協同組合・共済におけるSNSの活用方法を探る

株式会社NTTデータ経営研究所
グローバルビジネス推進センター エグゼクティブコンサルタント
山下長幸

1.SNS普及の歴史・社会的なインパクト

ソーシャルネットワーキングサービス(以下、SNS)は2002年にカナダのコンピュータプログラマーがFriendsterとしてサービスを開始し、多くのユーザーの心を捉えて急成長を遂げた。その後、米国では2003年にビジネス特化型SNSであるLinkedInや2004年に大学生限定でのFacebookなどがサービスを開始した。日本でもSNSサービスの開始は早く、2004年にはmixiやGREEがサービスを開始した。

2001年以前は、世の中に情報発信できるのはテレビや新聞という大手マスメディアを通じて記者・有識者などにほぼ限られていたが、SNSの普及により、ごく普通の人々でも気軽に世の中に情報発信ができるようになった。これは大きな社会構造変革であり、SNSの功績だと筆者は考えている。

その後、日本では2010年前後からのスマートフォンが急速に普及し、近年の5Gに至るまで無線通信回線の高速化・大容量化で動画もストレスなく受発信できる環境が整い、いつでもどこでもSNSを通じた動画投稿や動画視聴も当たり前の時代となった。

2021年12月における代表的なSNSの日本国内月間アクティブユーザー数をみると、LINEが8,900万人、YouTubeが6,500万人、Twitterが4,500万アカウント、Instagramが3,300万人、Facebookが2,600万人、TikTok*が950万人などとなっており、SNSは企業として顧客とのコミュニケーションの手段として有力な媒体となった。(ガイアックスメディアラボ調査)
*短編動画投稿サイト

SNSも含めたインターネットの普及により、日本全体における広告費において、2019年にインターネット広告が初めてテレビ広告を抜き、2021年にはインターネット広告が2兆7千52億円、テレビ広告は1兆8千393億円とその差は8,659億円と拡大している。このようにインターネットの普及により広告市場においても構造変革が進行している。(メディアレーダー調査)

2.日本の大手生損保・共済におけるSNS取り組み状況

このような状況のもと、日本の大手の生保会社、損保会社のみならず、協同組合・共済でも顧客・組合員とのコミュニケーション手段としてSNSの利用が進んでいる。

(1)日本の大手生損保・共済における取組SNS・フォロワー数などの状況

図表1は大手生保会社2社、大手損保会社2社、大手協同組合・共済2組合における主要SNSへの取り組み状況をまとめたものである。
日本では、日本生命が5種類のSNSと積極的に取り組み、多くのフォロワー等を獲得している。特にTwitterとFacebookでは他社よりも1桁多いフォロワー等の獲得となっており、他社が取り組んでいない短編動画投稿サイトTikToKにも取り組みを開始している。他に特徴的なのは、こくみん共済のLINEの「ともだち」数が1,000万人を超えていて、このSNSに注力している模様である。(図表1)

他業界の取り組みを見ると、LINEにおける「ともだち」数は、LINEスタンプを除き、楽天市場が7,100万人超と最も多く、Twitterにおけるフォロワー数はローソンが680万人超で最も多くなっており、生損保・共済業界において取り組みを強化する余地はまだまだ大きいと言える。但し、そうは言っても、SNS投稿を頑張ってもフォロワーや「いいね!」などのユーザーエンゲージメントが増えず、顕著なマーケティング効果が得られないとなるとSNS取り組み稼働や予算をなかなか増やせないのも事実である。

(2)日本の大手生損保・共済におけるSNS投稿内容の状況

各社の投稿内容の状況を知るため、日本の大手生損保4社におけるFacebook投稿内容を分析してみた。(図表2)大きく「広報的コンテンツ」と「保険商品・販促関連コンテンツ」に分類でき、「広報関連コンテンツ」は、後援スポーツイベント紹介、社会課題解決支援、入社式紹介などがあり、各社とも社会にアピールできるものをピックアップして投稿している。「保険商品・販促関連コンテンツ」は、TVCM紹介、保険商品紹介などが見受けられた。
自社視点での広報・販促コンテンツが非常に多く、あまり多くのフォロワーや「いいね!」などのユーザーエンゲージメントは期待できない感じである。

