はじめに
日本では急速な高齢化が進行し、介護保険制度における要介護認定の申請件数が増加している。これは各自治体の認定業務の負荷を増大させ、認定審査期間の長期化を招く一因となっている。介護保険法では認定審査期間を30日以内と定めているが、令和5年度の全国平均は40.8日に及び、期間内に対応できている自治体の割合は25.1%にすぎない。この状況は、介護サービスの利用開始の遅延を招き、要介護者のQOL(生活の質)に影響を及ぼす恐れがあるため、認定業務の迅速化は喫緊の課題である。加えて、給付の適正化と制度への信頼維持の観点から、認定結果の公平性を確保することもまた極めて重要である。
これらの課題に対して、ICT・AIといった先進技術の導入・活用は、要介護認定プロセスの効率化と質・公平性の確保の両面において有効とされており、「規制改革実施計画 1」や「社会保障審議会介護保険部会 2」においてもその活用推進が重視されている。
本レポートでは、当社が受託事業として大分市および別府市で実施した実証プロジェクトの結果に基づき、ICT・AI活用による業務効率化・迅速化の可能性を明らかにする。併せて、今後の全国展開に向けた課題と対応策を考察する。
1 内閣府「規制改革実施計画」(令和6年6月21日)
2 厚生労働省Webサイト「第117回社会保障審議会介護保険部会」(令和7年2月20日)
1. 要介護認定業務の現状と課題
1.1. 要介護認定申請の増加と今後の見通し
厚生労働省の「介護保険事業状況報告」によれば、要介護(要支援)認定者数は、制度が開始された2000年度末の218万人から2023年4月末には696万人へと増加している(図表1)。これは20年間で3倍以上に達する規模である。
この認定者数の増加に伴い、全国1,735市町村(2024年4月時点)における認定審査件数は年間約600万件にのぼり、自治体の事務負担は深刻化している。
【図表1】要介護(支援)認定者数の推移
【出所】
厚生労働省 老健局「第115回社会保障審議会介護保険部会」(P8,令和6年12月9日)
1.2. 介護認定制度の仕組みと業務プロセス
要介護認定は、申請から認定結果の通知まで、主に6つのプロセスを経て実施される(図表 2、3)。介護保険法では、申請から30日以内に認定結果を通知することが原則として定められているが、実際の平均審査期間は40.8日であり、法定期間を約10日超過しているのが実情である。30日以内に認定を完了できている自治体は、全国で約25.1%にとどまり、申請件数の増加とともに業務の遅延が常態化している状況にある。
特に「主治医意見書の入手」や「一次・二次判定」の工程において、郵送対応や関係者間の調整に時間を要している点が、審査期間の長期化を招いている。
【図表2】認定フローの各プロセスにおける所要期間
【出典】
厚生労働省「介護保険総合データベース」(令和5年4月~令和6年3月申請分)を基にNTTデータ経営研究所が作成
【図表3】認定フローの全体像
【出所】
厚生労働省 老健局「第115回社会保障審議会介護保険部会」(P18,令和6年12月9日)
【各所要期間の定義】
- 全体(認定審査期間):(二次判定日)ー(申請日)
- 認定調査:(認定調査実施日)ー(認定調査依頼日)
- 主治医意見書:(意見書入手日)ー(意見書依頼日)
- 一次・二次判定:(二次判定日)ー(意見書入手日または調査実施日のうち遅い方)
1.3. 認定審査に時間を要する要因
認定審査が遅延する主な要因は、以下の3点に大別される。
(1)主治医意見書の入手の遅延
主治医意見書の作成の遅れは診察スケジュールや受診頻度により発生する。外来患者の受診は1~3カ月に1回程度であるため、主治医意見書の作成依頼があっても、次の診察日まで作成できないことがある。特に安定している患者ほど診察間隔が長くなり、意見書作成も遅れやすくなる。
また、市区町村からの依頼や医師からの返送が主に郵送で行われ、進捗確認や催促も電話・FAXが中心であるため、プロセス全体が非効率となり時間を要している。
(2)紙と郵送を中心とした非効率な業務プロセス
申請書、認定調査票、主治医意見書といった多くの書類が紙媒体で、郵送によりやり取りされている。そのため、物理的な移動時間が発生するだけでなく、紛失・汚損のリスクも伴う。さらに、書類が今どの段階にあるのか進捗状況を把握しにくい点も課題である。
(3)手作業によるデータ入力とシステム連携の不足
