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Insight
インタビュー

【お客様事例】ヤクルト本社のサステナビリティ推進部が挑む、水資源管理と生物多様性の実装

~「水」を起点に、事業の強靭性を高める~
2026.03.30
写真左から
NTTデータ経営研究所 社会・環境システム戦略コンサルティングユニット マネージャー 青木 幸
株式会社ヤクルト本社 サステナビリティ推進部 気候変動対応推進課 課長 塩野 泰大氏
株式会社ヤクルト本社 サステナビリティ推進部 気候変動対応推進課 担当課長 伊藤 涼太氏
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NTTデータ経営研究所は、1991年の設立以来、サステナビリティやヘルスケア、地方創生といった様々な領域の社会課題の解決や、企業変革の支援に向けたコンサルティングを行っています。戦略の立案からプロジェクトの実行支援、新規事業の開発から実証までを一気通貫でお客様に伴走し、未来への道筋を照らすことで、お客様と共に新たな価値の創造に取り組んでいます。【お客様事例】では、そのようなお客様と当社の共創プロジェクト・ストーリーをご紹介しています。今回は、株式会社ヤクルト本社との水資源管理と生物多様性の実装プロジェクトです。

ヤクルトグループ(以下、ヤクルト)は、株式会社ヤクルト本社を中心として、世界40の国と地域で販売する乳酸菌飲料を中核に、乳製品、化粧品、ヘルスケア事業などを展開するグローバル企業です。2021年に策定した「ヤクルトグループ 環境ビジョン」を契機に、同社は「気候変動の緩和と適応」、「持続可能なプラスチック容器包装の推進」、「持続可能な水資源管理」、「生物多様性の保全」を環境に関する重要課題(マテリアリティ)として設定し、対応を進めています。本稿では、同社サステナビリティ推進部のキーパーソンである塩野泰大氏、伊藤涼太氏、NTTデータ経営研究所 社会・環境システム戦略コンサルティングユニット マネージャーの青木 幸が、水管理計画と海外工場での水リスク調査の全体像、得られた成果、そして今後の展望を語ります。

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事業概要と体制強化:環境対応からサステナビリティ推進へ

ヤクルトは、乳酸菌飲料をはじめとする製品を日本を含む世界40の国と地域で提供し、健康価値を届ける企業として知られています。その事業基盤は、実は自然資本に強く依存しています。

ヤクルト本社サステナビリティ推進部 気候変動対応推進課長の塩野氏は次のように語ります。

「2021年にヤクルトグループとして2050年を視野に入れた環境ビジョンを策定しました1。その達成に向けて『環境対応ワーキングチーム』を設立し、さらに広報室 CSR推進室と統合してサステナビリティ推進部を編成しました。これにより、環境課題だけでなく、人権や責任ある調達など、より広範な社会課題に対応できる体制が整いました」

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同社では、当初のマテリアリティは「気候変動」「水」「プラスチック容器包装」の3項目を設定していましたが、2025年5月の中期目標見直しにより、「生物多様性の保全」が追加されました2。現在は、両氏の所属する気候変動対応推進課では、「気候変動の緩和と適応」「持続可能な水資源管理」「生物多様性保全」の3つのマテリアリティを担当しています。

1 株式会社ヤクルト本社Webサイト「ヤクルトグループの環境ビジョン2050

2 株式会社ヤクルト本社 Webサイト「ヤクルトグループのマテリアリティ(重要課題)の特定

食品業界の構造的課題:原材料としての「水」の重要性とリスク

乳酸菌飲料をはじめとする製品を製造するヤクルトにとって、水は重要な原材料の1つであり、製品の品質確保と安定供給に欠かせない基盤です。水以外の農産品も含めた原材料は自然環境に依存しており、気候変動や水不足が顕在化する中で、世界中で安定的な生産と品質を維持するためには水資源の確保とサプライチェーンの強靭化が不可欠です。

ヤクルト本社サステナビリティ推進部 気候変動対応推進課 担当課長の伊藤氏は以下のように指摘します。

「自然由来の原材料を多く使用する当社は、自然資本の課題に社会的注目が集まる前から、世界的な農畜産物の不作や異常気象の影響などを通じて自然資本の重要性を肌身に感じてきました。こうした課題は、当社にとって単なる環境問題ではなく、事業継続に直結するリスクです」

