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Insight
経営研レポート

第1回 企業における「仕事」と「介護」の両立支援制度は、なぜ利用につながりにくいのか

当社調査から見えた3つの課題
2026.08.20
ライフ・バリュー・クリエイションユニット
マネージャー 山崎 智美
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はじめに

経済産業省は、仕事をしながら家族などの介護を担う人(いわゆる「ワーキングケアラー」)が2030年に約318万人に達し、介護離職や生産性低下などによる経済損失は約9兆円に上ると試算している1。この試算は、仕事と介護の両立支援が、福利厚生にとどまらず、人的資本経営や事業継続に直結する経営課題であることを示している。

同省は「仕事と介護の両立支援に関する経営者向けガイドライン」を公表し、2026年3月に改訂版を示した2。また2025年4月には、改正育児・介護休業法が施行され、介護に直面した労働者への個別周知・意向確認、雇用環境の整備、40歳などの従業員への早期情報提供が義務化され、介護のためのテレワークなどの導入が努力義務とされている3

こうした制度改正やガイドラインの整備により、企業に求められる制度整備の重要性は増している。一方、当社とNTTドコモビジネスX株式会社が実施した共同調査(以下、本調査)では、勤務先に両立支援制度が導入されていても、実際には活用されていないケースが一定程度あることが明らかになった4


そこで本連載では、制度が利用につながるまでの過程に着目し、利用上の課題を「(1)介護の局面に応じた制度を判断しにくい」「(2)介護の状況や必要な配慮を職場に相談しにくい」「(3)適切な相談先や支援先が分かりにくい」という3点から整理する。これらは制度未利用の原因を直接検証した結果ではなく、当社調査および公的資料を踏まえた分析上の整理である。第1回では国内制度と当社調査を基に制度利用上の課題を整理し、第2回では海外事例にみられる制度設計の要素を確認する。それらを踏まえ、第3回では日本企業における実装の進め方を考察する。

本稿では、「制度を整えるべきか」という問いから一歩進め、整備された制度が従業員に届き、必要な場面で利用されているかに目を向ける。制度の認知と利用実態の間にどのような隔たりがあるのかを、調査データから確認する。

1 経済産業省「仕事と介護の両立支援に関する経営者向けガイドライン」(2024年3月)

2 経済産業省「仕事と介護の両立支援に関する経営者向けガイドライン」(2026年3月改訂)

3 厚生労働省「法改正のポイント|介護休業制度特設サイト

4 NTTデータ経営研究所/NTTドコモビジネスX共同調査「ワーキングケアラー支援の実態とサービスニーズの調査」(2026年2月26日)

「整備」から「利用」へ:「仕事」と「介護」の両立支援制度の現状

仕事と介護の両立支援制度は、これまでも介護離職防止や生産性低下の抑制という観点から議論されてきた。企業経営者にとって、中核人材の介護離職、管理職候補者が昇進や転勤をためらうこと、社員の突発的な休暇や早退が重なり職場運営に影響を及ぼすことは、人的資本経営上のリスクとして無視できないものとなっていると考えられる。

政策面では、育児・介護休業法に基づき、介護休暇、介護休業、短時間勤務などの措置、所定外労働の制限、時間外労働・深夜業の制限などが定められている。介護休暇は対象家族1人の場合は年5日、2人以上の場合は年10日まで、1日または時間単位で取得できる5。介護休業は対象家族1人につき通算93日まで、3回を上限として分割取得できる6

このように、日本ではすでに法定制度が整備されており、企業においても就業規則、申請手続、相談窓口、管理職研修などの整備が進められている。したがって次に問われているのは、従業員が制度を知り、必要な時期に申請を行い、上司や人事と協議しながら、仕事と介護の両立を継続できるかがという点である。

制度を実際の利用につなげるうえでは、主に3つの課題が考えられる。以下では、それぞれについて順に整理する。

制度利用上の課題(1):介護の局面に応じた制度を判断しにくい

本稿でいう「制度を判断しにくい」とは、制度の名称を知らないことだけを指すものではない。介護の局面と、各制度の目的、利用期間、所得への影響、業務上の調整を結び付け、自分に必要な制度を判断しにくいことを含む。

