logo
Insight
経営研レポート

平成から令和における総務事務センターの変遷と行政事務センターへの拡大

~業務集約型アウトソーシングの今後の可能性を念頭に~
働き方改革・ワークスタイルイノベーション
2024.11.15
社会・環境システム戦略コンサルティングユニット
アソシエイトパートナー  小島 卓弥
heading-banner2-image

はじめに

近年、自治体から総務事務センターや行政事務センターに関する問い合わせをいただくことが増えた。筆者は2005~2008年(平成17~20年)にかけて多くの自治体で総務事務センターの導入支援を行っており、懐かしいテーマ、ソリューションでもあるのだが、実際に現場で話を伺い、業務分析を行うと平成の時代のそれとは背景が異なることが分かってきた。

本稿では、自治体における総務事務センターについて、平成と令和の背景の違いを整理し、令和の時代においてどのように業務集約型のアウトソーシングである総務事務センターや行政事務センターに取り組んでいくべきかを考察していきたい。

1. 自治体における総務事務センターとは

本題に入る前に自治体における「総務事務センター」について簡単に整理をしておきたい。総務事務センターとは、各部局・課において分散処理されてきた総務・庶務業務を1カ所に集約し、アウトソーシングや発生源入力システム(職員が自身で各種手当や旅費支給の申請を行うシステム)を活用して効率的に処理する取り組みである。

これは、民間企業におけるシェアードサービスに近い概念である。しかし、大企業(民間)のシェアードサービスセンターは効率化によって生じた余力を活用し、他社の業務分を代行したり、シェアードサービス専業の会社が独立するなど、ダイナミックな発展が見られる。一方、自治体の総務事務センターは、主に内部の業務効率化に特化したソリューションであり、この点において微妙な違いがある。

また、これまでの導入例は主に都道府県や政令指定都市など、比較的規模の大きな自治体を中心に導入されてきた点も特徴的だといえる。

2. 平成における総務事務センターの背景

2005年前後から2010年頃にかけて拡大していった平成の総務事務センターは、府県・政令指令都市などの大規模な自治体に多く見られ、筆者が取り組んだものでも百~数百人規模の職員を減らす想定で計画されたものが多かった。

この背景には、民間企業でいうところの2007年問題、すなわち団塊の世代の大量退職への対応策という側面があったと考えられる。当時、民間企業では、団塊の世代の大量退職が大きな課題となり、IT化やナレッジマネジメント、アウトソーシングの拡大などが進められた。同様の課題は自治体にも発生し、特に大規模な自治体になればなるほど多くの職員が退職を迎えることになったため、対応が急務となった。これに対し、住民サービスなどに直結しない総務・庶務業務などの間接業務を中心に効率化などの見直しを図る取り組みが、平成の時代の自治体における総務事務センターだったわけである。

住民向けサービスや地域サポートといった自治体本来の業務を維持するために、間接業務の効率化を図ることは合理的な選択であった。また、この前後のタイミングで自治体の職場に1人1台PCが確保され、出先機関も含めてインターネット回線が整備されつつあったことが、この効率化を後押ししたといえる。これらにより、職員が自身で旅費の精算や各種手当の申請をPC経由で行う「発生源入力」が可能となり、業務の大幅な効率化が可能となったのである。

3. 令和時代の総務事務センターの背景

では令和時代になり、再び総務事務センターのニーズが高まってきたのはなぜだろうか。それは、団塊の世代の大量退職後も自治体が職員数を減らし続けてきたにも拘わらず、自治体業務自体が減らなかったことが背景にあると筆者は考えている。

まず職員数については、令和5年地方公共団体定員管理調査 1 によれば、一般行政職の自治体職員数は2007年(平成19年)の団塊の世代の大量退職期までの約10年間で約10%削減され、その後も現在に至るまでさらに10%削減し続けてきたことが分かる(図1)。

【図1】一般行政部門の職員数の推移(昭和50年を100とした場合の指数)

content-image

【出典】

総務省「令和5年 地方公共団体定員管理調査結果」(令和6年3月, p11)

しかしながら、自治体の歳出額は増加傾向にある。地方財政白書によると、2007年(平成19年)度の自治体歳出総額は89兆1,476億円 2 であったが、最新の決算値である2022年(令和4年)度には117兆3,557億円 3 に達し、31.6%増加している。ただし、この数値は東日本大震災や新型コロナウイルス対応の影響が含まれているため、その影響分を除いた令和元年度の決算値を基準にすると、2007年度から9.8%の歳出増がみられる(97兆8,969億円)。

