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Insight
経営研レポート

Z世代に対する学びの機会の創出を通じた社会貢献

~表現のプロを目指す大学生が取り組む社会貢献ゼミ活動を指導して~
2022.07.29
金融政策コンサルティングユニット
エグゼクティブスペシャリスト 三笠武則
シニアマネージャー 坂田知子
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1.はじめに

当レポートの著者である三笠と坂田は、令和2年度より大正大学表現学部表現文化学科アート&エンターテインメントワークコースの『専門ゼミナールⅡ 社会課題・ブランディング(以下、外川ゼミ)』(担当教官:外川智恵教授)を指導してきた。外川ゼミでは「ゼロ円プロジェクト」と銘打ったコンセプトに基づき、エンタメの力を活かして非営利(=ゼロ円)で社会課題の解決に取り組む指導を行ってきている。当社はこの大学生による社会貢献活動に共感し、メディア界で将来プロデューサー職に就くことを目指している大学生が、社会で活躍するための基礎知識と経験を獲得できるように、質の高い学びの場を無償で提供することに取り組んでいる。当社のこの活動もまた、有能な人材をメディアに輩出することを目指す非営利の社会貢献活動と捉えることができるだろう。

外川ゼミと当社のこの協働は、もともと産学連携プロジェクトとして立ち上げたものであり、3年目を迎えた現在でもその枠組みは基本的に変わっていない(詳細は2020年5月27日公表のプレスリリース「産学連携プロジェクト「若い世代が変える!アフターコロナの日本の空港国際力向上PR企画」の開始 ~外国人への日本の魅力発信、差別や情報弱者の解消を目指して~」を参照のこと)。この3年間にわたり、表現文化学科の3年生(学生は毎年変わる)が同じテーマで調査研究を続けてきたが、成果が蓄積されて発展していくにつれて「空港は訪日外国人が最初と最後に情報に触れる出入口(点)」として意識されるようになり、コト・トキ消費の場での体験との関わりが強く意識されるようになってきた。さらには、訪日外国人に日本のことを伝える手段として、言語(=文字や声による情報提供)を用いない(=日常住んでいる国に依存しない)方法を研究するなどの新たな発想も生まれてきている。他方で当初から、大学生だから、Z世代だからこそ発想し、提言できることに焦点を絞るように一貫して指導してきたが、参加している大学生達の様子を見ていると、これが意外と難しいことも分かった。

以下では、この三笠と坂田による産学連携プロジェクト(外川ゼミ指導の取り組み)の概要を述べるとともに、現在までに生み出すことができた成果や、大学生の指導を通じて顕在化した問題点などについて取りまとめる。

2.設定したテーマ

設定したテーマは「訪日外国人への日本の魅力発信、感動体験の共有、差別や情報弱者の解消」といった目標に対し、ゼロ円プロジェクトの社会貢献の立場から、若者独自の感性により、どのような貢献ができるかということである。現在までの経験では、しっかりと意識していないと、気付かないうちに「社会貢献の立場から」「若者独自の感性により」という2つの重要な観点が抜け落ちてしまいやすいということが分かった。言葉を換えれば、これらの観点は学生の皆さんにとって取り組みが難しいことであるようだ。他方でこれらは外川ゼミの取り組みを他と差別化する根幹をなすものであり、その重要性を鑑み、指導においても一貫して指摘してきたことでもある。3年目を迎えた現在、外川ゼミの大学生達はまさにこの2つのポイントに正面から取り組んでいると言える。

3.調査研究の目標設定

本調査研究の元々のターゲット設定は、空港において、情報が不足しがちな訪日外国人にサイネージとWebの連携によって効果的に役に立つ情報を提供するとともに、訪日外国人の体験を集約共有することにより、新規の訪日やリピートを活性化しようという試みであった。しかし、この活動を開始するタイミングでコロナ禍が深刻化し、緊急事態宣言が発出されるなどして、ゼミ活動として大学生メンバーが空港を実地見学することさえ難しくなってしまった。このため、調査研究が2年目、3年目と継続していくにあたり、「空港を起点/終点とすること」に変わりはないものの、空港という場にあまりこだわりすぎず、訪日外国人の動線全体に視野を広げて検討を進める形に変化してきている。

これに加えて、外川ゼミの特徴を際立たせ、付加価値を与えるため「大学生としての社会貢献=ゼロ円プロジェクト」としてのアピールを行うことにも取り組んでいるが、現時点ではまだまだ成熟した成果が出せていないと考えており、さらに努力が必要な状況である。

