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情報未来

Web3を契機としたゲーム・エンタメの産業モデルの転換

No.71 (2023年3月号)
NTTデータ経営研究所 ビジネストランスフォーメーションユニット クロスクリエイショングループ長 アソシエイトパートナー 河本 敏夫

総務省を経て、現職。中長期の成長戦略立案、新規事業開発、産官学連携、異業種連携、DXを得意とする。スポーツ・不動産・メディア・コンテンツ・教育・行政情報化・街づくりなど幅広い領域で活躍。早稲田大学スポーツビジネス研究所招聘研究員。Sports-Tech & Business Labの発起人兼事務局長国内外のスポーツ、エンタメ産業のテクノロジー活用に詳しい。

1 ゲーム・エンタメは、Web3が既に実現している世界

Web3の特徴は、以下の3つで捉えられることが多い。

  • 「誰もが世界中から資金や人材を容易に調達でき、多様なステークホルダーがプロジェクトにコミットするコミュニティ形成(インセンティブ/富の再分配の設計)が可能になる」
  • 「現在のGAFAのようなデータ集約的なビジネスモデルが大きな転換点を迎え、デジタルビジネスのパワーバランスが変わる」
  • 「Web3がxR技術と掛け合わされることにより、仮想空間/ オンライン上で仮想通貨や トークンなどで何等かの価値交換を行えるメタバースが実現 • デジタル空間上でリアル空間と同レベルの活動を自由に行える新たな経済圏が出現する」

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ゲーム・エンタメの世界では、これら3つの特徴が既に実現していることに注目すべきだろう。

Fortnite(フォートナイト)はエピックゲームズ社が開発・発売している、約4億人のユーザを誇る世界最大級のオンラインゲームだ。ユーザが増えるにつれてゲームを楽しむためだけなく、コミュニケーションの場として利用され始めた。今では、ライブや映画の上映会などのイベントも開催され、さまざまな体験や交流も行うことができるメタバース(仮想世界における生活・コミュニティ空間)へと変貌を遂げている。プレイヤー達の主な目的は、ゲームではなく、そこに行って友人や他のプレイヤーと交流を深めることとなっている。

Decentraland(ディセントラランド)は、イーサリアムブロックチェーンをベースとしたVRプラットフォームで、メタバース内でゲームをしたり、アイテムやコンテンツを作成・売買することが可能だ。「LAND」というメタバース内の土地を保有・マネタイズしたり、NFT化したアイテムをメタバース内で取引することもできる。

まさに多様なステークホルダーが主体的に場を作り、運営するコミュニティであり、デジタル空間上で価値交換やリアル空間同等の活動が行える経済圏であるといえる。

これらは、現在は3DCGを使った平面的な仮想空間での出来事だが、今後通信技術が発達し6G、7Gと進化し、ゴーグル型デバイスの軽量化やVR酔いの解消、VR環境を自然に使いこなす世代の社会進出が進むことによって、より現実世界の再現性の高い立体空間でのサービスが一般化するようになるだろう。

かつてのセカンドライフを引き合いにだして、一時のブームで終わるのでは?と訝しむ声、ゴーグル装着の違和感を指摘し、将来性を否定する声は多い。しかし、かつてスマートフォンが登場した際に一流の経済紙が批判的な見解を示していたことを考えれば、評論家的視点で日和見ばかりもしていられない。

映画「マトリックス」や「サマーウォーズ」、「竜とそばかすの姫」は、メタバースの世界を描いたものだが、あのような世界が実現する日も近いのではないだろうか。

2 スポーツビジネスでもWeb3化が進む
~ファントークン、NFT、DAO~

エンタメ産業の一翼としてスポーツの世界に目を転じてみよう。ファントークンとは、プロスポーツクラブなどが発行するブロックチェーン技術を用いたトークンのことで、ファントークンの保有者にはクラブ運営に関与する権利やVIP利用などの権利が付与される。海外では、パリ・サンジェルマンやユベントスなどの大勢のクラブチームが「Fan Token Offering」を通じてファントークンを発行している。

日本でも、サッカーJ1リーグ所属の湘南ベルマーレが、NFTを活用したクラブトークンを販売し、トークン保有数を活用したMVP選手投票企画や選手への応援メッセージ投票などを行うほか、トークン保有者の特典として、支援者専用のVIP席で試合を観戦できる権利などを設けている。

