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Insight
経営研レポート

AIエージェント開発は新たな専門職

実装を通じて見えてきたシステム開発と人材組織開発の融合
2026.10.26
ビジネストランスフォーメションユニット
シニアスペシャリスト 江原 貴之
マネージャー 川﨑 実紗
シニアコンサルタント 上橋 礼子
コンサルタント 竹中 悠人
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はじめに

AIエージェントは、その役割や振る舞いなどを自然言語で定義しながら開発できるようになりつつある。どのような目的を持たせ、どの業務を担当させ、何を参照し、どのツールを使わせるのか。こうした要件を言葉で定義し、実際の応答を確認しながら改善していく必要が。少なくとも個々のAIエージェントの役割や振る舞いを設計する段階では、必ずしも高度なプログラミング能力を必要としない。


それでは、AIエージェント開発は誰にでもできるようになり、専門家は不要になるのだろうか。実際に業務を担うAIエージェントの設計と検証を重ねると、むしろ逆の可能性が見えてくる。専門性が消滅するのではなく、その中心が、コードを書く能力から「知的労働そのものを設計する能力」へと移行するのである。


本稿では、AIエージェントの実装と検証を通じて見えてきた設計上の課題を整理し、AIエージェント開発に求められる専門性と、企業における今後の人材・組織のあり方について考察する。

1. 開発の中心はコードから仕事の設計へ

従来のシステム開発では、業務要件を可能な限り明確化し、入力、処理、出力として実装することが基本だった。AIエージェント開発では、それに加えて、状況の解釈や一定の裁量を伴う判断そのものが設計対象となる。


何を目的として動くのか。どのような役割を担うのか。何を根拠に判断するのか。どこまで自律的に行動してよいのか。いつ人間に判断を戻し、人間や他のAIとどのように協働するのか。自然言語化で開発できるようになることで、開発作業そのものがなくなるのではない。開発対象が、処理から仕事そのものの設計へと広がるのである。


実際に、クライアントから要望のあったAIエージェントを試行開発し、期待どおりに動作するかを検証した。具体的には、ChatGPTビジネスプラン環境上で、秘書AIエージェント、取引ガバナンス審査エージェント、提案書デザインエージェントの1体の開発をした。そのうえで、AIエージェントの動作を定義できる機能のSkills、外部システムに接続しアクセスできる機能のTools、定期的あるいはメール受信やデータ登録などのイベントに応じた動作を定義できる機能のTriggerなどを用いた業務上の動作、RAG(検索拡張生成)やHuman-in-the-Loop(人間が判断・承認に関与する仕組み)の実装、自然言語によるエージェント開発の容易性について検証した。

2. 実装と検証から見えた3つの設計課題

では、AIエージェントの開発対象が「仕事そのもの」へ広がることで、具体的にどのような設計が必要になるのか。実際にAIエージェントの実装と検証を重ねる中で、主に以下3つの課題が見えてきた。


第一の課題は、人間が暗黙に行っている業務判断の構造化である。例えば、秘書AIに「対応が必要なメールを抽出する」という役割を与えても、自分が回答すべき依頼と、自分が依頼者として相手の回答を待っている案件を区別できないことがある。人間は本文だけでなく、案件における自分の役割、応答責任、進行状態、期限、重要性などを総合して判断している。必要なのは、プロンプトの言い回しを工夫することではなく、暗黙知を役割、状態、判断基準、優先順位、例外条件として再構成することである。


このような課題に対しては、該当する案件の目的や実施状況、必要な業務知識、自身と相手との組織上の関係、自身の役割、相手に期待すること、前後のやりとりなど、取り巻くコンテクスト情報を、AIエージェントと共有できる仕組みを組み込んだ。さらに、秘書業務における知識や慣習などを事前に学習させることで、メール本文だけでは読み取れない意図を解釈し、より適切で丁寧な回答を生成できるようになった。この検証を通じて、AIエージェントにどの程度の暗黙知を実装するかにより、AIエージェントへの委譲範囲も、回答精度も変わることが確認できた。他方で、判断や回答の完全な再現性は担保できず、AIエージェント自身が責任を負うことはできない。そのため、情報の流通性などへの配慮も行い、AIエージェントに委ねる業務の線引きを適切に設計することが重要であることも明確となった。

また、これら暗黙知を静的情報として組み込むだけでは、業務環境の変化や案件の進行状況に対応できなくなる可能性がある。そのため、実運用においては、自律的に暗黙知を継続的に更新していけるような仕組みも必要であることが分かった。


