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Insight
経営研レポート

「Green Gap」を克服するSDGsサービス戦略
~ 認知科学を活用した消費者行動変容のアプローチとは? ~

第1回:SDGsサービスが企業に与える影響
2025.03.18
社会・環境システム戦略コンサルティングユニット
コンサルタント  栁澤 匠
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はじめに

地球温暖化やプラスチックごみ問題を通じて、環境に関する取り組みが世界で広まっている。代表的なのは持続可能な開発目標(Sustainable Development Goals 以下、SDGs)であり、日本も国を挙げて積極的に取り組むことを表明している。

ただ、企業においてはSDGsよりもESGの取り組みがメインであるようにも感じられる。それは、時期としてはESGの方が先であり、やり方が確立されているからだとも言える(下表参照)。しかし、環境問題の解決のためには、企業や自治体だけでなく、市民による積極的な協力も必要不可欠である。そのため、企業は自社事業を通じて顧客に環境に配慮したサービス(以下、SDGsサービス)を提供することが重要である。

表1:企業から見たSDGsとESGの違い

SDGs

ESG

時期

2015年~

2004年~

対象

顧客

投資家

特徴

2030年までに達成するべき持続可能な開発目標のこと。17の目標と169の達成基準で構成される。行政、企業、市民など、様々な主体を対象としている。

投資する企業を判断するための新たな基準であり、企業の環境・社会・ガバナンスについての取り組みを示す指標である。

メリット

新規ビジネスチャンスの獲得

投資資金の獲得

取り組み方

自社の事業における持続可能な開発に資する取り組みを行う。

自社の環境・社会・ガバナンスについての取り組みについてサステナビリティレポートや統合報告書、自社HPでの開示を通じて広報する。

環境に関する取り組みは、一昔前であれば企業の利益に寄与するものではなく、世間からの批判を回避するための手段に過ぎなかった。この潮流に応じて、世間ではSDGsサービスであふれている。ある研究 1 によると、SDGsサービスは消費者の購買意欲を掻き立てることを示しており、一見するとそれらはより売上を伸ばすために最適だと考えられている。

しかしその一方で、別の研究 2 によるとSDGsサービスには購買意欲を高めるものの、購買行動には繋がらないと主張している。この傾向は、たとえ消費者の環境意識が高かったとしても当てはまり、SDGsサービスの成功の障壁となっている。この購買意欲と行動の差は「Green Gap(グリーン・ギャップ)」と呼ばれ、このギャップの克服がグリーンマーケティングを成功させるためには必要である。

現状、Green Gapの存在はSDGsサービス特有のものであり、既存のマーケティング手法では網羅出来ない範囲である。そして、このギャップこそがSDGsサービスの購買行動に影響を与えることは複数の論文で明らかになっている。つまり、環境保護が加速する市場において、既存のマーケティング手法では不十分であり、環境保護と人の認知の関係性を理解した上で、SDGsサービスを開発することが必要なのである。

本稿では、環境意識が高い消費者を対象に執筆している。何故ならば、日本の若者の環境意識は比較的高い傾向にあるからだ。日本の国立環境研究所が平成28年に行った世論調査 3 では、18歳以上の男女1,640名に行った環境保護についての質問で「自分自身の生活や習慣を変えなければならないか」に対し、「そう思う」(27%)、「ややそう思う」(46%)とあわせて73%が賛成の回答をした。

なお、当レポートは全3回でお届けする。第1回ではSDGsサービスをまだ行っていない企業に向けてSDGsサービスによってもたらされるメリットについて科学的知見を紹介。第2回では、SDGsサービスで得られるメリットが最大化されない原因であるGreen Gapについて明らかにする。そして最後の第3回では、それらの知見を踏まえた上で、Green Gapを克服するため、認知科学を用いたアイディアを提案する。

第1回:SDGsサービスが企業に与える影響

特定排出事業者が法律に基づき温室効果ガス排出者量の報告義務付けられたように、昨今の社会情勢において多くの企業は自身の事業について環境的側面を考慮しなくてはいけない。これは企業が果たすべき社会的責任に「環境」も含まれているとして、国も法制度を進めているためである。環境対策は企業の事業を制限するように受け取られがちである一方で、事業の発展に貢献するメリットも存在する。本項では、社会的責任に取り組むことで得られるメリットについて紹介する。

