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管理職シリーズ 第3回

高度な専門性を活かす管理職

シニアマネージャー 桃原 謙
【第1回】 次世代経営・事業幹部育成 3つの鍵
【第2回】 シニア管理職が活きる秘訣(ひけつ)
【第3回】 高度な専門性を活かす管理職
【第4回】 イノベーションを加速する組織マネジメント
【第5回】 今、なぜ、管理職変革なのか?

1. はじめに

リーマンショック以降、新興国が急速に台頭し、新興国市場を巡る激しいグローバル企業間の競争が繰り広げられる中で、環境・エネルギー等をはじめとして、新しい技術・商品・ビジネスモデルのイノベーション(創出)が加速している。

日本企業は、これまで長年にわたって蓄積した高い技術力や卓越した専門性を活かして、今後もさらに、イノベーションを加速させていくことができるのだろうか?

 2009年にリクルートマネジメントソリューションズが実施した「昇進・昇格実施調査2009」によると、部長における課題として、第1位「短期的な成果に注力するあまりに、長期的な視点での取り組みができていない(42.4%)」、第2位「現状にとらわれず広い視野や高い視点から課題を設定していく力が不足している(41.1%)」、次いで第3位として「社外で通用するレベルの管理能力や専門性が育っていない(39.7%)」が上げられている。

つまり、イノベーションを加速させる必要があるにも関わらず、上級管理職において、「社外で通用する高度な専門性を活かして、長期的な高い視点や広い視野で現状にとらわれずに方向性を設定し、マネジメント力を活かし周囲を巻き込んで解決していく」能力の不足を指摘している。

イノベーションとは、事業・技術の枠を超えて、関連する技術やノウハウが互いに触発し合って生み出されるものである。従って、イノベーションを第一線でリードする管理職が、高度な専門性を磨き上げ、その専門性を活用しきれるかが、イノベーション実現の大きな鍵の一つとなる。

本稿では、コンサルティングの現場を通じて蓄積した経験や知見を参考にして、「管理職における専門性の高度化」について、企業が抱える主要課題と解決の方向性を探っていきたい。

2. 「専門性の高度化」の課題

管理職における「専門性の高度化」に向けて、今後どのような人材が求められるのか(人材像)、いかに専門性の高度化を図るか(育成方法)の点から、現状の課題に言及していきたい。

(1)人材像 ~今後どのような人材が必要なのか?

技術・商品・ビジネスモデルのイノベーションに向けて、どのような人材が求められるのだろうか?

研究開発部門では、将来性のある技術を選び出すこと、つまり「技術の目利き」が一層求められる。つまり、過去からの技術のトレンドや、現存技術に対する知見を活かして、技術の鳥観図を描き出し、鳥観図から今後の技術動向を予見して、有望な技術を選択することが求められる。

また、営業・商品開発部門では、顧客の立場になりきって、顧客のニーズを考え抜くことが必要であることは言うまでもない。しかも顧客が認識している顕在的なニーズではなく、潜在的なニーズが何であるか、さらに顧客自身も気づいていない未知のニーズが何かを探り当てることが本質的に求められる。商品・サービス化に不可欠なことは、未知のニーズに自社が保有する技術・ノウハウを活用できるかどうかの見分けが求められてくる。

従来のような、既存商品・サービスの改良レベルであれば、高度な専門性は管理職自身にはそれ程必要ではなかったかも知れない。むしろ部下の能力(専門性)をうまくマネジメントして、組織の成果に仕立てる力が必要であり、組織マネジメントを通じて、つつがなく課題解決サイクルを回すことが重要であった。

しかし、業界・分野の枠を超えたイノベーションを興していくには、管理職自身が高度な専門性を持ち、顧客の未知なるニーズや将来の技術動向を見極めて、選択すべき将来の方向性を自ら示す必要がある。そして、「計画された偶然(Planned happenstance)」の言葉の通り、選択した方向性に向かう過程で起こった偶然の出来事を味方につけながら、周囲を巻き込んでイノベーションを実現させるのである。つまり、いわゆる高度な専門性に裏打ちされたリーダーシップ、いわば「実践的先駆者(Thought Leadership)」が、今後一層求められていくのではないだろうか。

技術・商品・ビジネスモデルのイノベーションを興す日本企業にとって、管理職が高度な専門線に裏打ちされた「実践的先駆者」として選択すべき将来の仮説を打ち出せるかが、今後の企業競争力の重要な鍵になるといっても過言ではない。

(2)育成制度 ~いかに専門性の高度化を図るか?

