1 はじめに
昨今、メタバース分野への参入企業が増え、ゲームなどのエンタメに留まらずバーチャルショップなどの小売、通信、金融、製造などにまで広がっている。他方、Web3分野への関心の高まりに合わせてNFTコンテンツの流通も増加傾向にあるが、その一つ一つが必ずしもメタバースと密接に関係しているわけではない。そこで本稿では、両分野の普及が進む中においてこれらを掛け合わせた顧客体験は今後どうあるべきかについて考察をしていく。
2 現状整理
(ア)メタバース分野の動向(バーチャルショップ)
まず始めにメタバース分野の動向として、バーチャルショップの主だった事例を見ていく(図1)。
【小売】
大丸松坂屋※1は、食品3Dモデルやバーチャルカタログによって商品の形状や詳細を確認できるようにするだけでなく、座敷席の設置により店舗を長時間過ごせる場として構築した。
【通信・金融】
ソフトバンク※2は3D化されたスマホを店舗内に展示。360度から確認できるだけでなく、AR表示によって購入前にサイズ感やカラーなども確認できるようにした。
【メーカ】
日産※3では電気自動車を利用した生活の疑似体験をゲーム形式で提供した。
このようにバーチャルショップは単にリアル商品をバーチャル空間で販売する場としてだけではなく、現実社会の代替環境としても活用され始めている。
図1| バーチャルショップに関する各業界の動向(抜粋)
出所| BEAMS https://www.beams.co.jp/company/pressrelease/detail/645
https://www.beams.co.jp/company/pressrelease/detail/576
東京海上日動 https://www.tokiomarine-nichido.co.jp/company/release/pdf/221226_02.pdf
ナイキ https://nike.jp/nikebiz/news/2021/11/22/4956/
上記を参考にNTTデータ経営研究所にて作成
(イ)Web3分野の動向(NFTコンテンツ)
次にWeb3分野の主なサービスとしてNFTコンテンツの動向を見てみよう。NFTコンテンツは多様な形で流通している。
【アート】
手塚プロ※4は、公式NFTプロジェクトにて「鉄腕アトム」のジェネレーティブアートNFT1000個や、1点物のモザイクアートNFTを販売した。
【音楽】
Studio ENTRE は※5、同社のNFTマーケットプレイス「.mura」とデジタル・クリエイティブフェスの「イノフェス」とのコラボにおいて、ミュージシャン・音楽プロデューサーの小室哲哉氏による音楽制作パフォーマンスを販売した。
【映像】
電通は※6他社と共同でアニメなどの映像作品IPの動画をNFTトレーディングカードとして発行するサービスの企画、開発を共同で推進していくことを発表した。
このようなNFTコンテンツを所有する目的※7としてはコレクションや値上がりによる利益というケースが多いが、一部ではコミュニティへの参加に用いるというケースもある。
(ウ)メタバース × Web3の動向
では、メタバースとWeb3が組み合わさった場合ではどうか。この分野では、DecentralandやThe Sandboxといったプラットフォームが先行事例としてあげられる。また、これらのプラットフォーム上では実際にNFTコンテンツの提供も行われている。例えばコカ・コーラは※8、制作したNFTコレクターズアイテムの一部をDecentralandでも着用可能としている。またグッチ※9はThe Sandboxにワールドを開設し、更にマーケットプレイスにてアイテムを販売した。
このようにメタバース分野とWeb3分野での企業の取り組みが加速する一方、消費者側はそもそもメタバース空間での顧客体験に対してどのようなニーズを持っているのだろうか。この点、当社が行ったバーチャルショップに対する意識調査から確認していこう。
3 バーチャルショップに関する意識調査