1. 消費者は社会的責任行動に取り組む企業の製品の質をより高く評価する

アメリカ・ノースウェスタン大学のアレクサンダー・チェルネフ教授らの研究 4 では、企業の社会的責任が製品性能に関する消費者の認識に与える影響を複数の実験で検証した。本研究は、複数の実験で構成されているため、実験で得られた結果については簡単に下記にまとめる。

<実験1の結果>

消費者は、社会的責任を果たしている企業が提供するワインの方が、そうでない企業のワインよりも美味しいと評価した。

<実験2の結果>

消費者は、善意に基づいて社会的責任を果たしている企業が提供する増毛剤の方が、利己的に社会的責任を果たす企業の増毛剤よりも効果的であると評価した。

<実験3の結果>

社会的責任を果たす企業が提供するOCR(光学文字認識)ソフトの精度について、社会的信用を重要視する消費者の方が、重要視しない消費者よりも高く評価した。

それぞれの実験の具体的なフローおよび結果については下記に記載する。

<実験1>善意事業に取り組んでいる企業の製品は、そうではない企業の製品よりも質が良いと評価されるか?

被験者に実際の製品を体験する機会を提供し、社会的責任の情報が彼らの評価に影響を与えるかどうかを調べるため、被験者56名をワインの試飲実験に参加させた。被験者には、小さな無印のプラスチックカップに入った赤ワインのサンプルと、そのワインを製造したとされるワイナリーを紹介するカードが渡され、一部の被験者はワイナリーに関する情報に加えて、ワイナリーが社会的責任行動、すなわち「売上高の10%をアメリカ心臓協会に寄付していること」に取り組んでいることも知らされた。説明の後、被験者はワインを試飲させ、その味を9点満点で評価するよう求めた。また、消費者の商品知識が企業の社会貢献活動が商品の質(以下、製品性能)に与える影響を緩和するという仮説を検証するために被験者の自己申告によるワインの専門知識も測定した。

実験の結果、ワイナリーが社会的責任行動をしていることを知っている被験者は、知らない被験者に比べ、そのワインをより美味しいと評価した。この効果は、被験者が自己申告した専門知識によってさらに変化した。また、ワインの専門知識のレベルが低い被験者は、ワインの専門知識のレベルが高い被験者よりもその傾向が顕著であった。すなわち、企業による社会的責任行動は、製品に関する専門知識が乏しい初心者に対してより効果的に製品性能を高く認知させる効果があることが示された。

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<実験2>企業が社会的責任行動に取り組む動機が、製品性能の認知にどのように影響するか?

実験2では、企業が社会的責任行動に取り組む動機が「善意」か「利己」かによって、製品性能の認知にどのように影響するかを検証した。具体的には、消費者が、企業の社会的責任行動は私利私欲ではなく、善意によって動機づけられていると考えている場合、企業の社会的責任行動が製品性能の認知によりプラスの影響を与えることを示すことを目的とした。

236名の被験者を、「社会的責任行動:あり vs なし」 × 「企業動機:善意 vs 利己」被験者間デザインで条件に割り当てた。まず、被験者の意識を「善意」「利己」いずれかに注意させるために操作を行った。具体的には、善意条件の被験者は、「企業はしばしば善意事業に寄付を行うが、それは道徳的なことだと信じているからである」と伝え、道徳的な理由で寄付をする企業についてどう思うか質問した。一方、利己条件の被験者は、「企業は、宣伝効果が欲しいからチャリティに寄付をすることが多い。」と伝え、利己的な理由で寄付をする企業についてどう思うか質問した。操作の後、被験者全員が別の調査に参加し、ある製薬会社が新しい薄毛治療薬の臨床試験を行っていることを告げられた。その際、一部の被験者には、同社が収益の20%を恵まれない人々に医療を提供する善意団体に寄付していることを伝え、同社の社会的責任行動への関与が作為的に示唆された。次に、被験者には、同社の育毛剤を使用した結果を示すビフォーアフターとされる男性の頭皮の写真2枚を見せ、治療後にどれだけ髪が増えたかを7段階で評価するよう求められた。

実験の結果、企業の社会的責任が製品性能の知覚に与える効果は、企業が社会的責任行動に取り組む動機に関する消費者の信念に大きく影響されることを示している。この結果は、企業の社会的責任が製品性能の認知に与える影響は、企業の行動が利己的ではなく善意によって動機づけられている場合に、より顕著になるという研究者の予測を支持するものである。特に、「善意」条件の被験者は、企業の社会的責任行動を知っている場合、そうでない場合よりも、育毛剤の効果が高いと評価した。これは、企業の社会的責任行動が製品性能に関する認知に影響するという実験1の結果と一致する結果である。

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<実験3>企業の社会的責任行動が製品性能の認知にどのように影響するか?