 管理職における専門性の高度化を図る取り組みを実践しているケースはまだ限定的ではないだろうか。専門職制度を導入している企業があるものの、その目的は専門性の高度化というよりは、むしろ組織マネジメントを得意としない人材対応の側面が大きい。

特に、短期組織業績への圧力が高くなる管理職にとって、高度な専門家同士が社内でコミュニティを形成して、「プロがプロから学ぶ」仕組みを構築しているケースは多くないのが実情であろう。

専門性の観点から見ると、上司の専門性レベルが必ずしも部下より高くはないことが多い。特に顧客業界別の事業部制を採用している企業にはよく見られる。だからこそ専門分野ごとに縦の関係、いわゆる「師弟関係」が必要とされるのではないだろうか。

高度な専門職を保有するシニア管理職は、まさに「師」として専門家集団の中心的な役割を担うことが期待されるが、実際には、マイスター制度等の一部の製造業にとどまっているのが現状である。
(シニア管理職の活用は、経営研レポート「シニア管理職が活きる秘訣」をご参照ください)

さらに、管理職の評価も、組織における役割成果や、組織マネジメント等の行動が主な対象だが、専門性の発揮度や貢献度(後進育成等)を対象とするケースは少ない。その結果、処遇にも直接反映されるケースは少ない。研究者を対象としたフェロー制度や研究支援制度に限定されている。評価・処遇への反映は人事方針に基づき制定するものだが、専門性の高度化へのインセンティブとして、評価や処遇(非金銭報酬を含む)の再設計も検討していく余地があるだろう。

現状、専門性高度化の仕組みを整備し実践している企業が少なく、管理職個人の意識や努力に依存している面が大きい。イノベーションに向けて、専門性の高度化が一層重要となる日本企業にとって、今後まさに企業としての取り組みに必要性を帯びているのではないだろうか。

3. 解決の方向性

管理職における専門性の高度化に向けて、人材育成制度として、「人材像・キャリアマップの再定義」、「CoE(Center of Excellence)、つまり専門家集団を通じた人材育成・活用」を構築し、実践していく必要がある。

(1)人材像・キャリアマップの再定義

【図表1】
専門性の高度化 全体フレーム
出所:NTT データ経営研究所にて作成
  • 高度専門性人材として、スキル標準や業界水準を踏まえて、求められる専門領域や人材レベルを定義し、社内キャリアマップを明確化していく
  • 特に、等級基準と連動させ職責等との関係を明確化し、特に高度な専門性が今後必要な企業では、新たに専門性人材(組織マネジメント人材との区分)のあり方を検討する

(2)CoE(専門家集団)を通じた人材育成・活用

  • 人材像ごとに「CoE(Center of Excellence(専門家集団))」を設置し、全社における専門性の蓄積や活用へのミッションを有する
  • 特に、全社人材像ポートフォリオの策定を通じて、専門性分布の現状を把握した上で、経営戦略に基づく、全社レベルでの専門性高度化計画、人材シフト計画を策定、実行する
(2)-1.能力開発
  • 「プロがプロから学ぶ」機会を創出し(高い視点や広い視野を養う職務経験や上位者とのメンタリング等)、専門分野上位者からの能力向上や職務配置へのアドバイスや本人の気づきを通して、能力開発への動機付けを図る
  • 特に、自組織を越えた上位者ネットワークを通じて、高い視点・広い視野の獲得を目指す
(2)-2.評価(認定)
  • 人材像に基づいた現行の人材評価(認定)を通じて、専門分野における「ロールモデル(模範者)」を全社で明示して、専門性の見える化や能力開発の動機付けを促進する
  • 特に、上司評価のみならず第三者評価視点を入れ、公平性や正当性の担保を図る
(2)-3.処遇
  • 等級ごとの職責に必要な専門性の発揮度 に応じて、動機付けの観点から処遇(金銭・非金銭報酬)の再設計を図る
  • 特に、専門性の高度化の視点に立って、インセンティブ設計を図る

4. おわりに

日本企業は、今後も継続してイノベーションを巻き起こしていけるのだろうか?

イノベーションの本質は、一言でいうならば、過去の否定と創造である。

イノベーションの現場では、過去から引き継いだ「できること」ではなく、将来に向けた「やるべきこと」を実行に移す必要がある。人の心理として変化に不安が伴うが、その不安に打ち勝つ源泉とは、変革の機会を前向きに捉えようとする勇気であろう。そしてその勇気は、高度な専門性に裏打ちされた将来を予見する力から生み出されるのではないだろうか。

管理職は、「高度な専門性」と「組織マネジメント」との調和が求められてくるが、特に課長クラスでは、後進育成機会の少なさやプレーイングマネージャー化から、昨今、組織マネジメント不足が叫ばれ、「組織マネジメントの強化」は一つのテーマである。

同時に、昨今のイノベーションの熾烈な戦いにおいては、グローバルに通用する卓越した専門性を擁する企業が、イノベーション競争を制する訳であり、管理職における専門性の高度化も、決して避けては通れないテーマである。

従って、イノベーションを巻き起こす日本企業としては、管理職における専門性の高度化を、人材育成の中核に据えて、本気で取り組んでいく覚悟が求められているのではないだろうか。

以上

 (参考)

【第1回】 次世代経営・事業幹部育成 3つの鍵
【第2回】 シニア管理職が活きる秘訣(ひけつ)
【第3回】 高度な専門性を活かす管理職
【第4回】 イノベーションを加速する組織マネジメント
【第5回】 今、なぜ、管理職変革なのか?
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