内閣府の戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)第3期において進められている、包摂的コミュニティプラットフォームの構築プロジェクト。研究開発の成果を、どのように事業として社会に実装していくのか。国立研究開発法人産業技術総合研究所(産総研)、大和ハウス工業株式会社、NTTデータ経営研究所の3者が、これまでの歩みと今後の展望を語り合った。
自己紹介とプロジェクトにおける役割
まず皆様の自己紹介と、それぞれの組織における今回のプロジェクトでの役割を教えていただけますか?
産業技術総合研究所 人工知能研究センターの本村陽一です。後ほどご紹介する内閣府SIP「包摂的コミュニティプラットフォームの構築」の、サブ課題A1の研究代表者を務めています。本日はよろしくお願いします。
大和ハウス工業 まちづくり統括部 都市環境創造室の中野です。本SIPには当初から参画しています。私の役割を一言で言えば、産総研をはじめとするアカデミアの力と、現場を持つ大和ハウスや民間企業とをつなぎ合わせることだと考えています。
NTTデータ経営研究所 デジタル社会共創コンサルティング室長の河本です。弊社はSIPプロジェクトの伴走支援として、計画に基づき成果を創出するためのプロジェクトマネジメントや、社会実装に向けたビジネスモデルの検討などを3年ほど実施しています。また、大和ハウス様のコミュニティ再生に関する事業戦略策定についても支援しています。
プロジェクトの概要
今回のプロジェクトについて、本村先生から概要を教えていただけますか?
内閣府のSIPプロジェクトの一つで、日本の科学技術基本計画にある「Society 5.0」――サイバーとフィジカルを高度に融合して効率を上げ、社会課題を解決する超スマート社会の実現――を目指すものです。そこで「包摂的コミュニティプラットフォームの構築」をテーマとする課題の中に、サブ課題A-1として地域コミュニティを対象とする取り組みがあり、私たちは、地域の中で包摂的なコミュニティをつくることで多様な人々のウェルビーイングを向上させることを目標にしています。
現在、少子高齢化と価値観の多様化が進み、地域の関係が希薄化しています。従来の自治会などは担い手の減少と高齢化により運営が属人化し、活動の持続が難しくなっている地域が多数あります。これに対し、異なる価値観を持つ人や集団同士が互いを認め合える包摂的なコミュニティをつくることを目指し、私たちは2つのアプローチをとっています。
一つは、多様なつながりを促進するための「人づくり」のアプローチです。孤立・孤独になりがちな人でも参加しやすいコミュニティ活動の場の中で取り組む人、参加する人など、様々な人と人のつながりを育てていきます。もう一つは、活動を持続させるための「仕組みづくり」のアプローチです。これまでの運営の属人化という課題を解決するために、誰でも再現できるガイドラインや活動を支えるツール、人をつなぐ組織づくり、場作りに取り組んでいます。この2つのアプローチによって多様なつながりを地域に根付かせ、様々な立場の人々のウェルビーイングを向上させ、孤立・孤独のリスクを下げることを目標としています。

SIPとしてこの課題に取り組んだ経緯
内閣府のSIPとしてコミュニティ再生に取り組まれた経緯や課題について教えてください。
どのような地域でもこうした活動を再現できるようにするには、データに基づく意思決定、すなわちエビデンスベースド・ポリシーメイキングの考え方が重要になります。この仕組みをつくるためにデータを活用することが、目的の背景にありました。
コミュニティを支える仕組みとして、まず現状把握にビッグデータを活用できます。これまでの統計データは全体の平均値を見るような比較的粗い形で使われることが多かったのですが、実社会のビッグデータを使えば、一人ひとりがいつ、どのような活動やイベントに参加しているかといった細かなデータが集まり、地域全体をより精緻に把握できます。
