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管理職シリーズ 第2回

シニア管理職が活きる秘訣(ひけつ)

シニアマネージャー 桃原 謙
【第1回】 次世代経営・事業幹部育成 3つの鍵
【第2回】 シニア管理職が活きる秘訣(ひけつ)
【第3回】 高度な専門性を活かす管理職
【第4回】 イノベーションを加速する組織マネジメント
【第5回】 今、なぜ、管理職変革なのか?

1. はじめに

日本の少子高齢化や新興国の台頭による外需への依存が一層進展する中で、今後、どの世代が中核となって日本企業の屋台骨を支えていくのだろうか?

本年6月14日号の『日経ビジネス』 誌によると、現時点で、45歳から55歳あたりに人員構成が膨らむ「変形ひし形型(42.5%)」、50歳台と20歳台前半に人員構成が膨らむ「ワイングラス型(30.6%)」が上位を占め、50歳台のいわゆる「シニア管理職」が人員構成の中核をなす企業は、実に7割を超える状況にある。

それでは、日本企業は、中核を担うシニア管理職を十分に活かしきれているのだろうか?

労働政策研究・研修機構が2008年に実施した「今後の企業経営の賃金のあり方に関する調査」によると、50歳台が「過剰である」と考えている企業は52.7%となっている。つまり、半数を超える企業ではシニア管理職は過剰と考えられており、企業にとって十分な戦力になりきれていない実態がある。

改正高年齢者雇用促進法に基づく65歳雇用延長や、バブル採用世代がシニア層に仲間入りし始め、グループ企業の転籍受け入れ余力にも限界が見えつつある中で、シニア管理職を「退職予備軍」とみなしてそっと放置するのではなく、企業の中核人材として活用することが、決して避けて通ることのできない経営上の課題になりつつある。

本稿では、コンサルティング現場を通して蓄積した経験を参考にして、「シニア管理職の活用」における、企業が抱える課題と解決の方向性を探っていきたい。

2. 「シニア管理職の活用」の課題

シニア管理職の活用を考えるにあたって、まずシニア層が次世代へ及ぼす影響に触れた上で、シニア管理職を活用するために必要な役割、評価、処遇、キャリアについて、現状の課題を言及していきたい。

(1)シニア層増大による次世代層への悪影響

労働行政研究所が2009年に実施した「昇進・昇格、降格に関する実態調査」によると、役職ごとの平均年齢(【】内は最年少)は「係長」39.6歳【31.4歳】、「課長」45.1歳【35.9歳】、「部長」50.7歳【43.6歳】となっている。特に、課長から部長への最年少昇進には7.7年かかっており、平均昇進年数の5.6年と比較しても、2年以上長くなる傾向がある。

つまり、最年少で昇進する人材、つまり次世代を担う優秀人材が、年功序列が少なからず残る中で、シニア層等の上位年次層が厚いために、ポストを次世代に譲る人事に着手しづらい現状を垣間見ることができる。

次世代を担う人材は、将来の経営・事業幹部として、課長クラス(40歳前後)で、高い視点や広い視野を獲得するポストを与えて、実践を通じた多くの経験を積ませ、内省を通じて経験の因果律を形成することが非常に必要となっている。

従って、シニア管理職の活用を検討するにあたっては、まず次世代を担う人材の育成に禍根が残らないよう、次世代経営・事業幹部の育成制度とも連携しながら、後進へポストを譲ることも含めて、対策を打っていくことが前提として求められる。
(次世代経営・事業幹部育成については、「経営研レポート」管理職シリーズ第1回 次世代経営・事業幹部育成 3つの鍵をご参照ください)

(2)シニア管理職の役割・評価・処遇

労働政策研究・研修機構が2008年に実施した「今後の企業経営の賃金のあり方に関する調査」によると、賃金カーブについて、「緩やか上昇後、頭打ち型」が現在44.6%から将来予定の31.1%へ13.5ポイント減少に対して、「早期立ち上げ、高年齢層下降型」が現在の15.3%から将来予定の37.7%へ、22.4ポイントも増加している。

これは、経営グローバル統合化によってグローバル規模での人件費下落が進行し、日本企業の総人件費の一層の削減が余儀なくされている中で、今後、シニア管理職層の報酬水準を見直さざるを得ない企業側の認識を示している。

一方で、いわゆる「退職予備軍」とされるシニア管理職の中には、本人の仕事への期待があいまいな中で、今後の昇進可能性が低いこと等を理由に、実態よりも評価を低く抑えられているケースも見られる。このようなあいまいな役割や納得性の低い評価の中で、報酬水準の削減という劇薬を投与することに、果たしてシニア層の納得感が得られるのだろうか?