紙の書類に記載された内容を、職員が基幹システムへ手作業で入力する作業は、時間を要する上にヒューマンエラーの原因となり得る。加えて、自治体内で複数のシステムが併用されている場合、システム間のデータ連携が不十分なために、同じ情報を二重、三重に入力する手間が発生しているケースも見られる。
これらの課題を解決するため、国や自治体では、申請のオンライン化や認定関連書類のデジタル化を推進する「介護認定業務のDX(デジタル・トランスフォーメーション)」が急務とされている。
2. 要介護認定の迅速化・効率化に係る日本の政策動向(ICT・AI関連部分抜粋)
要介護認定業務の迅速化および公平性確保は、介護保険制度の持続可能な運営を支える最も重要な根幹である。自治体によって認定日数や審査体制にばらつきがある現状は、制度の公平性や信頼性を損なう要因ともなっており、国としても抜本的な改善を急務と位置づけている。
こうした状況を踏まえ、厚生労働省では2024年度(令和6年度)から、認定業務の迅速化を目的に、全国の保険者ごとの要介護認定の迅速性等に関する情報(申請から認定までの期間等)を集計・公表している。公表情報には以下のものが含まれる。
- 認定審査期間の平均値
- 認定審査期間が30日を超えた件数および申請件数全体に占める割合
- 認定調査依頼から認定調査実施までに要する期間(認定調査所要期間)
- 保険者が主治医意見書を依頼してから入手するまでに要する期間(主治医意見書所要期間)
- コンピュータによる一次判定から介護認定審査会による二次判定に要する期間(介護認定審査会所要期間)
上記の要介護認定審査に係る各期間については以下のとおり定義づけられている(図表4)。
【図表4】要介護認定に係る各期間
【出所】
厚生労働省 老健局「第117回社会保障審議会介護保険部会」(P6,令和7年2月20日)
2.1. 政策の方向性
日本は要介護認定業務の効率化と公平性の確保を図るため、次の2点を政策の柱として掲げている。第一に業務全体の構造的な見直しとしての事務の効率化・デジタル化、第二にAIなどの先進技術の活用による認定の合理性と質の向上である。
(1)事務の効率化・デジタル化の抜本的推進
国は業務プロセス全体のデジタル化を通じて、認定業務の構造的な迅速化を実現する方針を示している。具体的には以下の取り組みが挙げられる。
- 医療機関からの主治医意見書提出のデジタル化
- 介護認定審査会のオンライン開催
- 審査資料のペーパーレス化
これらの取り組みにより、書類の印刷、郵送など物理的な業務負担や、書類のやり取りに伴うリードタイムの削減が期待される。なかでも、主治医意見書の取得遅延は審査機関の長期化を招くボトルネックとなっているため、そのペーパーレス化が最優先事項として位置付けられている。また、現場からは要介護認定プロセス全体のICT化やAI活用に対する強い要望も寄せられている。
実際に、認定審査期間を恒常的に30日以内に収めている先進自治体では、以下のような多角的なデジタル活用が進められている。
- 認定調査システムの電子連携
- 主治医意見書の電子的な読み込み(OCR等)
- 審査会資料の電子送付・閲覧
- オンライン審査会開催
こうした先進事例の横展開を進めるには、それに必要な共通仕様の整備や財政的支援など基盤強化が必要であるとして、国庫支援の重要性も強く要望されている。
(2)AI等の活用に向けた本格的な検討
要介護認定におけるAIの活用は、認定結果の公平性向上に資するものとして重要事項に位置づけられている。令和6年度からはAI活用に向けたモデル事業の実施や調査研究が本格的に開始され、令和8年度までに効果を検証した上で、令和9年度には具体的な制度的措置が講じられる予定である。
AIは、以下のような用途での活用が期待されている。
- 一次判定の合理性の検証
- 二次判定の専門的判断の補助
- 合議体や審査会委員間での判断のばらつきを抑制
これにより、審査の質の向上と判定の均質化が可能になるとされている。一方で、迅速化を追求するあまり、丁寧な合議や専門的かつ多角的な視点が軽視され、審査の質が損なわれることへの懸念も示されている。
そのため、国の政策は審査の質を維持・向上させつつ、迅速化を同時に実現することを目指している。持続可能で国民の信頼を得られる要介護認定制度の構築に向けては、AIはあくまで補助的役割として専門家の判断を補助する手段として位置づけ、迅速化と質の確保の両立を図ることが極めて重要とされている。