これまで、アメリカなどのビッグテックはインターネット上のビッグデータでAIを学習させ、様々なサービスを生み出してきました。一方、実社会のビッグデータを扱うプラットフォームはまだ存在せず、データ活用が難しい状況にあります。実社会のビッグデータを集めるには、実社会でサービスを提供する必要があるという問題意識から、今回のプロジェクトではコミュニティ活動の現場でデバイスやスマートフォンを活用し、実社会のビッグデータを集めながらAIがそこから学習し、人々の活動が良い方向に向かっているか、リスクが高まっていないかなどの判断を支援するツールを提供していきたいと考えています。
これが実現すると、イベント参加時の会員カードや交流拠点内のセンサー観測などを通じて、地域で人々がどのように活動しているかを再現する「デジタルツイン」が実現可能になります。デジタルツインができれば、取り組みの計画支援や施策の設計・実施、改善などがしやすくなります。支援ツールが使われるほど地域の実社会データが集まり、それによってAIとデジタルツインも進化する。そしてそれを見た取り組みの実施者や参加する生活者も、より深く関わり、より良い取り組みができるようになる。デジタルツインと人が共に進化する「共進化」を実現したいと考えています。

大和ハウスがプロジェクトを本格化させた企画
この研究成果を活用して、大和ハウスがプロジェクトを本格化しようと考えられた企画について、中野様にお伺いできますでしょうか。
弊社にはSDGsの12番目の理念にもとづき、「つくる責任・つかう責任」に加え「つくった責任」を掲げて活動しているプロジェクトがあります。高度経済成長期に弊社は多くの住宅団地を供給しましたが、それらの団地では現在、高齢化や空き家、コミュニティの希薄化といった問題が同時多発的に起きています。これを何とかしたいという思いから、「つくって放置する」のではなく、しっかりと再び耕していこうという「再耕プロジェクト」を2010年頃に立ち上げ、住宅団地と向き合ってきました。
ただ、団地再生は属人性が高く、熱意のある担当者の勘や経験に依存する部分が大きいため、ある団地ではうまくいっても別の団地ではうまくいかない、ということが多くありました。経験を積み重ねながら何とか進めてきましたが、SIPの中でデータを活用し再現性のある形でコミュニティ再生ができるのではないかと考えたことが、我々がずっと課題としていた「再現性がない」「効果がわからない」という問題に当てはまったので、一緒に取り組ませていただくことになりました。

官の研究開発と民の事業化をつなぐ難しさ
官の研究開発と民の事業化をつなぐ段階で、どのような難しさを感じられましたか。
国の研究開発プロジェクトには長く関わってきましたが、研究開発は基本的に「できるかできないか」を確認する基礎研究のフェーズが中心で、それを実際のフィールドで動かして使ってもらうところにまでは、なかなか踏み込めないことが多いのです。しかし今回は民間の多数の機関と一緒に取り組む以上、ビジネスとして成立しなければなりません。コストやリスク、そして社会的な受容性――ユーザーに使ってもらえるか、受け入れられるか――が、今回非常に大きなテーマだと考えています。
私は難しさが2点あると考えています。一つは、本村さんがおっしゃったように、研究開発の成果をユーザーや顧客にとっての価値に翻訳することです。先ほどのお二人の説明は大変分かりやすかったと思いますが、それでも難しいと感じられた部分が多々あったのではないでしょうか。対象としている課題自体が難しく、それをどう解決するかというアイデアや仕組みも複雑です。その成果をどう価値として分かりやすく伝えるかが、ポイントの一つでした。
もう一つは、この事業が大和ハウス個別の事業ではなく、ビジネスエコシステムをつくらなければならないプロジェクトだという点です。大和ハウスは、中野さんの説明にもあった通り「作る」ことが得意で、なるべく自社で完結し、自ら品質に責任を持って提供することを強みとしてきた会社です。しかし今回はプラットフォームをつくる、つまり本村さんが説明されたデジタルツインのような共通基盤をつくり、皆で共有していくことが求められます。それだけでなく、様々な企業や自治体、行政と連携してビジネスの仕組みをつくっていく必要があります。従来のビジネスの考え方から、エコシステムやプラットフォームをつくるという発想へとシフトしていくこと――それがもう一つの難しさでした。
依頼をいただいた経緯
このような多様な背景がある中で、当社にご相談・ご依頼いただいた経緯はどのようなものでしたか。
