第3回:認知科学を活用したGreen Gap克服へのアプローチ
第2回では、環境意識の高い消費者であっても、価格や性能、周囲との摩擦などを理由に「小さな行動では意味がない」という諦観が生じ、グリーンウォッシュや情報不足も手伝って自己の責任を否定・先送りにし、SDGsサービスを選択しない傾向について紹介した。
第3回では、企業が環境対策とビジネスを両立しながら、SDGsを軸としたサービスや商品の価値を高め、持続可能な社会の実現に貢献するためのアイディアについて議論したい。
Green Gapに対する提案
これまで2回のレポートでは、SDGsサービスに取り組む上でのメリットとそれを妨げるGreen Gapの存在について述べてきた。第1回でも述べたが、日本人の73%は環境活動をする必要があると考えており、多くの企業もSDGsサービスを普及させようとしている。このように需要と供給があるにも関わらず、Green Gapによって、その関連付けが最大化されていないように考えられる。このような状況の中でGreen Gapを持つ層にアプローチをすることで、自社のSDGsサービスの差別化を図ることが肝要である。
Green Gapを解決する手段として、ベトナム、国立経済大学のフン・ヴー・グエン教授は自身の研究 1 で、第二章で紹介したようなGreen Gapの理由について同様の結果を得つつ、Green Gapのアプローチについて以下を提案した。
提案1:消費者への情報提供や教育
提案2:価格や品質のバランスの改善
提案3:社会的な圧力や規制の導入
以上の提案に基づいて、Green Gap克服のためのアイディアとして提案2についてより深堀したい。なぜならば、認知科学を用いて、SDGsサービスに関する適切な情報発信を消費者に行うことで、消費者の購買意欲を促進できる可能性があるからである。なお、提案1の教育や提案3については企業が行える範疇を超えているため、今回は対象外とする。
1. 消費者への情報提供
SDGs情報を効果的に伝えるための情報発信
SDGsサービスを提供するにあたり、環境に関する情報が不足していることはGreen Gapに影響する。消費者がSDGsサービスを選択する際、情報を入手する手段は限られていて、基本的にはパッケージや説明書などに限定される場合が多い。そのため、情報が不足していれば消費者はグリーンウォッシュなどの可能性を懸念し、選択をしないことに繋がる。
この問題を避けるために、企業は自社SDGsサービスについて効果的に情報を消費者に伝えることが重要となる。そのためには、人間の知覚などを考慮したパッケージデザインが効果的になると考えられる。
マレーシア、マレーシアサイエンス大学のエルハム・ラハバル教授らの研究 2 では、グリーンマーケティングの様々なツール(エコラベル、パッケージデザイン、広告など)について、消費者のSDGsサービス購買行動に及ぼす影響について調査した結果、エコラベルや製品のパッケージデザインが最も効果的であることが示された。
環境に関する情報を発信する際、ツールごとに効果は異なる。そのため適切な情報発信手段を取れていなければ、過情報気味の現代社会において自社のSDGsサービス情報が埋もれてしまう可能性がある。一方で、効果的な手段を選択できればSDGsサービスの販促活動は次の段階に進めるはずである。
例えば、下記の様なパッケージデザインが考えられる。
① エコラベルの活用
「環境配慮製品である」と簡潔に分かりやすく示すエコラベルは、消費者にとって信用できる指標として認知されやすく、購買意向を高める上で重要な役割を果たすためだ。特に、環境意識の高い層だけでなく「興味はあるが詳しくは知らない」層の消費者に対しても、エコラベルが一種の品質保証や信頼の証とみなされ、購入を後押ししやすいと示唆されている。
② 分かりやすさの確保
消費者はグリーンウォッシュを警戒しがちであるため、パッケージやラベルを通じて「何がどのように環境に良いのか」を具体的かつ信頼できる形で提示することが大切である。
すなわち、商品陳列棚・店頭・オンライン商品ページなど、まず消費者の注意を向けさせるためにエコラベルが目に付くようにパッケージングし、実際に消費者が「買う・買わない」を判断する場面で、簡潔な製品説明を提示することが購買行動に直結しやすいと言えるだろう。
2. 価格や品質のバランス改善
消費者が品質を高く認知するような製品開発
SDGsサービスは環境に配慮した原材料やプロセスを選択することから、一般的には既存のサービスよりも低価格で提供することは困難である。そのため、Green Gapを克服するためには、消費者にその品質を高く認知してもらうことが必要だ。
