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経営研レポート

「Green Gap」を克服するSDGsサービス戦略
~ 認知科学を活用した消費者行動変容のアプローチとは? ~

第2回:消費者によるSDGsサービスの選択基準
2025.03.24
社会・環境システム戦略コンサルティングユニット
コンサルタント  栁澤 匠
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第2回:消費者によるSDGsサービスの選択基準

当連載第1回では、企業がSDGsに基づく社会的責任活動に取り組むことで、消費者はサービスの価値をより高く評価し、特に環境意識が高い層では購買意欲が高まる一方、実際の購買行動には結びつかない「Green Gap」について考察をした。

第2回では、長期的な環境保護の必要性をまだ個人レベルで実感できず、短期的な利益を優先したり周囲の環境に左右されたりすることで、SDGsサービスを選択しないことを正当化する傾向が見られることについて紹介したい。

1. 環境意識が高い消費者であってもSDGsサービスを選択しない理由とは

ニュージーランド、オタゴ大学のマイケル・ジョンストン教授らの研究 1 では、環境意識が高いにも関わらず、SDGsサービスを選択しない理由について明らかにした。

本実験にはニュージーランドの都市で行われ、19歳から70歳の51人の被験者が参加した。被験者は7~8名で構成される7つのグループに分けられた。本実験では、環境問題に関心がありつつも、必ずしもSDGsサービスを定期的に購入しているわけではない消費者を採用するために、事前にスクリーニングを行った。スクリーニングの際には、自己申告のバイアスを最小限に抑えるため、エコロジカルフットプリント 2(以下、EFとする)を考慮した家庭用品を購入している消費者だけでなく、購入していない消費者にも興味があることを参加希望者に伝えた。スクリーニングでは、行動や態度に基づく質問と、環境への関心を測定する確立された尺度 3 の項目を使用した。例として、「メディアは環境に焦点を当てすぎている」「個人的には、環境の悪化を遅らせる手助けはできない」といった質問のほか、「リサイクルを行っていますか」「どのような種類の家庭用クリーニングブランドを購入・使用していますか」「どのような環境にやさしい製品を購入していますか」「買い物の際、エコバッグを持っていく頻度はどのくらいですか」といった質問をしました。また、「あなたは家庭の買い物活動に参加していますか」という質問もした。これは、消費者がなぜグリーンな家庭用品を購入したりしなかったりするのかに興味があったため、また、参加者が実際の家庭の買い物活動をしている必要があったための設問である。

次に、コーディネーターの指揮のもとで、ディスカッションベースの質問やホワイトボードを用いた製品パッケージへのコメントなど、さまざまな演習を行った。演習では、EF型と従来型のランドリー製品、食器洗い洗剤、石鹸を使用した。活動の目的は、消費者のEF商品とCO2排出状況に対する認識を探り、消費者が非EF商品の購入決定をどのように正当化するかを明らかにした。

実験の結果、消費者は頻繁に自身の責任を否定し、他人や自分の境遇のせいにすることでEF商品の購入決定を正当化することを図った。次に価格、性能、価値観、情報の錯綜、グリーンウォッシュ(上辺だけ環境保護に熱心に見せかけること)などが行動を正当化するためによく使われた。

新たな発見として、自分の生活環境もSDGsサービス選択の障壁となることが明らかになった。例えば、EF製品の購入に否定的な人がいる家庭のケースでは、一部の消費者は家庭内での対立を避けるために非EF商品を購入したのである。

他にも、個人の行動が環境問題の改善に役立つとは思っていない点も理由の一つとして明らかになった。これは、「All or Nothing」アプローチと呼ばれる。具体的には、多くの消費者が、環境問題の解決を達成不可能な理想であると認識しており、彼ら個人の小さな行動が社会に変化をもたらすとは信じていないため、何もしないことを選択しているのである。このような感覚は、特に若い世代において顕著であった。

この研究で明らかになったことは、一部の消費者は環境問題をまだ個人化しておらず、なぜ今すぐ行動を起こす必要があるのか疑問視していることだ。そして、長期的な利益が不透明になり、短期的な利益を重視する傾向に陥ってしまっている。このような消費者は、意識改革が行われるまでは、SDGsサービスを選択しないことを正当化し続けるだろう。

以上をまとめると、消費者は環境に関する情報の不足やグリーンウォッシュの横行などから環境問題に対する否定や諦めが生じ、その認識が周りに伝播することで個人の責任を放棄することに繋がっていると考えられる。さらに、SDGsサービスは環境面にリソースを割いていることから、質や価格に悪影響がでると信じている消費者も存在することが明らかとなった。

表1:SDGsサービスを選択しない理由まとめ

カテゴリ

概要

1

個人の責任感の希薄化・否定

消費者は「個人レベルの取り組みでは環境改善にほとんど影響がない」と感じていることが多く、結果として「小さい行動では意味がない」と考え、SDGs製品を買わないことを正当化した。

2

周囲の意見や家庭内の摩擦

環境に配慮している消費者でも、家族・パートナーや同居人が非SDGs製品を好む場合には、「わざわざ対立してまでSDGs製品を選ぶ必要はない」と判断し、非SDGs製品を購入するケースがあった。

友人・知人の反応(「そんな高いものを買ってどうするの?」など)を気にして、SDGs製品の選択を控える行動も見られた。

3

価格・性能・品質に対する不信感

「SDGs製品は高い」「SDGsだから性能や品質が落ちるのでは」という先入観が強く、購入を見送る要因になっていた。

4

生活環境(時間・情報・店舗など)の制約

SDGs製品を扱う店舗が近所になく、探す手間が増える。あるいは、商品情報を入手する手段が限られている。

そこで第3回では、これまで紹介した知見を基にGreen Gapを解決するためのアイディアベースの提案を行いたい。

出典

1 Johnstone, M., & Tan, L. P. (2015). An exploration of environmentally-conscious consumers and the reasons why they do not buy green products. Marketing Intelligence & Planning, 33(5), 804-825.

2 エコロジカルフットプリント:人間の消費活動やライフスタイルが地球の生態系にどの程度の負荷を与えているかを、森林、耕地、漁場などの使用面積に換算して示す指標のことである。

3 Bohlen et al., 1993

本件に関するお問い合わせ先

株式会社NTTデータ経営研究所

コーポレート統括本部 ブランド推進部

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E-mail:webmaster@nttdata-strategy.com

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