国のプロジェクトには通常、Feasibility Study(FS)という準備期間があります。この準備期間で調査事業として活動されていたのが、御社との協力の始まりでした。包摂的なコミュニティをつくるにはどのような問題があるのか、データ活用の技術にどのような可能性があるのかといったところから、一緒に議論させていただいたのがきっかけです。
続いてSIPプロジェクトが本格的にスタートする最初の段階でも、海外の類似事例、ベンチマークや、実際に取り組んでいるコミュニティ現場の実態把握などにお力を借りました。取り組みを進める中で私たちの独自性に自信を持てるようになり、次の段階として、どのような事業者と連携すれば社会実装につながるのか、産業構造としてどういった事業者と組めるのか、ビジネスモデルとしてどのような取り組みがあり得るのかを日々相談しながら、今の計画の骨格が徐々にできあがっていきました。
補足しますと、私たちは調査や知見の提供という形で関わり始めましたが、弊社が提供するコンサルティングサービスは調査に限らず、事業立ち上げの伴走支援やビジネスモデルの構築・整理まで幅広く手がけています。本村さんや中野さんと日々議論を重ねる中で、この取り組みの意義や目的に強く共感するようになり、私自身もっと深く関わりたい、貢献したいという思いが強くなりました。そこで、調査以外の領域にも深く関わっていくようになり、まさに二人三脚で伴走する形で支援させていただくに至りました。
新しいものをつくる、クリエイティブな領域に入っていますよね。
ありがとうございます。
中野様からも補足はありますか。
もともとNTTデータ経営研究所さんへは調査業務としての発注でしたが、議論を重ねる中で、私たちに足りていない部分――特に全体を俯瞰したときの弱点――を的確に指摘していただけたのが非常にありがたかったです。私たちだけで議論すると熱を帯びて一点集中型になりがちなのですが、一歩引いた目線で全体を俯瞰し、足りていないところや偏りを指摘していただき、まさに二人三脚で進めていただいていると日々感じています。

協業の実際 ― NTTデータ経営研究所に期待した役割
協業の実際について伺います。当社に期待された役割や強みは、具体的にどのようなものでしたか。まず中野さんからお願いします。
大きく3つあると考えています。一つは、官と民の翻訳者としてその間をつなぎ合わせていただけることです。民間とアカデミアはそもそも前提が異なるため、そこをつなぐ役割を強く期待していました。2つ目は、まちづくりという活動と公共性とを掛け合わせ、構造化していく力です。私たちも様々な活動をしていますが、どの制度が使えるか、どう運用できるかといったところまで行き着けないことが多く、その点で多くの知見を持つNTTデータ経営研究所さんと一緒に取り組めることは非常にありがたいことでした。3つ目は、まさに河本さんがおっしゃった通り、事業を絵に描いた餅にせず、しっかりと構築していく力です。正直、私たちは物を売って成長してきた会社なので、ゼロから事業を立ち上げるところは難しい部分が多く、そこを一緒に考えていただいている点を評価しています。
コミュニティを再生・形成しウェルビーイングを高めるという方向性は、日本の産業構造全般に通じる重大な課題だと考えています。これを実際のビジネスとして成立させるには、現在の産業構造にあるリソースを活用しながら、単なる利益追求ではなく、価値をどう循環させるかという長期的な視点や価値の連鎖という考え方が重要です。事業として成立させるには、実はかなりのクリエイティビティが必要とされます。新しい価値をデザインする領域と、既存の産業に精通し必要なパーツを組み合わせる、いわばパズルを組み立て直すようなスキルや姿勢を持つ点に、非常に期待しています。
まちづくり・公共政策・データ活用の知見が活きた場面
まちづくり、公共政策の知見、データ活用の知見が求められる場面は、実際どのようなタイミングで活きたのでしょうか。
