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Insight
経営研レポート

第1回 エンベデッドファイナンス(組み込み・埋め込み金融)の新潮流について

連載: 金融はIndustryからSceneへ
2026.03.24
クロスインダストリーファイナンスコンサルティングユニット
マネージャー 大嶋 昭彦
コンサルタント 村越 里紗
コンサルタント 白鳥 直紀
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はじめに

デジタル技術の進展や価値観・ライフスタイルの多様化を背景に、金融サービスの在り方は大きく変わりつつある。これまで金融は、業種や属性といった「Industry(産業)」を起点に設計されてきたが、近年では個人の生活シーンやコミュニティといった「Scene(場面)」を起点に捉える視点が重要になっている。

本連載では、全3回に分けてIndustryからSceneへの視点転換を軸に、金融サービスの構造変化と今後の可能性を整理する。第1回では、まず金融提供主体の多様化と、その背景にある構造的変化について考察したい。中でもエンベデッドファイナンス(組み込み・埋め込み金融)の拡大やWeb3の動向、生成AIの普及は、金融を「提供されるもの」から「選択・最適化されるもの」へと変化させつつある。こうした潮流のもと、金融は特定の産業の枠内に閉じた機能ではなく、生活や事業の具体的なSceneに寄り添う存在へと進化し始めている。

1.金融提供主体の多様化

近年、いわゆるエンベデッドファイナンス(組み込み・埋め込み金融)を通じた金融サービスの提供主体および提供態様の多様化が著しい。

決済アプリや通信キャリア、大手プラットフォーム(PF)事業者のサービスに付属して金融機能が提供されるような動きに加え、BaaS(Banking-as-a-Service)などの形で、スーパーマーケットや鉄道会社が銀行代理業などの枠組みを用いて銀行サービスを提供する事例も見られる。

 例えば、JREBANK(JR東日本×楽天銀行1)のように大手鉄道事業者が銀行代理業の資格を得て銀行サービスを提供するケースや、非金融事業者のアプリにプリペイドカード機能が搭載されるケース(nanaco2)など、その広がりは枚挙にいとまがない。

こうした非金融事業者による金融機能の提供は、もはや一過性の取り組みではなく、金融サービスにおける新たなトレンドとして定着しつつあると考えられる。

この背景には、事業会社における収益源の多様化という側面だけでなく、「顧客の解像度を高める」ため、「顧客との接点を点から線へと拡張する」といった狙いがある。金融サービスを通じて顧客データ取得・蓄積し、より高度な価値提供を行うための戦略の一環として位置付けることができる。

【図表1】顧客接点の集約と価値提供の高度化

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NTTデータ経営研究所が作成

1 ビューカード「JRE BANK」https://www.jrebank.jp/top/

2 セブンカードサービス「nanaco」https://www.nanaco-net.jp/how-to/charge/

2.価値観やライフスタイルの多様化がもたらす変化

上述した金融サービスの提供形態の変化は、サービス提供者側の戦略だけによるものではない。サービスを受ける側である個人(場合によっては法人を含む)の価値観やライフスタイル、情報接触行動の変化により、サービスの受け入れや消費の場面そのものが変化していることとも連動しているとみられる。

SNSなどを通じた情報へのアクセス手法は多様化しており、かつて男女×年齢区分などで「同一層」と見做されていたセグメントは、現在では一律のライフスタイルや価値観を持っているとは言い難くなってきている。近年では新たな捉え方として、緩やかに価値観を共有する層を「界隈」と呼ぶなどの現象も見られるようになった。

また、ライフスタイルの多様化に加え、「情報接触機会の充実」も進んでいる。SNSを通じて似た価値観を持つ層とつながることで、自身の居場所を見い出すことが可能となっている。

もちろん、「同じようなライフスタイルを持つ人は、同じような嗜好性やペインを抱えている」という従来的な前提も、現在においてある程度有効である。しかし近年では、嗜好性のみならず、自身のおかれた環境に起因するペインやそれゆえに「拠り所」とする対象(いわゆる「推し」とも呼ばれるもの)の選択肢が多様化している。

その結果、「ライフスタイル=嗜好・ペインの単一パターン」という従来の前提は変質しつつあるとみている。もはや、「冬になれば、同じスキー場に足を運び、同じようなウィンタースポーツシーンを誰もが一度は経験する」といった一律の時候の風景は成立しづらくなってきているといえる。