実験3では、企業の社会的責任行動の根底にある動機が消費者の道徳的志向とどの程度一致しているかを調査することで、企業の社会的責任行動が製品性能の認知にどのように影響するかを示す追加の証拠を提供することを目的としている。

被験者は77名で、二つの条件(企業の動機:善意 vs 利己)で分けられ、被験者それぞれの社会的善意の主観的重要性を測定した。参加者は、書籍からスキャンしたテキストの解像度を向上させることで印刷物のデジタル化と保存を支援するOCRソフトウェアを製造する架空の会社の説明を受け、同社は利益の3%をアメリカ癌協会に寄付していることも説明された。次に、「善意」条件の被験者には、「社会的責任行動は同社の価値観に合っているので、最も厳しい経済状況下にあっても慈善活動を続けている」と伝えられた。一方で利己的な条件の被験者には、「会社が寄付をする最大の動機は世間体であり、会社の幹部はポジティブな報道がなされれば、特定のチャリティにこだわらない」と告げられた。次に、被験者に同社の技術の有効性を示す二つのサンプルを見せた。二つのサンプルは解像度に差があり、解像度の低いほうは「ソフトウェアなし」、高いほうは「ソフトウェアあり」と表示されている。そして、被験者は同社のソフトウェアによって文字の解像度がどの程度向上したかを7段階で評価した。最後に、社会的善意の主観的重要性を測定するために、被験者に企業の善意が個人的にどの程度重要か7段階評価で質問した。

実験の結果、被験者は善意条件の方が、利己条件よりも同社がテキスト解像度を向上させると認識していることが示された。さらに重要なことに、企業の動機が製品性能認知に及ぼす影響は、被験者の社会的信用の主観的重要度と関係していることが示された。この関係を分析した結果、社会的善意の重要性をより強く信じる被験者は、企業の動機が利己的でなく善意である場合、製品性能についてより高い評価をすることが分かった。一方、社会的善意の重要性を低く評価する被験者に対して、企業の動機は製品性能の認知に影響を及ぼさなかった。

これらの実験では、企業の社会的責任の影響が、単に公共関係や消費者の心象に留まらず、消費者が企業の製品を評価する方法にも影響を及ぼすことを示した。さらに、消費者が実際の製品性能を体験した上で客観的に性能を判断することができるシナリオに基づいて検証したことから、消費者が製品を直接観察・体験できる場合でも企業の社会的責任の行動は製品の評価を変えるほど強力であることも示した。

2. 環境意識が高い消費者はSDGsサービスに高い購買意欲を持つ

ハンガリー、セントイシュトバーン大学のアンベルク・ノラ教授らの研究 5 では、化粧品を対象としたアンケート調査を行い、SDGsサービスを選択する際に消費者に影響を与える要因を特定した。

この実験では、オンラインで収集された197名分のアンケート結果が使用された。

アンケートは大きく2つのパートから構成されている。最初のパートは、リッカートスケールを採用した一連の7つの質問で、自然化粧品に対する購買意向に関する記述に対してどの程度賛成するかを回答するように求められた。アンケートの第2のパートは、参加者の人口統計学的変数(年齢や性別など)の基本的な収集であった。まず、アンケート結果を記述統計分析とクラスター分析を行い、さらに、分析・合成法、帰納的・演繹的アプローチ法、一般化・特殊化法などの分析ツールを用いて評価した。

調査の結果、化粧品市場における消費者行動から、三つのクラスターが形成されることが明らかになった。一つは、自然派化粧品の購買を目的とする「完全グリーン」、もう一つは化学的な化粧品の購買を目的とする「ケミカル」、そして三つ目は、自然派化粧品と化学的な化粧品の両方を購買する「ミックス」のクラスターである。これらのクラスターは、様々な要因による消費者の意見の違いを示している。