社会実装という出口を描くときの検討に、NTTデータ経営研究所さんに関わっていただけたのは非常にありがたいことでした。私たちは団地の住民の方々を相手にしているため、目の前で起きていることに集中しがちです。実際には、その活動を支える「地域コミュニティマネジメント法人」(LCM法人)の組成や、公共の資金をどう引っ張ってくるかといった仕組みがあってこそ活動が成り立ちます。こうした点をしっかりと構造化し、どこから何を、どう資金を確保し、ビジネスとして成り立たせるかを一緒に考えていただけたことは、私たちの実施活動と、より広い視野で見た全体の役割を切り分けながら議論できたという点で、非常に良かったと感じています。
今おっしゃっていただいた通り、ビジネスとしての視点でご支援できた点はお役に立てたと思います。一方で、まちづくりというテーマは「生き物」であり、必ずしも合理的に判断できるものではありません。ゴールが一意に決まり線形的に進むものではなく、地域ごとに事情が異なり、住民の皆様と一緒に育てていく必要があります。ビジネスのことを理解した上で、まちづくりの大事な部分も忘れずに進められるかどうかが重要です。
もう一つは、デジタルツインという仕組みを構築する上でのデータマネジメントです。データはKPIや項目として合理的に落とし込む必要がありますが、まちづくりという柔らかく複雑性の高いものをデータに落とし込む作業は、まちづくりの視点、事業の視点、データの視点という3つを掛け合わせて初めて成立します。私たちはそうした複数分野の経験と知見をお役立てできたのではないかと考えています。

立場の異なる主体の合意形成 ― 最も難しかった場面
立場や理論構造が全く異なる主体の意見を整理し、合意形成していく中で、特に難しかった場面はありましたか。
今回のプロジェクトで最も難しかったのは、「何をもって正解とするか」という基準がアカデミアと現場で全く異なる点でした。研究として論理立てて正しいとされることと、現場で活動する私たちが感覚的に正解とすることは、しばしば食い違います。この二つをどう掛け合わせて落としどころを見つけるかは、非常に難しく、同時に新しい発見も多いところでした。
意識したのは、順番に整理していくことです。どちらが正しい、悪いということではなく、まずロジックを固め、それを現場に投げ込み、反応を見て変えていく――このサイクルを繰り返すこと自体が、産総研をはじめとするアカデミアと民間が組む大きな意味だと思っています。
この問題は非常に複雑で、それぞれの専門家や実践者が共通の目的のために集まっていても、まちづくりやコミュニティに対する見方は立場によって意外と異なります。抽象論で語ると噛み合わなかったり、良いと思っている具体像が、別の人の理想から離れて見えてしまうことがありました。これを解決するために、私たちは実際に現場に行き、生活そのもの、暮らしを具体的に見ることで解決を図ってきました。
さらに難しいのは、私たちが作ろうとしているのが「将来の現実」だということです。今の現実と将来との間で、どの方向に進めばより良い将来に近づけるのか。この点はまだ手探りの部分があります。
私も同じことを考えていました。研究としての探求心や理想型を追求する姿勢と、現場で動いていることとの接点を見出すことがポイントだと思います。そのためには、前提条件を揃えること――何を前提に話しているのかが入り口からずれていないか――と、時間軸を揃えること――今の話をしているのか、それとも3年後の話をしているのか――が非常に重要でした。
思い出話になりますが、毎週3時間集まって、喧々諤々議論を重ねました。それぞれの見方や思いがあるからこそ議論が発散するのですが、空中戦になってしまうと議論がまとまらないこともありました。そこで論点を整理し、フレームワークを区切り、別の言葉で言い換えるなどして交通整理を行うことがポイントだったと思います。
研究開発の視点と事業性・収益性の視点をどう橋渡ししたか
研究開発の視点と、民の事業性・収益性の視点をどのように橋渡ししていたのか、具体的なエピソードお伺いできますか。
この枠組みは、最終的には公共的な基盤として整備する「協調領域」と、民間企業が自社のビジネスとして展開する「競争領域」の2つで成り立っています。コミュニティ再生の基盤を実現するには、ガイドラインや人材育成プログラム、デジタルツール、評価指標など様々な機能が必要ですが、それを公共的に提供する協調領域のものとするか、民間事業が担う競争領域のものとするか、その仕分けが重要なポイントでした。誰が何のために提供するものかを整理し、公的な位置づけとするか、民間の事業として提供するかを整理していくことが、研究開発の視点と民間の事業性・収益性の視点との橋渡しにおいて非常に大事でした。
