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新時代への移行期における業界変革と再編

No.65 (2020年9月号)
NTTデータ経営研究所 企業戦略事業本部 ビジネスストラテジーコンサルティングユニット M&Aグループリーダー パートナー 人見 健
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HITOMI TAKESHI
人見 健
NTTデータ経営研究所 企業戦略事業本部 ビジネスストラテジーコンサルティングユニット
M&Aグループリーダー
パートナー

慶應義塾大学経済学部卒業後、メガバンク、会計系M&Aアドバイザリーファーム、戦略コンサルティングファーム、大手電機メーカー事業開発部門などを経て、2019年より現職。

M&A、M&A後の統合(PMI)、事業再生、グループ経営組織、海外事業戦略、新規事業創出、大企業とスタートアップ企業の協業などのプロジェクトに関わる。

米国公認会計士(ワシントン州)。公益社団法人日本証券アナリスト協会認定アナリスト。

コロナ・ショックの経済的損失は、リーマン・ショックを超え、経済の回復には2年以上の期間を要する可能性がある。また、各業界において淘汰される企業と生き残る企業が2極化していくだろう。企業にとっては一時的には痛みを伴うが、これは新しく生まれ変わるチャンスでもある。

「移行期」の日本における業界変革のトレンドは、「国内重点回帰」「デジタル化」「脱炭素」「アナログ体験価値の再認識」である。この変化を好機と捉え、大企業による事業ポートフォリオ再編、消費低迷による事業縮小・撤退、同業間の合従連衡と異業種連携、及びデジタル技術を活用した既存事業の強化と新規事業創出のためのM&A・業界再編が加速する。

不確実性の高い事業環境において生き残る企業とは、社会と調和した「真理に合った企業」なのである。

楽観視できないコロナによる経済への影響

コロナ・ショックの衝撃はリーマン・ショックを上回る

IMF(国際通貨基金)(2020年6月時点)によると、2020年通年の経済成長率(感染収束シナリオ)は、世界全体でマイナス4・9%、日本はマイナス5・8%と予測されている。日本では、リーマン・ショック後の2009年(マイナス5・4%)を上回る景気の悪化が見込まれている。

また、IMFは、2021年通年の経済成長率(感染収束シナリオ)として、世界全体で5・4%、米国4・5%、欧州6%、日本2・4%を予測している。中国、2020年は1%(前年比5・1%減)、2021年は8・2%と予測されている。

さらに、IMFは感染拡大シナリオ(感染第2波が発生するシナリオ)では、2021年の世界経済成長率は「ゼロ」を予測している。

なお、中国の2020年4月から6月の国内総生産(GDP)の実質成長率は前年同期比3・2%と二四半期振りにプラスに転じた。我が国の2020年6月の貿易統計では、中国向けが金額ベースで前年同月比0・2%減まで戻ってきており、日本の自動車産業などは経済回復の恩恵を受け始めている。※1しかし、米中の経済・外交問題や国内の自然災害、香港の民主化運動といった、地政学的リスクなどを考慮すると、中国経済の回復基調にはなお不透明感が残る。

コロナ後、直ちに経済回復せず、さらなる停滞の時代を迎える可能性

コロナ・ショックには、グローバルでの人の動きの制限、サプライチェーンの分断、さらには米中対立など自国優先主義がさらに高まるなど、世界経済の大きな構造変化をもたらした。

国内においては、中国生産に依存していた企業や、インバウンド消費や東京オリンピック需要に期待していた企業が、事業成長機会を大きく失うこととなった。企業は、国内生産・投資活動の停滞、消費の抑制により、業績予想と成長戦略の大幅な修正が求められている。

本稿の執筆時点(2020年7月下旬現在)において、コロナの第2波の懸念も高まる中、企業経営者は、日本経済の動向についてより悲観的なシナリオを持ちつつある。例えば、日本経済新聞社による「社長100人アンケート」によると、事業環境の回復に「2年以上かかる」との予測が55・8%を占めた。※2