【図表2】IndustryやSceneを起点とした金融アプローチ

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NTTデータ経営研究所が作成

3.金融の原型:相互扶助から制度化への進化

「価値観を自ら選び、特定の集団に縛られず、複数の『界隈』などのコミュニティに、横断的かつ緩やかに、そして流動的に属する」という状況は、一億総発信時代といわれる現代の情報環境では自然な流れかもしれない。

従来は、当人の属するコミュニティに応じてペインはある程度切り分けられ、推測することができた。それに対応する形で、さまざまなサービスも最適化されてきた。

特に金融サービスは、その起源を辿ると職能ギルドや集団居住の集落といった共同体ごとのペインを反映した仕組みを端緒としているといわれる。これは、金融が「一定のリスクやベネフィットを再配分する」機能を有しているためであり、職業の多様性が限られていた時代には、当然に「職業や地縁性を起点とした相互扶助」として機能・発展してきたものと考えられる。

 一方で、近代化の過程で、金融サービスは個人の「(金銭的)財産権」に密接に関与するインフラとして、制度的に監督・管理されるようになった。これにより生活の安定性が確保され、ひいては経済の安定に寄与してきた。誰もが信頼できる場所に、自身の財産に最も密接に関与する金銭を預け、託すことが可能となってから相応の時間が経過している。

 さらに、デジタル化の進展により、法人向けの金融はもちろん、生活インフラとしての個人向け金融サービスの整備も同様に進み、一定の進化・一般化を遂げてきたといえる。

4.欧米における金融オープン化の潮流

こうした金融サービスは、前述した社会構造や価値観の変化と相まって、今後どのような新たな側面を生み出すのであろうか。

上述した「Industry:産業」に着目した金融の変化は徐々に進んできて来たものと考えられる。特に欧州においては、1990年代に始まった「銀行サービスのオープン化」を契機に顕在化してきたPSD2(第二次決済サービス指令)に代表される規制改革(現在はPSD3の議論も進行中)は、金融機能の外部開放を促し、金融サービスの在り方に構造的な変化をもたらしてきた。

もっとも、これらの潮流は当初、欧米における規制改革や社会制度の見直しを主因として生じたものであった。しかし近年では、FinTechと総称されるデジタル技術の発展や、それに伴う同時多発的なイノベーションを背景に、従来とは異なった契機からも新たなサービスが生まれつつあると認識している。

 こうした状況下で、従来「装置産業」とも形容されてきた「重厚長大かつ、安全・安心に配慮した堅牢第一」の金融事業は、適切な規制の整備と緩和を経ながら、「よりユーザーを起点にした形」へとサービスを変化させてきた。この一連の変化は、「Industry」としての金融が、「金融にユーザーが寄り添うものから、ユーザーに金融が寄り添うもの」へと変化する兆しであると考えられる。

 この変化は、主に二つの動きが重なり合うことで生じている。第一に、金融サービスが事業者毎に閉じられ、ユーザーのデータがロックインされてしまう状況を改善しようとした動きを端緒としていることである。第二に、より利用者に目を向けた「ユーザー・ファースト」を念頭に置いた非金融を含む総合的なサービス改善へと舵を切り始めた事業者側の動きである。これらが相互に作用することで新たな金融サービスの創出が加速していると考えられる。

 具体的な変化の一例として、世代別に設計された金融サービスが挙げられる。若年層を中心に広がった新たな金融サービスは、事業体やブランドを分けることで「子世代」や「親世代(高齢者)」といった世代ごとのニーズに応える形へと進化している。例えば、金融教育機能の付加や、特定のサービス(出会い系サイトなど)において決済ができないようにする私的な利用制限を設けることで、それぞれの世代に適したサービス体験を提供する事例が米国をはじめ欧州やアジア地域のFinTechや銀行サービスにおいて確認されている。

さらに、こうした「特定のセグメント」に寄り添う動きは、世代に限らない。欧米では移住外国人を対象としたFinTechやバンキングサービスなど、特定の属性を持つユーザーのペインに根差した金融サービスも登場している。