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こうした認識は、近年注目される「自然資本」や「生物多様性」の概念とも重なり、企業の情報開示要件や投資家による評価にも大きく影響する領域として注目を集めています。

水管理計画の策定や海外工場での水リスク調査からなる本プロジェクトを担当するNTTデータ経営研究所 社会・環境システム戦略コンサルティングユニット マネージャーの青木は以下のように説明します。

「現在、企業における自然資本関連の取り組みでは、まず、事業と自然資本の関わりを明確化することが重要視されています。そのうえで、自然資本を保全することで得られる機会や、利用が困難になることによるリスクを把握することが求められています。特に食品・飲料業界では、自然資本の中でも特に水との関わりが強く、事業に不可欠な原材料であるため、各社とも水資源の量と質の安定的な確保を重視しています。本プロジェクトの具体的な焦点は水リスクであり、事業活動に影響を与え得るリスクの詳細な把握と具体的な対応策を策定することがポイントでした」

ヤクルトでは、この水リスクへの対応に特に注力しており、他社と比較してもリスクの特定と対応策の策定を徹底している点が特徴です。

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協働の起点:水管理計画を「机上」から「実装」へ

同社は、2021年に環境ビジョンに「水」をマテリアリティとして設定したことを受け、水管理計画の策定に着手しました。しかし、当初は「何から始めるべきか」が抽象的で、十分な指針を得にくい状況でした。そこで、かねて環境ビジョン策定時から同社への支援を行っていたNTTデータ経営研究所に相談し、グローバルな水管理計画の策定を目的とした協働プロジェクトが立ち上がりました。

本プロジェクトを支援した青木は、当時の取り組みについて次のように振り返ります。

「まずは『水』の使用状況や想定されるリスクを踏まえて目標を設定し、現状とのギャップを分析したうえで、必要な取組をマイルストーンに落とし込みました。加えて、工場内の節水に止まらず、地域の規制や生物多様性、ステークホルダーからの評判といった流域全体の視点を組み込み、工場の内外双方からリスクを捉えて対応する枠組みを構築しました」

このアプローチにより、同社の水管理計画は工場単位の「節水目標」などの部分最適から、流域全体で事業継続性を担保する全体最適の包括的な計画へと進化しました。

海外工場での水リスク調査:現地対話の重要性

コロナ禍でオンラインのやり取りが一般化した時期でもあったため、同社では、当初は机上調査やオンライン会議、アンケートによるリスク調査で十分ではないかと検討しました。しかし、最終的には現地の水管理業務に携わる工場担当者、外部のステークホルダーとの直接対話でしか得られない情報があると判断し、インドネシアを皮切りに現地調査を開始し、これまでに6カ国で実施しました。

伊藤氏はこう振り返ります。

「実際に現地に行って訪問調査をすると、リスクが低いと見ていた内容の課題が顕在化するなど、現地での確認はやはり不可欠でした。逆に、訪問調査前はリスクが高いと懸念された内容が、現地では十分な対策が取られていたケースもありました。本社からの押し付けのような形にせず、現地を一緒に見て議論することで、本社と現地が同じ目線でリスクを共有できるようになったことは、最大の成果の一つです」

海外の現地調査の様子

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具体的な成果:実行に向けたツール化、現地スタッフの意識醸成、情報開示対応力の向上

本プロジェクトの成果について、塩野氏は次のように語ります。

「2030年の環境目標達成に向けて、体系的な取り組みを進めるためのツールを得ることができました。各工場で具体的な取り組みをイメージしやすくなり、リスクに対する共通認識が社内で形成されています。現地社員からも『知らなかったことを知れてよかった』という声があります。また、CDPなどのESG情報開示にも対応できるようになりました3

同社は、こうした地道な取り組みが評価され、2025年度のCDP「水セキュリティ」分野において、最高評価の「Aリスト」に選定されました。

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青木は、現地スタッフの意識醸成の成果として、ブラジルを例に挙げます。

「事前のやり取りと現地でのディスカッションを通じて、ネイティブスタッフが水の緊急対策計画のドラフトを自発的に作成し始めました。支援の目的の一つである自律的な行動への転換が具体的に見えた瞬間でした」