また、企業の倒産件数も近年にない増加基調を見せている。2020年上半期(1月~6月)の負債額1000万円以上の全国の企業倒産は4001件(前年同期比0・2%)と、11年ぶりに前年同期を上回った。インバウンド消費の減少と外出自粛の影響を受けた宿泊業・飲食業を含む「サービス業」が1295件(前年同期比3・8%増)と最多で、5年連続対前年を上回った。※3東京商工リサーチは、2020年の倒産件数は7年ぶりに1万件を超えると予想している。

なお、企業の経営状況悪化に対する財政支出の発動は、緒に就いたばかりであり、効果が出ているとは言い難い。2020年4月、政府が閣議決定した2020年度一般会計補正予算案における緊急経済対策の実行の遅れが指摘されている。例えば、「事業継続に困っている中小・小規模事業者など」向けの持続化給付金の給付状況は、改善傾向にあるが、14日以内に給付された割合は61%となっており、※4迅速な経済支援策の実行が求められるところである。

加えて、2020年7月に発生した豪雨災害による経済的損失も、経済の回復時期を不透明にする要因である。

これらの状況を勘案すると、コロナ・ショックにより経済は2年以上の期間の停滞が見込まれ、本格的な回復は2022年以降となる可能性がある。

危機により淘汰が進む日本の各業界

株式時価総額は6か月間で約9%の減少

経済成長の鈍化の影響を受け、上場企業(東証第一部)の時価総額(2020年6月30日終値現在)は、2019年12月30日終値対比で9・2%減少した。

業種別に見ると、全33業種(日本証券取引所による中分類)の内、全業種の時価総額減少額に対する下落割合の上位10業種は、輸送用機器(製造業)、銀行業、卸売業、電気機器(製造業)、陸運業、不動産業、化学(製造業)、サービス業、建設業及び保険業である。株式市場の動きは、経済のファンダメンタルズ(基礎的条件:経済成長率、物価上昇率、財政状況など)に加え、上場企業の業績予想、投資家の投機的動機など、様々な要素が反映され、一概に語ることはできない。しかし、企業の業績トレンドに着目した場合、上位5業種の時価総額減少の主な要因は左記の通りと考えられる。

  • 輸送用機器: 主要企業である自動車メーカーの、主要市場である日本・米国・中国における販売台数の落ち込みやサプライチェーンの停滞などの影響
  • 銀行業: 本業の収益性の低下と融資先企業の経営状況悪化による与信費用の増加の懸念などの影響
  • 卸売業: 代表的企業である、総合商社の資源価格の低迷などによる減益予想
  • 電気機器産業: 自粛による消費抑制(B2C)及びエレクトロニクス、車載、産業用機器および関連部品などの国内外の需要減少(B2B)などの影響
  • 陸運業: 物流取扱数量の落ち込みおよび鉄道会社の旅客収入減少などの影響(図1)

なお、2020年3月期の業績発表及びコロナ禍による成長期待などを受け、時価総額が増加している業種も存在することは興味深い。医薬品産業は、2020年6月30日現在、2019年12月30日終値対比で7・5%、情報通信業は2・4%、時価総額が増加した。

コロナ禍において、2020年度の業績予想の公表を控えている上場企業も多いが、経済停滞の期間が長引くことで、さらなる株式市場へのマイナス影響は避けられない可能性がある。

図1|業種別株式時価総額の変化

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出所| 日本証券取引所グループ 市場第一部:2019年12月30日と2020年6月30日の終値比較

淘汰が進む業界

先が見通しにくい未曽有の危機に瀕し、企業の「淘汰」※5が進む。これは中小企業に留まらず、大企業であっても事業が大きく毀損し、財務体質がぜい弱な企業も例外ではない。コロナ・ショックを契機に淘汰が進むと見込まれるのは、外出や移動の自粛に伴う個人消費や国内外の生産活動の落ち込みなどによる影響を受けやすい業界である(図2)

