薬剤師の地域偏在の実態とその対応策

社会基盤事業本部 ライフ・バリュー・クリエイションユニット
マネージャー 西尾 文孝
シニアコンサルタント 横山 栞奈

1.背景

厚生労働省が設置した「薬剤師の養成及び資質向上等に関する検討会」のとりまとめ(令和3年6月30日)において、今後の薬剤師の需給状況の予測結果が示された。この推計結果から、概ね今後10年間は需要と供給は同程度で均衡して推移することが読み取れ、国全体としてみれば、当面の需給状況に問題はないものと捉えられる。

出典:「薬剤師の養成及び資質向上等に関する検討会」のとりまとめ
出典:「薬剤師の養成及び資質向上等に関する検討会」のとりまとめ

しかしながら、前述のとりまとめでは、病院を中心として薬剤師の不足感が生じている地域が存在し、地域偏在が存在することが指摘されている。

出典:第3回「薬剤師の養成及び資質向上等に関する検討会」資料3より抜粋
出典:第3回「薬剤師の養成及び資質向上等に関する検討会」資料3より抜粋

2.本稿の目的

本稿では、全国各地域における薬剤師の地域偏在、つまり一部地域での薬剤師不足の解消のための検討に資する情報を得るため、公開情報に基づき薬剤師不足地域の特徴を分析するとともに、薬剤師確保のための取り組みを紹介する。

3.二次医療圏別の高齢者人口と薬剤師数との関係

二次医療圏間での地域偏在

はじめに全国335の二次医療圏について、二次医療圏別の高齢者人口と薬剤師数との関係を見た1(下図中の1つの点が1つの二次医療圏の状況を表す。相関係数は0.84)。

この結果から、全体的傾向として二次医療圏の高齢者人口と薬剤師数は比例的な関係にあるといえるが、一方で例えば20万人など、ある1つの高齢者人口に着目すると、薬剤師数の多い二次医療圏、少ない二次医療圏の差異、つまり地域偏在が確認できる。

なお高齢者人口を指標として用いた理由は、高齢者では高齢者以外と比べて処方箋枚数(受付回数)や処方箋1枚当たりの薬剤種類数が多い状況が認められ2、薬剤師の需要の多寡を表すものとしてふさわしいと考えたためである。

1 高齢者人口:総務省「平成30年住民基本台帳年齢階級別人口(市区町村別)」平成30年1月1日時点
 薬剤師数:厚生労働省「医師・歯科医師・薬剤師統計」(平成30年)閲覧第63表
2 処方箋枚数(受付回数)、処方箋1枚当たり薬剤種類数:厚生労働省「最近の調剤医療費(電算処理分)の動向」(令和2年度3月)

薬剤師1人当たりの高齢者人口の分布

二次医療圏における薬剤師1人当たりの高齢者人口を、二次医療圏ごとに高齢者人口を薬剤師数で除算することで算出した。

なお、本稿では薬剤師1人当たりの高齢者人口が多い二次医療圏ほど、薬剤師の需要が高い地域であるとみなし、また薬剤師不足により医療提供体制に影響を及ぼしていることが懸念される地域であるとみなす。

人口が少ない二次医療圏ほど、薬剤師1人当たりの高齢者人口が多い

薬剤師1人当たりの高齢者人口と人口関係の指標(総人口3、高齢者人口、高齢化率4)との関係をみたところ、総人口や高齢者人口が少ない二次医療圏ほど、薬剤師1人当たりの高齢者人口が多くなる傾向がみられた。また、高齢化率が高い二次医療圏ほど、薬剤師1人当たりの高齢者人口が多くなる傾向がみられた。

3 総人口:総務省「平成30年住民基本台帳年齢階級別人口(市区町村別)」平成30年1月1日時点
4 高齢化率:高齢者人口を総人口で除して算出。

人口密度が低い二次医療圏ほど、薬剤師1人当たりの高齢者人口が多い

薬剤師1人当たりの高齢者人口と二次医療圏の人口密度、面積5との関係をみたところ、人口密度が低いほど薬剤師1人当たりの高齢者人口が多い傾向がみられた(相関係数-0.46)。なお、面積との間にはほとんど相関が認められなかった(相関係数0.22)。

5 人口密度:総人口を面積で除して算出。
 面積:国土交通省国土地理院「全国都道府県市区町村別面積調」平成30年面積(k㎡)

医療資源が乏しい二次医療圏ほど、薬剤師1人当たりの高齢者人口が多い

薬剤師1人当たりの高齢者人口と医療資源の多寡との関係をみた。医療資源を表す指標としては、病院数、薬局数6、薬剤師総数、病院に従事する薬剤師数、薬局に従事する薬剤師数7を用いた。

この結果、二次医療圏における病院数、薬局数、薬剤師総数、病院に従事する薬剤師数、薬局に従事する薬剤師数のいずれの指標についても、指標の示す値が少ない二次医療圏ほど、薬剤師1人当たりの高齢者人口が多くなる傾向がみられた。