これらの動きは、ここ十数年の変化で生じてきた変化であり、個々の金融サービスの変化自体は必ずしも大きくないかもしれない。しかし、金融が「誰の、どの課題を起点に設計されるのか」という前提が書き換えられつつある点において、大きな一歩であると考えられる。

5. Web3.0と生成AIがもたらす新たな変革

近年、既存の金融を「中央集権的」と定義するならば、「自律分散的」なアプローチを志向するWeb3型の金融が登場している。規制の在り方については議論が続いているものの、既存の金融と並行して新たな提供・消費モデルを生み出す可能性があると期待されている。

こうした動きを踏まえると、「少し先の将来・未来」にはどのような金融の姿が想定できるであろうか。

この問いを考えるうえでは、SNSの普及による情報流通・アクセス環境の変化に加え、ここ数年で急速に進展した生成AIの動向を踏まえる必要がある。

2022年以降、ChatGPTをはじめとする生成AIが登場して以来、金融機関をはじめ一般企業や自治体においても、導入や活用に向けた検討が進んでいる。また、個人(消費者)による日常的な利用も着実に広がりつつある。

金融機関(供給側)においては、AI活用の進展により、人に代わってタスク(サービスや業務)の実行することや、これまで人手では十分に対応しきれなかった業務領域を補完することが可能となっている。さらに、従来の業務遂行を超えた新たな価値創造の余地も広がっている。

一方、消費者側においても変化が生じている。これまで金融機関(供給側)から提示される商品やサービスを、十分な知識・理解がないまま選択してきた消費者が、AIを活用することで外部情報を収集・整理し、複数の選択肢を比較・検討したうえで、より主体的に意思決定することができる環境が整いつつある。

このように生成AIの登場により、従来の金融規制が前提としてきた「保護されるべき消費者」という位置づけにも変化が生じつつある。すなわち、個人(消費者)が自らリスクを理解したうえで、最適な金融サービスを選択し、必要に応じてカスタマイズできる機会が広がっている。

さらに金融商品の複雑な説明を窓口の職員や専門家に繰り返し確認することなく、AIを通じて理解を深めることが可能となりつつある。近い将来には、日常生活のペインや将来的な不安を平時から共有する「個人に寄り添うAI」が、利用者に先回りをして金融の必要性や選択肢を提示する存在として機能する時代の到来も想定される。

6. 金融の民主化:選択と最適化の時代へ

これらを踏まえると、ある種の「金融の民主化」が本質的な意味で到来しうると考えられる。Web3であるか否かにかかわらず、金融の複雑な構造の前で、消費者が単にサービスを受け取る存在に留まるのではなく、自ら金融の機会を把握し、商品やサービスを選別できる環境が広がりつつあると捉えることができるのではないだろうか。

 

もっとも、こうした変化を無条件に歓迎できるわけではない。金融業界はこれまで、顧客保護が十分に果たされなかった局面を経験しながらも、監督官庁や、特に欧米においては消費者団体の関与を通じて、「内部統制」という供給者側への制約を軸とした安定的な環境を形成してきた。その枠組みを、果たして同様の形のまま新たな環境へ移行できるのかといった疑問は残る。

しかし、これまで以上に消費者側の金融に対する「目利き」は、今後さらに向上するはずである。先に述べたとおり、AIは供給者側においても業務効率の向上やガバナンスの高度化をもたらすため、コスト圧縮や統制強化が一層進むことが見込まれる。

こうした供給側と需要側双方の変化が重なり合うことで、「目の肥えた個人や法人を含む消費者」に対し、より適切で質の高い金融商品・サービスを提供することは、もはや選択肢ではなく、金融事業者にとっての必要性であり必然性となりつつあるといえる。

おわりに結論

従来型の金融に加え、Web3型の金融が登場するなかで、どの技術を利用するかはさておき、基軸となる既存の金融の優位性が相対的に低下しているとなれば、先に述べたような非金融も交えた総合的な金融サービス提供を目指していく必要があると考えられる。

とりわけ、これまで大括りに捉えられてきた小規模法人、いわゆる零細・中堅企業や個人の領域においては、そのペインやベネフィットが生じる事業や生活の「Sceneに入り込む」というより「寄り添う形」での金融が生まれ得るのではないだろうか。

 次回、連載の第2回では、「非金融×金融」での共創を含め、本稿で提示した切り口から、今後の金融サービスの在り方について、より具体的に論じていきたい。

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