当社は2022年12月にバーチャルショップに関する意識調査※10を実施。バーチャルショップの認知度や利用状況、現在の課題と今後に向けた改善点を分析した。調査の結果、調査対象者の約3割がバーチャルショップを認知しており、そのうち約半数は実際にバーチャルショップを活用したことがあることがわかった。また、利用者からの評価としては利用者の約9割は継続利用の意向を示しており、その理由としてVR等で商品イメージが沸きやすかった、ショールーミング的な楽しみ方ができた、商品で他プレイヤーと差別化できた、といった回答が上位を占めていることがわかった。このように、ほとんどの利用者は現状のバーチャルショップに好意的な印象を持っており、メタバース空間独自のバーチャル体験も楽しめていたことが伺える。一方で今後の期待としては、オンライン接客品質の改善やイベントの企画や取り扱い商品の幅だしといった回答が多くを占めており、ハード面が一定水準に達しつつある分、ソフト面への期待がより浮き彫りになった結果と見受けられる。
4 メタバース×Web3の目指す方向
前述の取り組み状況や調査結果を踏まえ、将来的にメタバース空間でWeb3サービス、とりわけNFTコンテンツが展開されていくためには3つの論点があると考える(図2)
① メタバース生活の質を上げるコンテンツとなり得るか
NFTをコレクションや資格といった所有目的のアイテムだけではなく、例えば車や家や遊具といったように、メタバース空間で過ごす時間を有益にするアイテムにまで幅だしできるかが市場拡大には重要となる。
② プラットフォーム横断可能なコンテンツとなり得るか
現状、複数のNFTマーケットプレイスやメタバースプラットフォームが点在しているが、これらは将来も統一されずに個々の特性を生かして共存していく形となるだろう。その場合、利用者である消費者は複数の空間を行き来しながらバーチャル空間を楽しむスタイルがスタンダードとなるため、空間横断で利用可能なアバターやアイテムを提供できるかがカギとなる。
③ プレゼンス(知名度など)の証となり得るか
メタバース空間で過ごす時間が増えると、そこに大きなコミュニティができ、個人間でサービスが生まれ、それらを仲介する役割ができ、やがてそれら一体が産業となっていく。こうした未来にあっては、個々人の信頼性が重要となる。そのため、一定のプレゼンスを持つ個人に対しては、プラットフォーム独自の公式NFTを所有させるようにし、バーチャル空間内での被害を防ぐといった使い方も考えられる。また将来的にはメタバースで有名になったユーザが現実世界で逆輸入するような形で活動するといったケースもあり得るため、そうした時にも、この公式NFTは有効となるだろう。
図2| メタバース×Web3(NFT)の発展に向けた論点と活用仮説
出所| NTTデータ経営研究所にて作成
メタバース分野とWeb3分野は今後ますます進化を遂げ、我々の生活に根差したサービスとなっていくだろう。その進化の方向性が利用者にとって理想的な形であることを期待したい。
※1 大丸松坂屋百貨店コーポレートサイト (daimaru-matsuzakaya.com)
※2 メタバースモールアプリ「メタパ®」にソフトバンクショップがオープン~AR表示された実物大のスマホをさまざまな角度から確認して購入可能!~ | 企業・IR | ソフトバンク (softbank.jp)
※3 https://global.nissannews.com/ja-JP/releases/221205-01-j
https://global.nissannews.com/ja-JP/releases/220520-03-j
※4 手塚治虫初のデジタルアートNFT作品1000点が約1時間で完売!|double jump.tokyoのプレスリリース (prtimes.jp)
※5 小室哲哉のステージパフォーマンスがNFT作品に!10月10日開催の「イノフェス」とNFTマーケットプレイス「.mura」がコラボ決定|Studio ENTRE 株式会社のプレスリリース (prtimes.jp)
※6 電通、動画NFTトレーディングカードサービス提供に向けた共同企画・開発をオルトプラス、アクセルマークと推進 - News(ニュース) - 電通ウェブサイト (dentsu.co.jp)
※7 調査結果 (caa.go.jp)
※8 「コカ・コーラ」が初のNFTコレクターズアイテムのオークションを国際フレンドシップ・デーに開催 | プレスセンター | 日本コカ・コーラ株式会社 (cocacola.co.jp)
※9 Gucci VaultがThe Sandboxで初登場! (sandboxgame.online)
※10 https://www.nttdata-strategy.com/newsrelease/230206.html