介護の進み方は人によって異なり、法令上の決まった段階区分があるわけではない。本稿では、企業が支援を案内する際の整理例として、急な入院や転倒などで対応が始まる時期、要介護認定やケアマネジャーとの面談を通じて介護サービスを組み立てる時期、見守りや通院対応が続く時期、状態の悪化や施設入所の判断などで再調整が必要となる時期に分けて示す。実際の過程や必要な支援は個人によって異なるため、各従業員の状況に応じて確認することが望ましいと考えられる(図表1)。

【図表1】介護の主な局面と、必要な支援の具体例

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出所:厚生労働省「介護休業制度特設サイト」、NTTデータ経営研究所/NTTドコモビジネスX共同調査「ワーキングケアラー支援の実態とサービスニーズの調査」などを基にNTTデータ経営研究所が作成、イラストは生成AIを使用して作成

注:本図は法令上の段階区分ではなく、企業が支援を案内する際の整理例である。

本調査は、就労している30代〜60代の男女1,061人を対象に、介護経験や勤務先の両立支援制度、将来の介護に対する不安を確認した。その結果、「現在介護をしている」人は9.0%、「現在は介護をしていないが、以前した経験がある」人は11.5%であり、就労者の約2割が介護を経験していた(図表2)4。さらに、介護経験者のうち、介護期間が5年以上に及ぶ人は30.9%であり、介護が中長期にわたる可能性も示されている(図表3)4。これらは本調査の回答者における結果であり、就労者全体の割合を直接示すものではない。

制度面では、勤務先で介護休業制度やテレワーク・在宅勤務制度などが導入されている一方、同じ制度について「活用が難しい」と感じる回答も見られた(図表4)。さらに、勤務先に「両立支援制度が導入されている」と回答した介護経験者(n=90)のうち、42.2%は「いずれの制度も活用していない」と回答している(図表5)4


ここから見えてくるのは、制度の「有無」と「利用のしやすさ」は同じではないという点である。介護休業や介護休暇が制度として存在していても、「代替要員を確保しにくい」「職場に迷惑をかけるのではないかと感じる」「収入減が不安である」「評価や配置への影響が気になる」といった事情があれば、従業員は申し出をためらう可能性がある。

これは育児支援の議論とも重なる。男性の育児休業も、制度が存在するだけでは取得が進みにくい時期があった。取得意向の確認や企業の情報開示が進む中で、少しずつ「申し出てもよい」という職場の認識が広がってきた。介護支援についても、制度整備に加え、利用に至るまでの心理的・実務的な課題を丁寧に見ていく段階にあると考えられる。

【図表2】介護経験の有無(SA)

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出所:NTTデータ経営研究所/NTTドコモビジネスX共同調査「ワーキングケアラー支援の実態とサービスニーズの調査」(2026年2月26日)


【図表3】 介護をしていた(している)期間(SA)

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出所:NTTデータ経営研究所/NTTドコモビジネスX共同調査「ワーキングケアラー支援の実態とサービスニーズの調査」(2026年2月26日)


【図表4】 導入している制度/活用が困難な制度(MA)

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出所:NTTデータ経営研究所/NTTドコモビジネスX共同調査「ワーキングケアラー支援の実態とサービスニーズの調査」(2026年2月26日)


【図表5】 実際に活用した制度・取り組み(MA)

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出所:NTTデータ経営研究所/NTTドコモビジネスX共同調査「ワーキングケアラー支援の実態とサービスニーズの調査」(2026年2月26日)

制度利用上の課題(2): 介護の状況や必要な配慮を職場に相談しにくい

本調査で注目したのは、介護について職場に伝えることへの心理的な負担である。出産・育児支援と比べて、介護支援の必要性を職場に伝えるハードルが高いと感じる人は46.8%に上った(図表6)4。ただし、この回答だけから、職場に伝えにくい理由を特定することはできない。以下では、介護の特性や職場での相談場面を踏まえ、背景として考えられる事情を3点に整理する。