しかし、一部のSDGsサービスでは、消費者に品質が劣ると認知されているものもある。例えば、環境保護の観点から、多くの飲食店がプラスチックストローから紙ストローに代替しているが、アメリカ、ノースカロライナ州立大学のジョセフ・グティエレス教授らの研究 3 によれば、一部の消費者は紙ストローを使用することで飲料の味が変化していることを指摘しており、品質の低下を懸念していることが明らかになった。
これでは、Green Gapを克服することが出来ず、効果的にSDGsサービスを普及させることが難しくなる。現状、消費者の認知までを考慮したSDGsサービスは少ないように感じる。克服のためには環境に配慮しつつも品質が高く消費者の認知してもらうことが必要であり、そのための製品開発が重要となる。
紙ストローの代替案として、アメリカ、アーカンサス大学のサディアス・L・ビークマン教授らの研究 4 を紹介する。本研究では、アイスコーヒー飲料に対する消費者の認知をプラスチック製ストローと代替飲用条件の違いで明らかにすることを目的とした。アイスコーヒーを、異なるストロー素材(プラスチック、紙、ステンレス)、シッピーカップ蓋、蓋なしの5つの飲用条件で提供した結果、味、口当たり、全体的な印象、およびアイスコーヒー飲料に対する消費者の支払い意思額は、紙ストローの条件よりもシッピーカップの蓋の条件の方が高いことが示された。また、消費者の飲用感想を分析した結果、シッピーカップ蓋が紙ストローよりも快適な飲用感を得られることが明らかとなった。
以上の知見を踏まえれば、蓋をシッピーカップにすればストローの消費を抑えるだけでなく、消費者は飲料をより高品質だと認知するようになる。このように、消費者の認知について研究した文献があるにも関わらず、その知見が企業に広がっていない状況にある。今後SDGsがより一層社会に浸透し、それに応じたSDGsサービスは急速に増えていくことが予想されることから、消費者の認知にもアプローチしたサービスを検討することで、SDGs市場においても確立したサービスを提供できることができるのではないだろうか。
おわりに
本連載では、企業による環境活動によるメリットと、消費者の環境意識を高めるための介入方法について学術的な知見を紹介した上で、企業がSDGsサービス・商品を提供するための具体的なアイディア提案を行った。
現状、様々な主体が「今のままではいけない、でもどうすればいいのか分からない」という漠然とした不安の中で、環境に関する取り組みは手探りの状態で進んでいる。それは、明確なエビデンスに基づいたソリューションなどがまだまだ少なく、自身の取り組みがどれだけ環境に寄与しているかが目に見えないからではないだろうか。その状況下で、率先して環境に取り組み、消費者の行動変容を促しつつ、様々な主体を巻き込む企業が新たなビジネスチャンスをつかむのではないだろうか。
出典
1 Nguyen, H. T., Nguyen, C., & Hoang, T. (2018). Green consumption: Closing the intention-behavior gap. Sustainable Development, 27(1), 118-129.
2 Rahbar, E., & Wahid, N. A. (2011). Investigation of green marketing tools’ effect on consumers’ purchase behavior. Business Strategy Series, 12(2), 73-83.
3 Gutierrez, J. N., Royals, A. W., Jameel, H., Venditti, R. A., & Pal, L. (2019). Evaluation of paper straws versus plastic straws: Development of a methodology for testing and understanding challenges for paper straws. Bioresources, 14(4), 8345-8363.
4 Beekman, T. L., L, H., Claure, B., & Seo, H. (2021). Consumer acceptability and monetary value perception of iced coffee beverages vary with drinking conditions using different types of straws or lids. Food Research International, 140, 109849.