はじめに
近年、高齢化の進展に伴い、高齢者が外出を控え、自宅に閉じこもる状態、いわゆる「閉じこもり高齢者」の増加が社会課題として顕在化している。閉じこもりは、身体機能や認知機能の低下、要介護状態への移行、さらには孤独・孤立の深刻化を招くリスクが指摘されており、本人の生活の質(QoL)を大きく損なうだけでなく、医療・介護需要の増大や地域社会の持続性にも影響を及ぼす問題である。特に、本人が支援を求めにくい特性を有することから、早期発見や予防的支援が難しい点が課題となっている。
本稿では、こうした閉じこもり高齢者を取り巻く課題と支援の方向性を整理し、閉じこもり高齢者に対する支援におけるテクノロジー活用の可能性について考察する。まず、閉じこもり高齢者が抱える社会的・健康的影響や、その発生要因を整理するとともに、政府・自治体および企業による主な取り組みを概観する。その上で、支援策の実装段階において生じている課題や今後の改善の方向性について、ICT・AI技術の観点から検討する。
あわせて、テクノロジー活用のみならず、地域密着型の取り組みとして進められている訪問支援や通いの場、ボランティア活動、NPOによる多世代交流支援についても整理し、閉じこもり高齢者支援を包括的に進めるうえでの残課題と今後の方向性を考察する。
1.閉じこもり高齢者がもたらす社会的・健康的影響とリスク
高齢者が外出せず家庭に閉じこもる状態(以下、「閉じこもり高齢者」)は、健康・介護の両面で深刻な影響を及ぼす。東京都健康長寿医療センターの研究では、孤立や閉じこもり傾向を持つ高齢者は、社会的交流のある高齢者に比べ、6年後の死亡率が約2.2倍に上ることが報告されている 1 。つまり、社会的孤立と閉じこもりが重なることで健康リスクが大きく高まる。
さらに、身体機能が低下すると日常生活動作(ADL)も衰えやすく、「健康寿命」が短縮する。その結果、閉じこもりや廃用症候群の発生、さらには寝たきりといった要介護状態に進行する可能性が高まる。実際、30カ月追跡調査では、閉じこもり高齢者のうち要介護認定を受けた割合は25.0%だったのに対し、非閉じこもり高齢者では7.4%にとどまり、閉じこもり者は約3.4倍も要介護リスクが高いことが示されている 2 。
これらの事実から、閉じこもり高齢者には活動機会の欠如による健康悪化や介護リスクの増大という問題があることが明らかである。また閉じこもり状態からの回復により、社会保障費の削減にもつながると期待される。
以上のように閉じこもり高齢者の増加は、個人のQoL低下のみならず、医療・介護費用や地域コミュニティの担い手不足など社会的負担を増大させる重要課題であるといえる。
1 独立行政法人東京都健康長寿医療センター「高齢期の社会的孤立と閉じこもり傾向による死亡リスク約2倍」(2018年7月27日)
2 安村 誠司『高齢者の閉じこもりと介護予防の課題』(高齢社会フォーラム,Dia News No.64、2011年1月25日)
2.閉じこもり高齢者を生む要因
閉じこもり高齢者を生む要因は多岐にわたり、相互に関連している。身体的要因では、加齢による体力・移動能力の低下や脳血管疾患・骨折などの疾病・障害が挙げられる。心理的要因としては行動意欲の減退や依存傾向、認知機能低下や抑うつ状態などが閉じこもりを促す。
また社会・環境的要因として、家族・友人との関係希薄化、外出先や趣味の場の不足、安全でない住環境・道路状況、気候・災害などが外出を阻害する。そして、これらの要因が重なると「閉じこもり症候群」が形成され、活動範囲が次第に狭まり最終的に寝たきりに至ることが指摘されている 2 。
以下では典型的要因を分類して整理する。
• 身体的要因:
加齢に伴う筋力低下や疾病、事故による移動困難、視力・聴力の衰えなどで外出が億劫になる。活動範囲が家屋内に限られ、身体の廃用症候群を招く例も多い。
• 心理的要因:
うつ傾向や不安感、孤独感など精神的要素も大きい。友人・家族の死別や社会的役割喪失により意欲が減退し、外出への動機が失われる。閉鎖的な環境では精神的ストレスが増加し、外出への恐怖心を助長することもある。また、軽度認知障害や認知症の初期段階では、見当識障害や判断力低下から不安感が強まり外出を避ける傾向がある。認知機能が低下すると外出先での道順や安全性に自信が持てず、閉じこもり行動を選びやすい。
• 社会・環境的要因:
単身世帯の増加や地域コミュニティの希薄化により、誘い手・付き添いが得られない。孤立した地域環境や交通不便、介護サービスへの情報不足も閉じこもりを助長する。
3.政府や自治体の取り組み
閉じこもり高齢者への支援に関連して、近年、政府や自治体は高齢者の孤立防止を重要課題と位置付け、対策を強化している。2023年5月には「孤独・孤立対策推進法」が成立し(2023年5月31日成立・6月7日公布)、国および地方自治体が孤独・孤立対策を総合的に推進する法的責務が明確化された 3 。
これに先立ち、厚生労働省や内閣府は介護予防や地域包括ケア推進などを柱とする政策体系を整備し、自治体向けのガイドラインや補助事業を実施している。国や自治体は高齢者見守り・介護予防分野におけるICT活用を促進しており、厚生労働省では介護ロボットや見守りシステム導入を支援する補助金(「介護テクノロジー導入支援事業」)を整備し、ICT機器に加え高齢者向け教育支援にも助成範囲を拡大している 4 。
総務省では自治体DXの一環で高齢者見守りモデル事業を進めており、「地域社会DX推進パッケージ」によりWi-Fiセンサーで高齢者の活動量を把握する実証事業も実施されている 5 。
ICT活用は高齢者ケアの質向上と効率化に資する。導入により、介護者の見守り負担が軽減されるほか、早期異変検知で重度化を防ぐことで介護コスト抑制につながる可能性がある。こうした実証事業などで確認された効果を踏まえ、今後は各自治体・事業者が支援対象者のニーズに応じたICT導入をさらに積極的に検討することが重要となる。
【図表1】 閉じこもり高齢者支援に関する各省庁の取り組み

4.介護DXの進展と企業による閉じこもり高齢者支援の取り組み
近年、「介護DX」を推進する動きが顕著となっている。日本の介護DX市場は2020年の約731億円から2030年には2,115億円に拡大すると予測されており、すでに全介護施設の6割以上でセンサーなどを使った見守りシステムが導入されている 6 。
こうした動向を背景に、通信・IoT機器メーカーやITベンダーを中心に、介護ICTサービスの提供や高齢者支援サービスの研究開発・実証が活発化している。近年の実証実験では、AIロボットやセンサー、通信機器などを組み合わせた支援手法が検討されている。以下では、閉じこもり高齢者支援に関連して、企業によるテクノロジー活用の具体例を紹介する。
■株式会社NTTデータ
株式会社NTTデータでは、シニア向け事業者や自治体向けに提供される、音声操作型スマートスピーカーと画面付きデバイス(Amazon Echo Show)を活用したコミュニケーションプラットフォームである「ボイスタ!🄬」を提供している。本サービスはシニアの自立支援・見守り強化・コミュニケーション促進を目的としており、デジタル操作が苦手な高齢者でも「声をかけるだけ」で利用できる点を特徴としている。
本サービスは離れて暮らす家族、介護従事者、自治体が高齢者の日常を支えるための一つの手段になりうるものである。社会的孤立や閉じこもり傾向のある高齢者にとって、手軽に「声をかける・かけられる」ツールは、日常的な交流や支援を生み出し、生活の質(QoL)向上につながる可能性がある。
また、介護・見守り現場においては、離れて暮らす家族・施設職員が遠隔で日常を把握できることで、リスクの早期把握や支援負荷の軽減につながることが期待される 7 。
■TOPPAN株式会社
TOPPAN株式会社では、高齢者向け情報発信を一元管理できるスマホアプリを開発し、自治体やサロン情報の効率的な周知を支援するサービスを提供している。アプリは「自治体用管理画面」「運営者アプリ」「利用者アプリ」の3層構成となっており、自治体は高齢者向けの案内やイベントの発信、閲覧履歴・参加状況の管理が可能である。運営者は「通いの場」の参加者に対するイベント情報の共有や出欠管理を行い、利用者は見やすい画面で情報を受け取ることができる。
本サービスは、地域包括ケアや介護予防の文脈において「高齢者の情報アクセス性の向上」や「行政・地域との接点強化」をデジタル技術によって実現する仕組みとして有用性が示唆される。特に「通いの場」などを通じた高齢者の交流や参加を促すためのデジタル基盤として、自治体の施策展開を支援する役割を担う可能性が高い 8 。