歳出額の増加がそのまま自治体職員の業務量増に直結しているとは言い切れないが、社会保障関連費の増加が主要因であることを考えると、各種申請受付や審査、支払い業務などの業務が増加していることは容易に想定される。このように業務量自体は増加している一方で職員数を減らしてきたため、職員一人ひとりの負担が増加するのは当然である。また正規職員の減少を非常勤職員(会計年度任用職員)で一部補完しているものの、対応できる業務には限界がある。そのため、貴重な戦力である正規職員が本来業務に集中できるように総務・庶務業務を集約する総務事務センターの導入が、平成時代に導入しなかった自治体においても検討されるようになってきたわけである。

対象業務は引き続き旅費や給与・各種手当の支給などの総務・庶務系の業務が中心であるが、近年では公共料金や少額物品の調達なども対象に加わりつつある。公共料金については、電力会社やガス会社が請求の一本化やCSV形式での明細データ提供サービスを開始した。少額物品の調達においても、民間企業が用いるアスクルやカウネットなどの企業向けECサイトが一部自治体で活用され始めており、平成の総務事務センターから一歩進んだDX化や業務改革が進展している。

さらに、2024年10月から自治体の指定金融機関の振込手数料が有料化されるため、これまで支払手数料が無料、あるいは低廉であった自治体にとって、急なコスト増が生じることになる。この影響を軽減するため、支払業務の効率化通じた手数料コストの削減なども含めた取り組みが進んでいる。

1 総務省自治行政局公務員部「令和5年地方公共団体定員管理調査結果」(令和6年3月)

2 総務省「地方財政白書」(平成21年3月, p8 第7図)

3 総務省「地方財政白書」(令和6年3月, p8 第5図)

4. 行政事務センターへの拡大へ

総務事務センターは総務・庶務業務の集約処理の仕組みであったが、さらに一歩進んで入力や封入封緘、申請書の形式チェックといった定型的な業務を集約する方法も模索され始めている。これらは「行政事務センター」と呼ばれ、神戸市や札幌市での導入事例が知られている。

札幌市の分析 4 によれば、市が行う行政事務の約35%は職員でなくても実施可能な業務に分類されており、その中で委託に馴染む業務については、行政事務センターに委託する形で運用が開始されている(図2)。

【図2】札幌市 行政事務センターイメージ図

content-image

【出典】

総務省行政管理局公共サービス改革推進室「窓口業務委託及びAI-OCR,RPA 活用窓口に係る実施例集」(令和4年3月, P2)

筆者の他市での分析経験でも、大量の入力業務や封入封緘・郵送業務などは既に外部委託されている一方、数百~数千枚程度の申請書のチェックやシステムへの入力業務などは担当課に残っており、限られた期間に職員が時間外勤務で対応する例が多く見られる。特に政令指定都市をはじめとする大規模自治体では、処理すべき業務量が多いにもかかわらず、各区役所単位でこのような業務を分散処理しているケースが多いため、行政事務センターに集約して処理する方法はスケールメリットの観点からも有効だと考えられる。

ただし、総務事務センターは総務・庶務業務という全庁的に共通的な業務が中心であり、4月の人事異動期や年末の年末調整時期といった繁忙期がある程度予測可能で、年間を通じて安定的に業務量をコントロールしやすい。一方、行政事務センターは不定期にさまざまな処理業務が発生するため、繁閑の差が大きく、年間を通じて安定的に業務量をコントロールしながら運営することが難しいという課題がある。

先行自治体から聞いた話では行政事務センターの規模がまだ限定的であることもあり、繁閑の差が埋めることが難しく、受託企業が苦慮しているとのことであった。このため、行政事務センターを効率的に運営するためには、全庁からの業務集約にあたり、年間を通じて一定の業務量を平準化する仕組みが求められ、企画の難易度が高い点に留意が必要である。

4 札幌市が実施した全庁的な業務量調査の結果による。図2を参照。

5. その他の集約型アウトソーシングとしての汎用型コールセンター

自治体のその他の集約型アウトソーシングとしては汎用型コールセンターが挙げられる。自治体ではさまざまな電話対応を行っており、水道、粗大ごみなどの専用コールセンターを設けているが、汎用型コールセンターで対象とするのは、代表電話機能と各課で対応している定型的な問い合わせなどである。

