1. Web3の概要
Web3とは、次世代型のインターネットの概念として近年注目を浴びている、「分散型のネットワーク」を指す。
これまでの、Web1.0やWeb2.0が中央集権型(管理者が必要)のインターネットの概念だったのに対して、Web3は非中央集権型のインターネットの概念となる。
具体例などを交えつつWeb1.0、Web2.0、Web3の違いを整理していきたい。
Web1.0は一方通行なインターネットを指し、1990年代から2000年代前半に主流だった概念である。
一部の専門家がホームページを立ち上げることなどを通じて情報を発信し、多くの一般ユーザーは情報を受信し、情報を閲覧することが主流であった。
Web2.0は双方向なインターネットを指し、2000年代半ばから現代までの主流な概念である。GAFAMに代表されるプラットフォーマーの台頭により、SNSによる発信など、専門家でなくても情報発信が容易となったため、情報を交換することが主流となった。
Web3は分散型のインターネットを指し、今後普及が考えられる概念である。
これまでのインターネットの概念との違いとしては、ブロックチェーン技術を活用したネットワーク接続を実現することで、サーバーを管理する仲介組織を介する事無くデータ通信が可能になることが挙げられる。これにより、個人情報や通信情報の漏洩がしにくくなり、場所や個人は関係なく同じ情報へのアクセス、サービスの利用が可能となる。
1-1.Web3時代の技術要素
Web1.0からWeb2.0に移行するにあたって、プラットフォームビジネス等の新たな技術要素により、インターネットが人々にもたらす価値は大きく変化した。
そしてWeb2.0からWeb3に移行するにあたって、
- 暗号資産
- NFT(Non-Fungible Token)
- DeFi(Decentralized Finance)
- DAO(Decentralized Autonomous Organization)
- DID(Decentralized Identifiers)
といった新たな技術要素が台頭してくる可能性が極めて高いと考えられ、新たな価値創造も考えられる。
2 .Web3はHR領域に変革を与えるのか
現時点でWeb3の技術要素によって変革の波が訪れているのは金融やゲーム領域がメインであり、HR領域ではWeb3の技術要素が浸透している状態ではないと考えられている。
そこで、Web3はHR領域に変革を与えるのか考察していきたい。
結論的には、数年から数十年のスパンでWeb3はHR領域に変革を与えると考えている。
HRの業務領域である人事、労務の2つの観点から、変革可否や変革ポイントを考察していきたい。
2-1.Web3による人事領域の変革の可能性
人事領域は採用、人材配置、人事評価、育成の4つに分類できる。
Web3の技術要素によって、特に大きな変革が近い将来期待できるのは、採用活動だと考えている。
採用活動には様々な課題が存在しているが、恒久的な課題として「採用ミスマッチ」が挙げられる。「採用ミスマッチ」となる原因を紐解いていくと、企業側と求職者側で原因を分類できるが、ここでは求職者側での原因を紐解いていく。
採用活動の一環では求職者側の言葉不足による情報の欠落や経歴や実績の脚色などといった場面があり、そのような「情報伝達の過不足」が採用ミスマッチに繋がる1つの原因と考えている。
職務経歴書への記載や面接でのやり取りなどで「情報伝達の過不足」の発生を抑えようとしているが、「情報伝達の過不足」の完全な防止は難しい状況であると考えている。
Web2.0によって、求職者は自身の職務経歴を公開して企業側とコンタクトしやすくなったものの、それらの情報の正確性や真正性を担保する機能は無いため、「情報伝達の過不足」の完全な防止は実現できていないのが現状である。
求職者側の「情報伝達の過不足」によって採用ミスマッチが発生すると、「仕事の内容に興味が持てなかった」「能力・個性・資格を生かせなかった」
といった入社後ギャップが生じ、離職する原因にも繋がるため、求職者側の「情報伝達の過不足」を防止する事が求められていると考えている。