このほかにも、高齢者の見守りを実現するIoTセンサー、健康状態の計測や健康行動を促すウェアラブルデバイス、自治体が保有するデータを活用することで閉じこもりなどの早期発見につなげる自治体見守りシステムなど、さまざまな技術やサービスが登場している。今後は政策ロードマップに沿って、市町村が地域包括ケアの中でICT施策を本格的に展開し、企業との連携によるスマートシティ化や見守りサービス高度化が進むことが期待される。
6 TELTONIKA「『介護ICT・IoT』で介護の2025年問題を乗り切る」(2025年1月29日)
7 NTTデータ「ボイスタ!とは」
8 TOPPANホールディングス株式会社「TOPPAN、自治体による高齢者への情報発信をサポートする『高齢者ICT支援アプリ』提供開始」(2024年9月13日)
5.テクノロジー活用における課題
前章で述べた通り、ICT・AI技術を活用した閉じこもり高齢者支援策には、遠隔見守り(自治体による見守り含む)やコミュニケーション支援、健康行動促進などがある。閉じこもり傾向の把握にあたっては、IoTセンサーやウェアラブルデバイス、自治体の見守りシステムなどの活用が考えられる。
また、外出や健康行動など何らかの行動を促す手段としては、地域イベントの案内を含むAIスピーカーなどのコミュニケーション支援系サービスが存在する。さらに、テレビ電話ツールを活用し、閉じこもりがちな高齢者が遠隔地の家族やボランティアとつながる取り組みも増えている。
一方で、これらの技術導入には、端末操作の難しさや誤作動、費用負担、プライバシー・セキュリティの懸念など課題も存在する。例えば、ロボット型システムは継続支援に有効だが高コストで利用にあたっての高齢者への教育が必要といった傾向が見られる。また、ビデオ通話などは既存インフラで使いやすい反面、孤立感解消までの効果は限定的ともいえる。
そのほか、高齢者にとって使いやすいUI/UX設計(文字サイズ、音声ガイド、操作の簡便さ)や、音声認識・会話AI・人感センサーの精度向上(誤作動防止、過剰介入防止など)、ネットワークの安定確保も重要となる。
また、個人情報を含むセンシティブデータの取り扱いに関するルール整備(許諾取得、責任範囲など)も求められる。個人情報を扱うにあたり、どのタイミングで、誰が、誰に対して、どうやって許諾を得るのか、利用者の認知機能が低下している場合の許諾取得方法、取得した個人情報の管理主体(自治体・企業)、保管方法(クラウドなど)、利用範囲などについて細かな整備が必要となる。
さらに、ロボットやVRなどの新技術に対する心理的抵抗感や身体的な利用制約を克服するためには、介護現場や家族の協力による導入支援も重要となる。
課題解決の方向性としては、各課題に対し、個別最適化やユーザー中心設計、データ連携の標準化、AI活用などにより解決を図ることが重要である。
具体的には、見守りセンサーなどのサービスでは、個別の生活パターン学習や非侵襲型センサー(身体を傷つけずに体内の状態を測定できるセンサー)の導入による誤検知やプライバシー問題への対応、コミュニケーション支援では高齢者向けUIや履歴学習による対話精度向上が考えられる。
健康管理分野では、歩行特性に応じた計測や多段階の服薬支援、アプリの操作負担軽減が挙げられる。地域連携・データ基盤を活用した見守りなどのサービスでは、国主導によるデータ標準化、匿名加工情報の活用、AIによるリスク検知の導入が挙げられる。
【図表2】 閉じこもり高齢者支援に寄与しうるテクノロジーを活用したサービス

NTTデータ経営研究所が作成
6.テクノロジー以外における閉じこもり対策のアプローチ
本レポートではテクノロジーの活用にフォーカスしているものの、閉じこもり対策には、ICT以外の施策も必須である。地域包括ケアシステム下では、民生委員やボランティアによる定期的な訪問や声かけ、地域サロンや通いの場の開催が推進されている。自治体やNPOによる健康づくり教室、趣味や運動グループの活動も孤立防止に寄与する取り組みである。
実際、住民主体の閉じこもり予防事業に参加した高齢者において、生活への張りや体調の改善、地域への親しみなど心理面での効果が認められたという報告がある 9 。また、電話相談窓口の整備やケアマネジャーによる総合相談など、専門家ネットワークを活用した支援体制も拡充されている。非テクノロジーの施策では高齢者本人の社会参加促進に加え、家族への支援(介護者サロンや情報提供)も重視されている。