もう1点は、現場に出るということです。本村さんもおっしゃっていましたが、机上の議論だけでは現場が大事にしていることや考え方は分かりません。この問題が対象としているのは、その地域で暮らす生活者の暮らしそのものです。私たちも大学が運営するコミュニティ再生の現場に何度も足を運び、住民の皆さんや活動をリードする皆さんと一緒に地域の活動やイベントに参加させていただきました。イベントの後の食事会に誘っていただき、隣の人と話すことで、その人がどんな思いでその活動に参加しているのかを肌で感じたり、地元の野菜を買って持ち帰ったりする中で、地域の生活がどのようなメカニズムで動いているかに触れることができました。将来を見据え俯瞰する視点と、地域の皆様のミクロな視点、その両方を持って対話することが、多様なステークホルダー間の合意形成において非常に重要だったと思います。

想定していなかった課題と方向転換
プロジェクトを進める中で、当初想定していなかった課題や、方向転換せざるを得なかった場面はありましたか。
正直、方向転換は数え切れないほどしました。大きくは2つあります。一つはデータの取り方です。私たちはデータの専門分野ではなかったため、データさえ取れれば課題にアプローチできると考えていましたが、目的、取得方法、分析方法までを設計しておかなければ、データがあるだけになってしまうことに気づきました。ID カードの配布についても、何のために、誰が、どのように取得し、どう分析するかまで設計し直しながら、現場での配布方法を工夫している最中です。
もう一つは対象の変化です。当初は住民の方々が主体的に何とかしたいという気持ちを育てることを主眼に置いていましたが――これ自体は今も変わらず重要です――人材育成の対象として、弊社のような「地域に対して何かアプローチしたい」事業者の方が中心になる、という考え方に大きく変わりました。実装までの時間が多く必要な住民主導からのアプローチではなく、まずデベロッパーや地域で活動する事業者に人材育成プログラムを提供し、そこから波及させていく方向に転換しました。
私も、データと組織人材の話は同じく大事だと感じていました。データについては、大和ハウスさんが持つノウハウを前提に組み立てを始めたのですが、そのノウハウの多くが形式知化されておらず、暗黙知の状態だったことが分かりました。そこで、ヒアリングや過去の記録を掘り出し、形式知化する作業から着手する必要が生じたのが、当初の想定と異なる点でした。
組織人材については、この事業はプロダクトを完成させれば終わりというものではなく、それを地域に届けるサプライチェーンをつくらなければならないと分かりました。そのサプライチェーンは地域コミュニティの人たちだけでは成り立たず、デベロッパーや事業者側をまず提供側に組み込み、その上で最終的なエンドユーザーである地域の人々に届く仕組みをつくる必要がある、と気づいたことが2つ目の方針転換のポイントです。
コンサルティング会社への印象・期待とのギャップ
実際に協業されてみて、コンサルティング会社への印象や、期待とのギャップはありましたか。
良い意味でギャップがありました。弊社もコンサルタントとお付き合いすることは多いのですが、資料のまとめや調査、議論の壁打ち相手というのがベースになることが多いです。しかし今回、NTTデータ経営研究所さんとご一緒するにあたっては、河本さんがおっしゃったように現場に一緒に足を運び、言葉にしにくいものをしっかり言語化していく、伴走していただけるという姿勢がありました。発注者と受注者という関係ではなく、同じチームとして二人三脚で歩み、一緒に仕事ができていると強く感じています。
中野さんが言われた通り、一般的なコンサルタントのイメージとして、自分たちだけでは気づかない点を俯瞰的な目で指摘してもらう、自分たちだけではできないところを補ってもらう、という役割は当然期待するところです。しかし私が個人的に、河本さんたちのアプローチに強く共感したのは、デザイン思考であり、対話的に問題解決に取り組む姿勢そのものでした。正解のある問題を教科書通りに解くのとは全く異なるアプローチです。生活の現場で社会課題を解決する際にはこれが非常に重要で、日本の強みになる問題解決のスタイルを一緒に確立できればと期待しています。