図2|コロナ禍の影響で「淘汰」が進むことが見込まれる業界(例)

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出所| NTTデータ経営研究所

「淘汰」のすべてが「想定外」ではない

上述の「淘汰」は、すべてコロナ禍の影響によるものであろうか。必ずしもそうとは言えない。むしろ、各企業・業界における「構造的な課題」が、コロナ禍を契機に顕在化したのではないだろうか。例えば、アパレル業界では、リアル店舗のチャネルに依存し、デジタル化対応の遅れが指摘されていた。アパレル企業のレナウンは、高級紳士服の「ダーバン」や「アクアスキュータム」を展開していたが、2020年5月15日、東京地裁に民事再生法の適用を申請した。レナウンは、2010年に中国の山東如意科技集団から出資を受けたが、百貨店やショッピングモールに依存する事業構造から脱却できずに、2018年度、2019年度と2期連続最終赤字に陥っていた。またホテルは、オリンピックおよびインバウンド需要に期待し、全国主要都市で新規開業が相次いだが、その結果、コロナ禍前から客室稼働の低下と価格の下落が起きていた。

さらに、製造業や他の業界においても、国内の需要の伸び悩みを背景に、中国市場への傾倒やインバウンド需要を成長の源泉として期待していたが、サプライチェーンの機能不全や消費の大幅な減少に戦略修正を余儀なくされた企業は多い。

日本企業は、コロナ禍前より、国内市場の縮小を背景に、過当競争、過剰供給、海外市場の安易な依存などの課題を抱えていた。各業界は、コロナ禍を契機に、従来の成長戦略を見直し、真に事業構造を変革し、新しく生まれ変わるための「移行期」にあるのではないか。

「移行期」にある日本の業界変革
「国内重点回帰」「デジタル化」「脱炭素」および「アナログ体験価値の再認識」に注目

コロナ禍を「機会」として、新規事業の創出や国内の事業構造の変革に取り組んでいる企業も多数存在していることは興味深い。業界変革のキーワードとしては、「国内重点回帰」「デジタル化」「脱炭素」および「アナログ体験価値」の4点を挙げたい。

■ 国内重点回帰

海外市場との分断によるサプライチェーンの機能不全は、企業に国内供給・販売体制への重点回帰を余儀なくさせている。日本政府は2020年度補正予算において「サプライチェーン対策のための国内投資促進事業費補助金」として2200億円を計上し、海外の特定国に集中度が高い製品・部資材の供給途絶リスク解消のための生産拠点整備を支援している。例えば、アイリスオーヤマは、日用品や医療用品の中国生産依存の体制から脱却するために、2020年7月から国内での国産不織布マスクの生産を開始した。

また、国内事業の効率性の向上のため、販売チャネルの統合や生産拠点の最適化の動きはより一層進んでいく。例えば、トヨタ自動車は、2020年7月に北海道、宮城県、大阪府などの全額出資の直営販売会社5社を、地域のトヨタ系ディーラーに売却することを決定した。

■ デジタル化

外出自粛やテレワークの普及などの影響を受け、バーチャル体験の価値向上、非接触の実現、自動化や生産性向上のためのデジタル化などは一層進展する。例えば、小売、アパレル、金融(銀行、保険、証券)などの業界では、リアルとバーチャルの顧客接点の融合が進む。

また、従来デジタル化が遅れていた医療、教育、行政などの分野においても、遠隔医療、オンラインラーニング(授業)、電子行政サービスなどの導入を通じ、利用者の利便性向上と内部のビジネスプロセス改革が同時並行で進んでいる。

さらには近年、ビジネスモデルの変革に取り組んでいた製造業のモノづくり現場、物流、金融、電力ガス、農業などの業界においても、生産性向上や顧客接点の向上などのため、デジタル化が加速することが期待される。

