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Insight
経営研レポート

第1回 知財・無形資産投資・活用への技術戦略マネジメント機能の適用

知財・無形資産投資・活用のボトルネックの要因分析と解決策設計
2026.10.30
ビジネストランスフォーメーションユニット
マネージャー 坂元 健一
シニアインフォメーションリサーチャー 板東 由希子
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はじめに

金融庁および株式会社東京証券取引所が取りまとめた「コーポレートガバナンス・コード」の2026年改訂版における、取締役会が経営戦略や経営計画の策定・公表に当たって説明するべき成長投資1の中に、「知的財産等の無形資産への投資」が記載されたことにより、知財・無形資産が成長投資の重要な柱として位置付けられた。

その一方で、多くの日本企業では知財・無形資産が経営の根幹に据えられていない。こうした現状を踏まえ、2026年8月3日に内閣府から「価値創造を加速する知財・無形資産投資・活用のガイダンス」2が公表された。今後企業には、知財・無形資産への投資や活用について、より一層の説明が求められると考えられる。

本連載では、知財・無形資産の中でも企業の競争優位や参入障壁と結びつきやすい技術に焦点を当て、企業が知財・無形資産への投資を行う際に留意すべき点や必要となる具体的な施策について、ガイダンスの内容と技術戦略マネジメントの観点を照らし合わせて解説する。

第1回となる本稿では、「価値創造を加速する知財・無形資産投資・活用のガイダンス」に示されたボトルネックとその要因を整理した上で、技術戦略マネジメントの各機能がそれらの解消にどのように寄与するのかを解説する。

1.「価値創造を加速する知財・無形資産投資・活用のガイダンス」が示す5つのボトルネック

多くの日本企業が知財・無形資産を経営の根幹に据えられていない実情を踏まえ、同ガイダンスでは、その実践を阻む以下の5つの主要ボトルネックが記載されている。

(1)取締役会・経営陣の体制が、中長期の成功のタネを追求できるようになっていない

(2)中長期の価格決定力やゲームチェンジのために、市場環境における自社の立ち位置を踏まえた参入障壁の構築・移転・活用ができていない

(3)知財・無形資産のジレンマ-成長の糧に投資するほど短期的には利益が悪化して見える-が存在する

(4)攻めの参入障壁を構築するための戦略的な部門連携や人的配置が実施できていない

(5)中長期成長に関心のある投資家への発信が不足している


これらのボトルネックを図示すると図表1のようになる。知財・無形資産の整理・活用から投資家への発信に至る一連の過程において、経営判断や自社・外部環境分析、部門間連携、投資家への説明などが十分に機能しないことで、知財・無形資産が企業価値に結びつきにくくなる。

【図表1】ガイダンスに記載された5つの主要ボトルネック

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参考を基にNTTデータ経営研究所が作成

(参考)

内閣官房 政策会議「価値創造を加速する知財・無形資産投資・活用のガイダンス」(2026年8月3日)

ガイダンスではボトルネックとともに解決例が記載されているが、発生するボトルネックは企業の状況や業界特性によって異なる。そのため、ボトルネックが発生する要因にまで分解することで自社の状況に当てはめて捉えやすくなると考えられる。そこで、ガイダンスが作成された経緯が記録された「知財投資・活用戦略の有効な開示及びガバナンスに関する検討会」3の資料や、これまでに当社がお客様から伺った課題を基に、ボトルネックが発生する要因を以下に整理する(図表2)。ボトルネックの背景にある不足や欠如を明らかにすることで、後に示す解決策の必要性を明確にする。

【図表2】ボトルネックが発生する要因

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参考を基にNTTデータ経営研究所が作成

(参考)

内閣官房 政策会議「知財投資・活用戦略の有効な開示及びガバナンスに関する検討会」

ボトルネック(1)の要因:価値判断に必要な情報・指標と経営層の意識

まず、ボトルネック(1)「取締役会・経営陣の体制が、中長期の成功のタネを追求できるようになっていない」が発生する要因として、知財・無形資産投資と将来の企業価値を結び付ける指標がないことや、自社技術の価値を判断するための情報が不足していることが挙げられる。また、経営層に「知財業務は特許の権利化や管理である」という認識があり、そもそも「知財で価値を創造する」という意識が低いこともボトルネックの要因となり得る。

ボトルネック(2)の要因:自社・競合分析とその活用の不足

ボトルネック(2)「中長期の価格決定力やゲームチェンジのために、市場環境における自社の立ち位置を踏まえた参入障壁の構築・移転・活用ができていない」が発生する要因として、分析不足により自社と競合の技術・知財・組織能力の差分を客観的に把握できていないことや、分析結果を十分に活用できていないことが挙げられる。また、自社に不足する技術要素をアライアンスによって補うノウハウがないことも、ボトルネックの要因となり得る。