先行自治体の事例では、電話対応に加え、メールやチャットボットでの対応、外国語対応、夜間や休日対応など、自治体の直営では対応しきれなかった多様なニーズに応えている例もある。

自治体業務を分析すると、職員が電話対応に多くの時間を要していることが分かる。問い合わせや確認対応のほか、セミナーやイベントへの参加申し込み受付などに職員が従事していることも多い。一方で電話対応はメールやLINEとは異なり、仕事の手を止めて対応しなければならないため、時間的・精神的な負荷が高い業務となっていることも把握されている。

このような電話対応業務を全庁から集約し、汎用型コールセンターとしてアウトソーシングすることで、職員の負担軽減が図れる。また、チャットボットや電子申請、電話申請を併用したデータベースの活用などのDXソリューションを組み合わせることで、職員の負担を軽減しながら市民サービスの向上にもつなげる一石二鳥の効果が期待される。

まとめ -今後の展望と課題-

■今後の展望

これまで整理してきたように、総務事務センターなどの全庁から業務を集約し、ICTやアウトソーシングを活用して効率的に処理する集約型アウトソーシングセンターの形式は、職員数が減少する中でも業務が増加し続けている自治体にとって、今後さらに重要度の高いソリューションとなっていくことが予想され、再度拡大していくことが予想される。

特にこれまで自治体では、正規職員数の削減による穴埋めを非常勤職員が担ってきた。しかし、会計年度任用職員制度の導入により、期末手当や退職金の支給が義務化され支出額が増加したため、従来ほど非常勤職員を多く雇うことが難しくなっている。さらに、日本社会全体で労働力不足が顕著となってきており、民間企業との人材の獲得競争が生じつつある。民間企業ではパートやアルバイトなどで働く社員の正規雇用、賃金の引き上げを進めており、相対的に自治体の非常勤職員への応募が減少し、必要なスキルを持った人材の確保が困難になりつつあるという話をここ数年よく耳にするようになった。このような状況からも、集約型アウトソーシングセンターのニーズは今後ますます高まるだろう。

■想定される課題

しかし、いくつかの課題も存在する。本稿「4. 行政事務センターへの拡大へ」でも述べたように、アウトソーシングしやすいかつボリュームが大きく、定型的な業務については既に委託されているケースが多い。今後は、各課に残されている職員の業務負担にはなっているが、単体ではボリュームが小さすぎて外部委託が難しい業務を集約してアウトソーシングしていく必要がある。そのためには、業務設計の段階で、業務のどの部分を外部委託し、発生時期や業務量の詳細を精査し、積み上げていくことが求められる。

また、労働力不足は日本社会全体・全業種において深刻な課題であり、自治体が外部委託を検討してもBPO 5 事業者側の人手が足りず、対応が難しい可能性も懸念される。特に自治体の場合、入札手続きが必要であり、手続き面でひと手間かかる上にシビアな価格競争にさらされることになる。そうなれば民間企業の案件を優先するということにもなりかねない。

このような状況に対応するため、外部委託を実施する際には価格面の評価だけではなく、技術面を評価する企画競争や総合評価方式での入札とすることも一つの解決策である。また、ある程度業務量を年間で平準化し、受託企業の雇用者が繁閑の差なく働けるような構造を整えることも重要である。

最後に、小規模自治体における対応についても課題がある。総務事務センターや行政事務センターが比較的規模の大きな自治体から普及したのは、これらの自治体の方がスケールメリットを出しやすく、効率化の効果がより大きいからにほかならない。

しかし、小規模自治体においても本稿で整理した同様の課題が生じており、効率化の検討が別途必要である。具体的には、複数の自治体業務を束ね一括で処理するセンターの設置、あるいは逆に細切れにして地元企業に分散発注するなど、独自のアプローチが求められる。この点については別の機会に改めて論考したい。

5 ビジネス・プロセス・アウトソーシングの略

お問い合わせ先

株式会社NTTデータ経営研究所

社会・環境システム戦略コンサルティングユニット

アソシエイトパートナー  小島 卓弥

 

内容に関するお問い合わせは こちら

TOPInsight経営研レポート平成から令和における総務事務センターの変遷と行政事務センターへの拡大