DAOは、トークン保有者による自治を行う組織・コミュニティを表す概念だが、アビスパ福岡は、今年「スポーツDAO」プログラムを発足している。DAOの参加者には、トークンが配布され、保有トークンを使ってアビスパが考案したプロジェクトへの意見やアイデア出し、投票による意思決定に参加できる。

このように、スポーツビジネスの世界では、トークンエコノミーやNFTなどの活用によってファンとチーム・クラブとの新たな関係を構築しようとしている。これはビジネス的にも重要な転換であり、従来のような大箱で興行を行い、観客を集めて、広告を取るという「箱型ビジネス」の戦い方に留まらず、ユーザの余暇消費の可処分時間を奪い、希少価値をマネタイズする「時間価値ビジネス」の戦い方が重要になっている。DeNAやメルカリなどデジタルビジネスのプレイヤーがスポーツ市場に参入しているほか、アマゾンやサイバーエージェントが巨額資金を投じてスポーツ興行の放映権を獲得していることを鑑みれば、その意味もわかるだろう。

図1| スポーツビジネスの「ゲームチェンジ」

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3 「ゲームチェンジ」と「ビジネス機会」

Web3は、GAFAが覇権を握る産業・経済システムへのアンチテーゼで語られることも多い。GAFAが凋落するかどうかは別として、ビジネスの競争ルールは大きく変わっていくだろう。Web3では、クリエイター中心、合意形成システム中心のモデルになると言われており、コンテンツの面白さ・希少性、現実にはない自由度、合意形成・分配ルールの合理性を提供できるプレイヤーの影響力は増す。

たとえば、任天堂、ディズニー、マーヴェルのようなコンテンツホルダー、個人でも能力の高いクリエイター、一人で質の高いゲームや映像作品を作れる子供・若者、既に巨大なメタバースを運営するゲーム会社などが有力なプレイヤーだ。

もはやゲームやエンタメの世界のプレイヤーを、「所詮ゲームでしょう?」と高をくくっていることはできない。

ゲームコンテンツとして開発されたメタバース空間、コミュニティ・合意形成システムは、様々な産業のビジネスフィールドとなりうる。

たとえば、アバターを活用したファッションショー。高級ブランドのバレンシアガはフォートナイトの中とリアルの双方で同じアイテムを販売し、オンライン上でアバターに着用させたものをリアルで着用できる取り組みをしている。ドルチェ&ガッバーナ、ナイキもデジタル空間をショーケース・試着・ユーザとのコミュニケーションの場として活用している。

ほかにも、デジタルツイン空間上で都市計画のシミュレーションをする、学習履歴をNFT化して世界中で流通させるなどといった展開も実際に行われている。

将来的には、行政サービスの仮想空間上の窓口を設けたり、参加者同士で上下水道や公共施設の共同管理を行ったり、地球外惑星の所有権の管理を行うなんてこともあるかもしれない。

ビジネス機会を掴むためには、このような動きの先を読み、一歩先に先手を打つことができるかどうかがカギになる。

Web2.0までは、単にデジタルサービスの出口としてゲーム課金をしているに過ぎなかった。しかし、Web3を最も体現しているのがゲーム・エンタメの世界である。今後は、質の高いエンタメコンテンツの提供を起点にして市場の主導権を握ったプレイヤーが、ユーザとのコミュニケーションを通じて、幅広い産業分野と連携しコンテンツ開発が進んでいくようになるだろう。日本は世界屈指の「コンテンツ大国」であり、前述のような競争ルールの変化は世界で日本が覇権を握ることができるチャンスなのかもしれない。

図2| Web3における産業・経済モデルとは?

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Web3 の世界では、コンテンツの面白さ・希少性、現実にはない自由度、合意形成・分配ルールの合理性を提供できるプレイヤーが勝つようになる。

図3| ゲームと他産業との関わり方の転換

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Web2.0までは、単にデジタルサービスの出口としてゲーム課金をしているに過ぎなかった。しかし、Web3.0を最も体現しているのがゲーム・エンタメの世界である。今後は、

質の高いエンタメコンテンツの提供を起点にして、市場の主導権を握り、ユーザとのコミュニケーションを通じて、幅広い産業分野でのコンテンツ開発が進んでいくようになる。

※1 出所:デジタル庁Web3.0研究会第1回資料を基に筆者作成

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