若年層の保険離れから紐解く、デジタルデータを活用した新たな保険のカタチ

1. はじめに:若年層の保険離れ

デジタルデバイスやデジタルサービスが生活に入り込む現代では、「様々な場面でアナログな接点がデジタルな接点に置き換わることで、データの形での現状の計測とそれらを基にした一定の将来予測ができてきている」と考える。しかし、「生活におけるリスクをすべて察知できる」「それらのリスクを完全回避できる」ことは、さらにデジタル技術とその浸透が進んだとしても考え難い。その観点から、生活を送るなかでの様々な事象に「保険をかける」という、従来から続く金融シーンは、リスクに対して(リスクにまつわる損失を主に金銭的補填として)備える営みとして続いていくと考える。

元来、保険とは「生きている人に潜むリスク、生活している上での行動のアクシデントに潜むリスクがもたらす経済的不安に対してかけることができる保障」であり、公的制度でカバーしきれないリスクへ、任意で対応する民間保険を指すことが一般的である。保険はその起源を遡ると、中世ヨーロッパで、職能組合としてのコミュニティである「ギルド」における組合員の経済的マイナスを、ギルド全体で分担しあっていた共済的保障制度を発端とする説がある。また日本では、福沢諭吉がヨーロッパの生命保険を紹介したのが最初である、と言われている。

現代の日本での保険の活用シーンに目を向けると、このように長らく生活のリスクを裏から支えてきたサービスは、あまり若年層に「ウケて」いないようである。昨今、若年層には保険に加入しない傾向が顕著に見受けられる。生命保険文化センターの令和元年の調査によれば、30代以上の加入率が男女ともに80%を超えているのに対し、20代は男女ともに50%台に留まっている。次章では、若者の保険離れの深堀りをしたい。(図1及び図2)

図1:生命保険加入率〔性・年齢別〕
図2:生命保険加入率(全生保)〔性・年齢別〕─時系列─

出典:「令和元年度生活保障に関する調査」 令和元年(2019年)12月 生命保険文化センター(図表Ⅵ-2、Ⅵ-3を参照)
https://www.jili.or.jp/files/research/chousa/pdf/r1/2019honshi_all.pdf

2. 「若年層の保険離れ」の要因の深掘り

若年層(20代)が保険に加入しない理由について、ニッセイ基礎研究所の調査によると、「① 何となく面倒だから」「② 保険料を支払う余裕がない」という理由が上位に挙がっている。(図3)

図3:生命保険非加入理由(全生保)〔性・年齢・雇用形態別〕

出典:「若年層の生保加入の状況と要因 -就労形態の差異を考慮したコミュニケーションの必要性-」 平成25年(2013年)4月 ニッセイ基礎研究所 (図表3を参照)
https://www.nli-research.co.jp/files/topics/40668_ext_18_0.pdf

① 加入の煩雑さ

若年層の保険非加入理由の1つである「何となく面倒だから」という理由の背景には「保険加入時の煩わしさ」、または「保険加入そのものが身近でない」といった現状があると考えられる。

保険商品の販売に「オンライン化の導入と推進」が進む一方で、いまだに対面販売が中心の実態を確認できる。生命保険文化センターの調査によると、2021年の生命保険の加入チャネルのうち、営業職員からの加入が最も利用されており、インターネットを通しての加入はわずか4%と、きわめて僅少である。(図4)

図4:生命保険加入チャネル(民間生保)─時系列─

出典:「令和元年度生活保障に関する調査」 令和元年(2019年)12月 生命保険文化センター(図表I-128を参照)
https://www.jili.or.jp/files/research/chousa/pdf/r1/2019honshi_all.pdf