次に、性別の違いや年齢層と自然派化粧品購買との関連は無いことがわかった。そして、健康や環境意識の高い消費者は、自然派化粧品の購買意欲が高いが、実際の購買にはそれぞれの手持ちの知識や情報に照らし合わせて決定することが明らかになった。分析によると、自然派化粧品を購買する際の好みは多種多様であり、それぞれの消費者にとって、異なる要因が最終的な意思決定を決定する要因となっている可能性がある。しかし、それにもかかわらず、クラスター分析を用いて3つの決定的なグループを形成することができた。すなわち、SDGsサービスの購買頻度の高・中・低のグループには、それぞれグループにおいて主になる特徴や消費者の意思決定の要因があることが示された。

以上の二つの実験結果をまとめると、企業は善意に基づいて社会的責任活動、すなわちSDGsに取り組むことで、消費者はその企業のサービスの価値を高く知覚することが明らかになった。また、環境意識が高い消費者はSDGsサービスに高い購買意欲を持つことも明らかになった。

簡単に言えば、企業がSDGsに取り組むことで日本人の73%は、その企業のサービスを今までよりも魅力的に感じるかもしれない。ブランドイメージやサービス価値を高める取り組みは数多く存在するが、それは、そのブランドやサービスに対応したニーズを持つ消費者に限定されていることが多い。それらニーズの中で、「環境保護をしたい」というニーズほど多くの日本人に共通しているものはないと思う。

このように、SDGsサービスは自社の環境負荷を軽減するだけでなく、自社のサービスの価値を高める効果があることが明らかになった。

一方で、同実験結果では、そのメリットが最大化されていない点も指摘された。環境意識が高い消費者においてSDGsサービスの購買意欲が高まったとしても購買行動に繋がるとは限らないことが示されたということだ。この結果は、他の研究 6 でも明らかになっており、SDGsサービスにおける購買意欲と行動の乖離、Green Gapの存在が指摘されている。

現在の多くのSDGsに関わる取り組みの多くは環境意識へのアプローチが中心になっていると考えられる。アプローチの例として、地球温暖化によるものだと考えられる自然災害や将来的に想定されるリスク等などを情報収集し、情報発信するなどが挙げられる。確かにその情報の受け手は地球温暖化に対して危機感を募らせ意識を向けるようになるかもしれないが、これは環境意識の改善でしかならず、Green Gapのため、行動には繋がらないということだ。例外として、行政においては、再エネ・省エネ設備の導入補助金や民間事業者に対する排出規制のルール作りなど行動にアプローチをする事例も多くあるが、同様のアプローチを実行できる企業はないと考えらえる。そのため、企業は、SDGsサービスはGreen Gapを克服しなければ、購買には繋がらないということを念頭に置いた上で、行動に繋がる独自のアプローチを検討しなければならないということだ。

第1回では、SDGsサービスは環境意識の高い消費者に高い購買意欲をもたらす一方で、購買行動に繋がらないことが明らかになった。次回では、環境意識が高いにもかかわらずSDGsサービスを選択しない理由について科学的知見に基づいて説明したい。

出典

1 Bangsa, A. B., & Schlegelmilch, B. B. (2020). Linking sustainable product attributes and consumer decision-making: Insights from a systematic review. Journal of Cleaner Production, 245, 118902.

2 Atmoko, W. B., Noor, F. M., & Yulandari, A. (2023). Bridging Intention-Behavior gap on green products consumption. Return Study of Management Economic and Business.

3 日本人の環境意識に関する世論調査結果について|2016年度|国立環境研究所. 国立環境研究所. (2016).

4 Chernev, A., & Blair, S. (2015). Doing Well by Doing Good: The Benevolent Halo of Corporate Social Responsibility. Journal of Consumer Research, 41(6), 1412-1425.

5 Amberg, N., & Fogarassy, C. (2019). Green consumer behavior in the cosmetics market. Resources, 8(3), 137.

6 Xu, X., Wang, S., & Yu, Y. (2020). Consumer’s intention to purchase green furniture: Do health consciousness and environmental awareness matter? Science of the Total Environment, 704, 135275.

本件に関するお問い合わせ先

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