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経営研レポート

AI時代のデジタル社会共創とは

社会・産業システムのRe-Designと新たな価値創造に向けて
2026.07.02
デジタル社会共創コンサルティング室 室長/マネージングディレクター 河本 敏夫
デジタル社会共創コンサルティング室 シニアコンサルタント 金子 祐之介
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はじめに

生成AIやAIエージェントの急速な進化により、私たちの生活、働き方、企業活動、地域社会のあり方は大きな転換点を迎えている。AIは単なる業務効率化のツールにとどまらず、人間の認知や判断を補完・代替する存在となりつつあり、社会システムや産業構造そのものの見直しを迫っている。

こうした変化のなかで求められるのは、既存の制度や組織の延長線上での改善ではなく、生活、ビジネス、地域のあり方を改めて捉え直し、社会や産業の仕組みそのものを再設計(Re-Design)することである。


本レポートで触れる「デジタル社会共創」とは、AIがもたらすデジタルが溶け込んだ社会において、生活、ビジネス、地域のあるべき姿を描き、多様なステークホルダーが連携しながら複雑な社会問題の解決に取り組むことで、従来の枠組みとは異なる社会システムや産業エコシステムを再設計(Re-Desgin)し、新たな価値を創造することを指す。


本レポートでは、なぜ今デジタル社会共創が必要なのか、AI時代の社会を考えるうえで何を前提とすべきなのか、そして共創がどのような意味を持つのかについて考察する。

1.AIがもたらす、デジタルが溶け込んだ社会

これまでのテクノロジーの変遷を振り返ると、ビッグデータやメタバースといった技術は大きな期待を集めたものの、実社会への浸透や経済的なインパクトは、「一部の産業」や「特定の用途」にとどまっていた側面がある。

一方、生成AI(Generative AI)とAIエージェントは、それらとは一線を画す「汎用目的テクノロジー(GPT: General Purpose Technology)」としての性質を持っており、かつてのインターネット革命に匹敵、あるいはそれを上回る速度で社会を書き換えようとしている。


その変化において特に重要なのは「推論」と「自律性」である。従来のデジタル技術が、あらかじめ定められたルールに従って動作するものであったのに対し、AIは学習した知識や文脈を踏まえて最適解を導き出し、自律的に状況判断を行うことができる。


AIが「推論」と「自律性」を獲得したことで、これまでは人間にしかできなかった「認知判断の代行(もう一つの知性)」として機能し始めた。これは経済活動や人間の生活、働き方の変化にとどまらず、人間の存在意義や倫理性を問い直すほどの大きなパラダイムシフトを引き起こしている。


以下では、AIがもたらしている変化について整理する(図表1)。

労働とアイデンティティの分離(「働く」ことの意味の変容)

AIの普及は、私たちの「働き方」の定義を根本から覆しつつある。特に少子高齢化が進む国では、医療の問診サポート、介護現場の事務作業、行政窓口対応などを自律型AIが代替することで、労働力不足による社会機能の崩壊を防ぐ存在として期待されている。

それに伴い、人間の役割そのものの再定義も必要になっている。具体的には、AIが出した複数の推論結果から何を選ぶのかという「意思決定」と、その結果に対する「責任(アカウンタビリティ)」がより重要になる。また、感情を伴う「非言語コミュニケーション」や、不確実な状況のなかで組織をまとめ動かすために必要な信頼関係の構築など、人間ならではの価値が相対的に高まっている。

「自律的経済圏(エージェント経済)」への突入

AIを活用して個々の業務の省力化や最適化が進むことはもちろん、AI同士が取引を行う(Agent-to-Agent)も現実を帯びつつある。

例えば、企業のサプライチェーンでは、人間を介さず「企業のAI」と「サプライヤーのAI」がリアルタイムで在庫状況や需要を分析し、自動で価格交渉を行い、発注を完結させる仕組みへのシフトが始まっている。

こうした変化に伴い、災害や環境問題、紛争などの外部環境変化に応じて、業務プロセスを柔軟かつ迅速に組み替えるような「自律型BPR」の重要性も高まると考えられる。

社会信用の危機とエネルギー問題

この変化はポジティブな側面だけではない。新たな問題ももたらしている。人間と見分けがつかないレベルの自然な対話や、本物そっくりの映像(ディープフェイク)をAIが自律的かつ大量に生成・拡散できるようになり、「目に見えるもの、聞こえるものが本物とは限らない」世界が現実味を帯びている。これにより、社会的な分断や詐欺のリスクが高まっている。