3.米国の大手損保会社GEICOにおけるSNS取り組み状況

日本の大手生損保・共済状況と比較するため、サンプル分析として米国の大手損保会社GEICO(「ガイコ」と発音)におけるSNS取り組み状況を調査した。GEICOは従業員4万3千人超、3,000万台の自動車保険を取り扱っている米国2位の損保会社である。1997年にウォーレン・バフェット氏が率いるBerkshire Hathawayのグループ会社となった。

(1)GEICOにおける取組SNS・フォロワー数等の状況

図表1の通り、GEICOでは、YouTubeに力を入れているようで191万人の登録者となっており、調査対象の中でも最も多かった損保ジャパンの7,630人の250倍、Facebookのフォロワー数も日本で最も多い日本生命の3.7倍の60万人超など、日本の大手生損保・共済と比較して、顧客とのコミュニケーション手段としてSNSに注力していることがわかる。日本生命以外の日本の大手生損保・共済では取り組んでいないTikTokに関しても、日本生命の7.0倍のフォロワー数となっている。

(2)GEICOにおけるSNS投稿内容の状況

GEICOの投稿内容の傾向を知るため、FacebookとTikTokの投稿内容をサンプル的に分析してみた。(図表3)Facebookに関しては、日本の大手生損保・共済と同様に、保険商品の販促コンテンツもあるが、大きな違いは広報的なコンテンツはなく、「竜巻からの避難の仕方」「お勧めの自動車緊急故障対応ツール11選」「家族向けお勧め海岸リゾート5選」など損害保険が関連する生活シーン・自動車・旅行・などでの顧客お役立ちコンテンツが非常に多いところである。”Earth Day”活動に関して、日本企業では自社の活動を広報している企業が多いが、GEICOの場合、顧客視点で「日常生活で出来る”Earth Day”活動の工夫」を投稿しているところなど、非常に対照的である。

GEICOは動画投稿にも力を入れていて、TikTokの投稿内容は15秒から30秒などで非常に短い時間でリスクを訴求する面白動画という内容が非常に多い。YouTube向けとTikTok向けのコンテンツを共用している投稿コンテンツも多く、YouTube向け制作した1~2分の動画を、TikTok向けに15秒から30秒などに編集して投稿しているものも多く、動画制作費用を効率よく利用しているものと想定される。GEICOからするとこれまでTVCMに巨額の制作費用と媒体出稿費用をかけていたのに比べると、安価な制作費用で広告出稿できているものと想定される。

4.協同組合・共済におけるSNS取り組みの方向性

(1)基本姿勢

まずSNSへの取り組み方針として、広報や商品サービスのマーケティングという情報発信のみならず、顧客・組合員などとの双方向のコミュニケーション手段だと位置づけるべきである。テレビや新聞などの伝統的なメスメディアによるマーケティングは基本的に企業からの片方向の情報発信であるが、SNSは顧客・組合員側から企業にコミュニケーションを取れるところが大きく異なり、この特徴を十分に活かすべきである。米国大手銀行では、顧客からの専用問い合わせSNSアカウントを設置したり、採用専用のアカウントを設置しているのは、顧客や採用候補者との双方向のコミュニケーションを重視している証左と言うことができ、協同組合・共済においても実施検討すべき事項であると考えられる。

また、文字と写真の投稿コンテンツに加えて、動画による投稿コンテンツにももっと積極的に取り組むべきと考えられる。文字と写真の投稿コンテンツは新聞・雑誌の代替情報であったが、テレビではなくインターネットで動画を視聴する人々が急速に増加してきており、そのニーズに応えることが重要である。TVCMの動画をSNSに投稿するだけでなく、SNS動画専用のコンテンツ制作に力点を置く状況となっていると考えられる。

(2)テーマ別のSNSアカウントサイト設定

顧客・組合員接点としてのSNS活用を考えた場合米国大手銀行ではテーマ別アカウントの開設を積極的に実施していて、協同組合・共済においても実施検討すべきであろう。
対象顧客・組合員別としては、個人向け・職場(法人)向け、投稿コンテンツ内容別としては、健康リスク、自動車・自転車等の交通リスク、生活リスクなどの各種のリスク対策など様々な切り口が考えられる。SNSアカウントにアクセスする動機がはっきりしている顧客からすると、テーマ別になっている方が、アクセスがしやすいこと、過去の投稿内容を参考にしやすいこと、投稿コンテンツとしても顧客・組合員ニーズに合致しやすいことなどのメリットが考えられる。