生命保険会社・損害保険会社問わず、オンラインで手続が完結する商品は数多く存在しており、ルート自体は既に存在している認識である。デジタルネイティブ世代である若年層に対して、オンラインで身近に提供される保険商品がリーチできない理由は別途あると考えられる。後段でより深く検討したいが、手続のルートが対面かどうかだけという問題に起因するのではなく、どちらかと言えば「保険加入を前提とした場合の自身の状況の評価」と「そこから導き出される妥当な保険商品の選択が、被保険者(この場合でいう、若者)一人では十分にできていない」可能性が高いと考えられる。商品性の理解が困難なことによる、ECでいう「カゴ落ち」のような状況が散見され、手続に至る途中での離脱が起きているのではないだろうか。勿論、これらのハードルを乗り越えるだけの保険加入に関する動機付け(金融商品への背景的知識)が不足していることも副次的要因になっていると思われる。次にもう1点の非加入理由を確認したい。

② コストの高さ

保険非加入理由の2点目として挙げた「保険料を支払う余裕がない」という金銭的理由は、「20代の収入が、30代以上の収入と比較して少ない」という収入の課題は存在する一方、20代の収入またはそのコスト感覚に見合った価格での保険商品が提供されていないのではないか、と考える。

これを別の観点から考えると、保険商品は「包括的に一定期間の最大限のリスクに対処出来るような設計」となっている(またはそのように提案することを前提としている)ため、ある一時期を切り出すと、過度な保障になってしまっているケースが考えられる。(図5) 

図5:保険料の払い込みと補償範囲イメージ

現在でも「モノ消費からコト・トキ消費へ」や「新しい働き方」など、個人のライフスタイルは多種多様に変化し続けているが、今後さらに、個人のライフスタイル・価値観の多様化は進み、必然のトレンドとも考えられ、保障ニーズ、金融商品およびリスクなどの金銭的価値判断も多様化していくと考える。よって、保険商品もそれらに合わせ、ある程度多様性が求められていくものと考える。

これらの前提を踏まえると今般「コストが低いながら、多様性のある保険商品」を検討することとなるが、果たしてそのような保険は存在しうるのだろうか。1つの可能性として「マイクロインシュアランス」としての少額短期保険の可能性を考えたい。

3. マイクロインシュアランスの可能性

① 保険機能提供の態様変化

これまでに述べた若年層の保険離れの課題に対して「保険機能提供の態様そのもの」を変化できた場合、つまり、既存の「一定期間のライフステージの出来事に包括的な保険を一定掛けていく」「保険の外交員などの募集人を通じてこれらのものを検討し、購入する」というスタイルそのものを変えることができた場合、若年層の無保険状態に潜む「保険を忌避している課題」を解消することができるのではないか、と考える。

つまり、現状の“1つの保険商品で長期的に多様なリスクに備える商品”という形式ではなく、“個人の行動に合わせた一時期のリスクや保障ニーズに備えた保険を複数組み合わせ、ショートタームで適時適切に置かれた環境に合わせて現在よりも相対的に安価に提供することができる状況”を実現させることである。「小さく細かく保険商品をニーズにフィットさせていく」ということが従来の保険商品ではできなかった提供価値であり、機能提供の在り方そのものに変化を与える可能性があると考える。

これにより、若年層のみならずその他の世代の被保険者にも、より現状に適合したサービスを生み出せるのではないか(そういった保険商品を提供する基礎的な条件がそろう環境を創出できるのではないか)と考えている。(図6)

図6:マイクロ保険加入イメージ

② データ活用によるフィージビリティ確保

しかし、仮に現状市場で活発な保障提供を行っている少額短期保険のようなショートタームで少額の保険が複数かけ合わせられるような状況が到来したとして、今まで保険商品との接触もなく、社会経験が絶対的に少ない状況の若年層が、適時適切な保険選別・購買(加入)を行えるのだろうか。この時「個人の行動に合わせた保険商品を提供する際、いかにその個人の行動を把握するか」、つまり「個人のデータ活用を行うリコメンデーションをどのように行うか」がカギとなり、その立場をどのような場所から行うかが重要な論点であると考える。