次章では、こうした国の方針を踏まえ、大分市と別府市で実施された実証事業の取り組みを紹介する。現場での検証を通して得られた成果・気づきを通じて、ICT・AIの活用がどのような効果をもたらすのかを考えていく。
3. 大分市・別府市における実証事例
3.1. プロジェクト実施の背景と対象自治体の選定理由
本実証プロジェクトは、全国的に顕在化している要介護認定申請件数の増加とそれに伴う業務負荷の上昇、認定期間の長期化という課題に対応するために実施された。国が推進する認定業務の迅速化・デジタル化政策のもと、その実効性を現場レベルで具体的に検証したものである。
実証の対象となった大分市および別府市は、ともに高齢化が進行し、要介護認定業務の効率化が喫緊の課題となっていた自治体である。
大分市は、デジタル田園都市国家構想交付金TYPE1 3 を活用し、「認定調査」と「認定審査会」のICT化を図っている。一方、別府市は、「ケアマネへの情報提供」の手段として、介護情報共有サービスである「シェアポート 4」を用いた独自の取り組みを進めている。
今回はこれらの取り組みに加え、デジタル田園都市国家構想交付金TYPES 5 の補助金を活用し、両市において、以下の要介護認定プロセスにおける主要業務のデジタル化を推進するため、必要なシステム改修や導入が行われた。
- 主治医意見書のデジタル化・電送化
医療機関から市町村への主治医意見書の提出を、従来の紙媒体から電子的なデータ連携に切り替える取り組み。
- 認定調査のデジタル化
認定調査員がタブレットを用いて調査結果を入力し、データで連携させる仕組みの導入。
- 審査会資料・保険証情報等開示のオンライン化
関係者に対し、審査会の資料や認定結果などのサービス利用等に必要な情報をオンラインで閲覧できる環境を提供する取り組み。
こうした取り組みによって、実際の業務改善効果がどの程度得られるのかを定量的に測定した。
3 デジタルを活用した地域の課題解決や魅力向上の実現に向けて、他の地域等で既に確立されている優良モデル等を活用したサービスを地域・暮らしに実装する取り組みを支援するもの。参考:https://www.chisou.go.jp/sousei/about/mirai/pdf/type1guidelines.pdf
4 別府市「別府市介護情報共有サービスシェアポート」
5 「デジタル行財政改革」の基本的考え方に合致し、将来的に国や地?の統一的・標準的なデジタル基盤への横展開につながる見込みのある地方公共団体の先導的な取り組み。参考:https://www.chisou.go.jp/sousei/about/mirai/pdf/digidenkohukin_2023types_gaiyou.pdf
■ 大分市における実証内容と成果
大分市では、すでに認定調査および介護認定審査会の一部でデジタル化が進んでいたことから、本実証では未着手であった以下の2点に焦点をあてた。
- 主治医意見書のデジタル化・電送化
- 審査会資料・保険証等情報のオンライン閲覧環境の提供
その結果、以下の効果が確認された(図表 5、6、7)。
- 認定審査期間:平均2.2日短縮(34.6日から32.4日)
- 認定業務時間:1件あたり平均24.0分短縮
- 紙使用量:1件あたり平均10枚削減
認定審査時間が想定したほど大幅に短縮されなかった要因としては、既存の基幹システムとの日次連携業務(受領したデータを介護保険システムに入力する作業)において、データエラーの確認や修正に時間を要するケースがあった点が挙げられる。
【図表5】要介護認定審査期間の変化(大分市)
【図表6】1件当たりの認定業務時間の変化(大分市)
【図表7】1件あたりの紙の量の変化(大分市)
■ 別府市における実証内容と成果
別府市では、すでに審査会資料・保険証情報などの開示において独自のオンライン化を進めていたことから、以下の2点に重点を置いて実証が行われた。
- 認定調査のデジタル化(訪問調査管理システムの導入)
- 主治医意見書のデジタル化・電送化
その結果、以下の効果が確認された(図表 8、9、10)。
- 認定審査期間:平均8.0日短縮(37.9日から29.9日)
- 認定業務時間:1件当たり平均23.2分短縮
- 紙使用量:1件あたり平均8枚削減
特に認定審査期間の短縮は、主治医意見書の電送化によって、これまでボトルネックとなっていた受領プロセスを改善されたことによるものと考えられる。この結果は、医療機関と市町村間のデータ電送化が極めて有効な解決策となることを現場レベルで実証した好例といえる。なお、本分析の平均値は改善したものの、異なるケース間での状況や季節による変動、また対象とした期間が限定的である点には留意が必要である。