加えて、これら各業界のデジタル化を支援するため、通信、IT(ネットワーク、ソフトウェア、ビッグデータ、AI、IoTなど)、コミュニケーション(会議システムなど)の分野において、既存企業及びスタートアップ企業の事業が活性化することが見込まれている。

■ 脱炭素

「脱炭素社会」への動きも進む。EU(欧州連合)では、コロナ禍の経済再生支援と環境政策を結びつける動きがある。日本の経済界でも、経済活動が停滞し、二酸化炭素排出量が減少している現在こそ「アフターコロナ」に向け、日本の優れた省エネ・環境技術を活かし、持続的社会を実現しようという機運が高まっている。例えば、経済団体連合会では、「経団連夏季フォーラム2020マニフェスト」※6において、「脱炭素社会実現への挑戦」を掲げている。

NTTグループのNTTアノートエナジーは2020年6月、三菱商事とスマートエネルギー分野での協業を発表した。また、中部電力グループのシーエナジーと、東芝エネルギーは、2020年5月、岐阜県高山市で地熱発電所の建設を公表した。さらに、関西電力は2020年7月、米国テキサス州陸上風力発電事業の権益の48 ・5%を取得することを発表した。「脱炭素」に向けた、企業の新規製品・事業開発の動きは、現時点ではとどまることはなさそうである。

■ アナログ体験価値の再認識

一方、外出自粛の長期化などの影響により、デジタル化ができない、アナログ環境の体験価値の再認識も進むのではないか。例えば、学校教育現場が代表例である。公立の小中学校におけるデジタル化導入の遅れが指摘されている。日本経済新聞の調査によれば、全国主要地区74自治体の内、83%の62自治体が、メーカー側の在庫不足や、自治体の財政難により、公立小中学校へのパソコンやタブレット端末の配備を完了しない見込みであることが判明した。※7さらに、外出自粛と休校により、子供たちが体調不良や疲労を訴えるケースも全国で報告されている。このような教育現場においては、教師と生徒、子供どうしの触れ合いが、子供の生育上、大きな影響を与えるのではないか。

また、デジタルとバーチャルの融合を進める消費者との顧客接点を持つ業種(小売、エンターテイメントなど)においても、「自粛疲れ」から、対面での顧客接点や顧客どうしのリアル体験の重要性が再認識される可能性もある。さらに、大企業においてもテレワークの得失が明らかになるにつれ、日本企業の組織の強みであった部門間の連携が失われているという声もある。企業にとっては、デジタルでもない、アナログでもない、「中庸の戦略」が求められていくであろう(図3)。

図3| 日本における業界変革のトレンド

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出所| 新聞・雑誌記事に基づき、NTTデータ経営研究所が分析

加速する業界再編

日本の各業界は、生き残りをかけて、業種を超えた再編が進む。当社M&Aグループが予測する、コロナ禍を契機に加速するM&A・業界再編のテーマは、以下の4点である。

■ 大企業による事業ポートフォリオ再編(事業売却)

日本の大企業は、伝統的に事業売却に消極的であった。しかし、終身雇用の撤廃やコーポレートガバナンス改革に加え、コロナ禍を背景に企業は抜本的に事業・組織変革を迫られており、今後大企業による子会社や事業の売却は増加する見通しである。2020年1月から6月に公表された日本の上場企業による子会社や事業の売却件数は139件と、過去10年間では最多を記録した。その背景には、2015年以降のコーポレートガバナンス改革で、企業が投下資本利益率(ROIC)を経営指標に定め、目標を下回る事業は撤退を検討するという「選択と集中」の動きが、新型コロナウイルスにより一層浸透しつつあることが考えられる。※8