6 二次医療圏における病院数、薬局数:各地方厚生局ホームページに公開されている施設基準の届出状況のうち、医科及び薬局のデータから算出した。(令和3年9月8日最終閲覧)
7 病院に従事する薬剤師数、薬局に従事する薬剤師数:厚生労働省「医師・歯科医師・薬剤師統計」(平成30年)閲覧第63表

※二次医療圏における病院数、薬局数については、川崎北部・川崎南部医療圏を除く333医療圏の分析。

薬剤師1人当たりの高齢者人口が多い二次医療圏の特徴

前述の分析結果から把握された薬剤師1人当たりの高齢者人口が多い二次医療圏の特徴を下表に示す。

この結果、薬剤師1人が支えている高齢者数が多い二次医療圏、つまり薬剤師の需要が多い二次医療圏は、そうでない地域と比較して、人口に関係する指標については、「人口が少ない」「高齢者人口が少ない」「高齢化率が高い」「人口密度が低い」という特徴がみられた。また医療資源に関係する指標からみた特徴としては、「病院数が少ない」「薬局数が少ない」「薬剤師総数が少ない」「病院に従事する薬剤師数が少ない」「薬局に従事する薬剤師数が少ない」という特徴がみられた。

このような特徴をもつ地域(特にこのような特徴を複数あわせもつへき地)では薬剤師不足により、1人1人の薬剤師に過度の負担がかかっていることや、地域住民への必要なサービスが十分に提供できていないことが懸念される。

薬剤師不足へ対応する上での課題として、まず人材確保や定着促進により医療機関や薬局における薬剤師数を増やすことが考えらえる。一方で機械化や調剤補助員・事務職員などの配置により薬剤師の業務自体を減らすことも考えられる。

薬剤師1人当たりの高齢者人口が多い二次医療圏の特徴

■人口に関係する指標からみた特徴(→人口が少ない地域、高齢化率が高い地域)

  • 人口が少ない高齢者人口が少ない
  • 高齢化率が高い
  • 人口密度が低い(ただし面積にはあまり相関がみられない)

■医療資源に関係する指標からみた特徴(→医療資源が乏しい地域)

  • 病院数、薬局数が少ない
  • 薬剤師総数が少ない
  • 病院、薬局に従事する薬剤師数が少ない

4.地域偏在の解消に向けた取組例

前述した課題への対応策として、個別の医療機関や薬局による取り組みと都道府県など行政による支援の両方が考えられるが、今回は医療機関や薬局による取り組みに着目し、薬剤師の確保や定着支援に資する取り組み例を紹介する。

医療機関における取り組み

<奨学金貸与制度>

薬学生で自院に勤務する予定の人に対し一定金額の奨学金を貸与し、卒業後、奨学金貸与期間以上勤務した場合には奨学金の返済を免除する制度を設ける例がある。

貸与時に面接を行い、自院への勤務を前提として奨学金を貸与する例があり、就職先が決まっているため就職活動をしなくてよいメリットを強調する例もみられた。

<インターンシップの開催>

対面形式とオンライン形式でインターンシップを開催する例がある。具体的内容としては、薬剤部見学、調剤体験(抗がん剤混注などの例もある)、服薬指導体験、病棟業務体験、症例検討会、在宅業務体験、カンファレンス体験などがある。期間は1日、1ヵ月などの例がある。

<ウエブサイト上で職員の声を掲載>

大学病院のホームページにおいて薬剤部における「職員の声」として、「薬剤師」「がん専門薬剤師」「緩和薬物療法認定薬剤師」と薬剤師の役割ごとに、職員の入職動機、現在の業務内容、今後の目標、就職希望者へのメッセージを示し、就職を検討中の薬剤師に情報提供している例がある。

<ウエブサイト上で業務内容等を紹介>

大学病院のホームページの採用情報のページで、薬剤師の業務内容として、薬剤師の業務概要・特色、各担当の業務、キャリアプラン・研修制度、学会活動、勉強会などの活動、資格取得状況について紹介する例がある。

薬局における取り組み

<奨学金貸与制度>

薬学生に奨学金を貸与し、自社に一定年数(例えば3年や5年)勤務すれば返済が免除となる制度を設ける例がある。

また、薬学部卒業生で薬剤師試験の受験資格を保有する人に対し、一定額(例えば月5万円以内)の奨学金を貸与し、自社に一定年数(例えば3年や5年)勤務すれば返済が免除となる制度を設ける例がある。

<インターンシップの開催>

対面形式とオンライン形式でインターンシップを開催する例がある。具体的内容としては、企業分析方法・業界動向の紹介、店舗体験(調剤・症例検討・薬歴・在庫管理・レポート作成など)、在宅業務体験、インターンシップ参加学生の自己分析支援などである。期間は半日、1日などの例がある。

<ウエブサイト上で職員の声を掲載>

比較的入社年の近い社員を性別問わず写真付きで掲載し、保有資格、仕事に対する意欲など、本人コメントをテキストで掲載する例がある。

<ウエブサイト上で業務内容等を紹介>

薬局の経営理念、業務内容、地域との関わり、ICT化の状況、研修制度、福利厚生制度をテキストで掲載する例がある。

上記取り組み例を参考に、全国の地域偏在が解消の方向に向かうことが望まれる。

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