ありがとうございます。私もコンサルティングにおいてはウィズダムとパッションの2つが大事だと常々思っています。ウィズダムはコンサルタントとして備えるべき知識やナレッジですが、パッションがなければ価値を提供できないと感じているので、そうした評価をいただけるのは大変嬉しいことです。
事業構想策定の現状
事業構想の現在の状況について、お伺いできますか。
現在は、事業の構想を描く段階から、実際に使える技術へ落とし込むフェーズに移っています。今年度は、弊社の阪急北ネオポリスと阪南ネオポリスという2つの団地を主戦場に、これまで開発してきたプロダクトの実証を一通り回していく計画です。担い手となるLCM法人は弊社の団地内で既に3法人立ち上げており、そのうち1つは令和6年4月に公布、10月に施工した地域再生法改正における、団地再生事業に関わる地域再生推進法人として第1号認定を受けました。今年の秋には、先ほどお話しした人材育成対象のシフトに合わせて、デベロッパーへのアプローチとして、業界全体で団地再生・コミュニティ再生を考える研究会を立ち上げ、外部に発信していく準備を進めています。

プロジェクトの社会的意義と地域課題解決への貢献
このプロジェクトが持つ社会的意義や地域課題解決への貢献について、皆様はどのように捉えていますか。
私たちが一番最初から考えているのは、つながりの希薄化という課題です。それが孤立・孤独や、高齢化・担い手不足といった、一見バラバラに見える社会課題の根っこにつながっていると考えています。この共通の課題をベースとして解決する仕組みを提供することで、私たちが想定している課題に加え、他の課題にも様々なプラスの効果があると考えています。
つながりを精神論として「頑張ってつながりましょう」というのではなく、今回のプロジェクトでしっかりと仕組み化する。誰でも、どこでも実践できる仕組みをつくることに、大きな意義があると思っています。深く言えば、これは公共性の限界を民間や住民がどう補っていくかという課題につながります。日本では人口減少が進み、地域から人がいなくなっていく中で、私たち自身で支える仕組みにチャレンジしていきたいと考えており、それが結果として、健康や防災など日本の様々な社会課題の基盤的な解決につながるのではないかと考えています。
今言われたことは本当にその通りだと思います。これは私たちがこれまで直面してこなかった新しい問題ではないかと考えています。人口減少という意味では、増加した人口が減り、昭和初期の頃のような人口規模に戻っていくわけですが、当時と違うのは価値観の多様化が圧倒的に進んでいるという点です。個人の価値観が多様になった中で、一人ひとりで支えるのはスケールとして難しく、「掛け算」をしていく必要があります。その一方で、つながる土台が従来以上になくなってしまっているというのは、世界的にも直面している新しいタイプの問題だと思います。
それぞれの価値観を尊重しながら集まることが苦にならない、義務や自己犠牲ではなく自然に伸び伸びと活性化できるコミュニティのあり方が見つかれば、それは非常に画期的なことです。私自身、人工知能学会というコミュニティにも関わっていますが、実はどこを見ても同じ問題が潜在的に眠っているのではないかと感じます。この問題に対する解決策ができれば、地域コミュニティだけでなく、広く様々な組織にも展開できる非常に大きな一歩につながると思います。

政策から社会実装まで伴走する取り組みの評価
SIPという政策・研究開発から、民間企業の事業構想、そして社会実装まで一連の流れを伴走する取り組みは非常に珍しいと伺っています。この点について、皆様の評価をお聞かせください。
内閣府のSIPというプロジェクト自体、研究開発プロジェクトとしても非常に社会実装志向です。技術開発ができても使い続けられなければ意味がないという社会的な重要性や、事業設計まで手がけるという意味で、非常にチャレンジングな取り組みです。SIPも第3期となり、1期・2期から大きく進化しています。中でも難しいのは、複数の事業者と新しいビジネスモデルを考えていかなければならない点です。ここで良い方法が見つかれば、第4期、第5期に向けた一つのロールモデルとして確立できるほど画期的なことになると思います。ベンチャーを立てて新しいビジネスモデルをいきなり始めるスタイルは海外でよく見られますが、今の事業基盤を大きく壊さずに連携する形で新しいマーケットやビジネスモデルをつくっていく、いわば日本流のやり方でこれが実現できれば、非常に画期的だと考えています。
