本対談は、昨年12月に「生成AI大賞(Japan Generative AI Award)2025」優秀賞を受賞した岡山市の精密部品メーカー・中原製作所の中原さくら子氏、トランスリーの高山文博氏、当社の濱島有吾の3人が集い、30年分の現場データを生成AIで分析しながら、事業承継に挑んだ軌跡と、現場から始まった変革の可能性を紹介します。

はじめに
本日はお時間ありがとうございます。
まずは、生成AI大賞2025 優秀賞の受賞、おめでとうございます。
ありがとうございます。
はじめに、それぞれの会社について簡単にご紹介をお願いできますでしょうか。
はい。中原さくら子と申します。私は2016年より中原製作所の経営企画室長として、祖父の中原希世士が立ち上げたこの会社を支えています。当社は1948年創業の中小製造業であり、ロールtoロール技術を核に、印刷機やフィルム製造装置、半導体製造装置向けの精密部品加工を行っています。特徴としては、30年以上前から自社で製造管理システムを開発し、現場データを蓄積してきた点です。
一方で、当社の事業承継や他社のM&Aを経験する中で、技術や判断の軸が「言葉」や「データ」として十分に伝えきれていないという危機感を強く持つようになりました。

ありがとうございます。続いて高山さん、お願いします。

はい。トランスリーの高山です。
私は以前、NTTデータ経営研究所に在籍していまして、生成AIを活用したデータ分析の経験が、今の事業の原点になっています。
現在は「DataTranslator」という自社プロダクトを通じて、生成AIでデータ分析をより身近なものにする取り組みをしています。

ありがとうございます。では最後に濱島さんお願いします。
はい。NTTデータ経営研究所の濱島です。
私はこれまで製造業向けのプロジェクトを多く担当してきましたが、近年はAI関連の取り組みが増えています。
今回のプロジェクトは、その両方が重なった、とても象徴的な取り組みでした。

まったく違う3社が、なぜ出会ったのか?
業種も立場も異なる3社が、どのようにつながったのか、その経緯を教えていただけますか。
私と中原さんの最初の出会いは2018年頃です。
当時、前職で製造業向けの先端加工プロジェクトを担当していて、その第1号として中原製作所さんに手を挙げていただきました。
実際に岡山の工場を訪れて、「これは本当にすごい会社だ」と強い印象を受けました。
その後、私がNTTデータ経営研究所に移籍し、高山さんと出会います。
生成AIのビジネス活用に対する考え方が非常に近くて、「この人とは何かできる」と感じていました。
ちょうどその頃、私も生成AI×データ分析のユースケースを模索していた時期でした。
そうですね。
一方で、中原製作所の中原会長とも定期的に情報交換をしていて、「AIを使って事業承継を考えたい」というお話を伺いました。そこで、「それならぜひ高山さんを紹介したい」と思い、3人が一度集まったのが始まりです。
「うちをモルモットにしてくれ」
そこから一気に話が進んだそうですね。
はい。
最初に中原会長から言われた言葉が、今でも忘れられません。
「高山さん、うちのデータは全部使っていい。うちをモルモットにして、日本の中小製造業の役に立つなら使い倒してくれ」
正直、企業の方からここまで言っていただくことはほとんどありません。
会長は本気だったと思います。
日本の中小製造業が今、事業承継期を迎えている中で、「1社だけ生き残ればいい」という世界ではない、と常々言っていましたので、そこから出た言葉だったと思います。
なぜ「事業承継×生成AI」だったのか
とはいえ、「事業承継」と「生成AI」は、なかなか結びつきにくいテーマにも思えます。
そうですね。でも中原製作所さんには、30年分の現場データがありました。
不具合管理台帳、基準工程、図面管理…など。それらは製造業にとっては、まさに宝の山です。
ただ、一部は紙に手書きしたものをPDFで保存されているだけの状態だった。
一応、検索はできるんです。でも、「じゃあ、これをどう活かす?」となると、どうしていいのか分からなかった。
そこで生成AIを使って、不具合の傾向や原因、対策のパターンを整理し、若手にも使える形にしよう、という話になりました。
最大の壁は「生みの苦しみ」
実際に取り組んでみて、苦労された点は?
一番大変だったのは、データの整備ですね。手書きの不具合報告書は、AIではうまく読めません。結局、2年分くらいの資料を、PDFを見ながら一つひとつ手入力しました。
あれは本当に大変だったと思います。
しかも、分析も最初は「浅い」と会長からダメ出しをもらい、何度もやり直しました。
(笑)でも、そのやり取りがあったから、「現場で本当に使える分析」に近づけたと思っています。
生成AIが生んだ、新しい関係性
面白かったのは、生成AIが入ったことで、熟練工と若手の間に「第三の存在」が生まれたことですよね。
そうなんです。AIが出した分析結果を見ながら、
「ここはデータに出てこないけど大事だよ」
「ここは注意しないといけない」
そんな会話が自然に生まれるようになりました。暗黙知が形式知に近づいた瞬間でした。

なぜ、生成AI大賞を目指したのか
そこから、生成AI大賞を目指そうと思ったきっかけは?
「せっかくやるなら、何か目標を持とう」と思ったんです。
そこでたまたま見つけたのが、一般社団法人Generative AI Japanが主催している生成AI大賞でした。
正直、最初は「本当に出るの?」と思いました(笑)。
でも、トランスリーさんとNTTデータ経営研究所さんが一緒だったから、挑戦できた。自社だけであったら、挑戦できなかったと思います。
作業服で、壇上へ
最終発表で印象的だったのは、さくら子さんが作業服で登壇されたことですね。
特別な演出を意識した訳ではなくて、「中小企業を代表する現場の人間として話したい」という気持ちでした。
他の方がスーツ姿が多い中、結果的に、その意気込みがすごく伝わったと思います。

受賞の瞬間、そして現場の反応
優秀賞を受賞したときのお気持ちは?
岡山の田舎の中小製造業の取り組みが、ここまで評価されるんだ、という驚きが一番でした。
受賞した瞬間、LINE WORKSで現場の人たちに報告したら、今までで一番スタンプが返ってきました。
社員が一緒に喜んでくれたことが、何より嬉しかったです。
この先に見ている未来
最後に、今後の展望を教えてください。
まずは自社で生成AIを使い続けること。そして、私たちの取り組みが、他の中小企業の参考になれば嬉しいです。
短期的な収益を追求するのではなく、日本の中小企業にとって意味のあるユースケースを広げたいですね。
AIは人とデータをつなぎますが、人と人をつなぐのは人。その両方を大切にしながら、これからも一緒に挑戦していきたいです。

おわりに
岡山の現場から始まった小さな挑戦は、
生成AIを通じて、日本の中小企業が抱える大きな課題へとつながった。
これは「AIの話」ではない。
「人が未来をつなぐ話」である。





