世界の人口増加に伴い、食料システムによる環境負荷は拡大しており、温室効果ガス(Greenhouse Gas 以下、GHG)排出量は総排出量における34%を占めている。そのうち農業・その他の土地利用による割合は71%にも上るとされるⅰ。一方、気候変動は農業生産に対しても、豪雨、乾燥、高温、生物相の変化などの影響を与えているため、安定した農業生産のためには農業自体の変革が迫られている。
世界経済フォーラムはNTTデータ(スペイン)とデロイト(米)と連携し、インサイトペーパーとして「Transforming Food System with Farmers: Pathway for the EUⅱ」を2022年4月に発表した。これは、トップダウンではなく農家を中心としてフードシステムを転換していくための道筋を示した資料である。本レポートでは、「Transforming Food System with Farmers: Pathway for the EU」の内容を紹介しつつ、日本やアジアでのCarbon Farmingをどのように進めていくべきか、展開の方向性を示唆したい。
i Crippa, M. et al., “Food systems are responsible for a third of global anthropogenic GHG emissions”, Nature Food, vol. 2, 2021, pp. 198-209, https://www.nature.com/articles/s43016-021-00225-9. ii https://www.weforum.org/reports/transforming-food-systems-with-farmers-a-pathway-for-the-eu/
EU Carbon+ Farming Coalition では、気候変動が進む中、農業の転換は不可避であることを踏まえ、各企業の利害関係を越えてEUで持続可能な農業が広がるよう、課題を調査し対応策の検討を進めている。農家中心の転換を目指していることから、課題について、気候変動に対応した農法を実施する際、農家にはどのような障壁があるか、また農家自身は気候変動と農業に関してどのような認識を持っているのかといった項目を調査している。また具体的な手法として、EUにおけるCarbon Farming(大気中のCO2を土壌に取り込んで、農地の土壌の質を向上させ温室効果ガスの排出削減を目指す農法)への移行に向けた検討を行っている。
EU Carbon+ Farming Coalition はEUグリーンディールを主導する欧州委員会副委員長の呼びかけに応じて設立した組織であり、ドイツの化学大手であるバイエルが中心となり、シンジェンタ(スイス)やBASF(独)などの農業分野に関わる大手企業が参加している。加えて、保険業、食品加工、NGO法人、研究機関、世界経済フォーラムなどの国際機関など、複数のセクターを横断してメンバーが構成されている。
「Transforming Food System with Farmers: Pathway for the EU」で示されたフードシステム転換への道筋についてもEU Carbon+ Farming Coalitionの支援の下作成されている。
世界経済フォーラムのインサイトペーパーについて
EUのグリーンディール政策である「Farm to Fork(農場から食卓まで)戦略」では、気候変動の影響を変化させ、自然や人間に優しいフードシステムへの移行を促進してくことを目的としている。その中心として「気候スマート農業※」のアプローチが据えられている。
「Transforming Food System with Farmers: Pathway for the EU」では、EUにおける農家とフードバリューチェーンの状況を考察し、気候スマート農業の規模を拡大するための道筋を示しており、そのための調査として7カ国、約1,600人の農家を対象とした大規模な調査や協議を行った。