【図表8】要介護認定審査期間の変化(別府市)
【図表9】1件あたりの認定業務時間の変化(別府市)
【図表10】1件あたりの紙の量の変化(別府市)
3.2. 実証結果の比較と現場評価
大分市と別府市の実証結果の比較は以下の通りである(図表11)。
【図表11】実証において設定したKPIの結果
認定審査期間の短縮効果については、別府市の方がより顕著であった。これは、主治医意見書の受領に時間を要していた別府市の課題が電送化によって集中的に改善されたことが要因として考えられる。一方で、1件あたりの要介護認定業務時間の短縮効果については、両市ともに約24分と同程度の効果が確認された。また医療機関や自治体職員からは、日々の業務負担軽減に繋がるポジティブな評価が多く寄せられた。
4. 要介護認定業務におけるICT・AI活用の推進に向けた今後の展望と課題
本章では、実証プロジェクトで得られた知見を踏まえ、今後の展望と全国的な展開に向けた課題を整理する。要介護認定業務におけるICT・AI活用の推進にあたっては、技術導入にとどまらず、制度運用や関係者間連携、データ整備といった多面的な対応が求められる。以下に主要論点を示す。
(1)認定業務全体のデジタル化と標準化の推進
本実証では、一部の業務工程がデジタル化されたものの依然としてアナログな運用が残る場面も見られた。具体的には、認定調査結果を要介護認定支援システムに同期するために認定調査員が登庁しタブレット接続する必要があること、主治医意見書の作成依頼が郵送で行われていること、電子カルテや診断書作成支援システム等を導入していない医療機関では意見書が手書き作成されていること、さらに認定審査会では紙媒体資料での資料送付を希望する委員がいることが挙げられる。
今後、医療・介護DXを推進するにあたり、一部の運用をアナログのまま残すことは、自治体、医療機関の双方でアナログ対応とデジタル化の二重運用を発生させ、非効率化を招く可能性がある。したがって、認定業務全体を一つのプロセスと捉え、情報の発生から流通、利活用に至るまでの流れを一貫してデジタル化することが重要である。しかし、自治体によってはセキュリティポリシーが認定調査結果の電送の障壁となる場合がある。また申請件数が少ない地方都市では、デジタル化による効果が限定的であるため、導入へのインセンティブが働きにくいといった課題も存在する。
標準化の観点において、主治医意見書の各項目に関する入力必須項目や文字数制限は、PMH(介護情報基盤)、自治体システム、介護認定審査会それぞれの要望によって異なっており、本実証においても自治体ごとの運用を踏まえた調整が必要となった。今後の全国展開を見据えるには、情報の発生源である医療機関から正確なデータが作成され、円滑に電送されるための全国共通のインターフェイス仕様の策定が不可欠である。そのためには、必須項目、文字数制限、その他要件について関係者間で綿密な調整を行い、インターフェイス仕様を最終化する必要がある。
(2)デジタル化の普及促進とシステム連携強化
小規模な自治体や医療機関は、大都市や大規模病院と比較して、ICT化による効率化のメリットが限定的であるという側面がある。こうした状況に加え、小規模自治体は単独の予算規模が小さいため、デジタル化ソリューションの導入や実証が困難である。
今回の実証では、デジタル田園都市国家構想交付金等の国の制度も活用し、要介護認定業務のデジタル化に取り組んだ。この経験を踏まえると、今後の普及拡大には、導入で培った技術的ノウハウの共有や、補助金といった財政的支援が不可欠である。
一方で、デジタル化の推進には、自治体の規模に応じた別の課題も存在する。例えば大規模な自治体では、審査会の委員や認定調査員の数が多いため、タブレット端末等を活用する場合の管理・調整コストが膨らむ傾向にある。また、自治体の規模に関わらず、審査会のオンライン開催や資料のデジタル化に対応が難しい委員も一定数存在する。特に人材が限られる小規模自治体では、委員に対しては協力を依頼する立場にあるため、一方的にデジタル化への対応を求めにくいという実情もある。
したがって、デジタル化ソリューションの導入に際しては、技術的な側面だけでなく、こうした運用面の課題を解決し、医療機関と自治体、審査委員との間で円滑に情報共有を行える仕組みの構築が求められる。デジタル化の効果を最大限に発揮するためには、関係者のデジタルリテラシー向上に向けた研修の実施や、現場に寄り添う伴走型のサポート体制の整備、充実も重要である。
