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Insight
経営研レポート

地域におけるポリファーマシー対策を進めるために必要なこと

2024.07.08
ライフ・バリュー・クリエイションユニット
マネージャー      西尾 文孝
シニアコンサルタント  遠井 綾子
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1. はじめに

当社は令和5年度厚生労働省委託事業として「高齢者の医薬品適正使用推進事業に係る実態調査及び指針と業務手順書等の見直しの検討・作成一式」(以下、「本事業」)を実施した。本レポートでは、全国でポリファーマシー対策がより一層推進されるよう普及啓発することを目的とし、本事業の中から地域におけるポリファーマシー対策に関する部分を筆者の個人的意見として紹介する。

<ポリファーマシー、ポリファーマシー対策とは何か>

はじめに「ポリファーマシー」という用語について説明する。本事業において、ポリファーマシーとは「単に服用する薬剤数が多いことではなく、それに関連して薬物有害事象のリスク増加、服薬過誤 1 、服薬アドヒアランス 2 の低下等の問題につながる状態を指す」と位置付けている。より簡潔に表すと「患者が多くの種類の薬を一度に服用することによって生じる有害事象等のリスク」(筆者の個人的解釈)と言える。また「ポリファーマシー対策」とは、患者にポリファーマシーが生じないようにするための対策や、ポリファーマシーが生じた患者に対して処方薬を減らすことなどの対策を指し、ポリファーマシーを回避・改善することだと言える。

1 患者が誤った種類、量、時間、方法で薬を飲んでしまうこと

2 患者が自分の病気を理解し、医師の治療方針に積極的に協力しながら正しく服薬すること

<本事業の目的>

本事業では、今後、病院や地域における高齢者のポリファーマシー対策をさらに推進することを目標とし、その実現に向けた情報収集のため、病院や地域におけるポリファーマシー対策の実態を把握するためのアンケート調査や、病院や地域で使用するための業務手順書の作成や改訂などを行った。

【図表1】 本事業の報告書の表紙・目次

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出典:「令和5年度厚生労働省医薬局医薬安全対策課委託事業高齢者の医薬品適正使用推進事業に係る実態調査及び指針と業務手順書等の見直しの検討・作成一式報告書」(厚生労働省Webサイト)

2. 地域におけるポリファーマシー対策の必要性

ポリファーマシー対策は医療従事者の管理のもとで進める必要がある。具体的な例としては、入院期間中に医療機関で実施することが考えられる。しかし、入院中にポリファーマシー対策が行われたとしても、退院後に患者が地域に戻り処方が元の状態に戻ってしまった場合、医療機関でのポリファーマシー対策を行った意味が失われてしまう。この要因としては、医療機関で行ったポリファーマシー対策の意図などが、退院後の患者が利用する地域の医療機関や薬局などにうまく伝わっていないこと、また医療機関や薬局などがポリファーマシー対策について十分に理解をしていないことが挙げられる。

そのため、ポリファーマシー対策は、実際に減薬などの実際の対応を行う医療機関だけでなく、地域の医療機関や薬局などの医療関係者も理解し、対応する必要がある。また、要介護状態の患者に接する機会が多い介護職や行政なども含め、地域が一体となって推進することが重要だと考えられる。

しかしながらアンケート調査の結果、地域でのポリファーマシー対策が実施されている地域は全体の3割程度に過ぎず、全国的に地域でのポリファーマシー対策の普及が不十分である現状が浮かび上がっている。そのため、普及啓発活動なども含めて、より一層地域でのポリファーマシー対策を推進していく必要がある。

3. 地域で実施されているポリファーマシー対策の紹介

ポリファーマシー対策が3割程度の地域で実施されていると述べたが、具体的にどのような対策が行われているのかを紹介する。アンケート調査の結果から把握された地域で行われている対策の上位3位は以下の通りである(図表2 緑枠部分)。

【図表2】 地域で行われているポリファーマシー対策の上位3位(括弧内はアンケート調査時の回答割合)

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下記出典を基にNTTデータ経営研究所が作成

 

出典:「令和5年度厚生労働省医薬局医薬安全対策課委託事業高齢者の医薬品適正使用推進事業に係る実態調査及び指針と業務手順書等の見直しの検討・作成一式報告書」(厚生労働省Webサイト、P85)

このうち、2番目に回答割合が多かった「ポリファーマシー対策の対象患者を抽出する手順」について、地域で行われている典型的な取り組みについて聞いたところ、大きく「レセプトデータから抽出するケース」と「医療・介護職が抽出するケース」の2つのケースが把握された。

レセプトデータから抽出するケースでは、行政から患者に通知した後、はじめに医師や薬剤師への相談を勧めるケースが主であったが、行政・保険者、保健師・看護師などに相談を勧めるケースも見られた。医療・介護職が抽出するケースでは、主に薬局薬剤師が抽出し、医師に受診勧奨するケースが見られたが、一部でケアマネジャーなどの介護職に相談するケースもあった。

【図表3】 地域での典型的なポリファーマシー対策事例のイメージ

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下記出典を基にNTTデータ経営研究所が作成

 

出典:「令和5年度厚生労働省医薬局医薬安全対策課委託事業高齢者の医薬品適正使用推進事業に係る実態調査及び指針と業務手順書等の見直しの検討・作成一式報告書」(厚生労働省Webサイト、P88)

4. 地域におけるポリファーマシー対策を推進するための提言

地域におけるポリファーマシー対策に関する調査結果や本事業で設置した調査検討会の委員である有識者からの意見を踏まえ、「地域における高齢者のポリファーマシー対策の推進」というゴールの実現に向けたアウトカム、有効性の高い取り組みや状態、実態、課題抽出などを行い、それらを踏まえた4つの提言を行った。これらを図表4「地域におけるポリファーマシー対策の実態・課題等にかかる関係図」および図表5「地域におけるポリファーマシー対策を推進するための4つの提言」に示した。

【図表4】 地域におけるポリファーマシー対策の実態・課題等にかかる関係図

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下記出典を基にNTTデータ経営研究所が作成

 

出典:「令和5年度厚生労働省医薬局医薬安全対策課委託事業高齢者の医薬品適正使用推進事業に係る実態調査及び指針と業務手順書等の見直しの検討・作成一式報告書」(厚生労働省Webサイト、P140)

【図表5】 地域におけるポリファーマシー対策を推進するための4つの提言

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下記出典を基にNTTデータ経営研究所が作成

 

出典:「令和5年度厚生労働省医薬局医薬安全対策課委託事業高齢者の医薬品適正使用推進事業に係る実態調査及び指針と業務手順書等の見直しの検討・作成一式報告書」(厚生労働省Webサイト、P141-142)

5. 終わりに

本稿では、地域におけるポリファーマシー対策の普及啓発を目的として、本事業で行った調査分析の結果や提言を紹介した。なお本事業では本稿で触れた内容の他にも多くの調査分析や提言を行っているため、それらについては厚生労働省のWebサイトで公表されているため参照いただきたい。

今後は、本事業で得られた調査分析の結果や提言を基に、地域におけるポリファーマシー対策がより一層推進されることを期待したい。

お問い合わせ先

株式会社NTTデータ経営研究所

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マネージャー     西尾 文孝

シニアコンサルタント 遠井 綾子

 

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