メタバースとは ~先行企業の動向~

2022年8月にガートナー社が公開した先進技術ハイプ・サイクルにおいて、メタバースは現時点では黎明期であり、主流になるまで10年以上要すると発表された。昨今、各企業がメタバースを活用した商空間やコンテンツなどを展開しており、今後のビジネスでの活用が注目されるところである。そこで、今回はメタバースとはそもそもどういったものか、ビジネス界ではどのように考えられているのかについて調査し、整理をおこなった。

1. メタバースの歴史

メタバースは昨今各種メディアに多数取り上げられており、経済界でもFacebook社が社名をMeta(正式名はMeta Platforms, Inc.)へ変更するなど、今最も注目される先進技術の1つである。

そもそもメタバースはどのように誕生したのか。メタバースという言葉が初めて世に出たのは米国のSF作家、ニール・スティーヴンスンが1992年に発表した小説「スノウ・クラッシュ」である。以下、引用。

だから、彼はいま、このユニットにはいない。彼がいるのはコンピュータの作り出した宇宙であり、ゴーグルに描かれた画像とイヤフォンに送り込まれた音声によって出現する世界。専門用語では“メタヴァース”と呼ばれる、想像上の場所だ。ヒロは、このメタヴァースでほとんどの時間を過ごしていた。ここには<貯蔵庫>のような嫌なことはない。

出典:ニール・スティーヴンスン著「スノウ・クラッシュ(新版)上」、ハヤカワ文庫、2022

小説上では、専用ゴーグルとイヤフォンで仮想空間上に存在する没入できる世界と表現されており、現在各所で体験できるVR(バーチャル・リアリティ)と類似した空間だと読み取れる。

その他、2000年代に流行した3D仮想空間の「Second Life」はメタバースの先駆け的存在として認知されており、現在もサービスを提供している。2009年4月刊行川原礫著のライトノベル「ソードアート・オンライン」、2018年4月日本公開の米SF映画「レディ・プレイヤー1」など、国内外の創作世界でも取り上げられており、空想の世界として描かれていた技術が今現実世界で徐々に実現されようとしている。

2. メタバースとは

現時点では、メタバースというプロダクトやサービスがリリースされているわけでもなく、明確に定まった定義は未だないが、メタバースを定義しようとする動きが出てきている。メタバースの先駆者として世界的に注目されている、Epyllion(エンジェル投資、テレビ、映画、ゲーム開発等を行う会社)でCEOを務めるマシュー・ボール氏、Epic Game(FortnightなどのゲームやゲームエンジンのUnreal Engineの提供などを行う会社)で共同創業者兼CEOを務めるティム・スウィーニー氏などの4名は、ブログやインタビューを通じてメタバースに関する展望を発信している。次にこれらの内容を調査し、整理していこう。

(1)MatthewBall.vc ~メタバースを構成するコアな7つの属性~

EpyllionのCEOであるマシュー・ボール氏は、2020年1月にメタバースに関するエッセイ、2022年7月に「The Metaverse and How It Will Revolutionize Everything」を出版している。Matthew氏の記す内容については、Epic Game、Unity、Netfixなどの名だたる企業の創業者やCEOが支持しており、メタバースを定義する上で大きな影響を有している。

なお、ボール氏はメタバースを構成するコアな属性7つを定義し、それぞれについて以下のとおり記している。

メタバースを構成するコアとなる7つの要素
出典:MatthewBall.vc “The Metaverse: What It Is, Where to Find it, and Who Will Build It”を基にNTTデータ経営研究所作成

上記の内容は1つのアイデアであり、広く合意されているわけではない。例えば、運用性について実現するためには、あらゆるサービスや体験で共通して利用できるIDの発行が必要になる。現代では各サービスや体験毎に個別でIDの登録が必要となっており、共通IDを運用する場合、誰がIDそのものだけでなく、アカウントに紐づく属性情報や行動情報などを管理するのかといった技術的かつビジネス上の大きな課題がある。

(2)Meta

Meta(旧Facebook)の創業者兼CEOであるマーク・ザッカーバーグ氏は、2021年10月に公表した「Founder’s Letter, 2021」ではメタバースに関して、今後の展望とMeta社として目指すべき方向性の大きく2点について述べている。

1つ目である「今後の展望」について、メタバースの品質を決定づける要素である「存在感」の体験クオリティ向上に注力することで、ソーシャル技術としての究極的な夢である「別の人ともしくは別の場所にあたかも自分が確かにそこに存在するという」体験の実現を目指すとしている。また、メタバースは1つの会社で構築されるものではなく、クリエイターや開発者が作成する相互運用可能な体験やデジタルアイテムなどによって構築されるものであると考えている。そのため、今日のプラットフォームやそれらのポリシーによって縛られた世界よりも、より大きいクリエイティブエコノミーが存在すると述べている。

