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経営研レポート

最新トレンド事例報告:実証イベント「未来を乗りにおいでよ。次世代モビリティのまち体験」現地視察

2023.02.28
ビジネストランスフォーメーションユニット
クロスクリエイショングループ
シニアコンサルタント 礒田 直弥
コンサルタント 山内 順平
シニアマネージャー 松川 勇樹
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(出所:https://tokyo-dic.jp/smart-mobility/より引用)

1. はじめに

全国各地の地方自治体において、スマートシティの構築を目指し、地域の課題解決や魅力向上を目的としたデジタルテクノロジーによる新たなサービスの導入実証が進められている。2023年1月中旬から2月上旬にかけて、東京都とDigital Innovation City協議会(以下、「DIC協議会」という)などにより開催されたイベント「未来を乗りにおいでよ。次世代モビリティのまち体験」では、次世代モビリティであるEV仕様の自動運転バスや視覚障害者向けナビゲーションロボットなど、4つの試乗イベントが連携して実施され、メディアからも反響があった。本レポートでは、イベントの概要と、車両開発責任者の想いについて取り上げたい。

DIC協議会とは、東京都港湾局、エリアマネジメント、研究機関、地元企業といった臨海副都心に関わる団体などが連携し、臨海副都心における「デジタルテクノロジーの実装」と「スタートアップの集積」を推進するDigital Innovation Cityの実現に向けて協議することを目的として設立した組織である。なお、当社ビジネストランスフォーメーションユニットでは、2021年から2022年にかけて、DIC協議会事務局の運営を支援している。

2. 「未来を乗りにおいでよ。次世代モビリティのまち体験」の各イベント概要

「未来を乗りにおいでよ。次世代モビリティのまち体験」は、東京都及びDIC協議会が、先進モビリティ株式会社、WILLER株式会社、BOLDLY株式会社、日本科学未来館、Le DESIGN株式会社と協働し、同関連団体が研究開発を進める4つのモビリティの体験イベントを開催したものである。東京臨海副都心の公道とシンボルプロムナード公園内において開催され、すべてのプロジェクトが一般公開となる1月28日(土)に先立ち、26日(木)には小池百合子東京都知事出席の開催セレモニーと報道機関向けの体験会が開催された。

図1 開催セレモニー

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図2 全4イベントと走行ルートのマップ(出所:https://tokyo-dic.jp/smart-mobility/より引用)

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【イベント①】自動運転EVバスで回遊しよう!お台場回遊プロジェクト

東京臨海副都心の公道では、自動運転EVバス「J6(ジェイシックス)」が走行した。「J6」は、中国の自動車メーカーBYDが日本の交通需要にフィットするように開発した小型電気バスである。約30名が乗車でき、1回3時間の充電で約200kmの航続距離が見込まれるなど、コミュニティバスとして十分なスペックを兼ね備える。今回のプロジェクトでは、先進モビリティ株式会社による自動運転システムおよび各種センサーを搭載した自動運転EVバスとして特別に設計され、東京テレポート駅を起点とする約2.5kmの公道ルートを走行する実証を行っていた。

実際に試乗すると、まず安定した走行性能を実感できる。停止位置からの発進動作などの一部操作は、運転席に座る補助スタッフが行っていたものの、走行中、RTK-GPSによる高精度な測位により行われる車線維持制御は、利用者に自動運転による違和や恐怖感を全く感じさせないレベルが実現されている。運転席後方に搭載された画面ではディープラーニングによる障害物の認識や車線内外の判定の様子を実際にみることができる。

図3 J6外観と運転席後方の画面

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【イベント②】コンパクトな自動運転EVバスによるお台場シティバリューアッププロジェクト

アクアシティお台場を起点としシンボルプロムナード公園内を東西・南北に周遊するルートでは「ARMA(アルマ)」が走行していた。「ARMA」は、フランスのNAVYA社が提供する乗車定員14名、最高速度19kmのEV仕様の自動運転シャトルバスで、1回の充電で約8時間の自動走行が可能となっている。

走行ルートを事前にスキャニングして生成した3Dマップを基に、車両位置を推定するGNSS(全球測位衛星システム)と障害物を検知するための2種類のLiDAR(周囲360度の障害物検知と自己位置特定を行う3DLiDARと前方約180度の障害物検知をする2DLiDAR)を使用した認知を経て、車両駆動の判断を自動で行う。また、車内外に搭載されたカメラを通じて遠隔での走行監視も実施されている。

シンボルプロムナード公園では、将来的にお台場・有明・青海地区に立地する施設を接続するモビリティとして自動運転車両の実装を目指し、昨年度から継続的な実証実験が行われている。昨年度は歩車分離による運行を実施したが、本実証では、白ナンバーを取得しているARMAを起用し、さらに安全確保の観点から時速6kmという低速で走行を行うことで、比較的人通りの多いお台場において歩車共存での運行を実現した。さらに、周辺商業施設等との連携を行い割引クーポン券の配布を行うなど、お台場来訪者の回遊性の促進を評価する取組であった。