ところで、シニア層に対しては、「口先で意見は言うが、行動が伴わない」といった声を耳にすることもあるが、あえて、その理由を掘り下げたことはあるだろうか。

結局のところは、本人の役割、すなわち、企業から本人への期待が表明されていないことに起因しているのではないだろうか。もちろん企業としては、昇進可能性のある貢献人材に対してはポストを通じて責任と権限を与えているだろうが、それ以外の人材へは、期待される役割を通じて本人への期待を十分に表明しきれていないのが現実であろう。

一般的に、成果に結びつく行動を起こすのは、期待された役割を踏まえて、その必要性や自身の価値観に合致していると動機付けされた時であり、これまで蓄積してきた経験を活かせて、将来のキャリアにも役立つだろうと動機付けされた時でもある。

従って、シニア管理職の活用に向け、期待される役割を設定する必要性を、あらためて再認識する必要がある。そして、その役割は、単なる「上位ポスト」だけでなく、蓄積した経験や専門性を活かした特命案件や後進育成、職場フォロー等、幅広い役割が、各企業に応じて想定されるだろう。(某外資IT企業では、過去のプロジェクトマネジメント経験を活かしてプロジェクト品質管理の役割を担わせるケースもある)

ちなみに、リクルートワークス研究所が2006年に実施した「シニアの就業意識調査2006」によると、55歳から59歳の仕事の目的として、第1位「能力を活かせること(43.9%)」であり、第2位「高い報酬を得ること(17.0%)」よりも、26.9ポイント高くなっている。言うまでもなく、シニア管理職にとって、高い報酬だけではなく、自分の能力を活かせる役割につくことが仕事に対する動機付けに欠かせないことを示している。

以上の通り、シニア管理職の活用に向けて、第一に、本人の長年培ってきた経験を活かした役割を設定する仕組みを整備する。その上で、役割における成果が適正に評価でき、処遇できる制度への移行を進めることで、役割に応じた処遇水準の見直しを図っていくことが求められている。

(3)シニア管理職のキャリア

シニア管理職は、1975-85年入社組にあたり、いわゆる終身雇用・年功序列の価値観を持ってキャリアを築いてきた、ほぼ最後の世代である。

バブル不況以降、リストラによる人員削減や社員のキャリア自立が求められてきたが、シニア管理職にとってキャリアとは、企業が示す単線のレールに乗って上昇を目指すことであり、キャリアの到達点は、より高い管理職ポストへ上り詰めることだった。

シニア管理職に期待される役割へ意識を向上させるには、管理職一人ひとりのキャリアに対する姿勢を見直すことが必要である。つまりキャリアに対する受動的な姿勢から、主体的にキャリア築く姿勢へ変えていくことである。つまり本人の価値観・興味・能力や周囲の環境を加味しながら、自身のキャリアを自立して選択していくことに他ならないのである。

キャリアの自立化に向けては、企業として、管理職に求められる人材像やキャリアマップを明示することが求められるが、シニア層を「退職予備軍」とみなす中で、一体どれだけの企業で実践されているのだろうか。一般社員を対象にした、新卒入社から管理職任用までのキャリアマップ(人材像のレベル別要件)は明示できていても、管理職任用後のキャリアマップを提示している企業は、驚くほど少ないのが現実である。

ただでさえキャリアの自立化が進んでいないシニア層において、キャリアの自立的な選択を促すためにも、企業としてのキャリアマップの明示は必要条件となってくる。

そして、キャリアマップを構成する人材像としては、通常、3つの人材に大別される。主にリーダーシップを発揮して経営・事業責任を持つ「経営・事業人材」、主に組織マネジメントや高い専門性を発揮して組織責任を持つ「組織マネジメント人材」、主に高い専門性を発揮して価値創出責任を持つ「専門性人材」が想定される。