第二の課題は、自律性と統制の両立である。誤作動を防ぐために条件や確認事項を増やすと、AIが軽微な判断まで人間に確認し、誤りは減っても実務が進まなくなる。そのため、必ず守る原則、通常時の判断基準、標準手順、AIに委ねる裁量、人間の承認が必要な条件を階層化しなければならない。求められるのは、ルールの網羅性よりも「統制された裁量」の設計である。


第三の課題は、複数のAIエージェントの協働である。秘書AI、調査AI、編集AIなどを連携させると、作業の重複や責任の空白、文脈の分断が生じ得る。誰が利用者との窓口となり、案件全体に責任を持つのか。また誰に何を委任し、どの情報と状態を引き継ぐのか。このように複数のAIエージェントを連携させる「マルチエージェント化」では、AI機能を接続するだけでなく、異なる役割と能力を持つ業務上の主体による新たな協働関係を設計する必要がある。

3. 設計対象は知的労働主体である

前章で挙げた3つの課題は、業務判断、自律性、AIエージェント同士の協働と、それぞれ異なるように見える。しかし、いずれもAIエージェントを単なる機能としてではなく、業務上の役割を担う主体として設計する必要があるという点で共通している。

対応すべき案件を判断させるには「職務」と「判断基準」が、自律的に動かすには「裁量」と「権限」が、複数のAIエージェントを連携させるには「役割分担」と「協働関係」が必要になる。AIを人間と同一視するわけではない。しかし、目的と役割を持ち、一定の権限の下で判断・行動する以上、設計対象はソフトウェアであると同時に「知的労働主体」でもある。


その設計には主に2つの能力が求められる。一つは、業務を目的、状態、判断、行動に分解し、原則、例外、権限、責任を明確にする「論理構造化能力」である。もう一つは、AIの存在を前提として、人間とAIの役割分担、AI同士の協働、新しい業務プロセスや顧客体験を構想する「創造設計能力」である。厳密性と柔軟性、再現性と創造性、自律性と統制を同時に成立させるところに、AIエージェント開発固有の専門性がある。

4. AIエージェント開発者という新たな専門職

前章で述べたようなAIエージェント開発には、SEの業務構造化、コンサルタントの仕事の再設計、人事・人材開発の職務と能力の定義、組織開発の協働設計、ガバナンスの権限・リスク統制など、複数の専門領域にまたがる視点が必要になる。これらの専門性は従来の企業にも存在していたが、従来のヒトの専門性や企業の組織設計は、あくまでヒトの能力限界を前提に最適化されてきた。しかし、AIエージェントが導入されるとその大前提が合理性を失う。


AIエージェントは、与えるコンテクストや意図、業務知識がその能力に大きく影響し、さらにこれまで形式知化されてこなかった暗黙知領域についても、形式知化し覚えさせることで、さらなる自律的な高度化が期待できることがわかってきた。そして、そうした情報の処理能力はヒトとは比較にならないほど高い。そのため、AIエージェントにとって、ヒトの能力に依拠した組織分散や専門領域の線引きは、その能力発揮を限定してしまう危険がある。


今後、ヒトとAIエージェントの協働による組織成果を最大化しようとするのであれば、一度ゼロベースで、ヒトの能力発揮領域、AIエージェントの能力発揮領域、そして両者の統治と組織のあり方を統合的に捉え直し、進化探索ができるような、責任主体が必要になると考えている。そうなると、AIエージェント開発者も、その責任主体と共に、ヒトとAIエージェントが協働する知的生産活動を、ゼロベースで再設計し、設計だけではなく実践も行うことが求められる。


例えば、調査AIエージェントを開発する場合、単なる検索・文章生成機能だけでなく、調査目的、優先する情報源と信頼性の評価基準、事実と推論の区別、人間に判断を戻す条件、成果物の品質基準まで、AIエージェントに理解させることもできる。動作後は、論点の見落としや過剰な確認、権限を超えた判断がないかを自律的に考察し、その結果を参照知識、判断基準、役割、権限に基づいて、次のアクションにつなげることを可能とする。そうなるとAIエージェントの設計によっては、単なる「調査ワーク」という上流工程のみではなく、以降の実践を伴う下流工程まで、一気通貫で業務を進めることが可能になるかもしれない。


本稿では、このようにヒトとAIエージェントの協働による知的生産活動を設計する役割を担う専門職を「AIエージェント開発者」と捉える。AIエージェント開発者とは、AIの目的、役割、判断、権限、知識、協働関係を設計し、実務への配置後も評価と改善を続ける専門職である。単にAIを作る技術者ではない。情報を受け取り、解釈し、判断し、成果を生み、人間が確認し、その知見を次の設計へ反映するまでの「知的生産システム」を設計し、進化させる専門家である(図表1)。


