取組を客観的に評価し、企業の格付を行う制度が施行されると予想される。(図3)

図 3  今後想定される政府の動き

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出所:NTTデータ経営研究所で作成

これらの政府の動きを踏まえ、国内企業として今後取り組むべきこと、求められることは何かを考察していく。

3.企業の格付において国内企業に求められること

(1)DX推進指標を活用した自己診断の実施

DX推進指標を活用して、経営者自らが企業を自己診断すること。これは企業の格付を行う上での大前提である。DX推進指標とは、経営者が自社におけるDX推進の取組状況やITシステムの現状を理解・把握するための指標の一つである。現時点での自社のレベルを可視化することが、企業の格付において国内企業に求められる第一歩であると筆者は想定する。

また、経営者が把握していない指標等がある場合は、CIO(もしくはCDO)やIT部門長、各事業部門長等の社内におけるステークホルダーとコミュニケーションを図り、解決に向かうためのマインドセット・企業文化の醸成にも繋がると考える。

DX推進指標を認識していない・まだ活用していない企業等があれば、是非ともこの機会に実践していただきたい。

(2)外部による客観的な評価の実施

DX推進指標は、企業の状態を把握するための指標の一つであるが、あくまでも中立性が担保されていない”自己診断”であることに留意する必要がある。

企業の最終目標とは、従業員、顧客、取引先、債権者、地域社会をはじめとする様々なステークホルダーに対して企業活動のアウトプットを示し、評価してもらうことである。特に、投資家等の市場関係者に対して、企業の状態・取組状況等を適正に評価・採点してもらうことは持続的な企業活動の要となる。

今後、政府内に設ける有識者の第三者委員会により企業の格付が行われると言われていることから※6、DX推進指標による自己診断だけで終わらせるのではなく、外部による客観的な評価を受けるための取組が必要となる。実際の評価者はまだ検討中であるものの、例えばシステム監査やITコーディネータ、中小企業診断士等の資格を有する者や外部の専門事業者(監査法人等を含む)等に委託し、客観的な評価を行ってもらうことが挙げられるのではないか。

(3)継続的な改善活動

自己診断・外部からの客観的な評価を経た上で最も重要なことは、結果を自社内にフィードバックし、必要に応じて改善活動を図ることである。

デジタルガバナンス・コードや評価基準の見直しとともに格付ランクの水準も改訂していくことが想定されているため、前年度と同じ結果だとしても同じ格付ランクになるとは限らない。格付ランクを上げるための単なる点数稼ぎのような一過性の取組にならぬよう、格付の水準が上がるとともに企業も改善・成長し続ける必要がある。

格付ランクを取得することが目的ではなく、企業として何を目指すのかを常に念頭に置くことが望まれる。

(4)投資家等の市場関係者への積極的な情報発信

最後に、DXの取組における重要な要素の一つとして、自己診断から継続的な改善活動の一連の流れを投資家等の市場関係者へ積極的に情報発信することが必要であると考える。

デジタルガバナンス・コードや外部の客観的な評価制度の展開を見越して、企業のDXの取組状況や水準を可視化し、今後の成長の可能性を示すことで、投資先や取引先等の判断材料にしてもらう準備をしておくことが重要である。

具体的には、自社のIR担当部門と経営層・CIO等は自社のDXの取組に関する発信の仕方について、今のうちから検討することがよいのではないか。

おわりに

DXの推進に向けて法改正が進みつつある今般、国内企業はDXの観点において”静観する立場”から”評価される立場”になることを十分に理解し、競争力を強化しつつ持続的な成長を促す取組を行うことが重要である。

筆者も引き続き、我が国産業界においてSociety5.0の実現や「2025年の崖」の克服に向けて、短期的及び長期的に取り組むべき方策の具体化について政府・企業双方の支援を進めていきたいと考えている。

※1 経済産業省,デジタルガバナンス・コードの策定に向けた検討
https://www.meti.go.jp/shingikai/mono_info_service/digital_governance/190917_report.html

※2 経済産業省,DXレポート ~ITシステム「2025年の崖」克服とDXの本格的な展開~
http://www.meti.go.jp/press/2018/09/20180907010/20180907010-3.pdf

※3 経済産業省,「DX 推進指標」とそのガイダンス
https://www.meti.go.jp/press/2019/07/20190731003/20190731003-1.pdf

※4 経済産業省,デジタルガバナンスに関する有識者検討会
https://www.meti.go.jp/shingikai/mono_info_service/digital_governance/index.html

※5 経済産業省,ニュースリリース2019年10月15日「情報処理の促進に関する法律の一部を改正する法律案」が閣議決定されました
https://www.meti.go.jp/press/2019/10/20191015002/20191015002.html

※6 日本経済新聞,デジタル化を投資指標に 企業を格付け 政府が20年に新制度
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO50385590Q9A930C1EE8000/

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