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経営研レポート

薬剤師の都道府県間の地域偏在解消にかかる政策の方向性

2026.02.06
ライフ・バリュー・クリエイションユニット
マネージャー 西尾 文孝
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はじめに

現在、さまざまな医療職種で人材不足が問題視されている。そこで本稿は、薬務行政を担う国および関係者が、都道府県間の薬剤師偏在解消に向けた制度設計を検討する際の論点整理を目的として、政策の方向性を筆者の見解として提言する。

1.薬剤師偏在指標から見えてくる課題

一般に国や地域において人材不足の問題に対応するためには、まず国や地域における人材の充足状況を把握する必要がある。薬剤師の充足状況を把握するための指標については、令和4年度厚生労働省委託事業「令和4年度薬剤師確保のための調査検討事業」において初めて公的な指標として薬剤師偏在指標が開発された。この指標では全国、都道府県、二次医療圏 1 などの地域別、また薬局薬剤師・病院薬剤師などの業態別の充足状況を単一の指標で把握できることが特長である。

地域や業態によっては薬剤師が不足している場合ばかりではなく、充足している場合もある。このため薬剤師の人材不足に関する問題は、薬剤師が偏在している状態の問題と言い換えることができ、この指標は「薬剤師偏在指標」と呼ばれている。

なおこの薬剤師偏在指標は弊職が主担当となり開発したものである。その主担当者の見解として、薬剤師偏在に関する課題のうち、特に地域別の偏在(以下、地域偏在)について同指標から明らかにする。

1 一般的な入院医療を地域内で自己完結させることができる地理的範囲

■ 2つの地域偏在

図表1は全国の地域別薬剤師偏在指標について、都道府県値と各都道府県における二次医療圏別の最大値・最小値を示したものである。青線は各都道府県の薬剤師偏在指標の値を表しており、これを大きい順に左から並べている。また各都道府県の青線の上下にオレンジ色の点をプロットしているが、これらは各都道府県における二次医療圏別の薬剤師偏在指標の最大値と最小値を表している。

なお、図の縦方向のスケールを調整するため一番左側の東京都の二次医療圏値の最大値、最小値はプロットせずに灰色枠内に数値を記載している。

【図表1】全国の地域別薬剤師偏在指標の都道府県値と各都道府県における二次医療圏別の最大値・最小値

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この図から読み取れるのは、薬剤師の地域偏在には、「①都道府県内の地域偏在」と「②都道府県間の地域偏在」が存在しており、この①②両方が課題であるという点である。

さて、薬剤師偏在指標の算定式の基本的考え方は、全国や各地域における薬剤師業務の需要に対して、薬剤師の労働力の供給がどの程度の割合であるかで表される。この需要部分は「推計業務量」として表され、薬剤師偏在指標の分母に相当する。一方、供給部分は「調整薬剤師労働時間」として表され、薬剤師偏在指標の分子に相当する。

「調整薬剤師労働時間」と「推計業務量」が一致していれば、薬剤師の需要に対する供給が均衡していることを表し、「調整薬剤師労働時間」が「推計業務量」を上回っていれ薬剤師が過剰であり、逆に下回っていれば薬剤師が不足していることを表す。

また一般に、要確保薬剤師数の絶対数の規模感が大きいほど、薬剤師確保は困難になるのではないかと考えられるが、薬剤師偏在指標だけでは、要確保薬剤師数の絶対数の規模感は把握できない。この要確保薬剤師数の絶対数の規模感を把握するには、前述した「調整薬剤師労働時間」と「推計業務量」の差分をみることが有用と考えられる。

図表2は、全国の地域別薬剤師偏在指標について、都道府県別の「調整薬剤師労働時間」と「推計業務量」の差分を大きい順に左から並べたものである。差分がプラスの値であればその都道府県での薬剤師は過剰、マイナスの値であれば不足していることを表す。

【図表2】全国の地域別薬剤師偏在指標の都道府県別の「調整薬剤師労働時間」と「推計業務量」の差分

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この図から読み取れるのは、薬剤師の供給における過剰分は図中左端の東京都や神奈川県などごく一部の地域に一極集中している一方で、不足分は図中右側の多くの都道府県に分散していることだ。ここから導かれる課題は、薬剤師過剰分の一極集中を踏まえた都道府県間の地域偏在の解消といえる。