また、AIの高度な「推論」には莫大な計算量が必要なため、データセンターが消費する電力の確保と、それに伴う環境負荷への対策が世界的な課題になっている。

【図表1】AIがもたらす社会の変化

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2.2040年のAIネイティブな社会のイメージ

2040年、デジタル社会は「道具を使う」フェーズから、「AIが空気のように溶け込み、自律的に社会を最適化する」フェーズへと移行していることが予想される。生成AIが高度な意思決定を担い、AIエージェントが物理世界とデジタル世界を繋ぐ実務を担う社会である。本章では、そのような未来の姿を、一定の仮説や想像を交えながら描く。

2.1 人々の毎日の暮らし: 「コンシェルジュ」から「パートナー」へ

全ての個人が専用の「生涯伴侶型AI」を持ち、朝起きてから眠るまで、体調に合わせた食事の提案、その日の気分に最適なスケジュールの自動調整、必要なものの購入や資産運用までAIがサポートする。

また、家事や単純な作業の多くをロボットやAIで完結することで、社会は「超ヒマ社会」1へと移行する。人間は創造的な活動や信頼関係を構築、大切な人と過ごす時間などに人生の大事な時間を割くことができるようになる。

1 超ヒマ社会という表現は、書籍 「超ヒマ社会をつくる」(中村 伊知哉 , ヨシモトブックス, 2019)から引用。

2.2 地域コミュニティ: 「自律分散型」の共助社会

たとえば、「子どもを預けたい」「DIYを助けてほしい」といった住民のニーズをAIがリアルタイムで把握し、最適な近隣住民やボランティアをマッチングすることで、互助・共助を促進する。

また、「この街をどうしたいか」「何に優先的にリソースを配分すべきか」という合意形成が難しいテーマについても、特定の経験や立場のある人材だけに依存する必要はなくなる。

AIが確率から実現性が高い「選択肢」を提示したり、住民同士の納得感を醸成するためのファシリテーターとして活躍したりすることで、担い手不足などの地域問題を解決に導く。

2.3 組織マネジメント:フラットな「自律分散型」組織

部課長やマネージャーといった従来の「管理職」が担っていた業務(進捗管理、リソース配分、定型的な評価、タスクの最適割り当てなど)の大部分は、組織に最適化されたAIエージェントに代替されるようになる。これにより、中間の管理階層は消滅し、組織はよりフラットな形態へ移行していく。

人間は「倫理的判断」と「ビジョンの提示」のみに集中することが可能になるため、極めて少人数の専門家集団が活躍する組織へと変貌していく。

2.4 観光:日常への参入と持続可能なマネジメント

AIが高度な文脈理解と多言語推論を行うことで、表層的な観光から「ディープな日常への参入」(地域密着型消費)が可能となる。地元の旅館や商店の主人はパソコンに向かう時間を大幅に減らし、宿泊客との対話や料理、体験の質を高めることだけに集中できるようになる。

また、住民のウェルビーイングと地域社会の持続可能性を高めるような観光地経営も可能になる。例えばオーバーツーリズムに対しては、AIがナッジ(自発的な行動変容)を用いて人流の分散を働きかけたり、一部業務を代行したりすることで、地元の小規模事業者の負担を最小化する。

さらに、AIが伴走型のコミュニケーションに介在することで、観光客は「一過性の消費者」から「地域のサポーター(関係人口)」へと変化していく。

2.5 行政サービス: 「申請」のない、生活に溶け込む役所

AIが個人のライフイベント(出産、転居、相続など)を先回りして検知し、必要な手続きを裏側で完了させ、給付金などを自動で支給する。「役所に行く」「書類を書く」という概念は過去のものとなり、住民は「申請」という行為自体を意識しなくなる。

AIが「定型的な判断(正解)」を担う一方で、人間は「正解のない問い」に向き合う住民に寄り添う役割を担う。AIに手続きを任せて浮いた時間で、独居高齢者の話し相手や不登校の子どもへの家庭訪問など、AIには代替できない「生身の人間」の気持ち、心情、気配りを大切にしたあたたかいサービスを提供する。

2.6 移動・交通:摩擦のないモビリティ

(1)移動の「代替」

移動が困難な地域には、住民が移動するのではなく「サービスが来る」形態へと変化する。AI駆動の無人車両が「移動役場」「移動診療所」「移動スーパー」として定期的に巡回し、地域の生活基盤を支える。