3 株式会社ヤクルト本社 Webサイト「ヤクルトグループの持続可能な水資源管理

支援の価値:表層から真因へ、実行可能性まで伴走

塩野氏は、NTTデータ経営研究所との協働の価値を次のように総括します。

「単発の工場単位での節水や国内中心のBCP対応に留まっていた水の取り組みに、工場の外の上流下流も含めた流域全体の視点や、規制や評判、生物多様性などの多様なリスクへの理解を深めてもらいました。自社事業の中でそれらがどう存在して何をするべきかをわかりやすく構造化してくれたことが成果として大きいです」

伊藤氏は、技術的な面での伴走を評価します。

「公開されている『水』リスク評価ツールとそのデータベースの解釈、各国の水資源政策や各種法令の最新動向の調査など、細部まで手厚く支援いただいています。当社だけでは理解が難しい点を補完いただき、理解度と対応力が着実に高まっています。一緒に現地を見て回った関係性の中で、こうした社内外の状況を踏まえて議論ができることもありがたいです」

青木は自身の支援姿勢をこう語ります。

「2つのことを特に大切にしてきました。1つは、計画策定における現場理解の重要性です。机上で整った計画でも、現場に根ざしていなければ実行されません。水管理計画を表面的なものとするのではなく、現地の運用実態に基づいてリスクを特定し、実行可能な対応策の方向性まで現地で合意形成することを重視しています。もう1つは、『水』リスク調査の深度と精度の確保です。多くの企業は公開ツールや簡易アンケートで『水』リスク調査を行っていますが、これでは潜在的なリスクを見逃す可能性が高く、本当に対応すべき重要なリスクの見極めが困難です。本プロジェクトでは、事前調査を基にリスクの具体的な仮説を設定し、現地訪問・ディスカッションを通じて検証することで、見えていなかったリスクを徹底的に洗い出し、実効性のあるリスク特定と対応策の策定を行うことを重視して支援させていただきました」

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今後の展望:『水』リスクへの具体的なアクションの実装、自律的な推進体制へ

塩野氏は今後の焦点を「アクションの実装」に置きます。

「調査で把握した『水』リスクに対し、各工場が正確に理解したうえで具体的な対応に進むことが今後必要になります。NTTデータ経営研究所には、これまで現状を共に見てきた知見を踏まえ、より広い視野の提案を期待しています」

伊藤氏は、組織面の成熟を見据えます。

「理想は、各工場が水リスクの見直し・課題抽出・対応を自律的に回せる体制に移行することです。水を切り口に、サステナビリティの考え方を現地の取り組みに組み込む動きをさらに広げていきたいです。地域のステークホルダーの皆さまとのつながりについては、当然、本社にいる我々よりも現地スタッフの方が強く感じており、どのような社会貢献をできるのか考えて取り組んでいます。今回のプロジェクトでは、その中に、水を切り口としたサステナビリティの考え方を入れていくものです」

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サステナビリティ領域は水に留まりません。人権や責任ある調達など、企業に求められる範囲は拡張し続けています。

伊藤氏は次のように見据えています。

「TNFDや将来のSSBJ(Sustainability Standards Board of Japan)基準 などで生物多様性の開示要件が必須となる時代に備え、耐えられる企業体制を今のうちに構築する必要があります。制度開始を待って着手しても、おそらく間に合いません。外部動向を的確にキャッチし、現状把握→リスク特定→施策実装のサイクルを拡張していくことが重要です」



ヤクルトの取り組みは、机上の計画から一歩踏み出し、現地での対話と共通認識を起点にリスクを再定義し、実行可能な計画へと落とし込む点に特色があります。水という地域との共有資源に対して、工場内・外の両面から持続可能性を担保する試みは、事業のレジリエンス強化と地域社会との共生の両立をめざすものです。

同社は、次のフェーズとして、各工場での具体的アクションの実施と自律的運用の定着、そして、水から広がる人権、調達、生物多様性への視野の拡張を想定しています。グローバルに広がる生産拠点を抱える同社が、現地の実態に根差したサステナビリティの実装に挑み続けることは、食品業界全体にとっても重要な取り組みとなるでしょう。

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TOPInsightインタビュー【お客様事例】ヤクルト本社のサステナビリティ推進部が挑む、水資源管理と生物多様性の実装