昨今個人のデータはデジタルIDをフックに各データベース(以下、DB)へのアクセスを行い、個人ごとのDBを事実上構築していると言える状態なのではないか、と考えている。何かしらのデータにはそれぞれの今後の将来行動を起こす可能性のあるデータが内包されており、それらをダウンロード/アップロードすることによりバリューが顕在化するものと認識している(図7)。実際に、各DBープラットフォーム(以下、PF)から自由に情報を引き戻せるようなPFなどは存在しえていないが、自己のIDを基準にどのようなPFでどのようなサービスを享受しているかは確認ができる世界はほぼ実現できているものと考えている。シングルサインオンをはじめ、IDのログイン効率化は進んでおり、自身の行動の断片をIDベースでつないで、最終的に自分の生活の実像が導き出すことができれば、それに合わせた保険の提供を検討することができると考える。

図7:個人データベースの構築

個人ごとのDBはその個人の網羅性を持った個人情報として非常に高い価値を持ちうる。データ活用においては、データをどう保持するか、流通するか、データの創発者がデータ活用についてどのように自己決定できるかが課題である。

注意点があるとすれば、このようなデータを活用した保険商品の提供の際に、データをとおした「差別」の発生に留意する必要がある。個人データを利用した結果、保険会社がリスクを過度に忌避し、ある被保険者を保険商品の対象から除外する、またはあまりにも高額な保険料設定によって保険加入を退けるようなことがあってはならないと考える。

4. 保険会社のデータ活用による新たな保険提供の可能性

ここまではデータ活用について、「個人のおかれた環境確認、それに応じた保険商品のフィッティングを行う」という観点で論じてきたが、保険会社におけるデータ活用という側から考えた場合、どのような事業上の意義を検討できるだろうか。

保険会社においては、従来のような保険商品による収益だけでなく、これまでの議論のような保険を提供する際のデータを中心に活用することで新たなサービス提供の在り方を見出すことが可能になる、と考える。

従来、金融機関は事業において様々なデータを収集・統合・管理し、業の根幹をなしてきた歴史があり、昨今のデータ活用においても、それらの本質的な機能はデータ活用との関係で深い親和性があるといえる。(図8)

図8:金融機関におけるデータ・情報の概観

保険会社においては、「大数の原則」「収支相等の原則」と言われるように、各種「情報」に基づいて保険料を算定しサービスを提供してきた経緯がある。

また、行政の動きとして、2019年5月に保険業法が改正になったことにより、保険会社本体での「情報銀行業務」の運営や、「保険業高度化等会社」の子会社としての保有が可能になり、保険業界でのデータ収集・活用が進む契機が発生している。

元来、保険会社の業務範囲は本業である保険業の健全性の確保のため、保険の引受けのほかは、付随業務など限られた業務のみを行うという制限があった。その中での保険業法の改正は、情報・データ利活用の社会的な進展を背景として成立、その制限の緩和を行ったものである。

森・濱田松本法律事務所の解説によると、保険業法第98条第14項に追加された「顧客から取得した当該顧客に関する情報を当該顧客の同意を得て第三者に提供する業務その他当該保険会社の保有する情報を第三者に提供する業務」は、「情報銀行業務」を指すものと解釈できる。この「情報銀行業務」は「当該保険会社の行う保険業の高度化又は当該保険会社の利用者の利便の向上に資するもの」である限り行うことができ、例えば保険の引受け審査に結び付く可能性のある情報を取得することが考えられる。(図9)

図9:保険会社の業務範囲に「情報銀行業務」が追加

出典:「INSURANCE NEWSLETTER」 令和元年(2019年)12月 森・濱田松本法律事務所
https://www.mhmjapan.com/content/files/00038342/20191216-110751.pdf

また、保険会社の子会社についても、保険会社の健全性を確保するため、業務範囲が限定されてきたが、本改正で新たな子会社の対象として「保険業高度化等会社」が追加された。この「保険業高度化等会社」は、「当該保険会社の行う保険業の高度化若しくは当該保険会社の利用者の利便の向上に資する業務又はこれに資すると見込まれる業務を営むこと」が追加された。(図10)

図10:保険会社の子会社範囲に「保険業高度化等会社」の追加

出典:「INSURANCE NEWSLETTER」 令和元年(2019年)12月 森・濱田松本法律事務所
https://www.mhmjapan.com/content/files/00038342/20191216-110751.pdf