ボトルネック(3)の要因:将来シナリオを踏まえた資産評価・投資判断の不足

ボトルネック(3)「知財・無形資産のジレンマ-成長の糧に投資するほど短期的には利益が悪化して見える-が存在する」が発生する要因として、経営層が複数の将来シナリオを想定し、それらに備えて保有・育成すべき資産を評価できていないことが挙げられる。不確実性が高まる中では、さまざまな将来シナリオを想定して評価することができていないと、長期的に取り組むテーマと短期で収益を上げるテーマに適切に投資を配分し、ポートフォリオを構築することが難しくなる。その結果、知財・無形資産への投資を行いにくくなる。

ボトルネック(4)の要因:部門間連携を促す仕組みと人材育成・配置の不足

ボトルネック(4)「攻めの参入障壁を構築するための戦略的な部門連携や人的配置が実施できていない」が発生する要因として、「知財業務は特許の権利化や管理である」という認識が社内で強く、組織横断的な連携に取り組むための目標・役割分担・メリットが明確になっていないことや、評価される人材像やキャリアパスに知財・無形資産の活用が組み込まれていないことが挙げられる。こうした状況では、知財部が意識改革を進め、他部署に知財・無形資産の活用を提案しても、技術開発や事業経営に関する知見の不足や、「管理業務をしている知財部からは有効な提案は期待できない」という固定観念から、十分に検討されないことが起こり得る。

ボトルネック(5)の要因:企業価値とのつながりを示す情報発信と部門間連携の不足

ボトルネック(5)「中長期成長に関心のある投資家への発信が不足している」が発生する要因として、研究開発費や特許件数など、技術に関する発信は活動量を開示すればよいという認識にとどまり、知財・無形資産への投資が、どのように事業成果や企業価値につながるかを説明できていないことが挙げられる。また知財・無形資産への投資と企業価値とのつながりを発信するには、IR部門と各部署との連携となるため、組織間連携の弱さも、このボトルネックが発生する要因となり得る。

2. 知財・無形資産経営を実践するMOT(技術経営)

これらのボトルネックが発生する要因に対応する手段として、技術経営(MOT)に根差した枠組みで技術戦略マネジメントを行うことが考えられる。

技術戦略マネジメントは、「潮流分析機能」「技術戦略立案機能」「戦略間の調和・結節機能」の3つの機能で構成され、それぞれは不可分な関係にある。


「潮流分析機能」では技術群の体系化により主要プレーヤーの動向について将来予測を行い、「技術戦略立案機能」では「コア技術の特定」により技術としての明確な出口戦略を明らかにする。「戦略間の調和・結節機能」によってこれらを結び付け、ビジネスニーズに対する技術の貢献度と、技術シーズのビジネス活用機会を最大化する(図表3)。

それぞれの機能を主管すべき部門は技術企画部門、研究開発部門、経営企画部門などと異なるため、部門間で連携しながら技術戦略マネジメントを行う必要がある。また各ボトルネックに技術経営の各機能を対応させると図表4のようになる。

【図表3】技術戦略マネジメント機能の構成

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NTTデータ経営研究所が作成

【図表4】技術経営各機能とボトルネックの対応表

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NTTデータ経営研究所が作成

潮流分析機能は、技術群の体系化や有望技術テーマの導出、市場・技術の将来性把握を行う機能である。競合技術の把握や将来を見据えた資産評価に適用することで、ボトルネック(2)および(3)の解決に資する。

 

技術戦略立案機能は、コア技術の特定や、技術の俯瞰的な把握による獲得すべき技術の見極めなどを行う機能である。自社技術の差別化要素の見極め、アライアンス先の選定、資産評価や投資ポートフォリオの設計に適用することで、ボトルネック(2)および(3)の解決に資する。

 

戦略間の調和・結節機能は、技術戦略と事業戦略・サービス戦略相互の調整を図り、情報を取得・整理することで、知財・無形資産への投資と将来の企業価値を結び付ける指標を明確にする。全社戦略と知財戦略を結び付けることで、知財によって企業価値を向上させるという経営陣の意識を高め、ボトルネック(1)の要因の解決に資する。また、組織改革や各部門のテーマ設定に落とし込むことで、ボトルネック(4)および(5)の解決手段にも資する。

おわりに

ガイダンスに示されたボトルネックを解消するには、自社で何が不足しているのかを見極め、技術・知財・事業を結び付けて解決策を設計する必要がある。本稿で示したように、技術経営に根差した技術戦略マネジメントの各機能を活用することで、ボトルネックの背景にある要因に対応し、知財・無形資産を企業価値につなげていくことが可能となる。

第2回以降では、技術戦略マネジメントの各機能が、5つのボトルネックの解消にどう役立つのかを、具体的な対応策とともに解説する。

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