(3)AI活用のためのデータ基盤整備と適切な運用
認定調査、主治医意見書の回収に加えて、介護認定審査会の効率化は重要な課題の1つである。現状、審査会では一度に審査できる件数に限りがあり、処理しきれない案件は次回以降に繰り越されるケースも見られる。こうした状況に対しては、AIを活用して二次判定で重点的に審議すべきポイントを抽出・提示する仕組みを導入すれば、審査プロセスの効率化が図れる可能性がある。
一方で、現在の要介護認定業務では非構造化データが多く、AIの活用は技術的に難しい状況にある。令和5年度の調査 6 によると主治医意見書の保管形式は「手入力で電子データ化」が16.2%、「OCRによる読み込みデータ」が40.5%にとどまっており、AIが即座に活用可能なデータ環境が整っているとは言い難い。今後は、近年急速に進化している生成AIの技術を見据え、主治医意見書などのテキスト情報をAIが活用可能な構造化データに変換する仕組みの整備が求められる。
また、AIの活用は認定結果の公平性・科学的合理性の向上に貢献すると考えられる。自治体によっては、認定調査の選択に偏りや、介護認定審査会において審査判定が適切ではない手順で行われているといったことがみられる。これは制度全体の信頼性や公平性の観点から課題があると考えられる。
ただし、AIが全ての判断を行うことは、行政機関としての説明責任の観点からリスクが伴う。AIはあくまで人間の判断を補助するツールとして位置づけ、専門家の知見と経験に基づいた審査体制を確保すべきである。
持続可能で国民の信頼を得られる要介護認定制度を実現するには、デジタル化推進と並行して、これらの課題に総合的に取り組むことが不可欠である。
6 NTTデータ経営研究所「令和5年度 要介護認定情報のデジタル化・電送化に関する調査研究事業」(P21,自治体向けアンケート調査 問17主治医意見書の保管形式より)
おわりに
要介護認定業務におけるICT・AI活用は、申請件数の増大に伴う業務量の増加、認定審査期間の長期化といった喫緊の課題に対応するだけでなく、要介護認定結果の公平性・科学的合理性の向上、さらには制度全体の持続可能性を確保するために不可欠な手段である。
本実証で大分市および別府市が得た具体的な成果は、特に主治医意見書電送化や認定調査のデジタル化といったICT活用が、現場の業務効率化と認定期間の短縮に実効性を持つことを明確に示し、国の推進するデジタル化の方向性の正当性を裏付けるものとなった。また、認定調査票や主治医意見書の構造化は、将来的なAI活用によるさらなる効率化と公平性の向上への道筋を示唆している。
高齢化が今後も進み、介護ニーズが増大する中で、持続可能な介護保険制度を維持していくためには、テクノロジーの力を最大限かつ戦略的に活用することが不可欠である。
ICT・AIを単なる業務効率化のツールにとどめず、要介護認定という制度の中核を担うプロセスの質と公平性を高める手段として位置づけるべきである。その上で、利用者にとってより良いサービス提供へと繋げるため、計画的に導入を進めていくことが求められる。
その実現に向けては、国が明確なビジョンとロードマップを示し、必要な法制度や標準規格の整備、財政的・技術的支援を行うことが前提となる。あわせて自治体、医療機関、介護事業者、介護認定審査会、関連団体といった多様な関係者が、それぞれの立場でデジタル化の意義を理解し、より一層密に連携・協力していくことが強く求められる。
本実証の成果が、今後の要介護認定業務のデジタル・トランスフォーメーションを加速するための一助となることを期待する。
参考:
- 別府市 要介護認定デジタル化モデル事業実証結果
https://www.city.beppu.oita.jp/seikatu/hokennenkin/kaigohoken/dejitaru.html(別府市)
- 大分市 要介護認定業務の効率化に向けた実証に係るプロジェクト 実施報告書(大分市)
https://www.city.oita.oita.jp/o081/documents/r6kaigodxhoukokusyo.pdf(大分市)
- NTTデータ経営研究所「令和6年度 ICT・AIを用いた要介護認定審査のあり方に関する調査研究」(令和7年3月)
- NTTデータ経営研究所「令和5年度 要介護認定情報のデジタル化・電送化に関する調査研究事業」(令和6年3月)