特に、「組織マネジメント人材」と「専門性人材」において、シニア層から定年退職に向けて、どのような役割の選択肢が想定されるのかを明示していく必要があるのではないだろうか。

今後急激な成長が見込めない経営環境の下では、組織規模を拡大してポスト数を増加することによって、「組織マネジメント人材」を増やすことは現実的ではないだろう。

むしろ、新しい技術・商品・ビジネスモデルのイノベーション(創出)が加速する中で、イノベーションに必要な高度な専門性や、後進育成を通じたコンピテンス(組織能力)の蓄積など、従来十分に機能してこなかった高度な「専門性人材」のマネジメントについて、本気で取り組む時期に差し掛かっているのではないだろうか。

3. 解決の方向性

シニア管理職の活用に向けて、人材フローのシミュレーションを通じて短中期的な人員見通しを把握することが先決である。その上で、シニア管理職の活用に向けて、人材像・キャリアマップの明示、社内やグループ企業内における役割・評価・処遇を構築し、実践していく必要がある。

(1)人材フロー・シミュレーション

【図表1】
シニア管理職活用 アプローチ
出所:NTT データ経営研究所にて作成
  • シニア管理職の人材フローのシミュレーションを行い、短中期的な人員構成比率やアウトフロー人員数を把握して、今後の想定される課題を抽出する
  • 特に、組織マネジメント人材以外の人員数や管理職任用・昇格人員数を想定する

(2)人材像・キャリアマップの明示

  • 管理職における人材像・キャリアマップを明示して、企業の支援の下、本人自らのキャリア選択を行い、シニア層におけるキャリアの自立化を促進する
  • 特に、人材像の設定にあたって、企業として管理職に求める要素を抽出する(例:「組織マネジメント」・「高度な専門性」・「リーダーシップ」・「企業価値観や行動規範」等)

(3)-1.社内(単体内)での役割・評価・処遇の構築

  • 組織マネジメント人材や専門性人材において、長年蓄積した経験を活かして今後のキャリアにふさわしい役割を設定して社内活用を図り、役割に応じた評価・処遇制度を構築する
  • 特に、金銭報酬については、役割に基づく報酬体系へ見直しを図る。また非金銭報酬として、呼称等への配慮を図ると同時に、職務自体から得られる動機付けに配慮することで、ワークモチベーションや企業へのロイヤルティの維持を目指す

(3)-2.グループ企業内での役割・評価・処遇の構築

  • グループ企業での受け入れポストが減少する中で、グループ企業価値向上や次世代経営・事業人材育成に向けて、「経営・事業人材」を中心にグループ企業経営・事業の役割が想定される
  • 特に、金銭報酬については、グループ企業間の出向・転進に向けて、等級基準のグループ統一化、等級別報酬水準の統一基準化、同時に、厳格な昇進・昇格・昇給管理を実施していく

4. おわりに

中国・インドといった新興国が台頭し、低賃金で若い頭脳が増える中で、日本企業が、グローバル競争を勝ち抜いていくためには、日本人管理職一人あたりの付加価値生産性の改善が一層求められてくる。つまり、日本人管理職一人ひとりが創出する付加価値の「コスト・パフォーマンス」をいかに高めていくかが重要である。

これまで管理職人材は、一部の「役員候補層」と多くの「現場層」が一体感を保ってパフォーマンスを上げてきた。しかしバブル崩壊後の20年間に企業と社員の関係が希薄になる中で、特に「現場層」は企業へのロイヤルティを失っていき、企業を支える屋台骨が揺らぎつつある。その結果、シニア層など「現場層」のパフォーマンスに陰りが見え始めているのが現状ではないか。

企業が求める人材は、多岐に亘っており、各人材が自分の役割を果たしきることが必要なのは言うまでもない。そして各人材が、「私は企業にとって決して欠かすことができない人材である」、すなわち、「中核人材」であると再認識できるようになることが、日本企業はこれまで強みとしてきた競争力を取り戻す「鍵」になるのではないだろうか。

以上

 (参考)

【第1回】 次世代経営・事業幹部育成 3つの鍵
【第2回】 シニア管理職が活きる秘訣(ひけつ)
【第3回】 高度な専門性を活かす管理職
【第4回】 イノベーションを加速する組織マネジメント
【第5回】 今、なぜ、管理職変革なのか?
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