これを踏まえ、前述した2つの課題と合わせると以下のように整理できる。

地域偏在にかかる課題

① 都道府県内の地域偏在の解消

②(一部都道府県への一極集中を踏まえた)都道府県間の地域偏在の解消

また図表3は前述した全国の地域別薬剤師偏在指標の「調整薬剤師労働時間」と「推計業務量」の差分を地方別に大きい順に左から並べたものである。

【図表3】全国の地域別薬剤師偏在指標の地方別の「調整薬剤師労働時間」と「推計業務量」の差分

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この図から読み取れるのは、薬剤師の供給の過剰分は地方別に偏在し、地域間で格差が生じていることである。例えば、図中の左端の関東地方に所在する都道府県(茨城県、群馬県など)であれば、過剰分が大きい東京都や神奈川県が近くにあることを踏まえて薬剤師確保を検討することが可能と考えられる。一方、図中右側の地方ほど、地方全体における薬剤師不足の状態が深刻であり、都道府県間の地域偏在の解消に向けた対応策は、関東などとは違ったものとなると考えられる。

2.都道府県間の地域偏在解消のための政策の方向性

(1)都道府県間の地域偏在解消を主導する主体

前章で示した通り、薬剤師の供給の過剰分が東京都や神奈川県などごく一部の地域に一極集中する一方で、多くの都道府県では不足分が生じている。都道府県内の地域偏在については、各都道府県の実情に合わせ、各都道府県内でさまざまな対策が行われている。しかし、都道府県間の地域偏在については薬剤師の供給の過剰分を有する東京都や神奈川県などの都道府県が、自ら都道府県間の地域偏在を是正するインセンティブがあるとは考えにくい。一方で薬剤師が不足している都道府県が個別に、または連携して対応することも、関係者間の調整も含めた負担の観点から実行のハードルが高いと考えられる。

このように、都道府県が策定・実施する医療計画だけで都道府県間の地域偏在を解消することは困難だと考えられることから、国がより積極的に関与し主導する必要があるのではないかと考える。

(2)供給充実のための政策の方向性

国がこれまで以上に積極的に関与するにあたり、まず地方部に薬剤師を呼び込むための施策が必要である。すでに一部自治体などでは施策が実施されているものの、一定期間が経過した後、都会部への転職や、ライフイベントなどでの離職・休職後の復帰困難により離職するケースもあり、結果的に効果が限定的となっていると考えられる。

このため真に重要なことは、薬剤師を地域に「定着」させることである。薬剤師が定着してはじめて、就職促進施策の効果が生じてくるといえる。政策の基本的考え方としては、薬剤師、が定着することを主たるアウトカムとして重視すべきと考える。

政策の基本的考え方

薬剤師の定着を評価・支援すること

具体的な政策としては、以下が考えられる。

政策の基本的考え方

① 薬剤師が定着したことを診療報酬上で評価すること

② 薬剤師が定着したことを測るKPIを作る

 ※例:地方部の薬局・医療機関に入職後、一定期間以上、継続して就職している人数

③ 薬剤師が定着したというアウトカムが生じた要因などに関する調査研究事業の実施

④ 病院、薬局の現職薬剤師が就労にあたり重視する事項のトップ3が「業務内容・やりがい」「給与水準」「勤務予定地」であることを踏まえ、病院、薬局がこれらの事項を充実させる取り組みを支援すること

(3)病院、薬局間での連携やDX化などによる負担軽減のための政策の方向性

薬剤師業務の需要を削減すれば、理論上、薬剤師偏在指標は改善するが、単に患者へ提供するサービスを縮小することは、医薬品提供体制を維持確保するという、そもそもの偏在解消の目的に逆行し推進すべきこととはいえない。

そうではなく薬剤師の充足状況が低い医療機関同士、薬局同士、あるいは医療機関・薬局間でのDX化や人による「連携」「協働」などにより負担軽減を図り、限られた薬剤師数であっても医薬品提供体制を維持確保する体制づくりを行ったことを評価する視点が重要であると考える。

政策の基本的考え方

患者へのサービスを落とさない前提での薬剤師業務のDX化や連携・協働による業務効率化を評価・支援すること

おわりに

本稿では、地域における薬剤師偏在解消のための国全体での取り組みの方向性に主眼をおいて、政策の方向性を提言した。本稿が薬務行政などで薬剤師偏在解消の政策を検討する際などに参考にされ、薬剤師偏在解消の一助となることを期待する。

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