第一に、親の転倒、急な入院、認知症症状の悪化など、本人が想定していない時期に介護への対応が必要となる場合がある。こうした場合、職場への申し出や必要な配慮を事前に相談しにくい可能性がある。

第二に、介護状態の変化により、必要な支援の期間や程度を見通しにくい場合がある。そのため、「いつまで、どの程度の勤務調整が必要か」を本人も説明しにくい場合がある。なお、ここでいう「期間」は単なる休業日数ではなく、介護状態が続く生活上の時間軸を指す。

第三に、介護について職場に相談する際には、家庭事情やプライバシーに関わる情報を含む場合がある。親の認知症、家族内の役割分担、経済状況、兄弟姉妹との関係など、職場に共有しづらい情報が含まれることがある。

このため、介護を担っていても職場に伝えない、あるいは伝えられない従業員が一定数存在する可能性がある。企業側が支援ニーズを把握しにくく、必要な支援につながるまでに時間を要する場合も考えられる。

【図表6】 出産・育児との比較と、介護支援の必要性を伝えるハードル

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出所:NTTデータ経営研究所/NTTドコモビジネスX共同調査「ワーキングケアラー支援の実態とサービスニーズの調査」(2026年2月26日)

制度利用上の課題(3):適切な相談先や支援先が分かりにくい

2025年4月から、事業主は労働者が40歳に達する日の属する年度、または40歳に達する日の翌日から1年間のいずれかの期間に、介護休業制度などに関する情報提供を行うことが義務づけられた3。同制度は、介護に直面する前の早い段階で、介護休業や介護両立支援制度などへの理解と関心を深めることを目的としている。

この仕組みは、介護が突然始まる可能性を踏まえると重要である。ただし、制度上の情報提供が行われることと、従業員が実際に備えられることは同じではない。メールや書面で制度情報を受け取っても、地域包括支援センターへの相談、要介護認定の流れ、ケアマネジャーとの面談、勤務先での申し出手続き、介護休業給付金の確認までを具体的に理解するには、追加的な説明や相談の仕組みが必要になる場合がある。

従業員が実際に備えるためには、社内制度の説明に加え、地域包括支援センター、要介護認定、ケアマネジャー、介護保険サービス、民間サービスなど、社外の支援先までを一連の導線として示すことが有効と考えられる。企業は介護サービスそのものを提供する主体ではないが、従業員が必要な相談先に早期につながれるよう、社内外の窓口を分かりやすく示しておくことが望ましい。

おわりに

本稿では、仕事と介護の両立支援制度が利用につながるまでの過程について「(1)介護の局面に応じた制度を判断しにくい」「(2)介護の状況や必要な配慮を職場に相談しにくい」「(3)適切な相談先や支援先が分かりにくい」という3つの課題として整理した。

これらの課題は、制度整備が進むほど、その制度がどの程度認知され、どの場面で利用され、どのような理由で利用されにくいのかを把握する必要性は高まると考えられる。3つの利用上の課題には、企業のみでは対応が難しいものも含まれる。そのため、企業の取り組みを国の法制度、地域・公的サービス、外部支援とどう組み合わせるかが重要になると考えられる(図表7)。


次回(第2回)は、海外の制度や取り組みを参照し、休暇、柔軟な働き方、所得補償、相談支援、職場での申し出・協議の仕組みが、制度利用を支える仕組みとしてどのように設計されているかを整理する。海外制度をそのまま移すのではなく、日本の現行制度を利用につなげるための設計要素を確認する。

【図表7】制度が利用につながるまでの3つの課題

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出所:経済産業省、厚生労働省資料、NTTデータ経営研究所/NTTドコモビジネスX共同調査「ワーキングケアラー支援の実態とサービスニーズの調査」(2026年2月26日)を基にNTTデータ経営研究所が作成

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