4.3年間の調査研究で蓄積された経験・発想・工夫

ここまでの調査研究の取り組みで蓄積された経験・発想・工夫としては、何よりもまず外川ゼミの大学生が社会に出て活動する上で必要な知識・スキル・経験(以下で例示)を蓄積できたことが挙げられる。

(例示:外川ゼミのメンバーから挙げられたものなど)

  • 報連相
  • 責任感、成果の信頼性や実現性へのこだわり
  • 情報共有の必要性への気付き(外川ゼミのメンバー間で共通認識がないと、外国人に提供する映像の企画も困難であることに気付いた)
  • アンケート、ヒアリング結果(翻訳者、海外の大学生、ユニバーサルサインの研究者、マスコミ関係者、広告事業者/アート掲示推進団体、自治体首長、空港関係者など)の蓄積&対話によって得られる学び
  • 路地裏や自動販売機に魅力を感じるなど、外国人が観光において本当に求めているものについての気付き(常識に捕らわれない実態への理解)
  • 公的機関発行の統計、白書、調査レポート、個人の論文などを収集し、活用することができたこと。その取り組み方についての学び。

この他、ゼミ活動を指導してきた立場からは、「アンケート、ヒアリングの技法への学び」 「仮説を検証する姿勢についての学び」 「日本文化について改めて見直してみる機会」などを提供できたことが良かったと考えている。何よりも、中々腑に落ちていなかった、自分たちの考えや提案の妥当性を検証することの重要性を、ようやく学生らが自ら気付き、感じることができるようになってきたことが重要な成果であったと考えている。

5.生み出すことができた成果

不断の議論の蓄積という意味では、誰にどこで何をどうやって伝えれば良いのかという主題に大学生が真摯に向き合い、色々と苦労しながらも絶え間なく議論を積み重ねてきたその結果こそが、最も重要な成果であると言える。現時点で決して最終的な結論が出ている訳ではないが、指導する側としてはZ世代の一員としてますます豊かな発想を生み出し、さらなるブレイクスルーを実現して欲しいと大いに期待している。外川ゼミのメンバーからは、今までの議論に対し次のような前向きな感想も得られているところである。

  • 日本文化は海外でもそれなりに広がっていることがわかり、新たな魅力を周知させたいという思いも出てきた。
  • 日本人が知らない、あるいは魅力的だと感じていなかったことや場所に、外国人が魅力を感じていることを知った。マニアックな日本文化の紹介をもっと検討しても良かったと学んだ。
  • 外国人が困っていることについて対応できる日本の文化に着目することができた。

また、独創的な成果としては、多くの国から集まる訪日外国人に対して多言語のテキストや声で伝えることの煩わしさを回避するため、色彩等の視点から日本の魅力をカテゴライズし、その結果をうまく活用して非言語の表現手法とその動画化を実現したことが挙げられる。動画化に際しては、Z世代では広く認知されているキャラクターやアニメ表現を用いるとともに、自分達の企画意図を伝えるために絵コンテ表現を用いた意見交換を積極的に取り入れたことも大変興味深いと考えているところである。

6.今後の取り組みに向けた問題点

元々の目標設定がチャレンジングであることも影響して、今後改善すべき調査研究における課題はまだ色々と認識されている。外川ゼミのメンバーが指摘した問題点は、語学力、海外調査力、関連知識不足、客観性の確保、コロナ禍の影響、ビジネスマナーなど、多岐に亘っている。

(例示:外川ゼミのメンバーから挙げられたもの)

  • 訪日外国人を対象としていることから、英語の語学力不足が海外情報の収集・分析などに影響を及ぼしている。
  • 空港施設に対する知識不足、海外生活や外国人の意識/価値観/宗教/文化に関する知識不足が企画立案の発想力に影響している。
  • 客観的に「日本」を見ることが難しい。
  • コロナ禍でオンライン活動を余儀なくされている間は、ゼミ組織としての活動が難しい。
  • ビジネスマナーの不足(電子メールなどでの言葉の選び方など)

学生の皆さんが感じたこれらの問題点は真の問題なのだろうか。具体的にどの場面でそう感じたのか、これによって実際何がうまくできなかったのか、本当の問題は別にあるのではないかなどはしっかりと検証しておく必要があり、今後の指導においてはこの検証について取り組んでいきたい。

さらには、外川ゼミのメンバー自身が「大学で学んだエンターテインメントの効果を活かしきれていない」と感じていることは重要であり、本調査研究の特徴を際立させる上でも、この問題の解決に取り組むことがとても重要であると考えている。

(参考資料)大正大学によるプレスリリース

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