既存のSEやコンサルタントは、ヒトの能力限界に依拠した工程分担に根差し、コンサルタントは上流工程、SEは下流工程を担うような専門職である。一方、AIエージェント開発者には、従来の工程分担の垣根を超えて、AIを活用し、ヒトとAIエージェントが協働することで、これまでの業務フローを前提としない新たな成果創出のあり方を設計する能力が求められる。その際には、SEに求められる「論理構造化能力」や「技術力」、コンサルタントに求められる「構想力」や「創造力」などについても持ち合わせることが必要になっていくと考えている。

【図表1】今後のAIエージェント開発者の役割

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NTTデータ経営研究所が作成

5. AI導入から人とAIの統合マネジメントへ

AIエージェント開発に求められる専門性の変化は、開発者個人の問題にとどまらず、企業の投資や組織のあり方にも影響する。AIエージェントが個別のツールではなく、業務上の役割を担うようになれば、その導入はITシステムへの投資だけでは完結しない。必要なのは、(1)AIが安全に動くための共通基盤、(2)個々のエージェントの職務・知識・判断能力、(3)人間とAIを前提とした業務・組織の再設計への投資である。IT部門だけで完結させず、業務部門が成果責任を持ち、人事・組織開発、リスク管理部門が共同で設計する必要がある。投資判断も、導入数ではなく、品質、処理時間、判断の再現性、人間の負荷、リスク、顧客価値の改善といった成果に基づいて行うべきである。


企業内でAIエージェントが増えれば、個別ツールの管理だけでは不十分になる。どのエージェントが、どの職務と権限を持ち、誰と協働するのか。誰が成果とリスクに責任を持ち、能力をどう評価・改善するのか。必要なのはAIを人間と同一視することではなく、AIエージェントを業務上の役割を担う主体として捉え、人間とAI双方の役割、権限、能力、評価、協働関係を設計する「統合マネジメント」である。


そのためには、競合他社もAI活用を加速させることを前提に、自社の競争優位性を築くために、ヒトとAIが協働する知的生産活動により蓄積される「ヒトとAIの統合知的資本」が何かを具体化することが重要となる。ここでいう統合知的資本には、情報や権利のような静的な知財だけではなく、ヒトの能力、AIエージェントの能力、そして協働組織の能力も含まれる。AIが進化する今後数年は、常に改善・更新、スクラップ&ビルドが求められるため、進化循環を繰り返す実践力も備えながら、統合知的資本を蓄積していかなければならない。


その上で、人財部門には、統合知的資本を蓄積するために「自社人財の成長とは何か」をまず問い直し、その成長をどのようなステップで具現化していくのかを検討する役割が求められる。知識や技能、思考力はAIが代替するため、価値基準や主体性を育む経験をどう積めるかが重要になるのではないか。そしてヒトの成長に合わせて、AIエージェントの成長軌道をどのように相乗的に連動させ、ヒトとAIエージェントの統合的な成長シナリオや成長プロセスに落とし込むかが問われる。


また、IT部門はAIエージェントを作り、それを業務部門に渡すという「モノづくり」の発想から脱却し、AIエージェントを活用して成果を生み出す組織として進化していくべきと考えられる。一方、業務部門は、ヒトとAIエージェントの統合知的資本を蓄積する主体組織として、AI時代のヒトの成長のあり方と、その成長シナリオを実践し成果に結びつけていく役割を担うと考えている。


自然言語でAIエージェントを作れるようになることで、開発が単純になるわけではない。設計対象が、コードから業務、判断、権限、協働、組織へと広がるのである。こうした役割を担うAIエージェント開発は、システム開発と人材・組織開発を統合し、人間とAIによる知的生産システムを設計・改善し続ける、新たな専門職として位置づけられる。

おわりに

自然言語でAIエージェントを開発できるようになっても、専門性が不要になるわけではない。その中心は、コードを書く能力から、目的や役割、判断基準、裁量と権限、協働関係を定義する「知的労働そのものを設計する能力」へと移る。そこでは、業務の暗黙知を構造化する論理性と、人間とAIによる新しい仕事のあり方を構想する創造性の両方が求められる。


この変化を担うのが、「AIエージェント開発者」という新たな専門職である。従来の業務・組織の枠組みにとらわれず、システム開発、業務改革、人材・組織開発、ガバナンスに分散していた専門性を統合し、AIの職務を一貫して設計するとともに、実務への配置後も評価と改善を続ける役割を担う。


企業にも、個々のAIを導入・管理するだけでなく、人間とAI双方の役割、権限、能力、評価、協働関係を設計する「統合マネジメント」が必要になる。AIエージェント開発の本質は、システム開発と人材・組織開発を融合し、人間とAIがともに成果を生む知的生産システムを設計し、進化させ続けることにある。

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