 

(2)「移動のサブスクリプション化」とマルチモーダル統合

AIが徒歩、電動マイクロモビリティ(キックボードなど)、地下鉄、タクシーをシームレスに繋ぐ。利用者は目的地を伝えるだけで、信号待ちの少ないルートや雨に濡れないルートを自動的に選定し、ゲートを通るだけで決済も完了する。これにより、移動に伴うさまざまな「摩擦」が消滅する。

 

本章で示した未来洞察を総括すると、2040年は「テクノロジーが透明化し、人間性が再定義される時代」になるといえる(図表2)。

【図表2】2040年のAIネイティブな世界のイメージ

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3.既存の社会・産業システムの限界とパラダイムシフト

AIの進化に加え、労働力人口の減少、グローバル化、地政学リスクの増大など、企業や政府は、かつて経験したことのないドラスティックな変化に直面している。一方で、多くの制度や仕組みは、これまでの延長線上にとどまったままである。その結果、社会や産業のさまざまな場面で制度の陳腐化や現実とのミスマッチが生まれている。

こうした状況は、社会全体でパラダイムシフトが起きているといえるだろう。過去の成功体験や従来の基準に基づいた正論だけでは対応が難しくなっており、仕組みそのものを見直すことが求められている。

例えば、国や地域においては、制度やルール、さらには自治体のあり方や役割そのものを問い直す必要がある。また企業ならば、サプライチェーン、ビジネスモデル、組織形態、ガバナンスなどを時代に合わせて最適化していくことが必要である。すなわち、社会・産業システムの再構築(Re-Design)が必要な時代に入っているのである(図表3)。

【図表3】既存の社会・産業システムの限界と再構築(Re-Design)

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4.AI時代のガバナンスのRe-Design

2040年に前述のようなAIが社会の隅々に浸透し、「人間らしさ」を再認識する社会を実現するためには、「規制」の概念そのものも再構築(Re-Design)する必要がある。

これまでの規制は「やってはいけないこと」を定める「静的な防壁」として機能してきた。しかし、AIの進化速度が加速する時代においては、変化に応じて柔軟に形を変える「動的なガバナンス(アジャイルガバナンス)」が求められる。

具体的には、以下の3つの方向性が鍵となる。

何を統制するか:「プロセス統制」から「アウトカム統制」へ

これまでは、サービスを提供する際の手順や資格(プロセス)を厳格に定めてきた。しかし、AIが裏側で作業を行う時代には、プロセスは無限に変化する。

そのため、「どのように実施したか」ではなく、「住民の安全が守られたか」「倫理的に正しい結果になったか」というアウトカム(結果)を評価し、その結果に対して責任を問うという考え方へシフトする必要がある。

誰が統制するか:「中央集権的」から「分散型・共同規制・アジャイル」へ

マネジメント主体(政府や経営層)が一律に全てのルールを決め、監視するのは現実的ではなくなりつつある。今後は、マネジメント層が大きな枠組み(倫理指針やレッドライン)を定める一方で、具体的な運用ルールについては、AI開発者や利用コミュニティが自律的に策定・運用する形が望ましい。

また、先進的な技術やサービスの運用については、特定の地域をサンドボックスに指定し、既存の規制を一時的に停止して新しい公共サービスや移動支援を実際に動かしながら、必要なルールを「事後的」に見つけていくアプローチが重要になる。

どう統制するか「静的アプローチ」から「動的アプローチ」へ

これまでは、チェックリストやルール管理の徹底、製品の安全性評価などを通じて「穴」の塞ぎ込みを行う統制アプローチが主流であった。しかし、不確実性を伴うAIを活用する時代においては、変化をモニタリングしながら改善すること、最終的な「責任の所在」を明確化することが重要になる。

 

具体的には、以下の4つの観点が求められる。

(1)AIの進化速度に合わせて柔軟に形を変える

厳格すぎるルールを最初から設けると、AIの開発や企業の競争力が阻害されてしまう。逆に緩すぎると、倫理的な問題や情報漏洩などのリスクが高まる。AIのリスクを「運用しながら継続的に監視・評価(PDCA)」し、必要に応じて社内の利用ルールや社会的な枠組みを改善し続けるアプローチが必要となる。