このプロジェクトは本当に稀有だと思っています。一般的には、研究は研究で終わり、事業はゼロから考えるという形で終わることが多く、その間には距離があります。しかし今回は、研究・開発・実装・継続までを同じメンバー、同じチームで繰り返し、最後まで責任を持って取り組むという点が非常に画期的です。民間として最初から参加することで、現場で本当に使えるか、社会にとって本当に必要か、ビジネスになるかを初めから考えながら進められることも、大変ありがたいことでした。与えられたものをどう使うかではなく、自分たちで一緒に考えていける、非常に面白い機会だと感じています。
ただ、この試行と失敗の往復は、言葉にすると綺麗ですが、立場も思想も異なるメンバーで構成されているため、本気でぶつかり合うことも多く、正直大変です。それだけに非常にやりがいがありますし、私自身も大きく成長できたプロジェクトだと感じています。
今後の展望
このプロジェクトをきっかけに、どのように社会実装を展開していきたいとお考えですか。
今後の展望は段階的に考えています。まず秋以降に立ち上げる研究会を通じて、大和ハウス以外でも使える形に昇華させていく段階があります。私たちの団地だけでも一定の規模がありますが、全国のデベロッパーが持つ5ヘクタール以上の団地は多数あり、URさんだけでも1,400箇所ほどあります。5ヘクタール未満も含めればさらに多くの数になり、日本の総人口の15%が団地に住んでいるとされているので、この規模をターゲットにできると考えています。さらにその先には、地域に根差した活動を行う方々を、全国レベルで束ねて活動を普及させていく構造を考えており、現地のLCM法人と、それを全国でコントロール・情報提供する全国組織という二段構えの体制を検討しています。
今言われたように、現場が広がるにつれて、異なるタイプの地域やコミュニティもカバーするようになっていくと思います。これはアメーバのようにどんどん広がりながら進化していく、まさに河本さんが言われたエコシステムです。プロダクトは固定したものをつくって終わりですが、これは生き物のようにどんどん発展していく点が、私たちが狙っているところであり、それゆえの難しさもあります。社会実装された先には、姿を変えながら、事業モデルも進化しながら、新しい事業者を取り込みつつ様々な地域に広がっていく、というイメージを描いています。

他分野への展開可能性
官民連携の研究成果を社会実装するこのモデルを、他の分野に広げていく可能性について、お伺いできますか。
この取り組みのポイントは、プラットフォームとして様々な事業者や住民、地域の方々が知見やデータを重ねて積み上げていけるかどうかというチャレンジにあると考えています。インターネットの世界では、海外のビッグテックを中心にすでにプラットフォームが存在していますが、日本がインターネットではない実社会の場で、そうしたプラットフォームの主導権を握って確立していけるかどうかが問われています。官民連携の研究成果をさらに発展させ、このプラットフォーム指向のロールモデルをうまく確立できれば、多くの分野で再現可能な、戦略的に広げられる大きなフレームワークが生まれることを期待しています。
コンサルティング会社に今後期待する役割
当社のようなコンサルティング会社に、官民連携や社会実装のプロセスにおいて今後期待する役割はどのようなものでしょうか。
官民連携を進めようとすると、誰がどの責任でこの事業を引き継ぐのか、継続していくのかが曖昧になりがちです。ここをしっかりと構造化・整理し、立場の異なる関係者が同じ絵を見られるようにすること、それを翻訳していただくことに今後も期待したいと思います。加えて、議論が熱くなり視野が狭くなったときに、一歩引いた第三者的な視点で問いかけを投げていただけることも非常にありがたく感じています。今後も伴走者として、率直な壁打ちの相手としてお願いしたいと思います。
