自動車業界のビジネス転換から占う不動産テックの未来 (下)
~ バリューシフトがもたらす業界構造の変化 ~

情報戦略本部
ビジネストランスフォーメーションユニット
シニアマネージャー 川戸 温志

はじめに

前回の「自動車業界のビジネス転換から占う不動産テックの未来(上) ~押し寄せるテクノロジーとバリューシフトの波~」では、自動車をはじめ、音楽・映像、通信、ファッションなど様々な業界において、AIやIoT、ブロックチェーン、 3Dプリンタ、ロボットといったテクノロジーの波が押し寄せ、『ハードからソフト・サービス』へのバリューシフトが起きている旨を論じた。本稿では、不動産業界との類似性の高い自動車業界をアナロジーとして、今後の不動産業界の業界構造の変化や展望を考察する。

バリューシフトがもたらす業界構造の変化

自動車業界と不動産業界の類似点の多さは、お互いの業界がたどる変遷にも、同じような影を落とす。

自動車業界は、自動運転などCASE時代の到来によって、ピラミッド構造の業界構造に変化が起きている。例えば、自動車の電動化やインテリジェント化により、エンジンは電気モーターにとって代わられる。この場合、1万点~3万点あった部品数は100点程度まで大幅に減少し、従来のようなサプライヤー間のすり合わせは不要となるだろう。

さらに、従来よりも電子部品が多く使用されるため、日本のデンソーやドイツのBosch(ボッシュ)のようなサプライヤーが存在感を増すはずだ。自動運転の実現には車両を制御する車載コンピューターが重要で、米国のNVIDIA(エヌヴィディア)やIntel(インテル)のようなAI半導体メーカーが必要不可欠となるに違いない。このように、自動車業界内に閉じたピラミッド構造はCASEによって大きく変わろうとしている※1

※1 ATY Japan

一方、不動産業界はどうだろうか。これまでのデベロッパーを頂点とするピラミッド構造は、新築の建物をつくり、大量供給するというビジネスモデルにおいて最適な構造であった(図表1参照)。しかし、昨今は中古不動産の流通が拡大し、不動産ストックビジネスが発展してきている。

その背景にあるのは、人口減少、少子高齢化やミレニアル世代と呼ばれる若者の価値観の変化、働き方改革によるワークスタイルの変化などや国の後押しなどだ。

不動産業界は今後、中古不動産(既存の建物)において起きている『ハードからソフト・サービスへ』のバリューシフトによって、自動車業界のように、企業や消費者といったお客様との接点を持つテックのプレーヤーが主役となっていくことが予想される。業界構造の主役は、新築は不動産デベロッパー、中古は不動産テックのプレーヤーといった形に棲み分けられるだろう(図表2参照)。

図表1 これまでの不動産業界構造
図表1 これまでの不動産業界構造

出所:NTTデータ経営研究所で作成

図表2 今後の不動産業界構造
図表2 今後の不動産業界構造

出所:NTTデータ経営研究所で作成

中古不動産を主戦場とする不動産テックのプレーヤーの特徴

その潮流に上手く乗っているのが、海外から日本に上陸してきたAirbnb、WeWork、OYOなどだ。これらのプレーヤーはいずれも既存の建物を主戦場としている。国内の不動産テック起業なら、スマートロックのNinjalockを提供するライナフ、中古不動産サービスを提供するGA technologies、AIによる不動産投資サービスGate.を提供するリーウェイズ、スペースシェアリングで認知度を上げているスペースマーケット、パレット管理というクラウドで入居者管理システムを提供するパレットクラウドなども既存の建物が主戦場だ。

こうした不動産テックのプレーヤーは幾つかの特徴を有している(図表2参照)。第一に、常に顧客志向だ。スマホ生活に慣れているミレニアル世代とは、主にWebをベースとしたオンラインで接点を持つ。顧客の属性情報や不動産データなどを蓄積し、AI等によるデータ分析を活用することで、効果的かつ合理的なITサービスを提供する点も特徴と言える。ITサービスの料金体系は、利用量や利用期間に応じて課金されるサブスクリプション等の合理的かつ透明性のある場合が多いのも共通点の1つだ。経営は、IT企業のように多産多死やアジャイルな経営思考で、ITサービスは自社で抱えるエンジニアによって内製を推し進める点など、挙げると枚挙にいとまがない。

中古不動産の戦場を制する鍵はリアルデータ

今、世の中はGAFA(ガーファ)がバーチャルデータを独占することで爆発的な成長を遂げてきた時代から、リアルデータを収集・活用する時代へと局面が変わりつつある。GAFAとは、Google(グーグル)、Apple(アップル)、Facebook(フェイスブック)、Amazon(アマゾン)の略称だ。GAFAはインターネットやスマホを通じて、大量のバーチャルデータを収集し、それを利用したビジネスを次々と展開させてきた。経済産業省の産業構造審議会で語られているが、これまでの主戦場であるバーチャルデータの競争から、リアルデータへとシフトしてきている。