NPO法人ソンリッサでは、地域に貢献したい若者が社会的に孤立する高齢者と「孫」のような関係を築き、つながりを生み出す「まごマネージャー」の育成を行っている。これは群馬県の委託事業として実施されており、まごマネージャーは自治会や民生委員と連携しながら、見守り訪問サービス(Tayory[タヨリー])、地域サロン、居場所づくり、相談支援などを担い、多世代交流による地域活性化に寄与している。まごマネージャーが付き添うことで、外出が難しくなった高齢者の散歩を支援したり、会話を楽しんだりすることで生活に寄り添った関わりを行っている 10 。
閉じこもりの背景には孤独や不安に加え、就労や家計の問題も関係する場合がある。このため、生活支援相談や就労支援(祖父母世代の子育て支援など含む)によって総合的にサポートする事例も増えている。こうした地域密着型の施策は、ICTが苦手な高齢者も受け入れやすい点で有効だが、人的資源やボランティアの確保、活動継続の財政確保が課題となっている。
9 厚生労働科学研究成果データベース「地域在宅高齢者の「閉じこもり」に関する総合的研究」(2002年)
10 内閣府「安心・つながりプロジェクトチーム 取りまとめ【資料集】」(2025年7月31日)
7.包括的支援に向けた閉じこもり高齢者支援の課題と今後の方向性
包括的な閉じこもり高齢者支援については、「制度」「財源」「地域間格差」「発見や把握の難しさ」「データ連携」など実務的な課題が多岐にわたる。
「制度」面では、介護予防・健康増進施策の対象として閉じこもり高齢者を明確に位置づけていく必要があるが、現状の行政施策は身体、認知、栄養、社会参加など個別課題ごとの対策に分断されている。また介護保険制度では、すでに要介護認定を受けている者へのアプローチが中心であり、閉じこもり状態にあるものの、まだ介護認定外の高齢者に対する給付・サービスが乏しい状況にある。
「財源」面では、ICT導入に関する補助は進んでいる一方で、高齢者サロンなどの人的施策は財源制約が厳しく、継続的な支援の実施が困難となっている。地域間格差では、過疎地や都市部、自治体の経済力の違いによって対応能力が大きく異なり、一部地域では支援を十分に行き届けることが難しい状況にある。また、民間サービスも都市部に偏りがちで、地方や山間部の高齢者に行き届いていない実態がある。
「発見や把握の難しさ」については、閉じこもり高齢者は自発的に支援を求めにくく、行政や医療機関の「施策対象」になりにくい傾向がある。また、支援を受けることを望まない高齢者に対する介入は、本人の人権尊重の問題とも直結するため、対応が難航しやすい。
「データ連携」については、ICT活用にあたり、介護事業者、医療機関、自治体間のデータ連携や個人情報保護ルールの整備、技術を横断的に組み合わせたソリューション開発にも課題が残る。総じて実務レベルでは、人材不足や研修不足のためICT推進体制が十分に整っていない自治体も多い。
こうした課題への対応として、政策的には地域包括ケアの枠組みの中で閉じこもり予防を明確に位置づけたうえで、高齢者福祉、介護保険、孤独・孤立対策、健康増進など、包括的に支援することが求められる。また、民間ではスタートアップ含む企業が高齢者向けICTサービス・コミュニティ支援サービスを展開しており、官民連携によるビジネスモデル創出が鍵となる。例えば、自治体は補助金や実証支援を通じて地域ニーズに合うサービス開発を促し、企業は高齢者の使いやすさに特化した製品やUI/UX改善を競う形での成長が期待される。データ連携の強化にあたっては、国レベルでガイドライン整備が重要であり、生活データを活用した予防医学的アプローチも考えられる。
おわりに
総じて、閉じこもり対策は複合要因を統合的に捉える必要があり、制度設計、技術開発、地域実践が連携した全方位的なアプローチが求められる。身体、心理、社会環境といった多面的な要因が絡み合う閉じこもりの問題に対しては、単一の施策では十分な効果を生まない。行政による制度的枠組みの整備、企業による使いやすいテクノロジーの開発、地域住民やNPOによる日常的な支え合いが相互に補完し合うことで初めて、持続的で実効性のある支援が実現する。
閉じこもり高齢者支援は、単に高齢者の外出を促す施策ではなく、誰もが孤立せず、安心して老いを迎えられる社会をつくるための基盤である。社会全体が共通の課題として捉え、仕組みと技術と地域の力を結集することが、持続可能なコミュニティの実現につながると考えられる。