リーマン・ショック以降、日立製作所、ソニー、パナソニック、東芝など、電機業界の各社がグループ事業の売却を率先して行ってきた。グローバルで企業の生産活動停滞の影響を受けている電機、機械業界、非関連事業を抱える食品会社やグループで事業の多角化が進む鉄道会社などが、その売り手候補となろう。2020年6月、オリンパスは映像事業を日本産業パートナーズに売却することを決定した。日本産業パートナーズは、ソニーのパソコン事業を買収した経験を持つ投資ファンドである。

現在、外資系・日系の投資ファンドが、日本企業のカーブアウト(事業・子会社の売却)案件に投資するため、資金調達を進めており、当面はこれら事業売却の受皿となる可能性がある。

今後、電気機器、機械、化学、食品、鉄道、航空などの業種において、カーブアウトが進むことが見込まれる。

■ 消費低迷による事業縮小・撤退

前述の通り、2020年下半期以降、小売、外食、アパレル、旅行などの業種において、消費低迷の影響によって淘汰される企業が益々増加する可能性がある。事業再生の困難な店舗は、倒産・廃業などの道を選択するが、独自性があり経営余力の残る店舗は他社の買収により規模拡大を狙っている。

外食業界では、ペッパーフードサービスが洋食店のペッパーランチをJ-STAR(投資ファンド)に売却し、大手のコロワイドが大戸屋に敵対的買収を仕掛けるなどの動きも見られる。

また、アパレル業界では、2020年7月、オンワードホールディングスがZOZOとデジタル技術を使った衣料品の製造販売で提携することを発表した。先に、民事再生法を申請したレナウンも含め、アパレル業界ではネットとリアルの融合がより一層進むと予測される。

■ 同業間の合従連衡・異業種との連携

広く産業への影響力を持ち、抜本的な事業再構築策を選択しにくい業種、例えば、自動車、鉄鋼、不動産、建設、金融(銀行、証券)などにおいては、生き残りをかけて同業間の合従連衡や異業種との連携が進む。

地方銀行は、同一域内や地域を超えたアライアンスや、SBIホールディングスなどの異業種との連携を進めているが、地方経済の長期低迷により、これら連携の動きはますます加速する可能性がある。

また、自動車業界においては、新車販売台数の落ち込みにより、完成車メーカーとて安泰な状況ではない。さらに、自動車部品サプライヤーも、世界での完成車販売の落ち込みの影響に加え、コネクティビティ(Connectivity:外部と接続機器を通じて繋がるクルマ)、 自動運転(Autonomous)、シェアリング(Sharing)、電動化(Electrification)(いわゆる「CASE」)に関する技術開発が遅れている企業も多く、コロナ禍を契機にいよいよ抜本的な再編と淘汰が進む可能性がある。例えば、東証一部上場のサンデンホールディングス(自動車用コンプレッサー製造)は、2020年6月、私的整理の一環である事業再生ADR(裁判外紛争解決手続)を申請した。同社は、今後、複数のスポンサー企業と資本業務提携を検討していく予定である。

さらに、電機業界においては、テレワークで需要が減少した事務機メーカーの先行きについて、投資銀行やファンド関係者の関心が集まっている。

■ デジタル技術による既存事業の強化・新規事業創出

デジタル技術による既存事業の強化と新規事業創出の動きは、全業種に及ぶと言っても過言ではない。以下、コロナ禍により進む「バーチャルとリアルの融合」に関わるM&A及びアライアンス(資本提携)事例を紹介する。

まず、サービス業においては、消費者の在宅時間の拡大に伴い、バーチャルとリアル環境を融合させた、医療、美容・健康、スポーツ、エンターテイメント(メディア・コンテンツ、ライブ・イベント)などのサービスが浸透していく。例えば、小学館は、2020年7月、ライブエンターテイメントの制作基盤となるソリューションを提供するLATEGRAへの出資を公表した。また、海外事例であるが、カナダのスポーツ衣料品メーカー、ルルレモン・アスレティカは、2020年6月、米国ミラー(自宅でフィットネス指導を受けられるサービスを提供)の買収を公表した。ルルレモンは、自社のスポーツ衣料品販売とのシナジーを期待している。