自動車の自動走行をはじめ、健康・医療・介護、製造現場なども、リアルデータを巡る競争が既に始まっている。身近な例を挙げると、都市部ではSuicaなどの鉄道系電子マネーに集まる乗降客の移動情報、TSUTAYAでお馴染みのTカード、ローソンなどで使えるリクルートのPontaカードなどに記録される購買履歴情報がこれにあたる。工場や倉庫の設備に設置されているセンサーが集める情報、ビルや街を歩く人々をカメラやセンサーで把握する人流なども全てリアルデータである。こうしたリアルデータをIoTで収集、AI(人工知能)で分析、分析結果を自動車やロボットや設備・システムにフィードバックさせることで、新たなイノベーションを生み出すことができる。

住宅にせよオフィスにせよ、中古不動産の戦場においてもリアルデータが鍵となっている。例えば、Airbnbはホストに対して『Smart Pricing(スマートプライシング)』という推奨価格ツールを提供している。Smart Pricingとは、所謂ダイナミックプライシングだ。過去の膨大なデータをAIで分析することで最適な宿泊価格をホストへ推奨する。例えば、宿泊物件の立地、掲載している写真の良し悪し、ローカルで開催されるイベント、評価レビュー結果など数百とも言われるパラメータに基づき、需要の変化を予測することで最適な価格を割り出してくれる。

また、WeWorkは、スペースや会議室の稼働状況などを全てデータ化し、データサイエンティストが分析。そうしたデータに基づき、オフィススペースの大きさ、会議室の数、採光や照明、共有デスクのレイアウト、電話回線の数や配置、ソファなど什器の配置などあらゆる事を決定していると言われている。最適な会議室のレイアウトにはAIを活用していると言われている。800以上もの会議室の活用状況のデータを機械学習し、会議室レイアウトと活用頻度のモデルを構築することで人間よりも精度の高い予測を実現している。

このように顧客や不動産との接点を有する不動産テックのプレーヤーは、様々なリアルデータを収集・活用することで従来と一線を画す新たなビジネスを展開している。この様々な収集可能なリアルデータは、例えば、物件情報や地域の情報、電気・ガス・水道といったエネルギーに関する情報、インターネット使用料、人流データや交通データ、居住者の属性情報や行動履歴、他にも思考・趣味、生活パターン・生活リズム、ライフイベントなどが考えられるだろう。

中長期的に俯瞰した場合、不動産テックのプレーヤーは顧客や不動産のリアルデータの保有が進み、自分自身の事業への活用は勿論、そのリアルデータの本当の価値を知っている異業種との連携が加速化していくに違いない。

将来構想力が重要となる時代へ

自動車業界と不動産業界は似ている。これまでも、今現在の動向も。業界がこれから歩む道も、似たような轍(わだち)になるのではないだろうか。自動車業界は、自動運転などCASE時代の到来によって100年に一度の転換期にある。一方、不動産業界も自動車業界のような『ハードからソフト・サービスへ』のバリューシフトが起きており、中古不動産の世界においては、不動産テックのプレーヤーが、既存の建物の世界においてイニシアティブを握ることが予想される。

不動産テックのプレーヤーは、従来の不動産業者とは価値観、経営スタイル、経営スピードが異なり、自動車業界で異業種間連携を進める企業との共通点が多い。この事実は、不動産テックプレーヤーが、自動車業界の先駆者と同じ道を進む可能性を示している。同じ道とは、異業種との連携を加速化させることに他ならない。例えば、他のIT企業やAI企業は勿論、金融機関、小売企業、エネルギー関係の企業と不動産テックのプレーヤーの連携だ。

現在、テクノロジーとデジタル化の大きな波によって、あらゆる業界で有望なベンチャーと大手企業の提携、囲い込みが進んでいる。不動産業界でも、大手企業は提携やCVC(コーポレートベンチャーキャピタル)を通じて、有望ベンチャーを囲い込む動きが起きている。

提携や出資をするにせよ、陣営を作るにせよ、いずれにしても「我々は将来、こういう世界観をつくろうとしている。一緒に作っていこう!」という将来構想が必要不可欠だ。その将来構想は単純な夢物語ではなく、実利を伴う必要がある。収益モデルや差別化などを組み込んだしっかりとしたビジネスモデルを描かなければならない。この将来構想でありがちな罠として、データの収集・活用やAI(人工知能)という“方法論”にスポットを当てすぎてしまう罠だ。果たして読者の皆さんはどうだろうか。自分自身の居る業界の将来構想をどのように描かれているだろうか。

Page Top