試乗すると、静穏性とスローな走行により公園との調和を肌で感じられる。車内では向かい合う座席配置で対話がしやすい。また、歩行者や自転車が接近した際の自動減速や停止もスムーズで不安感もないことに加えて、セーフティオペレーターも同乗していることで、万が一の際の操作対応がなされるという心理的な安心も確保されていた。

図4 ARMA

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【イベント③】ナビゲーションロボット「AIスーツケース」屋外走行プロジェクト

次に、視覚障害者を誘導する自律型ナビゲーションロボット「AIスーツケース」について述べたい。「AIスーツケース」は、日本科学未来館および、一般社団法人次世代移動支援技術開発コンソーシアムが協力して開発している。見た目は市販のスーツケースと変わらないが、センサー、AI、モーター等を搭載することで障害物や人を認識して、目的地まで視覚障碍者を安全に誘導することができる。具体的には、LiDARと、屋外では高精度な衛星測位技術RTK-GNSSによるリアルタイムに測定するデータと予め測定した地図データを照合して現在の位置を推定するとともに、深度カメラと画像認識AIにより、周囲の歩行者や動きを認識して、安全に移動できる場所を選んで走行ができる仕様となっている。視覚障害を持つユーザーへは、スーツケースのハンドル突起部分の振動で進行方向を伝えるほか、スマートフォンと連携して音声での案内を行う機能を有する。今回のプロジェクトでは、はじめて屋外でのナビゲーション実証として日本科学未来館前からゆりかもめ「テレコムセンター駅」までの街歩きを、体験者(視覚障害者含む)を誘導し、走行を行った。

図5 AIスーツケース

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【イベント④】小型自動運転モビリティ「PARTNER MOBILITY ONE with PiiMo」走行プロジェクト

「PARTNER MOBILITY ONE」は、久留米工業大学インテリジェントモビリティ研究所とパーソルクロステクノロジー株式会社、Le DESIGN株式会社(久留米工業大学発ベンチャー)の3者が共同で開発した新発想の小型自動運転モビリティである。EV仕様で、乗車定員は3名、最高速度は6Kmで12時間の自動走行が可能となっている。今回の実証は「PARTNER MOBILITY ONE」の後方を「PiiMo」が追従走行する形式で、晴天時は日本科学未来館の前の公園を、雨天・荒天時は日本科学未来館の館内で行われた。屋外での実証走行としては、佐賀県吉野ヶ里歴史公園に続く2カ所目となっている。

試乗では、ベンチ型で木目のデザインと複数人乗りの特長から、単なる移動がテーマパークのアトラクションに変化した高印象を感じることができた。施設内の目的地へ向けて、家族や友人と共に談笑しながら低速移動できる、エンターテイメント要素も感じられるモビリティとなっている。実社会での活用が想定されるシーンとしては、まず広大な自然公園やテーマパークでの活用が挙げられる。これまで単なる歩行や自転車を中心とした移動シーンにおいて、低速で楽しみながら移動・周遊できる新たな選択肢をもたらすモビリティと言えるのではいだろうか。

図6 PARTNER MOBILITY ONEとPiiMo

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3.「PARTNER MOBILITY ONE」車両開発責任者のコメント

小型自動運転モビリティ「PARTNER MOBILITY ONE with PiiMo」走行プロジェクトを担当しているLe DESIGN株式会社CEO・チーフデザイナーの東氏へ、開発のきっかけや今回のイベントの反響などについて伺った。

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「PARTNER MOBILITY ONE」を開発されたきっかけについて教えてください

(東氏)

大切な人と手を取りながら風を感じ、一緒に想い出をつくってほしい。そんな想いで開発しました。
以前、一人乗りの自動運転モビリティを開発し観光サービスの実証を行っていたとき、小さな女の子から「これがあるなら家に籠りがちなお祖母ちゃんと一緒に来たかった」と言ってもらえました。とても嬉しかったのですが、そこで感じたのは、お祖母さんがモビリティに乗っている間、女の子は横を歩くことになってしまうということでした。実際に、実証イベント中に高齢の奥様が乗っておられる横を旦那様が歩いて付いてくる姿などをよく見かけていたこともあり、これではいけないと感じたことがきっかけで、ご家族やご友人と一緒に乗れる「複数人乗りのベンチ型モビリティ」を開発しました。お孫さんやお子様、恋人と手を取り、肌を触れ合いながら流れる景色や風をゆっくりと楽しみ、「桜が咲いたね」などと会話しながら感動を共有し、生涯忘れられない思い出を一緒につくっていただけると嬉しいです。

「PARTNER MOBILITY ONE」の試乗を体験された方からはどのような反響がありましたか

(東氏)