次に、製造業や建設業では、VR(仮想現実)、IoT、AIやロボットなど技術を活用し、検査、整備、製品評価、教育などの分野における遠隔操作業務が広がっている。カシワバラ・コーポレーション(プラント向けのメンテナンス提供企業)は、2020年7月、同社及び建設系ITスタートアップ企業への投資ファンドを通じ、センシングロボティックス(設備点検・災害対策・警備監視へのドローン活用の自動化技術を開発)へ出資した。

また、バーチャルとリアルの融合は、1次産業である農業にも普及しつつある。例えば、RegainGroup(ITを活用した営業支援)は、2020年7月、スマート農業支援のSenSprout(農業用IT機器の開発や農家の生産・販売・在庫管理業務のデジタル化)と資本提携し、バックヤード業務のデジタル化を支援することを公表した。

2020年4月後半に実施されたレコフの調査によると、コロナ禍の影響により回答企業の4割超がM&A案件の中止を余儀なくされたが、一方で2割がコロナ禍を好機と見て新たに買収検討を開始している。※9

これら最先端のデジタル技術の開発には、スタートアップ企業の技術力が寄与することも多い。コロナ禍を契機に、スタートアップ企業と大企業の「共創」活動がより一層進展することに期待したい(図4)。

図4| 生き残りをかけたM&A・業界再編の主要テーマ

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出所| NTTデータ経営研究所

「真理に合った」企業は生き残る

以上の通り、コロナ・ショックを契機に日本の伝統的な商習慣やビジネスモデルは変革を迫られ、事業変革のためのM&A・業界再編はより一層進展していくだろう。今後は、安定した事業環境のもと、将来性が「安泰」であるという業界は一つもなく、各業界において淘汰される企業と生き残る企業の2極化が進むと考えられる。

では、このような不確実性の高い事業環境において「生き残る」企業はどのような企業であろうか。もちろん、差別化できる強みやビジネスモデルがあることは必要条件である。しかし、デジタル化が進展しても変わらないものは何か。それは、「真理」というものである。不動産情報サイトを提供するLIFULLは、社是を「利他主義」としており、その行動規範において「真理とはあらゆる人が心から良いと共感できること」と定義している。「誰もが共感できること」とは何か。それは、人を大切にし、社会との調和を大切にした企業行動であると考える。

企業戦略広報研究所による「2019年度ESG※10/SDGs※11に関する意識調査」によると、投資をする際に企業のESGの取り組みを評価する人は62・1%を占め、一般生活者のESGに対する意識は高まっている。コロナ禍を契機として、「安心・安全」「環境」「働き方改革」など、社会課題全般に対する人々の関心はさらに高まるものと予想される。

これからは企業の生き残り術は、真理に従う経営を行うことである。コロナ禍において、ようやく営業を再開した店舗の接客サービスはどうなったか。働ける喜びに感謝している従業員がいる企業はきっと生き残るであろう。あなたの会社は、人から共感を受けているだろうか。

※1 出所:2020年7月17日付 日本経済新聞

※2 出所:2020年7月21日付 日本経済新聞

※3 出所:東京商工リサーチ

※4 出所:経済産業省2020年7月22日公表

※5 ここでいう淘汰とは、業績の著しい悪化、事業の縮小・停止、経営破綻、廃業など

※6 2020年7月20日公表

※7 出所:2020年7月23日付 日本経済新聞

※8 出所:2020年7月18日付 日本経済新聞

※9 出所:MARR Online、レコフ

※10 ESG:環境(Environment)、社会(Social)、ガバナンス(Governance)

※11 SDGs:2015年9月の国連サミットで採択された「持続可能な開発のための2020アジェンダ」に記載された2016年から2030年までの国際目標。

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