加えて、営業職員採用強化のためのSNSアカウントを設定・運用することも考えられる。営業職員採用に向けて、仕事内容、職場の雰囲気、営業職員紹介など様々な投稿コンテンツが考えられる。

(3)投稿コンテンツ

現状の日本の大手生損保・共済のSNS投稿コンテンツの主流は、社会貢献活動などの広報的なコンテンツと商品・サービスキャンペーンがメインとなっている。無難な投稿コンテンツで炎上リスクは低いが、多くの日本の大手生損保・共済で大きなアクセス数・いいね!などのエンゲージメント数は獲得できていないと想定される。顧客・組合員側からすると、協同組合・共済は生命健康リスク・損害リスクに関するプロというイメージがあり、その方向性に沿ったコンテンツを期待するであろう。

たとえば子供を持つ親向けには、子供が乗る自転車で他人にけがを負わせるリスク、子供が乗る自転車での自動車交通事故リスクなど、子供における生活リスクに関しての悩みは多いであろう。それらに関して協同組合・共済側から情報発信がなされ、子供を持つ親から質問が来るなどと言う状況が双方向の顧客コミュニケーションであり、顧客との親密なリレーションを構築する手段になると考えられる。

このようなテーマは、自動車運転、住宅火災、住宅盗難対策など様々考えられ、協同組合・共済としてテーマ検討して頂きたいと考えている。

(4)SNSへの広告出稿

SNSへは、自協同組合・共済アカウントへのコンテンツ投稿だけでなく、広告出稿も可能である。SNSの広告出稿ページからは性別、年齢層、居住地域、趣味など様々なターゲット属性設定が可能である。ただしSNSへの広告出稿の場合、生命共済や自動車共済などのキャンペーン広告において、Webでの一般的なリスティング広告よりも満足のいく顧客獲得単価を達成するのは難しいであろう。むしろSNSの本旨に立ち返り、顧客との双方向コミュニケーションを促進するような広告コンテンツの方が望ましいのではないかと筆者は考えている。自動車故障トラブルとその対策などのコンテンツを公式Webサイトにアップしたことに関する告知投稿から、自協同組合・共済Webサイトに誘導して顧客コミュニケーションを充実させることが有効であろう。

(5)ソーシャルリスニング

SNS初期のソーシャルリスニングは自社へのインターネット内での否定的な発言など風評を監視する目的で行われた。大手のB2C企業では、24時間65日監視するため、専門会社に業務委託をしているところもある。そこまでやる必要のない企業でも、1日1回社員が情報収集して定期的に役員会に報告しているところもある。

上記に加え、昨今のソーシャルリスニングは、SNSに投稿された情報を収集分析し、自社の商品開発やサービス改善につなげたりしている。顧客の要望不満を収集分析するのであれば、生活者アンケートを実施することでも可能であるが、生活者アンケートは、検証したい仮説に沿って設問を設計するため、思わぬ発見が難しく、また質問者の意図をそんたくしたような真意でない回答をしがちであるのに対し、SNSの場合は、登録ユーザーの自然な気持ちが表現されることが多いので、思わぬ発見があったり、真実に近い顧客理解が可能となるメリットがある。

ソーシャルリスニングを実施する対象のSNSとしては、Twitterが最有力である。FacebookなどのSNSでは投稿情報を友達限定にしていることが多く、外部からの情報収集が難しいのに対し、Twitterの場合、世間に情報発信するために利用しているユーザーが多く、外部からの情報集が容易だからである。ただし、投稿データ量が膨大なので、分析ツールの利用が必須である。

終わりに

協同組合・共済においても、伝統的なマスメディアを使ったマーケティングからWeb広告やソーシャルメディアマーケティングなどのデジタル広告へのシフト、これまでの強みである職員による対面営業力に加え、SNSを活用したデジタルでの対話営業力を付加することを検討実施すべき時代になってきたと考えられ、SNS活用を通じてマーケティング・営業イノベーションをぜひ実現していただきたいと考えている。

本レポートは、一般社団法人 日本共済協会の機関誌『共済と保険』2022年7・8月合併号に掲載されたものを同協会の了解のもと当社Webサイトに掲載したものとなります。

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