保険業法の改正により、保険会社はデータを扱うビジネスの幅が広がったことから、商品提供及び商品提供時に必要なデータ、今回で言う場合個人のライフスタイルや行動(その将来性の予知)が可能となるようなデータを収集するきっかけとなる周辺事業の展開について、環境が整ったといえる。

データを活用した保険事業を展開するにあたっては、以下の2点が重要になるものと考える。(図11)

① 被保険者が安心してデータを預けられるトラストの構築

データ提供の決定権を個人が持つ状況の実現。特に、被保険者が進んで自己のスケジュールや情報を提供してくれるようなオプトイン式のデータ活用コンセプトが実現できれば、個人の趣向や生活状況により寄り添った商品提供およびそのデータ提供のきっかけとなるようなFinTechサービスなどが可能となる。

② データの企業間での連携をお客様に認められるトラストの構築

保険会社にとっては、新たな保険商品の開発、または保険商品の提供機会の創出に繋がるデータ流通を行うエコシステム基盤の構築が可能となる。

図11:個人がセンシティブデータへの決定権を持ちながら企業がデータ流通・活用を実現できる世界観
(当該図では、トラストサービサーに保険会社などがなりうると考える)

保険商品・保険機能提供のイメージ

実際の保険商品提供のイメージを説明する。

① Aさんは、プラットフォーム上のサービスの1つであるカレンダーアプリケーションにスケジュールを登録する。

② Aさんはプラットフォームを信頼しているため、プラットフォーム上でAさんのスケジュールと行動履歴が共有されることを許可する。

③ Aさんが登録したスケジュールがプラットフォーム上をとおしてAさんの意思決定にも続いて他のサービス提供者に共有される。

④ Aさんが普段とは違うリスクのある行動をとるときに、保険が事業者(保険会社または代理店等)からリコメンドされる。

例:Aさんは普段車を運転しないが、今度の週末はレンタカーを運転する、降雨率が高い時期・場所にレジャー主体の旅行に出かける など

→保険料はAさんのデータや行動履歴などによって計算される。

実際にオンデマンドで保険をデジタルに提供している、イタリアのインシュアテック企業YOLOの事例を紹介する。

YOLOは完全にオンラインでの提供を行う保険ブローカーである。保険会社はYOLOのプラットフォームを利用し、オンデマンドで適切な保険商品をオファーできる。提供の対象は個人と中小企業であり、スマートフォンまたはPC上で販売している。

YOLOは旅行、家財、ペット等に対しての保険商品を仲介しており、取得した顧客の情報とSASの機械学習を組み合わせて、顧客へのアプローチを行っている。

構築したアルゴリズムで、「正しい顧客へ正しい商品の提供」「購入する可能性の高い顧客へのアプローチ」「アップセルやクロスセルの実現可能性が高い顧客へのアプローチ」を実現している。

このように、データの活用を行うことで、必要な時に適当な価格で最適な保険を提供することが可能である。

今回紹介した保険商品・提供案は、少額短期保険を意識したものであるが、生命保険やその他保険に関しても同様の取り扱いを行える可能性は十分にあると考えている。

5. おわりに

今回は若年層の保険離れを課題と捉え、マイクロイシュアランスの可能性を個人データの活用を前提に検討し、新しい保険の提供の可能性と将来についての検討を紹介した。個人データの活用主体は様々なプレーヤーが担えるポジションであるものの、銀行業や保険業といった、従来から顧客の各種情報をセキュアに扱ってきた事業者こそが担い手としてふさわしいと考えている。

「はじめに」で述べたとおり、元来の保険は特定のコミュニティにおける共助の機能として、コミュニティに所属するメンバーの属性を鑑みて、リスクを事前に予測し備えてきたものといえる。地縁的なコミュニティ性から被保険者のリスクを予測する営みは現代とは乖離した試みであろう。それでもなお、デジタル時代に沿った個人の行動や趣向を捉え、疑似的なコミュニティ性を見出し、そこに見合った保険商品が提供されることがあるとすれば、個人が保障を受け、より活発な生活がおくれるのではないだろうか。そのようなデータをとおした人間中心性の高い社会が実現されることに際し、引き続き保険業界におけるデータ活用の深化を支援してまいりたい。

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