(2)AIと人間の境界を定める

すべての判断をAIに委ねるのではなく、どの重要な局面(例:行政の給付判断、医療診断の最終決定)で人間が介入すべきかを定める「ガードレール」を法令や規則で定める。

(3)日々変動するデータやアクティビティに関する透明性・監査可能性を確保する

AIがなぜその判断を下したのか、住民やサービスの利用者、経営者、株主がいつでも確認できる「説明可能な、監査可能なAI」の実装が重要になる。

(4)規制へのAI・データ活用

動的なモニタリングや監査を人間がすべて担うことは限界がある。そのため、AIを安全に使うためのセキュリティ(Security for AI)に加え、安全性や透明性を高めるためのAI技術((AI for Security)の活用が不可欠となる。


規制(ガバナンス)は「イノベーションのパートナー」へ

2040年の規制は、進化を止める「ブレーキ」ではなく、社会を正しい方向へ導くための「ステアリング(操舵)」としての役割を担うべきである。

特に、日本が直面する人口減少やインフラ維持という課題に対して、規制が「前例踏襲」ではなく「リスクを取った変革」を後押しできるかどうかが、真のデジタル社会を享受できるかどうかの分かれ道となるだろう。

【図表4】AI時代のガバナンスの要諦

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5.社会のデザインに向けては、共創がカギをにぎる

2040年のビジョンを実現するためのラストピースは、「共創」の仕組みをどう実装するかという点にある。AIが強力な実行エンジンになるからこそ、人間同士が「何を、なぜ、誰のために創るのか」を合意するプロセスや、既存の枠組みを超えて官民や異業種が連携して最適な仕組み・ビジネスエコシステムを構築することが、これまで以上に価値を持つ。

 

AI時代の共創は、大きく「官民の共創」「住民との共創」「異業種間の越境的融合」の3つの側面から捉えることができる。以下にそれぞれの特徴について整理する。

5.1 官民の共創:「発注者と受注者」から「ビジョンの共同出資者」へ

これまでの官民連携は、行政が仕様書を書き、民間企業はその実行役を務めるという役割分担が主であった。しかし、AI時代においては、社会インフラの担い手は行政だけではない。行政が持つ公共データと民間が持つ行動データの統合によって、新たな社会インフラを構築・運営することが求められる。

例えば、民間の配送ロボットの走行データを行政の道路維持管理や高齢者見守りにリアルタイムで活用するなど、「アセットの相互乗り入れ」が必要となる。また、新しいテクノロジーが生まれた際、民間が実装し、行政が並走しながらリアルタイムで規制のガードレールを調整していく「サンドボックス型」の共創の重要性も高まる。

5.2 住民との共創:「サービス享受者」から「社会の共同設計者」へ

AIエージェントの普及により、住民は「行政からのサービスを待つ受け身の存在」から、「自らの意思で地域の暮らしを作り出す当事者」へと変わる可能性を秘めている。

AIやデジタルプラットフォームを介して行政と住民とのコミュニケーションが自然に行われるようになれば、忙しい現役世代や発言が苦手な層も地域づくりへ参加しやすくなる。さらに、住民の持つ「余剰のスキルや時間」をAIが地域の課題と結びつけることで、意識的なボランティアというよりも、もっと軽やかで日常的な「お互い様」のような自然な形での互助・共助が実現する可能性がある。

5.3 異業種間の越境的融合

AIによって、これまで「縦割り(サイロ化)されたドメインの知識」を取り出すコストは限りなくゼロに近づく。人間は、AIが苦手な「コンテクスト(文脈)の飛躍」に特化することができるため、異なる概念を結びつけた着想や実験へのチャレンジが進み、異分野の越境的統合によるイノベーションが加速すると考えられる。

【図表5】AI時代の「共創」による社会デザイン

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おわりに—新しい価値を共に生み出すために

AIがどれほど高度化したとしても、「どのような社会を実現したいか」という主観的な願いは人間の中にしか存在しない。「共創」は、これまで関係者間の合意形成のためのプロセスと捉えられてきたが、今後は「新しい価値を共に生み出す」ための仕掛けへと、その意味を変えていくはずである。

こうした共創を推進していくためには、「異なるステークホルダーの想いや価値観を繋ぎ、人間ならではの翻訳力や熱量」が何よりも求められる。

 

 デジタル社会共創とは、AIを中心とした技術革新を前提に、社会・産業システムを再構築し、新たな価値を創出していくためのアプローチである。その実現には、官民、地域、企業、住民など多様な主体が立場を超えて協働することが求められる。AI時代における社会デザインのあり方を考えるうえで、本稿がその一助となれば幸いである。

【図表6】官民連携による価値創出メカニズム

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