私も中野さんの意見に全く同感です。複数のステークホルダーをつなぐ「のりしろ」になるようなイメージだと思います。今は余裕があって歩み寄れていますが、これから真剣に問題に取り組んでいくと、既存の競争領域と協調領域がなかなか分離できないような、ぶつかり合う場面も当然出てきます。そうした場面でも、対話的な問題解決や、今ではなく将来をデザインするという取り組む姿勢の強みを活かして、なかなかつながらないところをつなげていってほしいと期待しています。

このプロジェクトを一言で表すと
このプロジェクトを一言で表すとしたら、どのような言葉になりますか。それぞれの思いを聞かせてください。
私にとっては「コミュニティを仕組みで育て直す」ことです。団地でも都心でも市街地でも、人とつながりを勘や経験、熱意だけに頼ることなく、仕組みとしてしっかり支えていく。それがこのプロジェクトの本質だと感じています。
私は「みんなの思いを形にするプロジェクト」だと思っています。産総研の皆様、大和ハウスの皆様、そして地域に暮らす生活者の皆さん、この仕組みが完成した後に将来関わるであろう皆さんまで、多くの方々の思いが詰まって、この活動が続けられてきたと感じています。その思いを形にして地域の人々とつながり、つながりを広げていくこと。その先に将来の社会や産業をリデザインし、新しいものをクリエイトしていくこと。それがこのプロジェクトのミッションだと考えています。
皆さんが語られたことは本当にその通りだと思います。これは、『「私」が「私たち」になること』を目指しているのではないでしょうか。たまたまその人がそうなるのではなく、仕組みや環境が自然に、各人が私と思っていたものが私たちになっていくようにする。「私」が「私たち」になったとき、見えている世界そのものが変わるはずです。暮らしや社会が、今までとは違う風景として見えてくる。それは未来へのトランスフォームの一つのあり方だと思います。社会が突然変わるのではなく、「私」が「私たち」になることによって変わっていく。その未来の姿をこれからも皆さんと語り合いながら実現していきたいですし、それを支える仕組みをつくっていきたいと思います。

官民連携・事業化に取り組む方々へのメッセージ
最後に、これから同様の官民連携や事業化に取り組む方々へメッセージをお願いします。
完璧な正解を持たずに、失敗を恐れないでほしいと思います。ありきたりかもしれませんが、現場で試しながら育てていくことが大切です。私たちもここに至るまで多くの失敗をし、迷走もしてきました。しかし失敗も含めて現場で培ってきたことを回し続けたからこそ、見えてきた景色があると思っています。官と民は立場が違いますが、そこを対立させるのではなく、うまく掛け合わせてほしい。異なる倫理観や価値観を持っているからこそ生まれるものがあると信じて、積極的に同じ絵を見て、同じ世界観、同じ夢を見てチャレンジしてほしいと思います。
私も、違いこそが強みになるという考え方に賛成です。掛け算にしていくには、それぞれの強みの違いが良い相乗効果をもたらすことが大切です。対立が起こるのは、「官はこうだろう」「民はこうだろう」という思い込みがあり、見ている世界が古いままだからだと思います。対話的な相互作用を通じて、相手も自分も変わっていく。違いを強みとして生かしながら協業することで、お互いが進化していく。官も民も、共に進化していけるはずです。また、事業者同士が進化し合いながら次の未来につながることが、日本ならではのトランスフォーメーション、産業構造変革になるのではないでしょうか。進化を恐れず、これまでの自分が思っていた世界や事業をリフレームしていくつもりで、相互作用してほしいと思います。
本村先生がおっしゃった対話的なアプローチについて、私も同じように感じています。異なる考え方や価値観を持つ人たちがぶつかる中で、対話によって生み出されるものがあります。イノベーションとは、ゼロから何かを生み出すことではなく、今あるプレイヤーやアイデア、知識、経験の組み合わせから生まれるものだと思います。異なる人たちとの対話や共創の中から、イノベーションが生まれてくる。そのためには、自らが変わらなければ何も変わりません。自らが変わることへの怖さを克服し、前に進むチャレンジができるかどうかがポイントです。私たちも、異なるものをつなぎ合わせる役割として力添えできれば幸いです。
素敵なメッセージをありがとうございました。