本イベントでは、計220名を超える方々にご乗車いただけました。また、10年に一度といわれる大寒波で凍えるような寒さの屋外体験にも関わらず、99%の方が「とても良かった/良かった」と答えてくださいました。具体的な声をご紹介すると、「とても楽しかった。ベンチで子供と会話しながら乗れたのがよかった。高齢の母がいるので観光でこのような乗り物があると嬉しい」や、「ベンチが動くという発想がとても新鮮で素晴らしい。実際に座ってみてとても快適で、広い公園や美術館にあって気軽に利用できると良い」「次はガンダム立像エリアで体験してみたい」「お花見でお弁当を食べながら観光したい」「夜景を見ながらのんびりと飲食できそう」「デザインがシンプルでおしゃれ」など、本当に多くの心温まるご意見をいただきました。
また、驚いたのは、96%の方々が今回のライドツアーに「料金を払っても良い」と答えて下さったことです。コロナ禍では難しかった「肌を触れ合いながら想い出を一緒につくる」、という特別な体験を喜んでいただけたのではと思います。パナソニックプロダクションエンジニアリングの「PiiMo」と連携したのも良かったですね。先頭を走る横乗りベンチの利用者と、それを追いかける前乗り車いすの利用者が顔を合わせることができるため、ツアー体験者の不思議な一体感が生まれ、初対面の人と想いを共感するという特別な体験を楽しんでもらえたような気がします。
個人的には、ベンチ型モビリティで、小さなお子さんがお母さんの手をギュッと握り、笑顔でお台場の景色を楽しんでくれていたのが印象的で、とても嬉しく感じました。

他のモビリティやロボットの試乗体験と時期や場所を同じくして行う相乗効果について教えて下さい

(東氏)

今回実証された4つの全てのモビリティ・ロボットが上手く連携して移動と観光が便利になる。そんなお台場の未来像を感じることができました。例えば、長距離の移動は「①自動運転EVバス」。隣接エリアまでの中距離移動は「②小型自動運転シャトルバス」。そして、目的エリアに着いた後の、のんびりとそのエリアを楽しむことを我々の「④PARTNER MOBILITY ONE」が担当する。さらに、視覚に障害を持たれた方々の観光も「③AIスーツケース」がサポートする。という形で、全てのモビリティが上手く連携できており、「すべての人に優しいまち」のモデルを、お台場でお見せできたことは、とても有意義だったと感じています。

「PARTNER MOBILITY ONE」を社会へ実装していくためにはどのようなステップが必要でしょうか

(東氏)

今回のような実証イベントを着実に成功させ、体験者の方々の声を真摯に受け止め、誠実に改良を加えていく。これにつきると思います。ここでいう改良とは、モビリティに対する技術的なものだけでなく、サービスの「事業性」も含むことがポイントです。どんなに良い技術であっても、持続的に収益が得られる事業にできないと社会に定着せず、期待して待ってくれているユーザーにサービスをお届けすることができません。実証試験から事業に発展する際の壁はそこにあります。
その実現には、まずは可能な限りシンプルで低コストなサービスからトライアルをはじめ、少しずつデジタルを活用してユーザーの体験価値を高め、魅力的なサービスと事業性を両立する「着地点」を探す必要があります。今回のイベントでシンプルなサービスのトライアルと、その有効性や改善点を確認できましたので、今後はXRなどのデジタル技術の活用、ガンダム立像周辺などのエリア拡充、エリア情報データベースとの連携など、ユーザーの体験価値を高めるトライアルを進め、高い事業性と魅力を両立する、持続可能なビジネスモデルの構築を進めたいと思います。
日本の先進技術の象徴的なエリアである、ここ、「お台場」で魅力的なビジネスモデルを構築できれば、小型モビリティの自動運転サービスが全国、もしくは世界に広がる可能性があります。すべての人が壁を感じることなく、笑顔で溶け込める「優しいまち」の実現を目指し、我々も覚悟を持って着実に歩みを進めたいと思います。

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東 大輔

名古屋大学大学院 航空宇宙工学専攻で博士号を取得。自動車メーカーでスポーツカーの空力デザイン開発に従事した後、久留米工業大学に移り、Le DESIGN株式会社を起業。全ての人が笑顔で溶け込める優しい社会の実現を目指し、小型自動運転モビリティの開発を産学官連携で推進。

4. 終わりに

今回、4種類の先進モビリティやナビゲーションロボット取組を集めた体験機会の提供としたことによる、対外的な訴求効果の高まりを再確認することができた。また、今回の実証では限定的なルートでの試乗体験となったが、実際のユーザーは屋内外を自由に移動することから、複数のモビリティサービスをシームレスにつなぐ必要性や、更なる連動が求められる機能の存在についても開発関係者との議論となった。例えば、AIスーツケースを活用して建物の別階へ移動する際には、AIスーツからの信号を受けて施設のエレベーターが連動して到着すれば利便性は高まるのではないだろうか。

当ユニットは、これまで多数のスマートシティに関する調査や支援を経て得た知見をもとに、今後も地域におけるデジタルテクノロジーによる新たなサービスの実証や実装の支援を行っていく予定である。

〈関連情報〉

※1 Digital Innovation City協議会HP

https://tokyo-dic.jp/

※2 Digital Innovation City協議会note

https://note.com/dic1/

※3 Digital Innovation City スタートアップ社会実装支援窓口

https://tokyo-dic.jp/startup/

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