2つ目の「目指すべき方向性」としては、メタバースに必要な基礎的な技術、ソーシャルプラットフォーム、ツールの作成を通して、メタバースの実現に向けて取り組んでいき、ここで確立された技術はMeta社が既に提供しているソーシャルメディアアプリにも還元していく方針で取り組むと述べられている。また、メタバース構築における収益的なアプローチについては、Meta社が運営するプラットフォーム同様に広告を中心とした収益モデルにより、利用者へ低価格のデバイスもしくは無料のアプリを提供することで、できるだけ多くの方がサービスにアクセスできるようにする方針で考えている。

(3)Roblox

Roblox社(1日のアクティブユーザーが3,600万人になるオンラインゲームプラットフォームやゲーム作成システムを提供する企業)の共同創業者兼CEOであるデイビッド・バシュッキ氏は2021年1月に公開された対談でメタバースの特徴について8つあると述べている。

メタバースを構成する8つの特徴
出典:“Roblox CEO Dave Baszucki believes users will create the metaverse”を基にNTTデータ経営研究所作成

また、メタバース構築について、Roblox社はユーザーがコンテンツを作成することに焦点を当てているため、Roblox社がメタバースを構築するのではなく、ユーザーが創り出していくものと考えている。Roblox社はあくまでも「羊飼い」のように、プラットフォームの構築や市民的で安全なプラットフォームの維持に努めると断言している。

そうした立ち位置のRoblox社のメタバースに対するビジョンは「没入感があり共同体験性のあるプラットフォームを構築し、人々が数百万の3D体験の中で学び、働き、遊び、創造し、社交する」ことと定義している。全ての人のために存在するメタバースを提供するため、3つの基本原則に基づいたアプローチを行っている。

3つの基本原則
出典:“The Future of Communication in the Metaverse”を基にNTTデータ経営研究所作成

Roblox社はあくまでも裏方的なポジションでメタバースの発展に寄与しつつ、特に安全な場を提供する点に注力している点を、強くメッセージとして出している。

(4)Epic Game

Epic Game社(世界に3億5,000人のユーザーを有するゲーム“Fortnite”や3D制作プラットフォームのUnreal Engine等を提供する会社)の創業者兼CEOであるティム・スウィーニー氏は2021年1月に公開された対談でメタバースについて大きく2つの観点で述べている。

1つ目としてメタバースはオープンであること。メタバースが1つの企業によって管理されるのではなく、全ての人によって管理されることが重要であると考えている。これは、Fortniteがどのコンソール、プラットフォームでもアクセスすることを可能にしている点からも、同社がメタバースに対しても真にオープン性を望んでいるものと推測される。また、Sweeny氏はメタバースにおいてもメトカーフの法則注1が適用され、ネットワーク上のユーザー数に基づいて価値が向上していくと予測している。

2つ目として、メタバースのキラーアトラクションを提供するための技術が不足していること。メタバース最大の特徴は、友達と一緒に外に出て散歩する様な、友達と集まって素晴らしいソーシャルな体験ができることだと述べている。そのためにも“Fortnite”“Minecraft” “Roblox”などを閉鎖された経済/プラットフォームから統合された世界へ移行する必要がある。しかしながら、現在の技術では同じシミュレーションに100万人単位、1,000万人単位でのプレイヤーが参加することが難しいのが現状である。この課題はプレイヤーが小さなグループに分断されないシャドーレスな世界(1つのグループに統合された世界)を実現する技術など、多くの技術がメタバースを構築するために必要になると述べている。

3. 最後に

今回、MatthewBall.vcによるメタバースの定義とMeta、Roblox、Epic Gameそれぞれのトップが示しているメタバースに関する展望について整理した。各社いずれも、メタバースを人々が素晴らしい体験をするための空間として捉えているが、メタバースはオープンな空間化クローズドな空間か、1社で管理するのか参加する人々によって管理されるのかなどといった点で差異が生じている。メタバースの発展には技術的な発展やメタバースの定義に加えて、一般ユーザーにどういったメリットがもたらされるかが特に重要となってくる。そのためにも、今後メタバースがどのように実装/定義され、どういった体験が可能となるのかについて継続して調査を行っていきたい。

注1: 有線LANの標準規格であるイーサーネットの提唱者であるロバート・M・メトカーフ(Robert M. Metcalfe)が1990年代のはじめに提唱した、ネットワークの価値を評価するための理論。「ネットワークの価値は、そのネットワークに接続するユーザー数の2乗に比例する」とされている。

参考文献

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