これらを踏まえ、求職者側の「情報伝達の過不足」をWeb3で解決可能か考察していきたい。
結論的には、Web3の技術要素である
DID (Decentralized Identifiers)
と
VC (Verifiable Credentials)
を活用した
DIM (Decentralized Identity Management)
により、情報の正確性や真正性が担保された「デジタル履歴書」で解決可能と考えている。
DIDとは、分散台帳またはその他の非中央集権ネットワークに登録され、中央集権的な登録機関を不要とするグローバルに一意な識別子を指す。
VCとは、第三者による検証が可能な情報を指す。
DIMとは、資格、学歴、経歴等の認証された自己情報の中から、情報の取捨選択を自身で決めた上で相手方に情報提供できる仕組みを指す。
DIDとVCの技術要素を活用して、DIMを実現するイメージである。
また、内閣官房デジタル市場競争本部事務局で検討しているTrusted Webにおいても、DIDと VCを活用し、「データが確認された状態で選択的に渡す・受け取れること」と言及しており、「デジタル履歴書」の実現に向けて検討が進んでいる。
DIMが実現することで、求職者側は認証された情報(学歴、経歴、業務実績など)を選択的に企業側に提供できるため、「情報伝達の過不足」が起こりにくくなり、採用ミスマッチ解消の一助になると考えられる。
2-2.Web3による労務領域の変革の可能性
労務領域は入退社手続き、社会保険手続き、勤怠管理、給与計算の4つに分類できる。
Web3の技術要素によって、特に大きな変革が近い将来期待できるのは、給与計算だと考えている。
Web2.0により、ギグワーカーという新たな働き方が誕生したように、Web3でも新たな働き方の誕生が考えられる。
特に日本においては「少子高齢化による深刻な労働人口の不足」という課題が存在している。
そういった課題を解決する1つの手段として日本以外に居住している外国人に仕事を発注する事が考えられる。
リモートワークの普及かつ仮想空間上のオフィスにより、日本に居住せずともフルタイムまたはスポットで働く外国人が増加するのではと考えている。
一方、給与計算の観点でそのような働き方を実現するには、「スムーズかつ柔軟性の高い海外送金」が求められる。
現状、海外送金する際は銀行に頼らざるを得ず、様々な制約(送金までのリードタイム、最低送金額等)やリスク(為替レート等)を考慮する必要がある。
これらの制約やリスクを解決する手段として、仮想通貨による給与払いが考えられる。
仮想通貨の最大の特徴は中央集権組織(銀行等)の介入を受けずに金銭の授受が可能な点である。
仮想通貨で金銭の授受を実施すると、
- 誰でも金銭の受取が可能(暗号資産を管理できていれば銀行口座が無くても授受可能)
- 支払いのタイミングが自由
- マイクロペイメントが可能(銀行を介すと送金手数料の関係で数十~数百円単位の送金は困難)
- 海外送金は数秒から数分で完了可能(銀行を介すと数日必要)
- 海外銀行の規制を受けない(中国当局による外貨管理等)
のように、「スムーズかつ柔軟生の高い海外送金」が実現可能である。
昨今、日本でもデジタル給与払いを解禁し、PayPay等での給与払いを認める方針となっている。
一方、仮想通貨による給与払いは法規制により明確に認められていないため、実現に向けて状況を注視する必要がある。
諸外国に目を向けると、アメリカやベルギーの政治家が仮想通貨で給与を受け取るなどの動きやアルゼンチンでは雇用者の3分の1が仮想通貨で給与の一部を受け取るといったの動きもある事から、日本においても近い将来仮想通貨による給与払いが明確に認められる可能性が高いと考えている。
3.まとめ
HR領域の中でも特に採用活動、給与計算という範囲でWeb3の変革の波が訪れる可能性は高いという事で考察させて頂いたが、今後の技術発展によって更なる変革が期待できるため、政府の検討会やWeb3事業者の動向について注視していきたい。